Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

監視役

2015-12-25 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
橙色の夕日が、聳え立つ高層ビルの窓を燦然と照らしている。



都内某所・Z企業。

国内有数の大企業の一フロアに、一人の青年をじっと見ている男が居た。



視線の先に居るのは、インターン生の一人、青田淳だった。

しかし彼はただの学生ではない。

  

コミュニケーション能力も、皆をまとめるリーダーシップも、地味な仕事もきちんとこなす勤勉さも、

何もかもを兼ね揃えた青年だった。仕事の出来も申し分ない。



男は彼の直属の上司ではなかったが、常に二人は視界に入る距離に居た。

書類を持ち廊下を歩く彼の後ろ姿を、部下と会話しながらも男は視線の端に入れている。







その後男は一人、エレベーターを待っていた。

他に同乗する者は居ない。

 

チン、という音と共に扉が開き、男は中に入った。

するとそれと同時に、音も無く誰かがエレベーターに滑り込む。



振り返った男は、その人物を見て目を見開いた。

「お疲れ様です」







そのまま扉は閉まり、

やがてエレベーターは機械音を鳴らして動き出した。



男は扉の方を向きながら、彼の挨拶に応える。

「あ‥ああ」



そんな男に向かって、彼は微笑みを浮かべた。

彼、とは名門A大学経営学科から来たインターン生であり、Z企業会長の御曹司である、青田淳である。



男はポケットに手を入れると、軽く笑った。

「はは‥」



それは気まずさから来る笑いだ。

男はチラ、と隣の青年を見る。






すると彼もまた、男の方を見ていた。

何を言うでもなく、彼は再び静かに微笑む。



男の胸中は複雑だった。

それにこの気まずい空気もいただけない。

どうして二人きりなんだ‥



男はこの場の雰囲気を紛らわそうと、ゴホンゴホンとわざとらしく咳払いをしたが、

その顔色の悪さはそのままだった。

すると青田淳が、男に向かって口を開く。

「部長」「ん?!」



男、こと淳が勤務する部署の部長は、突然話し掛けられ驚くも、冷静に先を促した。

「何かな?」

「実は‥ずっと部長にお尋ねしたかったことがありまして」



「一つ質問してもよろしいでしょうか?ちょうどバッタリお会いしたことですし‥

「ん?な、何かね?」



突然の申し出に、部長は少し身構えた。

すると青田淳は幾分申し訳無さそうにしながら、こう切り出したのだった。

「お恥ずかしい限りですが‥僕はこの会社で、自分の役割をきちんとこなせているか、

優秀な人材であるかどうか、部長の評価を教えて頂きたいのです」
「ほぉ‥」



予想外の質問。

部長がぽかんとしていると、青田淳は困ったように頭を掻いた。

「どう思ってらっしゃいますか?僕、最近ミスも多いですし‥」「え?!いやいや!」



ようやく事の次第を把握した部長は、青田淳の質問に笑顔で応えた。ポンポン、と肩を叩きながら。

「何の話かと思ったら!いや、良くやってくれてるよ!どうしてそう思うんだい?

