Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

最終章(2)ー向夏・行く秋ー

2017-04-29 01:00:00 | 雪4年4部(最終章(1)〜(7))


空は青く澄み渡っていた。

雪は早朝のキャンパス内を一人で歩く。



今日は特別講義が学館で催されていた。

建物の前に置いてあるパネルには、「CEO サクセスストーリー特別講義」と銘打ってある。








壇上に立ったとある企業のCEOは、時間通りに講演を始めた。

「かくして皆さんは長い教育課程を経て、大学へとコマを進めたわけです」



雪は欠伸を噛み殺している聡美と共に、この講義を聴いている。



「今現在自分を不学の者だと思っている人はいないでしょう。

むしろ成熟した人間になったと自負されているかもしれません」




「自分は成長したなぁと感じている人、挙手してみて下さい」



臆面も無く手を上げる健太を見て、後ろの方に座った後輩達が失笑した。

CEOは講演を続ける。

「大学生活とは、自由に様々な選択が出来るのと同時に、

最も注意深くあるべきであり、努力が必要である時期だとも言えます。

やらなくてはいけないことが実に沢山あるでしょう?」




「ところでたまに見掛けるのが、大学四年間を無駄に過ごして

元々持っていた知識やモラルさえ無くしてしまうケースです。

誤った知識で完全に偏見に囚われてしまった末、社会性すら欠如してしまうケース。

これは大学の時に起こりえるリスクの一つなのです」




淡々と続く講演に、聡美の眠気は限界らしい。

「出席取ったし、こっそり出て行けないかなぁ?」

「寝てなよ」



「私も眠いや」



雪も小さく欠伸をしながら、頬杖をついて講演を聴いた。

「私が大学を卒業してからかなりの年数が経ちましたが、その後感じたことは‥」

入学したんなら、ちゃんと卒業すべきだよね



ぼんやりとそんなことを思いながら、雪は数ヶ月前のことを少し振り返る。

<そうして無我夢中に学生生活を送っていたら、数ヶ月が過ぎ>



CEOは学生達に向けて問う。

「それではもう一度皆さんにお尋ねします」



「どんな学生生活を送って来ましたか?」と。



<また幾月かが過ぎて行った>








あれは幾月か前、まだ桜が咲いていた春の始まり。

「卒業おめでとうございます!」



四年生達が卒業して行った。

雪は聡美と共に卒業式を見に行って、式服に身を包んだ柳先輩と佐藤先輩と共に写真を撮ったのだった。



囁かれる噂話に少し耳を傾けながら、雪は卒業生達の合間に立つ。

「淳は忙しくて卒業式来れないって」「健太先輩は?」

「あの人卒業出来んかったらしい」



「え?ずっと静香さんと連絡取り合ってるんですか?」

「うん、とりあえず‥いや俺今日卒業式なんだって‥」



静香から呼び出しでもあったのだろうか?

