Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

面の皮10cm

2016-06-28 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
「よぉ!」







突然現れた柳瀬健太を前にして、雪、柳、佐藤の三者は目を丸くした。

健太はいつもの調子で彼らに話し掛け始める。

「おお〜皆勉学に勤しんでるな〜?卒験に期末に〜

「うーわ!信じらんねぇ!」



しかし当然の如く健太は煙たがられた。

柳はガクガクと震えながら大きなバッテンマークを手で作り、全力で健太を拒否る。

「面の皮10cmくらいあるんじゃねーか?!まさかの笑顔で登場とか‥!

赤山ちゃんに謝ったんかいな!」
「ったくコイツ‥



健太は柳に向かって舌打ちをした後、堂々とした態度でこう口にした。

「だから謝りに来たんじゃねーか!」



「おい、赤山よ!」「?」



見上げる雪に向かって、健太は素早い動きで身を寄せる。

「糸井からすげー情報を入手したんだが‥。そんな過去問よりも遥かに良いモンだ。

その過去問、全部見て勉強する時間なんてあんのか?時は金なり、情報は蜜なりだぞ?」


 

「それ、教えてやっから仲直りしようぜ?お互い誤解も積もってるようだしな!」

「おーっとそれ以上近付くべからず!」



柳はそう言って雪に近付く健太を遠ざけようとするが、健太は怯まない。

あくまで”糸井から手に入れた情報”を使って、雪と和解するつもりらしい。

「赤山と糸井の仲も、俺が取り持ってやれば最高だろ?な?」



甘い言葉で雪を誘う健太。

しかし雪は表情を変えぬまま、さらりと現実を言ってのける。

「私、卒業試験来年ですけど」



そうであった。まだ赤山雪は三年生だった‥。

その事実を忘れていた健太だったが、今度は四年生である柳と佐藤の方を向いて口を開く。

「お前らは知りたいだろ?!な?!」



「教えてやるから、ノートPCの値段ちょっと負けて‥」



どさくさに紛れて値切ろうとする健太。

だが柳も佐藤もそんな話に惑わされる程馬鹿じゃない。

「帰って下さい。ほれ」「あっち行け」



そう言ってぐいぐいと自分を押し出す二人に、健太は大きな声で怒鳴り始めた。

「お前らなぁ、後悔すんぞ?!俺はお前らとは違って、

欲しいって人間にはタダで情報やってるからな?!ったくこれだから小狡いヤツらは!救いようがないぜ!」


「はいはい〜それこっちのセリフ〜」



ドスドス!



大きな足音を立てながら、健太は怒って去って行った。

その巨体が遠ざかって行くのを、三者は呆れた顔で見つめている。



ふいに柳が佐藤に向かって口を開いた。

「つーか糸井発のすごい情報ってなんだろな?

佐藤、ぶっちゃけお前ちょっと気になんない?」




柳からのその問いに、佐藤は即答する。

「要らないよ」



「え、マジ?」「気にならないと言ったら嘘になるけど、

あの人から教えてもらおうとは思わない。どんな問題が出ようが、勉強さえしてたら大丈夫だ。

それに試験まであと何日も無いってのに、そんな情報持っててもね




「努力は裏切らない」



それは佐藤広隆、その男の美学だった。

甘言に惑わされず自身が積み上げたものだけを信じる、その信念は美しい。

「くぅーっ!ちょっと頑固オヤジっぽいけど、なんてカッコイイのーっ!ドキドキ!



すっかり柳も彼の虜である。

そして三者はテキストを広げながら、再び勉強に勤しんだのであった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<面の皮10cm>でした。

健太‥全然謝ってねーだじゃん!

本当せこい男ですよ‥それに引き換え佐藤先輩のカッコいいこと!柳も惚れるわ!