こんなにも有能な人材が!」




「君はと~っても良くやってるよ!心配無用!」



部長は大きな声で笑いながら、彼を褒めちぎった。

「正社員よりも仕事が出来る最高のインターン生だからな!HAHAHA!」

「本当ですか?ありがとうございます。光栄です」「ああ!」



しかし部長の笑いは、次の瞬間彼が発した言葉で宙に浮くことになる。

「それではこれ以上父に報告されることも無いですね」 「何?」








ウイン、とエレベーターが上がって行く音が、二人の間に機械的に響いた。

青田淳は頭を掻きながら、扉の方を向いて言葉を続ける。

「部長に‥頻繁に見られている気がしたので、僕、何か大きなミスでもしたのかと思いまして」



そう言って、彼は再び部長の方を向いた。

父親が配置した、自身の監視役の方を。



印象的な表情。

微笑んでいるようで、警戒しているようで、それでいて威圧的な‥。

部長は自身に背を向けて立つ彼の後ろ姿を見ながらも、その表情が脳裏にこびり付いて剥がれない。

「本当に良かったです」



青田淳はそう言うと、部長の一歩前の位置に立ち、そのまま沈黙の中へと入った。

部長もまた何も言えぬまま、二人の間にエレベーターの機械音だけが響く。







あ‥と小さな声を出すものの、その先を続けるにはまだ彼が言わんとしていることが定かでは無かった。

すると青田淳は真っ直ぐに前を向いたまま、その意図するところを続けたのだった。

「あの‥度々注目されると、緊張してしまいます。

第三者から見たら、僕の直属の上司は部長なのかと思われてしまいますよ。

ですから、大きなミスをしそうで心配になるんです。そしたらそれも報告されるわけですよね」




「どうすればいいのか‥」



彼はそう言って、再び困ったように頭を掻いた。

部長はその彼の隣で、一人愕然とする。

「‥‥‥‥」



自分が監視役であること、ミスやおかしな所作があれば報告すること、

会長と交わした約束事のその全てを、青田淳は見透かしていた。

遠慮がちな言葉の裏にあるその確かな拒絶が、この沈黙の中に沈み込む‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<監視役>でした。

皆様、メリークリスマス!

もう今年も残り少なくなって来ましたね‥。しんみり。


さて今回は久々の淳登場でしたね。

どこまで行っても監視されることに、相当辟易している様子が見受けられます、先輩‥。

親の敷いたレールの上にいる以上、仕方のないことなのかもしれませんが‥。


次回は<賭け>です。


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2015-12-23 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
昼食時のファストフード店で、聡美はハンバーガーを咀嚼していた。



‥その姿が少しも美味しそうに見えないのは、目の前に太一が居るからである。

逃げらんなかった‥

「美味くないんスか?俺ダイエットしてるから一個だけにしときマス



いつまでも減らないハンバーガー。

喉を通らないのは、心の中が悶々とした気持ちでいっぱいだからだ。

雪、調べとくって言ってたけど、

まだ答え聞いてないんだよね‥




果たして萌菜と太一は、本当に付き合っているのか‥?