そうこぼす佐藤を見ながら、聡美はニヤニヤした表情を浮かべ、こう聞いた。

「あららーん?お二人、どういったご関係ですかぁ?」



「俺にもよく分かんない‥」「俺はケーコと別れたのにぃぃぃ!」



不安定ながらも続いて行く関係と、安定していたのに終わる関係もある。

移ろいゆく季節と共に皆、それぞれの道を進んでいた。


「皆さんもそうだったでしょう。

中高生の時は朝起きて登校して授業を聞いて、という型に嵌った日常だったでしょうが、

大学生になると、授業の時間割から自由時間まで全てを自分で決められる、謂わば大人です。

お酒も存分に飲めるし恋愛だって楽しめると、最初は舞い上がってしまったことでしょう」




蓮は散々泣きながらも、アメリカへと旅立って行った。恵もついててくれるらしい。

そうして共に頑張る二人も居れば、離れていても想い合う二人も居る。

「太一ぃぃぃ!会いたいぃぃぃ!」



「元気にしてる?怪我してない?チキン買って行くからね!」

「ピザもお願いしまス」「アンタが好きなのはピザ?それともあたし?」



どうなることかと思われた二人の遠恋も、なんとか乗り越えて行けそうだ。

そうして雪達は学年が上がり、大学生活最後の春を迎えていた。

「四年の授業ってゆるいよね。勉強会いくつ取る?」



「四年生首席!」



様々なことが夢中で生活を送って行く中で起こり、解決され、また続いて行く。

そしていつしか春は過ぎ去り、若葉の茂る初夏になった。



CEOの講演は続く。

「ところがこのような”選択の自由”が、次第に苦しくなって来たはずです。

むしろ大人達の決めた枠組みにはまり、その先導に従っていた方が、楽だったんじゃないですか?」








若葉は青々とした青葉へと変わり、暑い夏へと季節は移ろう。

四年生になっても尚、雪は目まぐるしく回る毎日を送っていた。

「アルバイト、資格試験の準備、成績、ボランティア活動等々‥

少しでも他人より遅れていると感じたら、ひどい劣等感に襲われてしまったりしたのでは?」




「当然ですよね。中高生の時とは違って、全て自分で選んで行動して来たことなんですから。

だからこそ慎重に、自己実現に向けて努力する必要があるのです」




四年生がキャンパスに集められ、卒業写真を撮る日があった。

少し大人びた表情の雪に、シャッターが切られる‥。








そんなある日のことだった。

買い物袋を手に、雪が麺屋赤山まで帰って来た時のこと。




 




小柄で猫背の、見慣れない男性が店の前に立っていた。

雪に気が付くと、じっとこちらを凝視して来る。







男は雪へと近付くと、小さな声で話し始めた。

「あの‥僕‥」「あ‥実はもう辞めてしまって‥」



「あ‥」



「ありがとうございました‥」



男は河村亮を訪ねて来たらしいが、

いないと分かるとトボトボと帰って行った。



雪は複雑な気持ちになりながら、その小さな背中を一人見送る‥。






その後店に入り、休憩中の父に買い物袋に入っていたそれをプレゼントした。

「これ、お前から父さんに?」「うん、マッサージ器なんだ」



「お母さんと一緒に使ってよ」

「ありがたいけど、どこにそんな金があったんだ。

もう就活にだけ集中して頑張るんだぞ」




「はい」



雪は笑顔で頷くと、心の中が温かい感情でいっぱいになるのを感じていた。

ちょうど一年前父から貰ったお小遣いが、遂にその意義を果たしたのだ。



あの時持て余していた意義や意味その全てを受け入れて、その気持ちを実現させて、

雪は未来へと進んで行く。



「しかしここで言う自己実現とは、立派な職業に就いて成功を収めるという意味ではありません。

課題をしていて、チームメンバーと揉めたとしたら?