しかし健太、顔がデカイ‥


先輩との差が顕著ですな‥


次回は<引っ掛かり>です。


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彼女の傷跡

2016-06-26 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)












「受け入れ不可」の烙印が、彼女の傷跡の上に押され、抉られる傷口から、押し込めた孤独が溢れ出す。


”みんなあたしから、離れて行ってしまう”


”もう誰も残ってない”




「くくくっ‥」



机に突っ伏したままの静香は、おかしくなって笑い出した。

その様子を見ていた女は、”くるくるパー”のジェスチャーで彼女をバカにする。



瞳孔の絞られた静香の目が、女のことを鋭く見据えた。

「何よ、クソ女が」



「あたしはくるくるパーか?」



女はビクリと身を竦めた。

まるで猛獣が獲物を仕留める前に見せるような、その眼差しに射抜かれる。

「お前の頭引っ掴んで、一周回してやろうか?」



その威嚇に、警官が「止めなさい」と言葉を挟んだ。

しかし喧嘩は始まりそうにない。

静香の瞳の中に、目の前の女の姿は映っていないからだ。

「あたし‥言ったじゃんか」



「残ってるのはアンタだけって‥」



酔っ払って口にした、いつかのあの弱音

けれど唯一の肉親である弟は、姉である自分の首に手を掛けた。

「なのにあんなことしたらダメじゃない‥」



オレはもうウンザリだ、と亮が言う。



突然発せられた謝罪に、張っていた虚勢がぐらりと揺れる。

「すまん」



「どこ行くのよ!」



何も言わず、去って行く亮。



全ての荷物を背負い、たった一人の姉を残して。

「なのにまたあたしを捨てようとして‥」



静香は思わず手で顔を覆った。

無数に付いた傷跡から、膿んだその傷口から、孤独と恐怖が溢れ出す。



気が付いたら叫んでいた。上ずった声を震わせながら。

「またあたしを!!!」





警官は彼女のたった一人の肉親に電話を掛けた。

お姉さんの身柄を、引き取って下さいと。




「あ〜ようやくちょっと酒が抜けたわ〜」






交番から出て来た静香を待っていたのは、突然の電話で呼び出された弟の亮だった。

亮は反省の色無くシャバの空気を吸う姉を、呆れた眼差しでじっと見ている。



思わず声を荒らげようとするが、

「この‥!」



「‥‥っ!」

「何よ、言いなさいよ」



亮は姉を指差した人差し指を手で掴み、何とか踏み止まった。

溜息を吐きながら、ただその場で目を閉じる。



「行くぞ‥」



亮と静香がこの場を立ち去ろうとしたその時、静香と揉めた女が捨て台詞を吐いた。

「すっ転んじまえ!そのコート一昨年流行った型だっつーの!」

「お前マジ‥!」「止めろ!」



亮は静香の手を取ると、女の方へ身を乗り出す静香を引っ張って歩き出す。

「行くぞ」



弟は姉に向かって背中越しに口を開いたが、その表情は窺えない。

「オレが示談で稼いだ金、お前の示談金で全部無くなっちまったよ。はは‥ったく‥」



「お前よぉ‥」



静香はこの後振り返り、ブチ切れるであろう弟の姿を想像した。

「頭おかしいだろ?!マジで死にてぇのか?!

んなクソみてーなことあるかよ!?おい!このビッチがっ‥!!」




聞き飽きた弟のいつもの説教。

この後静香は「うるさいなぁ」と顔を顰めながら口を尖らせ、亮はまだまだガミガミやるだろう。

普段通りの姉弟のやり取りを想像し、無意識に静香は頬を微かに緩ませる。



けれど。

「前にオレが話した件だけど‥心の整理はついたか?オレの考えとしては‥」



亮は怒らなかった。

冷静な口調で現実をなぞり、静香の元から去って行こうとしている。

姉の姿を、チラとも見ようともせずに。



膿んだ傷口から溢れ出す。

孤独が、恐怖が、悔しさが、焦燥が。

亮は強張る静香の表情に気付かない。

「いや、いい。行こう」






亮はそう言い終わると、無言で静香の前を歩いて行った。

一歩、また一歩と。



溢れ出したドロドロとした感情が、静香の身体をジワジワと蝕んだ。


”みんなあたしから、離れて行ってしまう”


