Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>豪雨

2015-08-31 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)

雪は未だモヤモヤした不快を抱えながら、黙々と広報の仕事をこなし続けていた。

大学から店へ続く道に、一定の間隔でステッカーを貼って行く。



踏まれても汚れないように、雨が降っても濡れないように、

紙のそれを貼ってから、ビニールテープを上から貼りつける。



地味で地道な作業を、雪は黙って繰り返した。

同じ作業を続ける内、段々と気持ちは落ち着き、頭の中はクリアになる。



そして考えないようにしていたあの言葉が、再び脳裏に響いた。

やったからって誰も見てないって



そしてその言葉に引き摺られるかのように、様々な記憶が溢れ出す。


「掃除したのか?この際蓮の部屋もやりなさい。

プレゼントも送っておいてやれ」




胃の痛みを我慢して、両親の為に掃除した。

けれど父は自分を見ること無く、弟のことばかり気にかけた。


「逃げるよ!」

「アンタってホント気に食わない子ね」



ホームレスに食って掛かる平井和美を連れて逃げた結果、そう言い返された。

挙句和美から自分の劣等感さえも指摘され、その行動を後悔した。


「元気出せよ!」 「お前ってマジムカツク女だな」

 

皆から総スカンされた横山を哀れに思い、声を掛けたのが災難の始まりだった。

結局散々な目に合って、付けられた傷は未だに癒えない。


「い‥意見あります」

「派手なだけな企画なら、やらないほうがマシじゃないか?」



この学祭のプランを提案した時もそうだった。

要らぬお節介を焼いた結果、衆人環視の中でバッサリ否定されて。


気にかけるのは、首を突っ込むのはもう止めようと思うのに、いつも気がついたら渦の真ん中だ。

今はもう違うと思っても、事あるごとに同じことを繰り返している。



青田淳に仕返しするつもりで、仕事を完璧にこなしてやろうと思った。

重たくて引き摺って、クタクタになりながら大量の段ボールを運んだ。

けれど何一つ‥

何一つ、伝わっていないじゃないか。



ステッカーを貼る、その手が震える。

アイツ‥



顔が熱い。

汗が幾筋も頬を伝って行く。

アイツは‥



脳裏に浮かぶ彼の顔。

いつも皆に囲まれて、常に人当たりの良い笑顔を浮かべている。



けれど不意に視線がぶつかった時、彼はいつもこんな目で雪を見る。

人を観察するような、

心の奥底を見透かすような、

まるですべてを知っているかのようなー‥。









気がつけば、息が荒くなっていた。

全身が火照り、頭の回転が徐々に鈍くなる。



するとポツリ、と雨の気配を感じた。

手の平を上に向けると水滴がニ三粒、手の平を打つ。



「雨‥?」



するとポツ、ポツ、と降って来た雨は、見る間にその音を大きくして行った。

まばらだった水滴が、勢いを持って線のように降ってくる。



そしてあっという間に、土砂降りになった。

目を丸くする雪の頭上から、滝のように雨が降る。

ザーーーーーーーッ



一瞬何が起きているのか分からなくなった。

えーっと今は‥確かポスターを貼っている最中‥




「うわあああああ!」



雪はソッコーでコンビニに走り、100円でレインコートを買って被った。

未だ頭はパニックだが、とにかく早くこの仕事を終わらせなければならない。

「うわあああ!うわああああーーー!」

 

皆が土砂降りを避けて駆けて行く中、雪だけはそこに留まりステッカーを貼り続けた。

雨粒が跳ねる音に紛れて、雪の自虐的な叫びが響く。

「なにこれ?!なにこれぇ?!」



「しんっじらんない‥!」



なんという不運。なんというバッドタイミング。

雪は波立つ感情を放出するように、叫びながら手を動かし続けた。



そしてかなり大雑把ではあるが、なんとかその仕事を終わらせた。

「終わったー!」



雨はどんどん強くなる。

帰りの電車にも影響が出るかもしれない。

「早く帰んなきゃ‥!」



しかしそこであることに気がついた。

なぜか手ぶらであるということに‥。

あーーッ!鞄!!



雪は駅に向かおうとしていた足を、店の方向へと踏み出す。

「なんでバーに置いてきたの~!!」



レインコートのフードを手で掴みながら、雪は走った。

すると空から、低い雷鳴が聞こえてくる。

ゴロゴロ‥ピカッ!