メンバーと話し合って意見をまとめて、良い結果にしようと尽力しますよね」




「そういったこともやはり、自己実現の為の努力と言えるのです」



「私はなりたい自分像を作り上げました。衝突を減らして課題を成功させる人間像を」



課題や試験をこなしながら、合間に入ってくる面接の予定。

雪の学生生活も、もう佳境に入ろうとしていた。

「皆さんが大学で実現すべきことは、まさにこのようなことなんです。

大きなことを成し得るべきだと言っているわけじゃありません」




「これから皆さんが社会人になった時、

直面するであろう様々な危機的状況を事前にここで少しずつ習得して、経験してみて欲しいんです」




「そしてその全てを皆さんが自分で選択し、理想の自分像を作って行って欲しい」



数十枚のエントリーシート、第一面接、第二面接‥。

様々な難関を乗り越えて、雪は今日最終面接に臨んだ。



「そういったことと共に人は成熟して行くのです」



自分で選択した、未来への道筋。

その結果を全て引き受ける覚悟を決めて、皆それぞれ戦って行くのだ。






「知識も人間関係も、全ての側面からぶつかってみて、新しい何かに気づき、

身に付けて行けば良いんです。今すぐ完璧な人間になる必要はありません」




メールフォルダを開くと、一通のメールが届いていた。

最終面接の結果だ。



雪は一呼吸置いてから、ゆっくりとマウスをクリックする。








雪は椅子から立ち上がると、

大きく息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。



張っていた気が、ゆるりと解れて行く‥。



「したらばおのずと、新たなステージへと進めることでしょう」



講演者の言葉が、雪の未来を暗示する‥。







ありがとうございました、とCEOが頭を下げ、講演は終わった。

時間は流れ続けている。

<そうして夢中に過ごしていたら、また季節が変わっていた>



いつしか秋も過ぎ、また冬が訪れようとしていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<最終章(2)ー向夏・行く秋ー>でした。

今回はCEOの講演がまるで語り部のように挟まれながら進む回だったので、

途中で切ることも出来ずめちゃ長い回になってしまいましたつ‥疲れた‥


しかし‥いつの間にか雪が四年生になっちゃってましたね

私どこかで「チートラは淳と雪が学生時代の話」と読んだ気がしていたので、

淳が卒業して終わりなのかなと思ってたんですが‥。

雪が卒業するまでなんですね。雪が主役なんだからそりゃそうかぁ。

そしてショパン君が出て来ましたね〜。高校時代と全然変わってない幸薄い感じ‥。

どうやって亮の居場所突き止めたんでしょうね。時遅しだったけど‥


次回はようやく淳が出てきます。少し短い記事です。

<最終章(3)ー越冬ー>です。


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最終章(1)ー送春ー

2017-04-27 01:00:00 | 雪4年4部(最終章(1)〜(7))
ピピピピピピ‥



携帯のアラームが、大音量で鳴り響く。



眠りこけていた雪は、その音でパチッと目を覚ました。



すごい寝相のまま‥。



天井を見つめながら、「朝‥」と小さく呟く。



雪はのっそりと起き上がると、ベッドの上に置かれている携帯に手を伸ばした。

鳴り響いていたアラームを止める。



「‥‥‥‥」



なんだかやけに疲れたような気分だった。

目の下にクマを浮かべながら、雪は一言こう呟く。

「夢か‥」



はっきりとは思い出せないが、色々なことが目まぐるしく起こったような気がする‥。

雪はあくびを噛み殺しながら、出掛ける準備を始めたのだった。









外では青々と茂った緑が、涼やかな風に揺れていた。

雪は朝の支度を着々と済ませて行く。



教科書を準備し、服を選んだ。



薄手のボーダーニットを着た後、用意したアウターにふと目が止まる。



「‥‥‥」



これ‥最近着たっけ‥?



それは久々に引っ張り出した服だったのだが、ごく最近着たような気がしてならなかった。

雪は首を捻りつつ、それを羽織って玄関へと進む。



「行ってきまーす」

「ねぇ後で蓮にメール入れておいてくれない?勉強頑張りなさいよって」「分かった」







夢の中の出来事と似たようなやり取りを繰り返して、雪は青空の下に出た。

朝の空気に鳥の鳴き声が響いている。

「あー良い天気」



頭の中で「そうねェ」と声がしたような気がして、思わず雪は振り返った。



が、そこには当然誰もいない‥。



空は吸い込まれそうに青かった。



「‥‥‥‥」



ようやく辿り着いた青空だった。

雪の瞼の裏に、涙を流す彼の姿が思い浮かぶ。



あの日その涙が、ずっと閉ざされて来た彼の心の扉を開け放つ鍵となった。

二人の間にあった隔たりは無くなり、手を伸ばせば彼の核心に触れられる距離に、

雪はようやく立つことが出来たのだ。



あの時雪はそこに佇みながら、

ただ強く強く、自分の手を握り締めた‥。








もう何も囚われなくなったその手を、雪はじっと見つめていた。

髪の毛を風になびかせながら、そのまま一人で歩いて行く。



<あの日から数ヶ月が過ぎ>







地下鉄に乗り、

大学近くの街を歩き、



見慣れた構内に入って、指定された教室へと向かって行く。



そこにはもう、彼の姿は無い。







<春も過ぎ去っていた>



見上げた空は青かった。

その手にあった春を見送った今、それは果てしなく青く蒼い‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<最終章(1)ー送春ー>でした。

遂に最終章に突入しました!