その答えを知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが、ずっとぐるぐると回っている。

太一はむっつりと黙り込む聡美を気遣って、明るくこう提案した。

「食べ終わったら、久々に映画でも行きましょうヨ。

聡美さんが見たがってた映画、この間封切りしたとこですし!空講時間に合わせて席も予約しまシタ!」


「うん‥」



太一はいつも通りだ。

大きな口を開けてハンバーガーにかぶりつく。



それを見つめる聡美の胸中は複雑だ。

何のことはない彼の一つ一つの仕草が、特別なものに見えてしょうがなかった。



「イテッ」



唇を手で拭っていた太一が、不意に顔を顰めた。

見て見て、と言いながら聡美の方へ身を乗り出す。

「あ~あ、聡美さん、俺唇切れまくりデス。最近スゲー乾燥してマスよね」

「ん‥まぁリップ塗らなきゃそうなるよ。バカだね‥」



聡美は力なくそう言うと、再び黙りこんでハンバーガーを口に運んだ。

太一は「ふーん‥」と声を出しながら、そんな聡美のことを見つめている。







太一の心の中で、言葉が生まれた。

その言葉を口に出そうと、太一は聡美の名前を口に出す‥。

「聡美さ‥」 RRRRRRRRRR



すると同時に、太一の携帯が着信音を響かせた。

電話を取る太一。

「あ!萌菜さん?」



”萌菜”の名を聞いて、聡美の目が大きく見開かれた。

今太一は、彼の彼女と通話しているのだー‥。

「はい!そうっス。それ良かったスよ。

はい、良いと思いまス。え?」




すると太一は、聡美の方へと視線を流す。

「今からスか?」



その内容から、何か用事が入ったことは明白だった。

そして通話先の萌菜の声は大きく、その詳細までもが聞こえてくる。

「あー‥今からはちょっと‥」

「お願いだから追加撮影来てよ~太一!頼むよ、マジで急いでてさぁ‥」

「それが‥約束があって‥」「大丈夫」



聡美は何を考えるより早く、そう口にしていた。

「そっち行きなよ。急な仕事なんでしょ」「あ‥」



「いいんスか?席も予約してあるのに‥」

「うん、映画はいつでも観れるんだし」「でも‥」



言葉を続けようとする太一。

すると聡美は下を向きながら、寂しそうにこう口にした。

「ただ‥あたしって、今まで自分本位に生きて来たなぁって思って‥」



太一はその意味が分からず、頭の上にハテナが浮かんだ。

聡美は笑顔を浮かべながら、「行きなよ」と口にする。



おそらくこれが一番正しいと、聡美は自身に言い聞かせた。

太一の幸せを考えれば、自ずと答えは見えてくる。

雪に聞く必要も無いね‥



自分本位な自身より、きっと萌菜は太一に似合う。

聡美は太一の幸せな未来を、そっと祈って席を立った。




「ちょっと待って。リップ」



聡美は太一を呼び止めると、

自身のポーチからリップクリームを取り出す。



そしてそのキャップを外し、太一の唇に塗ってやった。

「バイトばっかになっちゃダメだよ。他のことも色々考えるんだよ?」



年上の友人らしく、聡美はそう諭しながらそれを塗り終えた。

すると太一の唇が、ピンクに色づいているのに気がつく。

「げっ!」



「色付きだった?!ごめん!」



予想外の出来事に慌てた聡美は、すぐにティッシュで太一の唇を拭った。

すると太一は聡美の持つリップに、その大きな手を伸ばす。

「貸して」



「こういうのは聡美さんにしなきゃ」



聡美の顎が、沿えられた太一の左手で上を向いた。

唇が、桃色に色づいていく。

「ほら」



「かわいい」










今にも、泣き出してしまいそうだった。

切ない想いが胸を塞ぐ。

感情は現実に置いてけぼりのまま、時間はどんどん流れて行く。

「それじゃ行きますネ。後で皆一緒に夕メシでも行きまショ」



「最近雪さんも聡美さんも元気なさげだし、

俺のバイト代入ったらパーッとやりまショ。ね!」




「それじゃ!」



手を振って、去って行く太一。

聡美は一言も返すことが出来ないまま、ただその場に突っ立っていた。



色づいた唇。

溢れた感情。



その全てが、

もう遅いよと自身に教える。





「あああ‥」



聡美は両手で顔を覆いながら、その場にへたり込んだ。

「どうしよう‥どうしよう」



次から次から、後悔の波が押し寄せる。

「あたし‥」



「なんてバカなの‥」



桃色に色づいたこの唇のように、空が橙に染まって行く。

けれどそれはあっという間に、深い群青へと変わって行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<唇>でした。

聡美‥。切ないですね

そして出ました太一の「あごクイ」!



さすがチートラ1良い男と囁かれる太一‥。恐ろしい子‥!!(久々)

次回は<監視役>です。

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刺した釘

2015-12-21 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
興味を持つであろう餌を撒けば、その先は分かり切っている。

案の定黒木典は、雪のその話に食い付いて来た。

「てか、学科長がどうしたって?」「え?」



「え?ううん、特には何も‥」

「どうして?何かあったの?昨日のことと何か関係あるんでしょ?」



雪が首を横に振っても、典は更に話を掘り下げに来る。

雪は「うーん‥」と言って言葉を濁した。



キョロキョロ



周りを見回す雪と、早く喋ってと先を促す典。

雪は典の耳元に口を寄せると、ヒソヒソ声でこう切り出した。

「それがね、実は‥」



「聡美がね、私の鞄の中をゴソゴソしてる人を見たって‥」「!!!」



雪の話を聞いた典は、驚きのあまり思わず声を出した。

「えっ?マジ?!」



シーッと人差し指を唇の前で立てる雪に気づくことなく、典は大声で続きを促す。

「誰なの?!誰なの?!」

「それは‥名前は口に出せないんだけど‥」



ヒソヒソと小さな声で続ける雪。

「でも持ち出してるところを見たわけじゃないから、確実じゃないのよ」

「あ‥そう。そう‥そうよね。そう思うわ」



そして雪は、先ほど典にした質問と今の話を絡めて話した。

「ただ‥相談してみようかなって思って。学科長は、話に良く耳を傾けてくれるし」

「へっ?」



目を見開く典の前で、雪は柔らかな笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「今回のことは‥私一人で解決ってのはちょっとしんどいし、

皆を巻き込んでゴタゴタしちゃうのも嫌だしね」
「そ‥そう。そうよね‥」



典が何度目かの相槌を打った後、雪は申し訳無さそうにこう釘を刺した。

「あ‥このことはオフレコでお願いできる?騒ぎになるとちょっと‥。 それじゃあね」

「え?あっうん!」



しかしその釘は、固く刺してはいない。

うわマジで‥



いつでも逃げられる程度の、ゆるくゆるく刺した釘。

えー!大事件!ありえないんだけど!