”もう誰も残ってない”




不可の烙印が傷口を抉った。

その傷口から、止めどない孤独が溢れ出す‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の傷跡>でした。

静香の孤独が描かれた回でしたね。

暴れることで周囲を巻き込み、心配されることで生きてる意義を見出している、というか‥。(雪とは正反対ですね‥)

静香の望む生き方と現実があまりにも乖離していて、どうしようもないという印象を受けます。

どうにか折り合いの付け方を佐藤先輩あたりから学んで欲しいですが‥どうなるでしょうね。


次回は<面の皮10cm>です。


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不可の烙印

2016-06-24 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
「お姉さん」



「ちょっとお姉さん」



何度も掛かるその声に、河村静香は一向に応えなかった。

目の前には、野暮ったい顔の年配男性が見える。

「お姉さん!ほらしっかりして!ここがどこか分かります?交番ですよ、交番!」



「お姉さんってば!」



警察官は返事をしない静香に痺れを切らし、彼女の鞄の中を調べ始めた。

そして唯一の身分証明らしきものを見つけはしたが、警官は苦い顔だ。

「お姉さんはA大生?本人の学生証じゃないみたいですけど」

「拾ったのよ‥」



静香はそう呟いた後、いつかA大の中を胸を張って闊歩した場面を回想した。

ガラスに映った自分は、まるで魔法に掛けられたかのように美しく聡明な、

どこから見ても一流の大学生だった‥。

 




けれどあれは本当の自分ではない。

誰しもが振り返ったあの時の彼女は、束の間の幻のように儚い幻想だった。

いつしか魔法は溶け、今静香は身分も知れない曖昧な者として、こうして尋問されている‥。

「連絡先は?随分沢山番号が入ってるな‥どこに掛ければいいですか?」



「‥‥‥」



静香は警官からの問いに応えることなく、がっくりと頭を下げて机に突っ伏した。

警官は苦々しく溜息を吐くと、静香ともう一人の女性の方を向いてこれ見よがしに嘆いて見せる。

「女性が二人共朝から酔っ払っちゃって‥」

「ちょっと!違いますってば!何度言わせるんですか!

あたしは昨日飲み会があって!それで今この格好なんです!」




女はボロボロになった身なりで、静香の方を指差しながら事の顛末を口にし始めた。

「二日酔いに効くドリンクを買おうとしたら、

この人が残り一つだったそれを押し退けて奪ったんです!