ブログでは最終章として(1)〜(7)で構成してお送りします!

いよいよ終わりが見えてきましたね‥うう‥寂しい‥

しかし前回までの仮想世界‥夢‥だったんかい‥

まぁ途中からそんな気はしていましたが‥

雪ちゃんが意識して振り返った過去ではなく、無意識の中でまた違った選択が出来ていたことこそが、

彼女の成長を表していたのかもしれませんね‥。


さて最終章、

ここから怒涛の春夏秋冬、行きますよー!

次回は<最終章(2)ー向夏・行く秋ー>です。


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<雪>If(5)ー回帰ー

2017-04-25 01:00:00 | 雪3年4部(見えない傷〜<If>(5)まで)


雪はその場にへたりこんだまま、先程青田淳から言われた言葉を反芻していた。

「俺って本当に怖いってだけ?」



これまで嫌という程苦しめられて来た彼に言われたその一言。

雪は彼が今までしてきた所業を思い出し、感情のままに怒鳴り出した。

「何なのあの人?!」



「毎日毎日挨拶はシカトするわ、」



「人のこと無視するわ!」



吐き捨てるように”汚らわしい”と言ったあの横顔が、今も忘れられなかった。

思い浮かぶのは皆の前で自身の意見を潰された、文化祭の出し物を話し合った時のこと。

あの”上から目線”が、何よりも雪の神経を逆撫でする。

「自分は別世界の人間だとでも思ってんでしょ?!」



「ずっと一発食らわしてやりたいのをギリギリで我慢して来たっつーの!!」



「寝ても覚めても頭から離れな‥」



すると目を閉じて拳を握る雪の隣に、またしてもひょっこり彼が現れた。

「だよね?」



「君は最初から俺を意識してた。見てたでしょ?その通りじゃないか」



それはいつか路地裏で聞いた、酔っ払った彼の本音。

「そう。俺のこと見てたんだ」



その言葉が、雪の心の深層を探り出す。



思い出すのは、彼と初めて会った時のことだった。

「先輩、おつかれさまでーす!」



休学明けの開講パーティー。

彼が現れたと同時に、場の空気がガラリと変わった。

「淳が来たぞ!」「先輩、待ってましたよー!」「よぉ!青田!」



確か直美さんがこう言って来たはずだ。

「雪ちゃんは知らないっけ?」



「雪ちゃんが入学する前休学してた先輩だよ。青田先輩」



端正な横顔に目が奪われると同時に、皆に囲まれる彼の姿ばかりが印象に残る。

その姿は知り合いが数えるほどしかいない雪とはあまりにも違った。

「かっこいいでしょ?性格もすごく良いんだよ?」



「はい」



苛立ちの混じった嫉妬心が、感じた第一印象を覆ってしまった。

本当は、ずっと彼から目を離すことが出来なかったのにー‥。








心の深層を漂う記憶の旅の中で、この時のことも思い出した。

白い壁に囲まれた病院の待合室で、無防備に眠る彼のことを。



周りで起こる様々な出来事と人間関係。

その間で曖昧に揺れる自身をひしひしと感じた後、雪は眠る彼の前に立った。



夢の中で黒い服を着た彼から、”ずっとこの距離を保ちたいのか”と聞かれて、何も答えられなかった。

けれどもう自ずと答えは出ていたようだ。



彼に対して傲慢と堅苦しさしか感じてなかった過去が、

いつの間にか優しさと親しみで塗り替えられていた。

深層に眠るその気持ちが道標となり、抱えて来た曖昧さを溶かして、彼女を導いて行くー‥。








持ち得ないはずのその記憶が、甘い感情と結びついて次々と浮かび上がった。

誰にも頼れないと途方に暮れていた時、力強く手を引いてくれたこと。

「行こう。甘いもの好き?」



「笑顔でいてね」



唱えられた魔法の言葉が、重たい足枷を外してくれたこと。

自由奔放な弟と真面目で融通の利かない自身を比べて凹んでいた時、そんな自分を認めてくれたこと。