案の定、黒木典は逃げ出した。

雪は背後で駆け出す典の気配を感じながら、その意図をなぞっている。

オフレコなわけ‥ない



確実に分かったことが一つあった。

少なくとも犯人はあの子じゃない



そう思う雪の後ろに、一人の人間が立っていたが、まだ雪は気づかない。

頭の中は、今やらなければならないことでいっぱいだからだ。

期末までグループ課題が二つ、個人の課題、勉強会、財務学会、

週末までにそれらに取り組める日が三日‥




やるべきことは山積しており、時間は限られている。

そしてー‥




過去問を盗んだ人間を、そのまま放置するわけにはいかない。




秋風が、雪の髪を舞い上げる。

前髪の間から覗いたその目元には、彼と同じ色が宿っているーーーー‥。







ガッ!



後ろから、突然強い力で腕を掴まれた。

振り返ると、そこには佐藤広隆が立っている。



佐藤は雪の目をじっと見ながら、ここに居る訳を聞いた。

「何してる?呼んだのに聞こえなかったか?」



雪は一瞬硬直したが、佐藤の顔を見てふっと力が抜ける。

「あ‥先輩」「ところでどうしてあっちから来たんだ?赤山の取ってる教養の授業、あの辺だったか?」

「あ‥xx館の方に用事があって‥。佐藤先輩はどうしてここに?」

 

何とも言えない気分でそう聞くと、佐藤は鞄をゴソゴソし始めた。

「あ‥これを‥」






佐藤は一冊の本を取り出し、それを雪に差し出した。

「静香さんの本。これ、赤山から返しておいて」



予想外の展開に、雪はあんぐりと口を開ける。

「佐藤先輩‥」「俺からって言うなよ」



オタオタする雪。佐藤は強い口調でこう続ける。

「どうせ俺が買った本なんだ。一度あげるも二度あげるも大差ないさ」

「でもコーヒーこぼしたのは私で‥」「いいから。とにかく受け取ってくれ」



一貫して譲らない佐藤の態度に、とうとう雪は折れ、本を受け取った。

「‥ありがとうございます」






佐藤はふぅと息を吐くと、頭に手を置きながら口を開く。

「大袈裟なことはしたくないけど、俺は、あの人が会計の勉強よりも‥」



佐藤は自身の脳裏に、以前目にした静香の表情を思い浮かべた。

自分が渡した美術の本を開いた時、彼女の素顔がそこに現れた気がしたのだ‥。







幾分恥ずかしそうに口を噤んだ後、佐藤は雪に別れを告げる。

「‥課題頑張れよ」

「はい。それじゃ‥」



その背中がゆっくりと遠ざかって行くのを、雪はその場に佇んだままずっと眺めていた。

佐藤から渡された、美術の本を抱えて。



まっすぐでどこか不器用なその姿が、いつかの自分に重なった。

では今ここに立っている自分は、一体誰と重なっているのだろう‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<刺した釘>でした。

雪ちゃん、遂に嘘を口にするようになりましたな‥。個人的には悪い嘘ではない‥と思いますが‥。

だれかさんの処世術にそっくり‥。大丈夫なんでしょうか‥この先‥

そして佐藤先輩のイケメン度がぐんぐん上がっています

なんて良い人なんだ‥(T T)