それでもあたし、耐えたんですよ?!」




「そしたらこの女がカードの限度額で引っ掛かって、

それを買おうとしたあたしに問答無用でいきなりー‥」




ギャンギャンと捲し立てる女の話を聞きながら、静香はぼんやりとその時のことを思い出していた。

店員は言葉を選びながら、通らないカードを手にこう口にする。

「あのお客様、カードが‥」



リジェクトされるカード。

それを見た静香の心の中に、絶望が広がって行く。

静香は頭を抱えながら、小さな声で憂う。

「ああ‥もうキャッシュカードまでもが‥」



「あたしを‥」



受け入れ不可の烙印が、静香の頭上から大きな音を立てて降って来る。

暗く翳って行く瞼の裏に、微かに記憶に残る祖父の姿が浮かんだ。



こちらを見て笑っていた祖父。

しかしいつしか祖父は自身に背を向け、

手の届かないところへと歩いて行ってしまった。



おじいちゃん、と呼び掛けても届かない。

祖父の背中はゆっくりと、暗闇へと飲み込まれて行く。




不可。




「本当の父親だと思って接してくれ」

会長は微笑みながら何度も静香にそう言った。

けれど手を伸ばそうとした途端、その微笑みは跡形もなく消える。




不可、不可。




初めてお屋敷に入った時に見た彼は、静香を見てニッコリと笑顔を浮かべていた。

「やあ」



ようやく現れた、と思った。

可哀想なシンデレラの元に白馬の王子様が現れたのだと、確かにあの時、確信したのに。

「勘違いするな」



王子様はその確信を、冷笑しながら粉々に踏み砕いて行く。

彼を理解出来るのはあたしだけだと、誰よりも確信していたのにー‥。

「勘違いするな、静香」




不可、不可、不可。




今やたった一人の肉親は、荷物を持って去って行く。

傷つき傷つけられた身体と心を、いつまでもこの場に引き摺るようにして。



たった一人の肉親。

たった一人の弟。

不可、不可、不可、不可ーーー‥。



亮、と呼び掛けても届かない。

けれど今の状況を作ったのは他でもない、自分なのだ‥。



「元気か?」



あれは数年前のこと。



街角に佇む静香の耳に届いたのは、すでに忘れ掛けていた弟の声だった。

静香は舌打ちしながら、低い声で通話先の弟へ言葉を返す。

「あークソッ 別の奴と思って電話出ちゃったじゃん。連絡してくんなっつったでしょ?」

「は?連絡すんのいつぶりだと思ってんだよ?もっとマシな言い方出来ねーのか?」



車道では路肩に停車した車の脇で、男達が何やら言い争っていた。

「そっちが信号を‥」「違うだろ!そっちが‥」と荒い声が切れ切れに聞こえている。

「つーかどこにいんの?何か変な声聞こえるけど」「あーちょっと取り込み中」



「男とドライブしてたらミスって人の車に突っ込んじゃってさぁ」「はぁ?!」



弟はその静香の言葉にブチ切れ、電話を震わす程の声を上げた。

「このクソが!運転すんじゃねーっつっただろ?!

ぶっちゃけお前、飲酒運転でサツに捕まった経験あんじゃねーか?!テメーいつか死ぬぞ‥!」


「切るわよ。今後連絡して来ないでね?」



「おい!お前もっとしっかり‥」



弟の説教はまだ続いていたが、静香は気にせず通話を終えた。

鼻歌を歌いながら、喧騒の隙間を縫って歩いて行く。





”河村亮”



もう数年間会っていない弟からは、たまに電話が掛かってくる。

けれど静香は携帯を手に取ろうとはしなかった。

震え続ける携帯を目にして、静香の前に居る男が口を開く。

「電話来てるぞ。つーか携帯何台持ってんだよ

「ん?いいの。出なくて」



「お前他に男居るだろ?」



着信は終わり、その後メールが一件届いた。

亮からだった。

最近は問題起こしてねーだろうな?まともに生きろよ?



先程の男の言葉と、今目にした弟からのメールに、静香は口元に笑みを浮かべてこう応える。

「何のことぉ〜?」



「バカなカモばっかりよ」



見下し、嘲笑し、切り捨てて来た者達が、静香に不可の烙印を押す。

積み重ねて来たその業は、ジワジワと静香の身を焦がして行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<不可の烙印>でした。

静香が警官から尋問される場面は、

以前亮が負傷した遠藤さんを助けた後に取り調べを受けた場面を彷彿とさせますね。

<曖昧な自身>


二人共、確かなものを持ちたくても持てなかった過去が、今も彼らを縛っているような、

そんな悲しみの悪循環を感じました。静香‥幸せになれるのかなぁー‥


次回は<彼女の傷跡>です。


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はぐれ者達の会話

2016-06-22 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
A大の片隅で、柳瀬健太は声を上げた。

「マジでどーすりゃいいんだ?!全然寝れんかったっつーの!



健太を悩ませているのは、もっぱら青田淳との件であった。

健太は頭を抱え足を踏み鳴らしながら、苛立ちを持て余す。

くっそーおかしくなりそうだぜ‥!

海外のサイトまで全部見てみたけど、半額だとしても学費レベルの出費じゃねーか!