「そんなに自分を卑下する必要なんてないよ。雪ちゃんは十分良くやってる」



そして芽生えた、恋心。

彼に触れられる度、二人の距離が縮まって行く。

「ありがとう」







路地裏でのキスが、雪の記憶に甘く残る。

けれどこの胸に感じる苦さも、確かに雪が経験したことだ。

「先輩がやったんだ」「全部青田淳のせいで!」



思い出す悪感情と共に、「雪ちゃん」と自分を呼ぶ彼の声が聞こえる。

「嫌なら断ってくれて良いから」「本当は青田って‥」「青田先輩が‥」



他人の声と自分の声、そして彼の声が同時に響いて消えて行く。

嘘と真実、外聞と内聞、虚飾の笑みと素の微笑みと‥。

そして最後に、この言葉だけが残った。

「一緒にメシでも食いに行こうよ」



雪の目を真っ直ぐに見つめながら、彼は問う。

その選択を雪に委ねながら。

「ね?」



そして雪は知り得ぬ未来を見据えながら、選択の岐路に立たされた。

決断と共に決まる正否。

苦い記憶と甘い記憶が、混在しながら雪を導くー‥。








はっ



雪はビクッと身を震わせた。

気がつけば、空は焼けるような夕焼けに染まっている。



「‥‥‥‥」



雪は目を見開きながら、一人ぼんやり地元を歩いていた。

知らぬ間にもうこんな所まで帰って来ていたらしい。

「‥‥‥‥??」



「‥?」



まるで雲の上を歩いているかのように、ふわふわして落ち着かない。

雪は頭を掻きながら、この不思議な状況にただただ戸惑ってしまう。

「えーっと‥ここはどこ?私は誰?



今日は本当に‥



おかしな‥



すると雪の視線の先に、「手相 占い」と書かれたテントが目に入った。

中には中年の女性占い師が一人座っている。







占い師の斜め上辺りに「五百円」と書かれた紙が貼ってあった。

雪はなぜだか占い師から目を離せない。



占い師もまた、雪のことをじっと凝視していた。

すると「四百円でどう?」と言ってくる。



「いえ、結構です‥あの人もどっかで見たような‥「チッ」「チッ?」



占い師は舌打ちをした後、雪に向かってこんなことを言い始めた。

「良いね!正解だよ!

良い若者がこんなことをする必要なんて無いんだよ。何だって経験してみたら良いのさ」




「まぁどうやら」



「学生さん、アンタ既にその準備は出来てるみたいだけど」







その占い師の一言が、時計の針を巻き戻す。

ブゥン





そしてこの仮想世界は終わりを告げた。

物語は現実へと時間軸を回帰し、雪の選択のその先を描くー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪>If(5)ー回帰ー でした。

これにて「If」編終わりです。

これまで雪が淳に対して感じて来た気持ちを今一度振り返った回でしたね。

劣等感とか悪感情抜きにしたら、実は気になってしかたなかったんだと雪自身が悟った回といった感じ。


そして最後に占い師のおばさん出て来ましたね!実に7年ぶりの登場‥

全てを受け入れ経験に変える準備が出来ている、というその言葉が今の雪ちゃんを表しているんでしょうなぁ。

成長したんだなぁ‥雪ちゃん‥しみじみ。。

さて次回からは再び現在へと戻ります。

次回<最終章(1)ー送春ー>です。あぁ‥いよいよ最終章です‥

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<雪>If(4)ー終わりと始まりー

2017-04-23 01:00:00 | 雪3年4部(見えない傷〜<If>(5)まで)
終わった‥



雪はがっくりと項垂れていた。それもそのはず。

先程皆のアイドル青田先輩に、公衆の面前でとんでもないことを言ってのけたのである。

「ていうか常識ってもんがあるならさぁ、自分の行動を省みてからそれ尋ねましょうよ!