次回は<唇>です。


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ターゲット

2015-12-19 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
翌日。

「赤山雪主催の勉強会」について、雪が柳に説明する。

「私達はまだ三年ですから、卒業試験は受けませんので。どうせ似たような内容を勉強するわけですが



過去問騒動のゴタゴタで忘れていたが、まだ雪は三年生なのである。

するべきは卒業試験の勉強ではなく、その他の勉強だ。

「だよな。そんじゃ専攻の勉強会にすっか?」

「はい、皆に呼びかけてやりましょう。前もってやれることやっとかなきゃ



柳は雪の意見を尊重し、この勉強会の主たるテーマを「専攻試験の勉強」に決めた。

テキストを見ながら、以前このテストを受けたという柳が説明を始める。

「生産管理は超ムズいらしいからな。出てくる数字も全部変えるらしいし。

でも見ろよ、淳の過去問は問題の答えだけじゃなく解説まで書かれてるぜ。これ見てりゃ間違いないな!」




そんな雪達の周りに、佐藤や海など勉強会に参加を希望する学生達が集まって来た。

「あたしたちもやるー」



雪と仲の良い同期、そして海の友達など、段々とその輪は広がって行く。

「海ちゃん!一緒にやってもいい?」「うん」



その様子を見た直美と直美と仲の良い女子が、「何よねぇ」とブツブツ言っていた。

白けた表情を浮かべている。

そして雪らを凝視しているのは、直美達だけではなかった。



柳瀬健太は、ジトッとした目つきで雪達を睨んでいた。

イラつく感情を持て余しながらも、頭の中では損得の計算が忙しい。

クソッ‥プライドがあるが、万一を考えて‥

面接の失敗に備えて、今からでもあいつらに付く方が‥




健太は迷っていた。

赤山のこれまでの非礼に目をつぶり、今からでもあちらサイドにつくべきかと。

そしてそんな彼を見透かすかのように、柳楓は冷めた視線を健太に送る。



うっ‥



柳と目が合った健太は、そこでハッとした。

何度も首を横に振りながら、先程の考えを思い直す。

いや!堂々としてりゃいい!面接も落ちるわけねーし!



そして健太はそれきり雪の方を見ようとはしなかった。



一方雪は、とある人物の背中をじっと見つめているところだった。

彼女の周りでは、柳や同期達が勉強会の算段を話し合っている。

「俺も更に人呼んだぜー他の空き教室探すか?ワイワイしちゃうもんな「そうですねー」



雪の視線の先には、

サーモンピンクのセーターを着た一人の女子。



彼女は、糸井直美と一番親しい子なのである。

雪は無言のまま、隣に座る聡美と視線を交わす‥。






そして授業は始まった。

雪は現在の状況を、改めて頭の中で整理しているところだ。

結局勉強会にまで事を広げてしまったし‥



しかもまた、この教養の授業‥。

どうせこの授業のグループ課題もダメだろうし、自分で全部やるとして‥




授業が終わり、雪は一人で外を歩いていた。

期末までグループ課題が二つと、勉強会、財務学会‥、週末までにそれらに取り組める日が三日‥



やるべきことは山積しており、時間は限られている。

それでも、過去問を盗んだ人間をそのまま放置するわけには‥



けれど、それを見ないふりは出来なかった。

雪の視線の先には、彼女が居る。



サーモンピンクのセーターを着た、あの女の子だ。



雪は頭の中で、彼女のプロフィールを改めて確認する。

黒木典。

口が軽い方。お喋りで、人の悪口を日常的に口にするwith直美さん




雪は彼女の後ろ姿を見つめながら、少し思案した。

どうやって話すかな‥



ターゲット・黒木典。

雪は自分がどう振る舞うべきかを算段しながら、彼女の後を追った。







自販機から出てきたコーラを手に取り、

典はそのキャップを回し開ける。



すると背後から突然掛かった声に、典は驚いて手元が狂った。

「典ちゃん」「きゃっ!」



炭酸はその衝撃で泡を吹いた。

シュワシュワと音を立てながら、典の手を冷たく濡らす。

「あ‥」「あ‥」



典は濡れた手を払いながら、苛立ちの声を上げた。

「もう‥!何なのよマジで‥」「あ‥ごめん」



雪は謝りながら、

彼女に向かってティッシュを差し出す。






その周到さに、典は一瞬口をポカンと開けて固まった。

そして雪の用意したティッシュは手に取らず、代わりに自身の鞄を探る。

「ううん大丈夫、ティッシュならあたしも持って‥」



ティッシュ出てこーい



無‥



はい



結局ティッシュは見つからず、典は「アリガト」と気まずそうな顔で、

雪の差し出すティッシュを受け取った。

どうしても‥



雪は自分と目を合わせようとしない典を見ながらこう思う。

基本的には直美さんが嫌いな私を、避けようとするはずだけど‥



手を拭く典を見つめながら、雪は話を切り出した。

「典ちゃん、もしかして○○区の辺りから通ってる?」



「学科長がその辺りに居るのって見たことあるかな?」

「さぁ‥?」



雪からの質問に、典は首を横に傾げた。

しかし彼女の瞳の中に、好奇心が踊るのが見える。



典は続きを促した。しかし雪は曖昧に笑うだけだ。

「それがどうしたの?」「あ‥ううん、特に何がってわけじゃないの」

 