ぎゃあっと叫びながら、雪はがむしゃらに雨の中を駆けた。

「もうっ!これじゃ今更傘買ったって無駄か‥。ビショ濡れじゃん!」



被っているレインコートの間から雨が入り、髪も体も濡れてしまっている。

雪はその豪雨の中を、バシャバシャと水しぶきを上げながら一人走った。

「うう‥なんなの‥」



道路の上に薄く張る水たまりを踏みながら走ると、

スニーカーのつま先が水に浸り、中の靴下が湿って行く感覚を覚えた。

雨に濡れて行く自身のように、心には絶望が侵食して行く。



響く雷鳴。降り続く豪雨。

雪はその中で一人、小さな声で呟いた。

「なんなの‥ホント‥」



ふと地面を見下ろすと、自分が貼ったステッカーが一定の間隔で店へと続いている。

こんな仕事、やったからって誰も気づいてくれないし、誰も見てはいないのに‥。




誰もいない孤独の縁。

今雪は一人きりでそこに、取り残されている。




豪雨の中で、雪は全身ずぶ濡れになりながらそれを見ていた。

そしてもう一度それを辿りながら、雪は店へと走って行った‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>豪雨 でした。

雪ちゃん‥可哀想すぎる‥

私も雨女&運が悪い方なので気持ち分かります‥。

それでも最後まで仕事をやり切るところが雪ちゃんですよね。偉いな‥。


次回は<雪と淳>幻 です。


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<雪と淳>不快

2015-08-29 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)



雪は思わずグッと唇を噛んだ。

先程青田淳から言われた言葉が脳裏に蘇る。

「やったからって誰も見てないって」



その言葉を聞いた途端感情が波立ち、気がつけば小さく震えていた。

いつもなら飲み込むその怒りが、今はおさまってはくれなかった。



ギッ、と雪は鋭い眼差しで淳を睨むと、彼に向かって口を開いた。

胸の中は荒天だが、口調は恐ろしい程静かだ。

「‥誰かが、」



「見てようが見てなかろうが、私が言い出したことです。

とにかくちゃんとやればそれで良いでしょう?」




淳は瞼を開け、視線だけを動かして彼女の方を窺った。

雪は彼に背中を向け、外に出るためにジャケットを羽織る。

「‥確かに、その通りですよ。」



「皆が気づかないなら、ホントに‥ピエロになった様な気分ですよ‥」



ぐっと握りしめた、その手と声が震えていた。

淳は思わず目を見開き、視線は彼女の表情を窺う。



しかし雪はくるりと彼に背を向け、その表情を彼に見せはしなかった。

そしてまだ震えの残る低い声で、こう続けたのだった。

「全部‥良く見せようとしてやってるわけじゃないです」



「一人でやってしまった方が気楽ってだけ‥」








淳は思わず反応した。

その言葉に、既視感を覚えて。



雪は横顔だけを彼に向け、静かな口調でこう問い掛ける。

「それはアンタ‥いえ、先輩も同じじゃないんですか?」



淳は思わず目を見開いた。

世界一遠いと思っていた人間から、”同じ”という言葉が出て来たことに。


雪は苛立つ感情を抑えきれずに、とうとう彼に向けて皮肉を吐いた。

「一人で残ってやったからって、誰かが賞でもくれるんですか?」「な‥」



その嫌味を含んだ言い方にカチンと来て、思わず身体を起こす淳。

しかし視線の先に居る雪の表情を見た途端、すぐに言葉は引っ込んだ。




「それじゃ」



そのまま雪は去って行った。

この場に不快な空気を残したまま。



そして淳は彼女が居なくなるのを、ただ目を丸くして見つめていた。

先ほどの衝撃で、感情のどこかが麻痺している。



頭の中で、彼女の言葉がグルグル回る。

「一人でやってしまったほうが気楽だ」と、「それは先輩も同じじゃないんですか」と‥。



心のどこかが、共鳴している。

けれどそれがどこでどういう類の感情なのかは、まだよく分からない‥。



考えれば考える程、突き詰めれば突き詰める程、分からなくなっていく。

淳は髪の毛を掴みながら、鈍く痛む頭を何度も横に振った。



ただ、不快だった。

彼女の寄越した嫌味が、チクチクと心を刺す。

ムシャクシャした気持ちで、淳は再び身体をソファに投げ出した。



波立つ感情を持て余して、淳は顔を顰めたまま拗ねるように寝転がった。

彼女と関わり合うといつも、物事は自分の想定を大きく外れて行く‥。








ダンッ!