火を見るより明らかってくらいマ・ジ・で怖いから!

もうお互い気にするの止めて、別々の道を行きましょう!」




終わった‥私の大学生活はもう完全にオワタ‥



完全orz状態の雪のことを皆が振り返りつつ通り過ぎて行く中で、「どうした?」と誰かが声を掛けて来た。

雪は血のマスカラの涙を流しながら、それに力無く答える。

「なんでそんなにないてんだよ、ダメージ」

「だって‥これから私うちの学科公認の要注意人物に‥皆の青田先輩に対して‥



しかし彼は雪に声を掛けているわけではなかった。

スーツ姿のその男は、子犬を撫でながら嬉しそうに笑っている。

「笑え、笑うんだよ。コイツ毛がモフモフしてやがる。可愛い奴め〜」



犬の飼い主が「なに人の犬勝手に撫でてんのよ」と半ばキレているが、その男は犬と戯れ遊んでいた。

繰り返される”ダメージ”に、雪は怒りのあまりプルプルと震える。

「ははは!ダメージ!」



「じゃあな!ダメージヘア〜!」



去り際、犬の飼い主が振り返って雪に言う。

「何見てんのよ?」



雪をドキリとさせたその女は明らかに静香なのだが、彼女はこの世界では少し違う立ち位置のようだ。

去って行く犬に向かって、男は手を振り声を掛ける。

「達者でな〜!幸せに暮すんだぞ!」



「分かったな?」



タキシードを着てボウタイを締めた河村亮が、そこに立っていた。

現実世界では見ることが叶わなかったその姿を目にして、雪の記憶の芯が震える。







亮は雪の方を見て微笑むと、そのまま何も言わずに去って行った。



そして目の前から、さらりと消える。








まるでどこかに穴が開いてしまったかのような寂しさが胸を過ぎり、その後に違和感が残った。

その場に一人取り残された雪の髪を、春風がさらって行く。



「‥‥‥‥」



雪は下を向きながら、残った違和感を確かめるように心の中で声を出した。

誰だっけあの人‥あ‥河村氏?

そういえば河村氏、元気にしてるかな‥




私は彼のことを知っている。

「ダメージ!」



ううん、やっぱり知らない。

「お前オレのこと知ってんの?」



頭の中に両極の記憶が混在していた。

それは彼においても言えることだ。

「雪ちゃん!」



「何が危険なの?」



私は彼らを、知っているのか、知らないのか。

数々の場面が脳裏に現れては途切れ、消えたかと思えばまた再生される。



雪はぼんやりとした眼差しで、花弁が舞う春の風に吹かれ続けていた。

何だろ‥今日は‥



変なの。記憶がゴチャゴチャ‥







春の霞が雪をさらう。

無数の花弁が重なるかのように、目の前が白くぼやけて行く。

今日は本当におかしな日だ‥







ゆっくりと、まるでスローモーションのように景色が消えて行く。

すると記憶が途切れる最後の瞬間に、手首に温かな体温を感じた。




目を閉じると、まるで世界が暗転するかのような暗闇が訪れた。

けれど不思議と怖くはない。

何かに包み込まれるような温かさの中で、徐々に意識が覚醒して行くー‥。









パチッと目を開けた時、雪はどこかに横たわっていた。

目の前には大学内の風景が広がっている。



頬は冷たいけれど、手の平は温かだった。

なぜかというと誰かの大きな手の上に、自身の手を重ねていたから‥。







ベンチに横たわる雪の隣に、青田淳が座っていた。

理解不能な状態のまま身体を起こした雪に向かって、彼は口を開く。

「目が覚めた?ちょっと話があるんだけど」



淳は飄々とそう切り出したが、雪にとっては青天の霹靂である。

我に返った雪はベンチから転がり落ちると、白目を剥いて取り乱した。

「ちょっ‥アナタ!冗談じゃなくマジで恐ろしいっつーの!

