橙色の夕日が、聳え立つ高層ビルの窓を燦然と照らしている。

都内某所・Z企業。
国内有数の大企業の一フロアに、一人の青年をじっと見ている男が居た。

視線の先に居るのは、インターン生の一人、青田淳だった。
しかし彼はただの学生ではない。

コミュニケーション能力も、皆をまとめるリーダーシップも、地味な仕事もきちんとこなす勤勉さも、
何もかもを兼ね揃えた青年だった。仕事の出来も申し分ない。

男は彼の直属の上司ではなかったが、常に二人は視界に入る距離に居た。
書類を持ち廊下を歩く彼の後ろ姿を、部下と会話しながらも男は視線の端に入れている。


その後男は一人、エレベーターを待っていた。
他に同乗する者は居ない。

チン、という音と共に扉が開き、男は中に入った。
するとそれと同時に、音も無く誰かがエレベーターに滑り込む。

振り返った男は、その人物を見て目を見開いた。
「お疲れ様です」


そのまま扉は閉まり、
やがてエレベーターは機械音を鳴らして動き出した。

男は扉の方を向きながら、彼の挨拶に応える。
「あ‥ああ」

そんな男に向かって、彼は微笑みを浮かべた。
彼、とは名門A大学経営学科から来たインターン生であり、Z企業会長の御曹司である、青田淳である。

男はポケットに手を入れると、軽く笑った。
「はは‥」

それは気まずさから来る笑いだ。
男はチラ、と隣の青年を見る。


すると彼もまた、男の方を見ていた。
何を言うでもなく、彼は再び静かに微笑む。

男の胸中は複雑だった。
それにこの気まずい空気もいただけない。
どうして二人きりなんだ‥

男はこの場の雰囲気を紛らわそうと、ゴホンゴホンとわざとらしく咳払いをしたが、
その顔色の悪さはそのままだった。
すると青田淳が、男に向かって口を開く。
「部長」「ん?!」

男、こと淳が勤務する部署の部長は、突然話し掛けられ驚くも、冷静に先を促した。
「何かな?」
「実は‥ずっと部長にお尋ねしたかったことがありまして」

「一つ質問してもよろしいでしょうか?ちょうどバッタリお会いしたことですし‥」
「ん?な、何かね?」

突然の申し出に、部長は少し身構えた。
すると青田淳は幾分申し訳無さそうにしながら、こう切り出したのだった。
「お恥ずかしい限りですが‥僕はこの会社で、自分の役割をきちんとこなせているか、
優秀な人材であるかどうか、部長の評価を教えて頂きたいのです」「ほぉ‥」

予想外の質問。
部長がぽかんとしていると、青田淳は困ったように頭を掻いた。
「どう思ってらっしゃいますか?僕、最近ミスも多いですし‥」「え?!いやいや!」

ようやく事の次第を把握した部長は、青田淳の質問に笑顔で応えた。ポンポン、と肩を叩きながら。
「何の話かと思ったら!いや、良くやってくれてるよ!どうしてそう思うんだい?
こんなにも有能な人材が!」

「君はと~っても良くやってるよ!心配無用!」

部長は大きな声で笑いながら、彼を褒めちぎった。
「正社員よりも仕事が出来る最高のインターン生だからな!HAHAHA!」
「本当ですか?ありがとうございます。光栄です」「ああ!」

しかし部長の笑いは、次の瞬間彼が発した言葉で宙に浮くことになる。
「それではこれ以上父に報告されることも無いですね」 「何?」


ウイン、とエレベーターが上がって行く音が、二人の間に機械的に響いた。
青田淳は頭を掻きながら、扉の方を向いて言葉を続ける。
「部長に‥頻繁に見られている気がしたので、僕、何か大きなミスでもしたのかと思いまして」

そう言って、彼は再び部長の方を向いた。
父親が配置した、自身の監視役の方を。

印象的な表情。
微笑んでいるようで、警戒しているようで、それでいて威圧的な‥。
部長は自身に背を向けて立つ彼の後ろ姿を見ながらも、その表情が脳裏にこびり付いて剥がれない。
「本当に良かったです」

青田淳はそう言うと、部長の一歩前の位置に立ち、そのまま沈黙の中へと入った。
部長もまた何も言えぬまま、二人の間にエレベーターの機械音だけが響く。


あ‥と小さな声を出すものの、その先を続けるにはまだ彼が言わんとしていることが定かでは無かった。
すると青田淳は真っ直ぐに前を向いたまま、その意図するところを続けたのだった。
「あの‥度々注目されると、緊張してしまいます。
第三者から見たら、僕の直属の上司は部長なのかと思われてしまいますよ。
ですから、大きなミスをしそうで心配になるんです。そしたらそれも報告されるわけですよね」

「どうすればいいのか‥」

彼はそう言って、再び困ったように頭を掻いた。
部長はその彼の隣で、一人愕然とする。
「‥‥‥‥」

自分が監視役であること、ミスやおかしな所作があれば報告すること、
会長と交わした約束事のその全てを、青田淳は見透かしていた。
遠慮がちな言葉の裏にあるその確かな拒絶が、この沈黙の中に沈み込む‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<監視役>でした。
皆様、メリークリスマス!
もう今年も残り少なくなって来ましたね‥。しんみり。
さて今回は久々の淳登場でしたね。
どこまで行っても監視されることに、相当辟易している様子が見受けられます、先輩‥。
親の敷いたレールの上にいる以上、仕方のないことなのかもしれませんが‥。
次回は<賭け>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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都内某所・Z企業。
国内有数の大企業の一フロアに、一人の青年をじっと見ている男が居た。