大きな足音を立てながら、雪はポスター片手に大学へ続く道を歩く。

ハイハイ、明日からまた私をネチネチ追い詰めるんでしょ?!



心の中に、不快の雲がモクモクと膨らむ。

雪は怒りにまかせ、ポスターをバンバン壁に貼って行った。

私がいつ?!誰も見てないって?!



ふざけんじゃないわよ!



誰の話を‥



してんだっつーの!!



キーッと声を出しながら、雪は思い切り彼の無礼に腹を立てた。

青田淳、許すまじ。

そう決意を固めながら、雪は大量のポスターを持って通りを歩く‥。

「フン!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>不快 でした。

二人共似ている面を持っていることが、今回の話で顕著になりますね‥。

雪ちゃんがここまで憤るのも、先輩が雪の存在や言動にムッとしてしまうのも、

同族嫌悪に近いものがあるような‥そんな感じですよね。


次回は<雪と淳>豪雨 です。


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<雪と淳>図星

2015-08-27 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)

「‥‥‥‥」



本格的な広報の仕事はこれからだというのに、あれよあれよという間にメンバーは去って行った。

雪は青田淳の背中を睨みながら、心の中で毒づいた。

そうですか私が手伝わざるを得ない状況ですか
それに仕事はポスター貼りだけだとお思いですかこれどうするよマジで‥




机の上に置いてある大量のポスターやステッカー。

足あとのステッカーには、”経営BAR”と書いてある。



その量を見て雪は、まぁ‥出来ない量ではないかな‥と思った。

二人でやるならポスターなりステッカーなり、

手分けしてやれば小一時間で終わるかもしれない。



その時、青田淳がふらりと歩き出した。

どこへ行くんだろうと雪がその背中を視線で追うと、彼は突然靴を脱ぎ、

店のソファに身を横たえたのだ。

ドサッ



その想定外すぎる振る舞いに、思わず雪は目を丸くする。

「?!!」



呆気に取られる雪。

そして淳は雪の方を振り向くことなく、気怠そうにこう言ったのだった。

「帰ったら?」



「え?」



「裏口の方から帰れば。そっちにはさっきの子達いないから」



手で裏口の方向を指し、青田淳は雪を家に帰そうとする。

雪は意味が分からずに、残された広報の仕事を指して聞いた。

「‥これはどうするんです?」

「俺がやればいいさ」



そう言うなり、淳はソファの肘置きの部分に頭を深く凭れ掛けさせた。

雪は沈黙の中で、彼の後頭部ばかりを凝視している。



何なの?それどういう意図で言ってんの?

てか私ここ最近ずっと振り回されてピエロ状態なんですけど‥。一体何なの???




彼の思惑はまるで読めない。

目に入って来るのは無言の背中、そして皆に囲まれ、光を浴びる姿ばかり‥。



影から見る光は、時に眩しく、時に妬ましい。

そんな彼の姿を見る度、胸の中に溜まった感情が刺激される。

‥アンタは勝ち組だもんね



イライラが加速する。

雪は荷物とジャケットを掴むと、入り口に向かって歩き出した。

そうよ、一人で全部やればいい。帰ってやる



店を出て行こうとする雪の視界に入ってくる、大量のポスターとステッカー。

青田淳は一人でそれらを大学の周りに貼り、店へと続く道路にステッカーを貼っていかなくてはいけないだろう。



雪はその量を見て、一人でやるには結構な仕事であろうということを感じた。

しかも本来これは広報の仕事で、設営チームの統括者である青田淳には全く関係の無い仕事だ‥。



チクリと、良心が痛む。

雪は踏み出した足を止め、その場で一人立ち止まる。



‥本当に、ここで仕事を投げ出して帰っていいのだろうか?

後々青田淳に対して、引け目を感じることにはならないだろうか‥?



プルプルと身体を震わせた葛藤の末、結局雪は心を決めた。

くるりと店の方へと向き直ると、机の上に鞄を置く。

ドサッ!



