赤山雪は、土下座にも似た格好で頭を下げる横山翔を、冷たい眼差しで見下ろしていた。
なぜならば彼が謝っているのは本心ではなく、何らかの計算の元でこうしているだけだと見抜いたからだった。

雪が力無くぶらんと垂らした手には、携帯電話が握られている。
光っていない画面を見て、横山は心の中でこう思う。
ろ‥録音はしてないな‥

横山は雪のポケットの中にあるレコーダーの存在を知らぬまま胸を撫で下ろすと、大きな声で口を開いた。
「お、俺!マジで念書書いたって良いぜ?
もう二度とお前の前に姿は見せない!だから‥!」

白々しく口にするその言葉を、雪は信じはしなかった。
冷淡な表情で、「だから?」とその続きを促す。

横山は項垂れながら、地面に両手をついて弱々しく言葉を続けた。
「だから‥あのヤンキー野郎に止めるようにって、お前から話しておいてくれよ‥な?」

横山が口にした「ヤンキー野郎」というのは勿論河村亮のことだ。
彼はネットに彼の写真をアップしているのは、河村亮の仕業だと考えている。
「ヤンキー野郎?」

しかし雪には、横山が言っていることの意味が分からなかった。
首を傾げる雪に向かって、横山は逆上する。
「とぼけんな!アイツじゃなきゃ誰がアップしてるって言うんだ?!
あのヤンキー野郎なんだろ?!◯◯サイトに俺がお前を追いかける‥いやとにかく俺の写真を投稿してんのは‥!」

横山の声は、狭い夜道の壁に大きく反響した。眉を顰める雪に向かって、横山は再び下手に出て言葉を続ける。
「お前だって知ってんだろ?頼むから止めてくれよ‥。
したら俺も警察沙汰にはしねーから‥」

道の片隅に立ち尽くす雪と、地面に正座して項垂れる横山。
通行人達はジロジロとそんな二人に好奇な視線を送り、通り過ぎて行く。

雪は気まずい思いで胸がいっぱいになり、二三歩後退りながら声を上げた。
「もういい。頼むからもう止めて、早く帰って!
去年も色々やらかしときながら、また今年もうちの近所にまで追いかけてくるなんて‥。
アンタどうかしてるんじゃないの?!」

吐き捨てるようにそう言った雪を見上げて、横山は歯噛みした。
またしても胸に沸いた怒りにまかせ、雪に向かって不平を鳴らす。
「クソが‥俺を弄んで楽しいかよ?こっちがお前に好意見せてるの良いことに調子乗って、
俺のこと見下しやがって‥!」

雪はその横山の言葉に、声を荒げて反論した。勘違い行動を繰り返す彼に、その間違いを突き付ける。
「はぁ?!アンタおかしいんじゃないのマジで!
アンタこそ私を振り回すのは止めて!いきなりプレゼントは送って来るわ、ストーキングするわ、問題ばっか起こすわ!
私のことが好きだなんてよく言うわ!いつアンタが本心で告白して来たって言うの?!」

「ふざけんなっ!!」

カッと来た横山は、そう反射的に叫んでいた。
夜道に響く大声に、近くの飲食店の中の客さえも二人に視線を寄越す。

それに気づいた横山は幾分冷静さを取り戻し、再び気持ちを鎮めて声を顰める。
窮地に追い込まれた自分が今すべきことは、とにかく謝罪のスタンスをとることだ。
「‥ふざけんなよ。お前に優しくしてやろうとしたけど、
その前にストーカー扱いしてフリやがったじゃねーか‥」

横山の胸の中で、理性と感情が入り混じって心を揺らしていた。横山は雪を睨みながら、苦々しい表情で己の心情を吐露する。
「悔しくてこのままじゃ終わらせられねーんだよ。もう一年もこんな状態で、俺だってウンザリなんだぜ?
無視され続けて傷つけられて‥ムカついて尚の事止めれねーんだよ!
だけどその分本気だからな!二股野郎の青田とは違う‥!」

横山の胸中には、雪への愛憎が渦巻いていた。
こんなにも雪のことを想っているのに、まるで相手にされない現状が、悔しくて堪らないのだ。
横山は今一度雪の瞳をじっと見つめると、熱い言葉で”愛”を懇願する。
「頼むから、一度俺のこと真剣に考えてみてくれよ。な?」