学費のローンさえまだ返済出来てねぇってのに‥



つーか生活費はどうする?バイトすべきか?

いやいや!そんじゃ就活はどうすんだよ?!




卒業試験は?!結局過去問も手に入らんかったし!

うう‥うううう‥うああああああああ!!!!!!!




考えれば考える程、自分が袋小路へと追い込まれているのが分かる。

それでも何か手を打たなくてはと、健太は必死になって現状を打破する糸口を掴もうと足掻いていた。

考えろ、健太。



A大生・柳瀬健太!考えるんだ‥!



自分はただのボンクラ野郎じゃない、一流大学の学生なのだー‥。

今健太を冷静へと引き戻したのは、自分を立てるそんなプライド‥。



しかし‥。

「くっそぉぉぉ!考えるったって何を考えりゃいいんだよ!!」



「もー知らん!!チョームカつく!!



「知らん!知らん知らん知らん!!!」



健太は鞄を地面に投げつけ、その巨体をブンブンと揺らしながら地団駄を踏んだ。

A大生であるというプライドの中身は、何も無いただのハリボテに過ぎなかったのだ‥。

ゲホゲホッ‥!あー‥喉カラカラ‥



そう思いながら自販機の方を見ると、

そこに見覚えのある人物の姿があった。



糸井直美である。



久しく見掛けなかった彼女の姿を目にして、

健太は目を点にして動きを止めた。






「!」



自販機の前に立っていた直美は、

こちらに近づいて来る黒木典達の姿を目にしてギョッとした。

「あ‥あ‥」



瞬時に身を隠そうと思ったが、隠れられるような場所はどこにもない。

直美が途方に暮れようとしたその時、急に目の前に壁が出来た。



黒木典は自販機の前に佇む人物に向かって、若干の苦い表情で挨拶を口にする。

「あ、健太先輩。こんにちは」



「おお、チワ」「それじゃ失礼しますー」



典達一行は、健太に近寄ることなくそのまま場を離れて行った。

健太の後ろに佇む、糸井直美には一向に気付かないまま。






無言のまま、二人は顔を見合わせた。

今となっては学科を追われた科代表と、最年長の先輩。

彼らはそれぞれにはぐれ者だった。



「なんか飲み物奢ってくれっか?」



直美を隠してやったお礼とばかりにそう言う健太に、直美は頷いた。

二人は自販機のジュースを手に、ベンチへと腰を下ろす。



黙っている直美に向かって、健太の方から声を掛けた。

「専攻、夜間に移したんだって?」



「はい、まぁ‥」「うわー大変じゃねーか!」



頷く直美に、健太はお得意のオーバーアクションで言葉を続ける。

「ったくどうして女の子達ってのはそうなんだろうなぁ!

本人が違うっつってんだから信じてやれっての!俺はともかく、友達なら味方になってやるべきだろ!なぁ?!」




「薄情だよなぁ!」

「もう良いんです。過ぎた事ですから‥」



直美はそう言って諦めたように下を向いた。

今の直美は為す術もない現実の前に、打ちのめされたような雰囲気だ。

「結局この程度の仲だったってことですよ。

すごく悔しいですけど、防犯カメラも無いのにどうやって犯人を捕まえるって言うのか‥」




やるせない気持ちが溢れ、直美は悲しげな表情を浮かべていた。

そんな中でも、健太の隣でうっすらと微笑みが浮かぶ。

「それでも今もあたしの味方になってくれるのは先輩だけです。雪ちゃん達を止めてくれたのも‥」

「ん?俺はまぁちょっと人よりは心が広い方かもな!ははは!」



褒められた健太は得意気な態度で、

俺ってばよ‥。と髪を触って見せる。 ウゼー



直美はそんな健太に向かって、彼の近況を尋ね始めた。

はぐれ者達は、片隅のベンチで会話を重ねる。

「試験勉強は順調ですか?」

「あー期末にしろ卒験にしろ、アイツの過去問にしてもさぁ‥」



「あ、そうだ夜間授業で聞いた情報なんですが‥」「おお!そーなのか!」



「糸井、困ったことがあったら言うんだぞ?」「はい」



ははは!