髪の毛を掴み、イライラに耐えながら彼に向かってこう言った。

「この足跡ステッカーだけ貼って行きます‥」



淳は雪の言葉を聞いた後、軽く息を吐いた。

閉じた目を開けることなく、気怠そうに口を開く。

「昨日から顔色良くないだろ。行かなくていいよ」



「え?」



聞き返す雪に答えることなく、淳は呟くようにこう続けた。

「やったからって誰も見てないって」








その淳の言葉を耳にして、雪の思考は一旦フリーズした。

そして徐々にその意味を理解するにしたがって、感情がうねりを上げるのを感じる。



”やったからって誰も見てない”

そう彼は口にした。

その意味を解きほぐして行くと、彼の言わんとするその結論が見えてくる。



つまり全て無駄なのだと‥そう彼は言ったのだ。

皆に囲まれ勝ち組の位置に立つ彼が、ピエロのような負け組の自分に、そう言ったのだ。



彼は向こうを向いたまま、涼しげにただ目を閉じている。

燃えたぎる雪の心の中など知る由もないと言わんばかりに。



ぐっと歯を食い縛った。

積もり積もった悪感情が、突かれた図星を契機に、爆発して溢れ出す‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>図星 でした。



ソファに寝転ぶ時に、きちんと靴を脱ぐ先輩に育ちの良さ(?)を垣間見ます‥。靴下白なのな‥。


けど先輩、雪を気遣って「帰ったら」と言ってるんだろうけど、全然伝わってない‥

却って雪のコンプレックスを刺激する結果になってしまうというすれ違い‥もどかしいですね~


次回は<雪と淳>不快 です。


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<雪と淳>去りゆくメンバー

2015-08-25 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
「‥‥‥‥」

 

作業を続けながらも、雪の頭の中はハテナでいっぱいだった。

思い浮かぶのは、先程青田淳から言われたあの言葉‥。

「昨日のことだけど、わざとじゃないから」




「‥‥‥‥」



雪は壁にポスターを貼り付けながらこう思った。

アイツ‥おかしくなっちゃった‥?何の話か全然分かんない‥



”昨日のこと”が一体何のことなのか、”わざとじゃない”とは何を指して言ったのか、

雪には何一つピンとくる出来事が思い浮かばなかった。

首を傾げ続ける雪であったが、次の瞬間目を剥くことになる。

「俺もう帰るわ!」「!」



不機嫌を引き摺る健太は、イライラした空気を纏いながらそう言った。

健太のその言葉に驚いた雪は、慌てて立ち上がる。

「これ終わらせてからポスター貼りですよ?

健太先輩広報チームですよね?」




しかし健太は携帯に目を落としながら、どこかソワソワしている体だ。

「設営手伝ってやっただろ?

広報の仕事なら来なかった奴らにやらせろっつーの!

なんで俺だけ大変な思いしなきゃなんねーんだよ!ムカつくわー」




聞く耳を持たない健太に、雪はなんとか説得を試みる。

「条件は私も同じですよ!これから本格的な広報チームの仕事がー‥」

「ったくよぉ!



健太はツカツカと雪の方へ歩み寄ると、彼女の額に人差し指を突きつけこう言った。

「俺はやるだけやったっつの!アフター‥いや約束もあるってのに、

いつまで居なきゃいけねーんだよ!」




「悔しけりゃお前も帰るか、バックレた奴らに連絡つけるんだな!」



開いた口が塞がらない。

学祭準備の話し合いの時点から、健太は携帯片手に女の子とのデートしか頭に無かったことを思い出す。



唯一の広報部員を、このまま行かせるわけにはいかない。

雪は統括者である青田淳の方を振り返った。



しかし彼は二人の方を見ようともせず、そのまま行ってしまった。

雪は言葉にならない声を上げながら、目を丸くする。

説得しないの?帰らせるの?