横山の真剣なその告白。
けれど雪の心は、一ミリたりとも動かなかった。キッと彼を見据え、ハッキリと本心を口に出す。
「違う。アンタは、人を好きになってるわけじゃない。
アンタは結局、そんな自分自身が好きなだけよ!」

雪は言葉を続けた。
彼の頭上から、剥き出しの言葉でその本質を突き付ける。
「自分の思い通りにならないとすぐキレる、ナルシストで我が強い、自己顕示欲丸出し!
しかもアンタはね、無理なモンは無理だってこと受け入れる能力が皆無なんだよ!」

そして雪は青筋を立てながら、嫌悪感を露わにして言い捨てた。
「そんなアンタの愚行に、私を巻き込まないで!
たとえ本当に好きだとしても、鳥肌が立つわ!」


キッパリと彼を否定した雪を見て、横山は怒りに顔を歪めた。
それでもなんとか理性を保ちながら、雪に向かって問いかける。
「ふざけんじゃねーぞ。そう言うお前は、一度だって俺と正面から向き合ったことがあんのか?
本気で俺が告白したらどうする?受け入れてくれんのか?」

そして横山はプライドを傷つけられた悔しさから、ふてぶてしく彼女に感じる”憎”を口に出す。
「俺だってなぁ!俺だって、どうしてお前みたいなのが好きなのかマジで分かんねぇしムカつくっつの!
金持ちで顔の良い青田みてーな奴にコロッと落ちる所も、お前の見た目も!マジで俺の好みじゃねーから!」

支離滅裂な横山の発言に、雪はハッと息を吐き捨てた。
「アンタまさか、暴言やストーキングで私を困らせることで、
逆に私の気を引こうっていうんじゃないでしょうね?
それに‥私が青田先輩と付き合ってるのは、そんな理由でじゃない」

雪は落ち着いたトーンで話を進め始めた。
横山は膝をついたまま、雪の言葉を聞いている。
「先輩に惹かれた理由が容姿とスペックだけなら、
私も去年から彼の取り巻きに入ってキャーキャーやってる。私が先輩と付き合ってるのは‥」

雪は、その本心を口に出した。
「私がしんどかった時、いつも手を差し伸べてくれたから‥」

雪の顔は横山の方を向いていたが、その視線はどこか遠いところを見ているかのように曖昧だった。
記憶の中の、淳の姿が浮かぶ。
瞳の中に見えた温かいものは、雪のことを想う彼の本心‥。

そして雪は目の前の横山を改めて見下ろし、彼に対して冷静に自分の思う所を伝えた。
「横山、アンタは私がどんな状況に置かれてるのか、
いつどんな時にしんどかったか、知ろうとしたこともなかったでしょ?
ううん、初めから、アンタの行動自体が私を困らせてるって認識さえないでしょ?」

横山は目を丸くしたまま、じっと雪の話を聞いている。
「目を覚ましてよ。アンタは度々先輩を引き合いに出すけど、
私にとって先輩は、元々アンタとは比較にもならない存在なの」

そして雪は声を上げ、彼をハッキリ拒絶した。
「アンタなんか、先輩に何一つ敵わねーよ!!」

雪の理性と感情両方が、完全に目の前の彼を否定していた。
初めは何も考えられなかった横山も、徐々に腹の中で怒りが沸々と煮え滾り始めた。地面に突いた拳が震えている。

先ほどまで相反していた二つの感情は、煮え滾る怒りが”憎”を肥大化させ”愛”を霞ませる。
横山は見開いた目を血走らせながら、徐々に己の凶暴性が剥き出しになって行くのを感じ、身体を震わせる‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<窮地と逆上(2)>でした。
雪ちゃんが誰かに先輩への思いを語るのは、これが初めてのような気がします。
(その相手が横山だとは思いもしなかったですが‥^^;)
今までしんどいことがある度に一人で耐えて来た雪ちゃんにとって、先輩が手を差し伸べてくれたことは、
本当に大きいことだったんでしょうね。。
しかし雪ちゃんよ、話が通じない相手にこんな正攻法で‥。
読者はいつもハラハラです‥。
次回も<窮地と逆上(3)>です。
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なぜならば彼が謝っているのは本心ではなく、何らかの計算の元でこうしているだけだと見抜いたからだった。