視線の先に居るのは、インターン生の一人、青田淳だった。
しかし彼はただの学生ではない。



コミュニケーション能力も、皆をまとめるリーダーシップも、地味な仕事もきちんとこなす勤勉さも、
何もかもを兼ね揃えた青年だった。仕事の出来も申し分ない。

男は彼の直属の上司ではなかったが、常に二人は視界に入る距離に居た。
書類を持ち廊下を歩く彼の後ろ姿を、部下と会話しながらも男は視線の端に入れている。


その後男は一人、エレベーターを待っていた。
他に同乗する者は居ない。


チン、という音と共に扉が開き、男は中に入った。
するとそれと同時に、音も無く誰かがエレベーターに滑り込む。

振り返った男は、その人物を見て目を見開いた。
「お疲れ様です」


そのまま扉は閉まり、
やがてエレベーターは機械音を鳴らして動き出した。

男は扉の方を向きながら、彼の挨拶に応える。
「あ‥ああ」

そんな男に向かって、彼は微笑みを浮かべた。
彼、とは名門A大学経営学科から来たインターン生であり、Z企業会長の御曹司である、青田淳である。

男はポケットに手を入れると、軽く笑った。
「はは‥」

それは気まずさから来る笑いだ。
男はチラ、と隣の青年を見る。


すると彼もまた、男の方を見ていた。
何を言うでもなく、彼は再び静かに微笑む。

男の胸中は複雑だった。
それにこの気まずい空気もいただけない。
どうして二人きりなんだ‥

男はこの場の雰囲気を紛らわそうと、ゴホンゴホンとわざとらしく咳払いをしたが、
その顔色の悪さはそのままだった。
すると青田淳が、男に向かって口を開く。
「部長」「ん?!」

男、こと淳が勤務する部署の部長は、突然話し掛けられ驚くも、冷静に先を促した。
「何かな?」
「実は‥ずっと部長にお尋ねしたかったことがありまして」

「一つ質問してもよろしいでしょうか?ちょうどバッタリお会いしたことですし‥」
「ん?な、何かね?」

突然の申し出に、部長は少し身構えた。
すると青田淳は幾分申し訳無さそうにしながら、こう切り出したのだった。
「お恥ずかしい限りですが‥僕はこの会社で、自分の役割をきちんとこなせているか、
優秀な人材であるかどうか、部長の評価を教えて頂きたいのです」「ほぉ‥」

予想外の質問。
部長がぽかんとしていると、青田淳は困ったように頭を掻いた。
「どう思ってらっしゃいますか?僕、最近ミスも多いですし‥」「え?!いやいや!」

ようやく事の次第を把握した部長は、青田淳の質問に笑顔で応えた。ポンポン、と肩を叩きながら。
「何の話かと思ったら!いや、良くやってくれてるよ!どうしてそう思うんだい?
こんなにも有能な人材が!」

「君はと~っても良くやってるよ!心配無用!」

部長は大きな声で笑いながら、彼を褒めちぎった。
「正社員よりも仕事が出来る最高のインターン生だからな!HAHAHA!」
「本当ですか?ありがとうございます。光栄です」「ああ!」

しかし部長の笑いは、次の瞬間彼が発した言葉で宙に浮くことになる。
「それではこれ以上父に報告されることも無いですね」 「何?」


ウイン、とエレベーターが上がって行く音が、二人の間に機械的に響いた。
青田淳は頭を掻きながら、扉の方を向いて言葉を続ける。
「部長に‥頻繁に見られている気がしたので、僕、何か大きなミスでもしたのかと思いまして」

そう言って、彼は再び部長の方を向いた。
父親が配置した、自身の監視役の方を。

印象的な表情。
微笑んでいるようで、警戒しているようで、それでいて威圧的な‥。
部長は自身に背を向けて立つ彼の後ろ姿を見ながらも、その表情が脳裏にこびり付いて剥がれない。
「本当に良かったです」

青田淳はそう言うと、部長の一歩前の位置に立ち、そのまま沈黙の中へと入った。
部長もまた何も言えぬまま、二人の間にエレベーターの機械音だけが響く。


あ‥と小さな声を出すものの、その先を続けるにはまだ彼が言わんとしていることが定かでは無かった。
すると青田淳は真っ直ぐに前を向いたまま、その意図するところを続けたのだった。
「あの‥度々注目されると、緊張してしまいます。
第三者から見たら、僕の直属の上司は部長なのかと思われてしまいますよ。
ですから、大きなミスをしそうで心配になるんです。そしたらそれも報告されるわけですよね」

「どうすればいいのか‥」

彼はそう言って、再び困ったように頭を掻いた。
部長はその彼の隣で、一人愕然とする。
「‥‥‥‥」

自分が監視役であること、ミスやおかしな所作があれば報告すること、
会長と交わした約束事のその全てを、青田淳は見透かしていた。
遠慮がちな言葉の裏にあるその確かな拒絶が、この沈黙の中に沈み込む‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<監視役>でした。


もう今年も残り少なくなって来ましたね‥。しんみり。
さて今回は久々の淳登場でしたね。
どこまで行っても監視されることに、相当辟易している様子が見受けられます、先輩‥。
親の敷いたレールの上にいる以上、仕方のないことなのかもしれませんが‥。
次回は<賭け>です。
☆ご注意☆
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