ていうかどうして私はここに?!ていうかこれ現実?!」




はっ!



そして雪は思い至った。

この人、実は存在していないんじゃないかと‥

「いやいやその前にこの人実在してる?!幽霊なんじゃないの?!」

「俺、今まで君に対して酷いことしてたなと思って」



淳はバリアを繰り出す雪に全く怯まず、素直にこう告げる。

「これからは気をつけるよ」



「えっ?」

「仲良くしよ」



淳はそう言うと、ベンチから下りて雪と同じ目線にしゃがみ込んだ。

「俺本当に、君に良くしてあげたいと思ってるんだ」



「ね?」



淳はそう言ってニッと笑った。

突如語られた彼の胸の内を耳にして、雪は開いた口が塞がらない。

咄嗟とはいえ、ようやく彼とは別々の道を歩むことを決意していたのにー‥。



雪は彼に疑いの眼差しを向けつつ、こう尋ねるのがせいぜいだ。

「あ‥頭イッちゃってます?」

「イッちゃってないね。素直になりたくてさ」



淳は「君も良く考えてみてよ」と前置きしてから、雪にこう問うた。

「俺って本当に怖いってだけ?」











目を丸くする雪を見て、淳は微かにふっと笑う。

へたりこんだままの雪を置いて、淳は去り際にこう言い残した。

「嫌なら断ってくれていいから」



示された選択の余地が、雪の記憶の断片を掠める。



その背中が見えなくなるまで、雪はじっとその場から動けなかった。

彼の口から語られたその言葉が、雪の記憶と感情をゆらゆらと揺らすー‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪>If(4)ー終わりと始まりー でした。

今回も色々盛り沢山ですね〜。ちょっと気になった所箇条書きにしてみます

なぜか突然亮さんタキシード(&M字)‥。静香も犬飼ってる‥。

犬に向かって「笑え、笑うんだよ」と言っている亮さんに胸アツ。

亮さんが一番大切にしてたのは雪の笑顔でしたもんね‥

倒れた雪の手と淳の手が重なってるのは、手のエピの象徴ですね〜。ていうかまたこのベンチかいな!

淳に対しての「幽霊?!」は度々出てきますよね。神出鬼没淳‥。

「これからは気を付けろよ」が「これからは気を付けるよ」になっているとこがニクイ!

そしていつしか雪の鞄は消えた‥笑

次回、この仮想世界も最後になります。

<雪>If(5)ー回帰ー です。


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<雪>If(3)ー別々の道ー

2017-04-21 01:00:00 | 雪3年4部(見えない傷〜<If>(5)まで)
なんだかんだで授業は終わり、一行はゾロゾロと共にキャンパス内を歩いていた。

雪は消えない違和感を抱えつつ、彼らと一緒に歩みを進める。



「あっ!」



すると平井和美が何かに気づき、声を上げた。

和美の視線を辿って、雪もそちらに目を向ける。







鮮やかな新緑を背景にして、彼は一人歩いていた。

青田淳である。



その顔を見た途端、雪の脳裏にあの場面が掠める。

これからは気を付けろよ



蘇る苦い記憶。

ギクッとした雪は、思わずその場から踵を返そうとしたが、

アイツは‥!