雪が力無くぶらんと垂らした手には、携帯電話が握られている。
光っていない画面を見て、横山は心の中でこう思う。
ろ‥録音はしてないな‥

横山は雪のポケットの中にあるレコーダーの存在を知らぬまま胸を撫で下ろすと、大きな声で口を開いた。
「お、俺!マジで念書書いたって良いぜ?
もう二度とお前の前に姿は見せない!だから‥!」

白々しく口にするその言葉を、雪は信じはしなかった。
冷淡な表情で、「だから?」とその続きを促す。

横山は項垂れながら、地面に両手をついて弱々しく言葉を続けた。
「だから‥あのヤンキー野郎に止めるようにって、お前から話しておいてくれよ‥な?」

横山が口にした「ヤンキー野郎」というのは勿論河村亮のことだ。
彼はネットに彼の写真をアップしているのは、河村亮の仕業だと考えている。
「ヤンキー野郎?」

しかし雪には、横山が言っていることの意味が分からなかった。
首を傾げる雪に向かって、横山は逆上する。
「とぼけんな!アイツじゃなきゃ誰がアップしてるって言うんだ?!
あのヤンキー野郎なんだろ?!◯◯サイトに俺がお前を追いかける‥いやとにかく俺の写真を投稿してんのは‥!」

横山の声は、狭い夜道の壁に大きく反響した。眉を顰める雪に向かって、横山は再び下手に出て言葉を続ける。
「お前だって知ってんだろ?頼むから止めてくれよ‥。
したら俺も警察沙汰にはしねーから‥」

道の片隅に立ち尽くす雪と、地面に正座して項垂れる横山。
通行人達はジロジロとそんな二人に好奇な視線を送り、通り過ぎて行く。

雪は気まずい思いで胸がいっぱいになり、二三歩後退りながら声を上げた。
「もういい。頼むからもう止めて、早く帰って!
去年も色々やらかしときながら、また今年もうちの近所にまで追いかけてくるなんて‥。
アンタどうかしてるんじゃないの?!」

吐き捨てるようにそう言った雪を見上げて、横山は歯噛みした。
またしても胸に沸いた怒りにまかせ、雪に向かって不平を鳴らす。
「クソが‥俺を弄んで楽しいかよ?こっちがお前に好意見せてるの良いことに調子乗って、
俺のこと見下しやがって‥!」

雪はその横山の言葉に、声を荒げて反論した。勘違い行動を繰り返す彼に、その間違いを突き付ける。
「はぁ?!アンタおかしいんじゃないのマジで!
アンタこそ私を振り回すのは止めて!いきなりプレゼントは送って来るわ、ストーキングするわ、問題ばっか起こすわ!
私のことが好きだなんてよく言うわ!いつアンタが本心で告白して来たって言うの?!」

「ふざけんなっ!!」

カッと来た横山は、そう反射的に叫んでいた。
夜道に響く大声に、近くの飲食店の中の客さえも二人に視線を寄越す。

それに気づいた横山は幾分冷静さを取り戻し、再び気持ちを鎮めて声を顰める。
窮地に追い込まれた自分が今すべきことは、とにかく謝罪のスタンスをとることだ。
「‥ふざけんなよ。お前に優しくしてやろうとしたけど、
その前にストーカー扱いしてフリやがったじゃねーか‥」

横山の胸の中で、理性と感情が入り混じって心を揺らしていた。横山は雪を睨みながら、苦々しい表情で己の心情を吐露する。
「悔しくてこのままじゃ終わらせられねーんだよ。もう一年もこんな状態で、俺だってウンザリなんだぜ?
無視され続けて傷つけられて‥ムカついて尚の事止めれねーんだよ!
だけどその分本気だからな!二股野郎の青田とは違う‥!」

横山の胸中には、雪への愛憎が渦巻いていた。
こんなにも雪のことを想っているのに、まるで相手にされない現状が、悔しくて堪らないのだ。
横山は今一度雪の瞳をじっと見つめると、熱い言葉で”愛”を懇願する。
「頼むから、一度俺のこと真剣に考えてみてくれよ。な?」