「ティッシュ、もう必要ないなら私行くね。ちょっとしか溢れなくて良かった。ホントにごめんね」

「あ‥」



そう言って背を向けようとする雪を、典は思いついた言い訳で引き止める。

「あー‥ティッシュ、もうちょっとくれない?」



雪は笑顔で頷いた。

「いいよ」



心の中で声がする。

興味を持つであろう餌を撒けばー‥



必ず食いつく。

そして案の定、黒木典は食いついて来たーー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ターゲット>でした。

こんな風に意図を持って自分から働きかけるの、実は初めてじゃないですかね雪ちゃん。

ますます先輩に似て来たなと感じます。

そして典ちゃん‥寒いだろうにコーラ飲むんですね。若いな‥。


次回は<刺した釘>です。

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裏取り

2015-12-17 01:00:00 | 雪3年4部(事件勃発~監視役)
過去問盗難事件があったその夜、雪はペンを走らせながら先輩と電話をしていた。

「‥はい、それで過去問でゴタゴタしてるんですけども、

それが思ったよりちょっと‥ゴタゴタにゴタゴタが次ぐ感じで‥」




雪は「過去問が盗まれた」という事実を隠して、先輩に現状を伝えた。

通話先の淳は、その核心を聞き出そうとする。

「何かあったんじゃないの?」

「いや‥特に何がってわけじゃないですけど‥

こういうささいなことが変に疲れるし、ピリピリしちゃうって感じですかね‥」




淳は「そうか‥」と相槌を打った後、思い当たる人物の話題を出した。

「健太先輩はどう?この間、過去問絡みで問題になったろう?」

「健太先輩ですか?相変わらずですよー、THE・お騒がせ野郎です。

皆、あの人が面接受かってさっさと出て行って欲しいって言ってますね」


「あの人、また雪ちゃんに対して何か言って来てるんじゃないの?」



その淳の問いを、雪は一応肯定する。

「はい。でも特に何かってのは無いです」



しかしやはり、詳しいことは何も言わなかった。

視線の先には、課題が山積みになっている。

「今は週末までに終わらせなきゃならない物が沢山あるってことの方が‥問題‥



すると、PCがメールの受信を教える音を立てた。

添付されたファイルには、”財務学会発表資料”と書いてある。

「あっ佐藤先輩だ」



雪はファイルを開きながら、淳に向かってそろそろ通話を終えたい旨を遠回しに伝える。

「先輩、私もう発表の準備しなきゃ!課題と財務学会の発表が重なっちゃって‥」

「うん、分かった」



淳はすぐにそれを了承し、雪に労いの言葉を掛けた。

「もうこんな遅いのに、本当に大変だね‥」

「せんぱいぃぃぃ‥」



その優しさに涙しながら、雪は彼におやすみを言う。

「先輩こそ通勤大変でしょ?早く休んで下さいね」

「うん、課題集中して頑張れよ。また連絡するよ」「はい!」






そして恋人達は電話を切った。

フワフワするその甘い会話の後に残るのは、窮屈な現実だけ‥。

「あ~!大変だぁぁぁ!戦じゃ戦~~!」









そして同じ頃。

「赤山にファイルは送ったし‥」



佐藤は自身の発表資料を後輩に送り終えた所だ。

続けて送るべきメッセージは、少し躊躇を覚える相手へのそれであった。



佐藤は覚悟を決めると、

キーボードを叩き始めた。



人性検査は他のところと同じ?