それは叶わなかった。

次の瞬間、皆がわっと歓声を上げながら彼に走り寄ったのである。

「青田先輩〜〜!」「青田ぁ!」「淳先輩〜!」



「こんにちはぁ!」



同学科の人々に突然出くわした青田先輩は、最初少し目を丸くしていたが、

「やぁ」



すぐに笑顔を浮かべて挨拶を口にした。

その普段ながらの微笑みを前にして、彼らは彼を囲んでわいわい騒ぎ出す。

「今からこのグループで飲みに行くんすよ!一緒に行きましょーよ!」

「うちらでおごりますから!」「もちろん出してくれてもいいぞ!」



皆がそう言って青田先輩を飲みに駆り出そうとしていた。

お金持ちの彼のことだ、連れて行かれたが最後、奢る羽目になるだろう。

ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべる彼等‥。



雪はぐるぐると目を回しながら、胸の中に充満する感情に踊らされて困っていた。

しかしその整理がつく前に、言葉が口を突いて出る。

「ダ‥ダメッ‥!!」



「危険っ‥!アンタ達全員‥!」



雪はそう叫びながら皆の前に飛び出した。







気付いた時には時既に遅し。皆が雪の方を見ながら目を丸くしている。

その中で、青田先輩が雪の言葉に反応した。

「何が危険なの?」



しかし雪は何も返すことは出来ずに、

ただ口元を手で覆って固まっている。



「もしかして‥」



「‥俺のこと?」



ゾワゾワと背中に悪寒が走り始めるのと同時に、雪は走り出していた。

「うわあああああ!!」



誰かが「おい!」と呼び止めるも、雪は止まらずに走り続けた。後悔は止まらない‥。

「ああああ!一体何なの何なの何なの!!何なのぉぉぉぉ!?」



「狂いそうじゃー!!!」



胸を突き動かす正体不明の感情に、雪は戸惑い続けていた。

覚えのないはずの記憶が、彼女に違和感を与え続ける‥。






それでもこの世界の現実は続いていた。

雪は疲れ果てた顔をしながら、微かにこっくりと船を漕ぐ。



すると、その眠気を吹っ飛ばす出来事が起こった。

青田淳が隣に座って来たのである。

「ひっ!」



雪は驚いた拍子に膝を机にぶつけてしまった。

じーん‥



痛みを堪えながら彼に向き直るが、

「せっ‥先‥!」



「輩‥」



その氷のような眼差しを前にしては、今にも消え入りそうな声しか出なかった。

青田先輩は雪のことを凝視しながら、ストレートな問いを口に出す。

「俺が怖い?」







面と向かってそう問われ、雪は顔面蒼白である。

「いえ‥その‥」



不気味な寒気が‥



背筋を伝って‥



ゾワ‥ゾワ‥



NOと言わせない無言の圧力が、雪を平伏させようとしていた。

だんだんと強まる胸の中の違和感は、こう雪に教える。

これからは気を付けろよと言われたあの時から、きっと運命は決まっていたのだとー‥。






ブチッ



しかしこの世界の雪は、その圧力に従わなかった。

迫り上がる恐怖を払拭するかのように、大声を上げて切り返す。

「はいっ!!!」







当然青田先輩は驚いた。周りの学生達も皆雪の方を見ている。

けれど雪は止まらなかった。

「こっわい!アンタまじで怖すぎる!!」



「ていうか常識ってもんがあるならさぁ、自分の行動を省みてからそれ尋ねましょうよ!

火を見るより明らかってくらいマ・ジ・で怖いから!

もうお互い気にするの止めて、別々の道を行きましょう!」




「ねぇ〜〜〜〜?!!」



この世界の雪はそう言い切ると、教室を出て行った。

咄嗟に選択した、彼と生きて行く道とは別々の道。


複雑に絡み合う運命の歯車が、回る手前で踵を返すー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<<雪>If(3)ー別々の道ー>でした。

パラレルワールドですね〜‥。

今回「危険だよ!」と飛び出して行った雪ちゃんですが、


これは、

皆が飲み会を奢らそうとしている→「淳に向けての危険」(現実世界の雪の見解)



青田淳は本当は恐ろしい男→「皆に向けての危険」(仮想世界の雪の見解)

がごっちゃになって叫んじゃったんじゃないですかね〜。


そして淳が隣に座って膝を打つシーン



以前淳が距離を縮めにかかった辺りにもそういうシーンがありましたね。



(細かいクラブですが、日本語版は雪の悶絶台詞が抜けている‥)


あ、4部35話にもありましたw



ビックリすると飛び上がって膝打っちゃう雪ちゃん‥

次回は<雪>If(4)ー終わりと始まりー です。

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