初冬の空に、健太の笑い声が響き渡った。

まだ自分は完全に終わったわけじゃない、笑い声に潜むのは、そんな一縷の望み‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<はぐれ者達の会話>でした。

アレッ?!時計の弁償額、学費レベルとな!!

調べてみましたら韓国の大学の一年間の学費が60万くらいだそうなので、そのくらいってことですかね‥?!

プラス佐藤先輩へのPC代‥。健太、確かにピンチ!(しかし自業自得‥)


そして直美がすっかりはぐれ者に‥。一応科代表なのに‥。

この二人が徒党を組んでこれから何かしでかすんでしょうか‥。うーん波乱の予感!

4部38話はここまでです。

次回は<不可の烙印>です。

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甘言

2016-06-20 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
インターホンの音で起こされた河村亮は、寝ぼけ眼で玄関に立っていた。



そこにはテンション高めの赤山蓮が、沢山の参考書を手にニコニコと笑っている。

「じゃーん!検定試験の過去問集〜!やっぱ亮さんには俺しかいないっしょ?」



亮は蓮からそれらを受け取り、仏頂面でパラパラと捲り始める。

「ピアノも大事だけど、勉強もしっかりやんなきゃね!

その過去問集、問題と解説が超良いんだ。こんな良いモンあげるんだから、この恩は忘れないでよ?」




亮が参考書を見ている間にも、蓮はお喋りを続けながら河村宅の探索を始めた。

ダメージが買ったヤツじゃねーか‥バレバレだっつの

「ジュースねーの?ジュース!」



参考書の重さを両手に感じながら、亮は複雑な気持ちを持て余した。

こうして自分を気に掛けてくれる彼女の真心が、亮の覚悟に揺らぎを掛ける‥。





「水と酒ばっかじゃん」



冷蔵庫を開けた蓮は、そう言って残念そうに口を尖らせた。

黙っている亮の周りを、蓮はキョロキョロしながら忙しなく動き回る。

「つーかこの家、亮さんのモン何もねーのな!女物ばっか!亮さんの姉ちゃんは今日居ないの?

つーか顔どうしたん?二日酔い?」




蓮からそう言われ、亮は気怠そうに髪を掻き上げた。

「あー‥」



翌日になってもまだ酒が残っているのは、昨日の飲みの席のせいなのだ。

自分を追いかけて上京して来た元社長・吉川と元同僚の顔が、亮の脳裏に蘇る‥。


「コンクールの準備はどうなんだ?ちゃんとやってんのか?」



「そのコンクールっていつなんだ?