そんな端的なメッセージを打ち、Enterを押して送信する。

佐藤は暫し画面を眺めた。

「‥‥‥‥」



これで近日中に返信が来れば‥と思いつつ、

佐藤は手元の資料に再び目を通し始める。



すると。



PCがメッセージの受信を知らせる音を鳴らした。

そこにはオンラインになったアイコン、”青田淳”からのメッセージが表示されている。

うん。大差ないよ



思っていたよりも相当早いその返信に、佐藤は思わず「おっ」と声を出した。



佐藤は再びキーボードに指を置くと、ここはクールに‥と思いつつメッセージを打ち込んだ。

おk、教えてくれてサンキュ



すると青田淳からすぐに返信。

良いんだよ。同期なんだからお互い様だろ



そして予想外なことに、彼から更にメッセージが続いた。

佐藤は優秀だな。うちの会社に来て欲しいよ。思ったより大学の同期が居ないんだ



その突然の褒め言葉に、思わず佐藤は仰け反った。

今まで嫌味な奴だと思っていた青田淳が、最近は妙に自分に対して優しいからだ。



動揺しながらも、とりあえず佐藤はメッセージを返した。

世辞はいいよ。とにかくおつかれ



やり取りを終わらせたがっている佐藤の雰囲気を察してか、

淳は最後に温かな言葉で締めくくる。

うん、また聞きたいことあったら聞いてな



そしてやり取りは終わった。

佐藤は咳払いをしながら、一人「良いヤツじゃないか‥」と呟いた‥。









都内高級マンションの一室。

彼の長い指が、PCのキーボードを打ち終える。



画面には、佐藤広隆との会話が表示されている。

たった今、そのやり取りは終わったところだ。



彼はキーボードから指を離し、「あぁ」と声を出した。



彼、青田淳は通話中なのである。

「それで?」

「そんでさ、赤山ちゃんの鞄の中にあったそれがそっくり消えたってワケ!

鞄に入れっぱにしてたっていうその紙切れが、どーしてどーして空飛んで無くなるってのかねぇ?」




通話先は彼の同期、柳楓であった。

柳は今日起こった「赤山雪の持っていた過去問盗難事件」について、その全てを淳に報告している。

「したらさ、突然柳瀬が大声で”赤山ぁ!こりゃ何事だぁ?!”っつって駆け寄って来てよ。

それが俺的にはビビッと来た的な?「犯人はこの中に居る!」「あなたが犯人です!」的な!」


「ふぅん‥」



名探偵が犯人を名指しする場面を冗談交じりに話す柳。

すると彼は、思いついたように大きな声を出した。

「あっ!てか大ニュースがあった!!」「大ニュース?」



冷静にその続きを促す淳。柳は興奮しながら言葉を続けた。

「衝撃の新事実!!伏兵が居たんだよ!その名も糸井直美!」

「糸井?」



若干予想外なその人物の名を、淳はそのまま復唱した。

柳は今日目にした糸井直美の様子をつぶさに口にする。

「いきなり糸井が赤山ちゃんとこ来て、うるさいだの雰囲気を壊すなだの色々言って来たのよ。

なんつっても表情がぎこちねーし、興奮を隠しきれねー感じでさ、何か後ろめたいことをバラされた、みたいな印象受けたんだよな。

俺、教養心理学A+じゃん?分かんのよねー」


「‥怒ってたってこと?」

「うーんそういう単純な感じじゃなかったな。とにかくムカついてしょうがない、って感じだった。

赤山ちゃんに、「本当に過去問なくしたのか」とか「どうして個人的なことでゴタゴタさせるのか」とか、

そんな感じのこと言ってたよ」




柳の語る、おかしな糸井直美像に、淳もまた違和感を覚えた。

「ふぅん」と呟く淳の表情が、固く曇る。



「そうだったんだ‥」

「とにかくお前の手が加えられた過去問はスゴイって話だよww」



柳は笑いながら、久々に話す淳との会話を楽しんでいる。

淳は柳との会話の中に雪が言葉にしなかった事実の裏を取り、一人思案に耽るのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<裏取り>でした。

雪と会話した後佐藤とメッセをやり取りしながら柳と電話する淳‥。

どんだけ裏で動いてるんですか!

そして淳と電話する柳の謎のテンションの高さにビックリした私です。

久々に話せるから嬉しかったんですかね~。淳のことが大好きな柳‥。


次回は<ターゲット>です。

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