横山の真剣なその告白。
けれど雪の心は、一ミリたりとも動かなかった。キッと彼を見据え、ハッキリと本心を口に出す。
「違う。アンタは、人を好きになってるわけじゃない。
アンタは結局、そんな自分自身が好きなだけよ!」

雪は言葉を続けた。
彼の頭上から、剥き出しの言葉でその本質を突き付ける。
「自分の思い通りにならないとすぐキレる、ナルシストで我が強い、自己顕示欲丸出し!
しかもアンタはね、無理なモンは無理だってこと受け入れる能力が皆無なんだよ!」

そして雪は青筋を立てながら、嫌悪感を露わにして言い捨てた。
「そんなアンタの愚行に、私を巻き込まないで!
たとえ本当に好きだとしても、鳥肌が立つわ!」


キッパリと彼を否定した雪を見て、横山は怒りに顔を歪めた。
それでもなんとか理性を保ちながら、雪に向かって問いかける。
「ふざけんじゃねーぞ。そう言うお前は、一度だって俺と正面から向き合ったことがあんのか?
本気で俺が告白したらどうする?受け入れてくれんのか?」

そして横山はプライドを傷つけられた悔しさから、ふてぶてしく彼女に感じる”憎”を口に出す。
「俺だってなぁ!俺だって、どうしてお前みたいなのが好きなのかマジで分かんねぇしムカつくっつの!
金持ちで顔の良い青田みてーな奴にコロッと落ちる所も、お前の見た目も!マジで俺の好みじゃねーから!」

支離滅裂な横山の発言に、雪はハッと息を吐き捨てた。
「アンタまさか、暴言やストーキングで私を困らせることで、
逆に私の気を引こうっていうんじゃないでしょうね?
それに‥私が青田先輩と付き合ってるのは、そんな理由でじゃない」

雪は落ち着いたトーンで話を進め始めた。
横山は膝をついたまま、雪の言葉を聞いている。
「先輩に惹かれた理由が容姿とスペックだけなら、
私も去年から彼の取り巻きに入ってキャーキャーやってる。私が先輩と付き合ってるのは‥」

雪は、その本心を口に出した。
「私がしんどかった時、いつも手を差し伸べてくれたから‥」

雪の顔は横山の方を向いていたが、その視線はどこか遠いところを見ているかのように曖昧だった。
記憶の中の、淳の姿が浮かぶ。
瞳の中に見えた温かいものは、雪のことを想う彼の本心‥。

そして雪は目の前の横山を改めて見下ろし、彼に対して冷静に自分の思う所を伝えた。
「横山、アンタは私がどんな状況に置かれてるのか、
いつどんな時にしんどかったか、知ろうとしたこともなかったでしょ?
ううん、初めから、アンタの行動自体が私を困らせてるって認識さえないでしょ?」

横山は目を丸くしたまま、じっと雪の話を聞いている。
「目を覚ましてよ。アンタは度々先輩を引き合いに出すけど、
私にとって先輩は、元々アンタとは比較にもならない存在なの」

そして雪は声を上げ、彼をハッキリ拒絶した。
「アンタなんか、先輩に何一つ敵わねーよ!!」

雪の理性と感情両方が、完全に目の前の彼を否定していた。
初めは何も考えられなかった横山も、徐々に腹の中で怒りが沸々と煮え滾り始めた。地面に突いた拳が震えている。

先ほどまで相反していた二つの感情は、煮え滾る怒りが”憎”を肥大化させ”愛”を霞ませる。
横山は見開いた目を血走らせながら、徐々に己の凶暴性が剥き出しになって行くのを感じ、身体を震わせる‥。

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<窮地と逆上(2)>でした。
雪ちゃんが誰かに先輩への思いを語るのは、これが初めてのような気がします。
(その相手が横山だとは思いもしなかったですが‥^^;)
今までしんどいことがある度に一人で耐えて来た雪ちゃんにとって、先輩が手を差し伸べてくれたことは、
本当に大きいことだったんでしょうね。。
しかし雪ちゃんよ、話が通じない相手にこんな正攻法で‥。
読者はいつもハラハラです‥。
次回も<窮地と逆上(3)>です。
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