終わったらすぐに俺等とドロンだからな?」




会う度にそうダメ押しして来る吉川から目を逸らし、亮は曖昧に頷いた。

「はぁ‥分かってますって」



元同僚が吉川に皿を差し出す。

「召し上がって下さい」



すると吉川はガハハと笑いながら、元同僚の肩をバンバンと叩き始めた。

「お、そうだ!最近こいつこの近くで土方の仕事やってんだよ。知ってんだろ?」



「あー‥そうなんすか」



興味なさそうに相槌を打つ亮に、吉川は見かねて言葉を掛ける。

「おいおい〜こいつにもっと興味持ってやれよ。

こいつがどんだけお前のこと好きだと思ってんだ。俺に殴られてもお前の行方漏らさなかったんだぜ?」




吉川は元同僚の男に対しては一層高圧的だ。

「お前もせっせと稼がにゃ〜な?」



「お前らおつむが足りねーのか、金銭感覚ってモンがねぇんだよなぁ。

毎日毎日利息は増え続けんのに懲りずにまた金借りてよぉ。なぁ?」




吉川は何度も男の頭を殴り、罵倒し、見下すが、男はただ下を向いてそれに耐えるだけだった。

「お前なぁ、俺は本来金貸しなんてしねーってのに、お前には特別に貸してやってんだぜ?」

「いや俺は借りたくて借りてるわけじゃ‥社長が半強制的に‥

「おらおら、乾杯ー!」



「早くしろ!」「はい‥」



「わはは!良い気分だぜー」



やられっぱなしの元同僚を見ていると、亮の胸中が苛立ちに煙った。

それを誤魔化すように酒を何杯も飲み干したが、遂にその靄が晴れることはなかった‥。

「亮さん、見て見て」



考え込む亮に向かって、蓮は軽い調子で自身の携帯に表示されたアプリを見せる。

「このアプリさぁ、作るだけでもかなりオイシーから!これマジだよ!」



亮はそんな蓮がウザったくなって足を向けた。蓮は口を尖らせて抵抗する。

「くっそ!お前もう帰れ!そんで仕事しろ!何がアプリだ!

「なんでだよぉ〜!」



しかし蓮は引き下がらない。寧ろ目を輝かせながら、弾むような口調で話を続けて来た。

「これ怪しい話じゃねーよ?

ある程度根拠があるオイシー話なんだよ!今が打って出るその時なわけ!」
「‥‥‥」



「俺、本気だよ亮さん!いずれ会社作ったら良いポストあげるからさ!入ってよ!」



まるで根拠の無い、絵空事ような未来の話。

亮はため息を一つ吐いて、現実的な問題を口にする。

「おい、そんでも会社作んのに金が要るだろ?」

「そりゃそうさー!」



しかし蓮は亮のその言葉を耳にした途端、待ってましたとばかりに食い付いて来た。

「だから先立って金がどうしても要るわけなんだけどさぁ、

したら、ここに良さげな職見つけたのよ」




携帯の画面には、「ヤングマン産業営業職募集」と書いてあるサイトが表示されている。

「若手ベンチャーのための資金を支援する会社なんだって。

営業の教育受けたらすぐ現場入れるみたい。俺の性格からして営業向いてると思うんだよねー」




「三ヶ月インターンすれば、実績によっては支店長になれんだって!

ま、俺は短期間で事業資金だけ稼いですぐ辞めるけど!」


「ハァ?!んな上手ぇ話があるわけねーだろ!詐欺だろそれ!ったくコイツは‥



そう声を荒げる亮に向かって、蓮は不思議そうに首を傾げた。

「いやいや、実際行ってみて怪しげだったらドロンすりゃいい話じゃん。何が問題なの?

つーか面接受かんなきゃどうせ入れねーし。変なとこじゃねーって!」
「ほぉ‥」



「最近はTOEICだなんだじゃなくて、人そのものを見るのがトレンドだからね。

なおさらこの流れに乗らなくちゃぁ!」
「ほぉぉ‥」



だんだんと亮の理解の範疇を越えて行く蓮の話。

一旦冷静に戻るべく、亮は彼の家族の話を持ち出した。

「おい、お前このこと親とか姉ちゃんに話したのか?」

「俺の就職だぜ?なんで姉ちゃんが出てくんのよ?」



蓮は苛ついた口調で素っ気なくそう返すと、再び亮に向かって勧誘を始める。

「いいから、亮さんも一緒に入ろうぜ。中卒以上ならオッケーみたいだから。

亮さん今無職だから真っ昼間からゴロゴロしてんだろ?何してんのかも謎だしさぁ」




「早く申し込んでよ!つーか俺が代わりにやったろか?」

「はぁぁ‥」



甘言を誘う蓮の前で、亮はただただ呆れて口を開けていた。

風向きが、変な方向へと変わって行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<甘言>でした。

い‥嫌な予感しかしないよ、蓮‥

本当考えが短絡的というかなんというか‥。暗雲立ち込めてまいりましたね‥。

そして今回の見どころは冬も近いというのに自宅では黒タンク&裸足の亮さんですね。眼福!!ww


次回は<はぐれ者達の会話>です。


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