健太は「分かったか?」と言ってその場に佇んでいる。

雪は青田淳の背中をじっと見つめていた。

この騒ぎが聞こえてないわけないのに‥。



そんな雪と、健太は馴れ馴れしく肩を組んだ。

甘い口調で彼女を誘う。

「じゃなきゃ一緒に逃避行‥」「嫌です」

「そうか。んじゃ俺は帰る」



そう言って、健太は帰って行った。

その巨体が店を去るのを、皆非難めいた視線を送りながらも黙認する。



雪は煮え切らない気持ちを噛み殺しながら、健太が去るのをじっと見ていた。

これでこの場に居る広報チームは自分一人だけということになる‥。(厳密に言うと設営チームなのだが‥)







健太が帰った後、糸井直美は苦々しい顔を露わにしていた。

出来上がったポスターを持って、彼女は雪にこう話し掛ける。

「ねぇこれ、大学の周りで配ればいいの?」

「はい」



「それじゃ雪ちゃん、これはあたし達が帰る時に駅方面で配っとくから、

雪ちゃんにはポスターと案内ステッカー貼って行ってくれる?」




雪は思わず「えぇ?」と声を上げた。

出来るだけ冷静に、当初の計画を口にする。

「あの‥ポスターは皆で貼りましょうよ。ビラは二人一組で配って‥」

「ごめんけどあたし達にも約束があるの。広報チームの子らが来なかったからって、

その仕事まで請け負えないよ」


「そうだよ!この時間に来れないなら、明日早朝に来て貼ればいいじゃん!」



直美も、その友人も、積もった不満がどんどん口をついて出る。

雪は来なかった広報チームメンバーの矢面に立たされることとなった。

「ビラ作ってあげただけでも感謝してほしいくらいよ」「そ‥そうだけど‥でも‥てかなんで私に怒るの‥

「だからどうして私達がしなきゃいけないの?ムカツクわー」



タジタジと言葉に詰まる雪。

すると後ろから、聞き覚えのある声が掛かった。

「それじゃポスターは俺と雪ちゃんで貼っとくよ。みんなおつかれな」

 

青田淳はニッコリと笑いながらー‥いや、ニッコリとした顔を作りながら、皆に労いの言葉を掛けた。

雪はそんな虚飾の表情から目が離せず、思わずヒッと息を飲む。

「皆約束あるんだろ?設営の仕事してくれてありがとうな」

「ホントですよー」「こればっかりに時間割いてもいられないわよ、まったくー」



青田淳は虚飾の笑顔で、思ってもいないことを口にする。

雪はその違和感を感じて、怪訝な表情で彼を見ていた。

「てか忙しいのは先輩も同じじゃないですか。バックレた子達にさせればいいのに」

「そうですよ、先輩も帰りましょーよ」

「それは出来ないよ」



しかしその一言を口にした時の彼は、少し毛色の違う雰囲気を醸し出した。

長い前髪で、どんな目をしてそう言ったかは分からなかったが。

「青田君たら~」



直美が淳の名を呼ぶ。雪は彼から目を逸らし、下を向いた。

「気にしないでもう帰っていいよ。

俺らで仕上げしてくから」




青田淳はそう口にした後、雪の方を向いた。上辺の笑顔と言葉を掛ける。

「もしかして雪ちゃんも今日約束があったりした?」「!」



突然自分にその話題が振られたので、雪は一瞬言葉に詰まる。

「あ‥それは‥」



その続きを口にしようとすると、自分の方をじっと見つめる直美達の視線に気づいた。

今嘘でもつこうものなら、一瞬でボロが出てしまいそうな感じ‥。



そして結局、こうなった。

「無いです」「じゃ、大丈夫だね」



その雪の言葉を聞いて、直美達は安心したように頷いた。

それじゃ大丈夫そうだね

うん、一緒にやるみたいだし



帰り支度を済ませ、彼女達は店を後にする。

「それじゃあたし達はここで失礼しますね」「先輩また明日~」

「うん。ビラ配りお願いして悪いね」「はーい先輩もー」



去りゆくメンバー。

雪は虚しくそれを見送る。



そして店には誰も(青田淳以外)いなくなった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>去りゆくメンバー でした。



健太の言う「アフター」というのは‥同伴??

健太とデートとか‥物好きもいるものですね(ヒドイ)


直美は安定の保身キャラですね‥残念‥


次回は<雪と淳>図星 です。

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<雪と淳>不機嫌

2015-08-23 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
「はぁ?!誰が来れねーって?!

おい!準備万端でも誰も来なかったらどうにもなんねぇだろうがよ!!」




店に健太の怒号が響く。その凄い剣幕に、周りの人間は黙り込んだ。

「俺と赤山しかいねーじゃんか!広報が!皆どっか痛ぇだのバイトがあるだの‥

マジけしからんっつの!ソッコー来いよ!?」




雪が「実は私設営チームなんです‥」と呟いてみたところで、健太は聞いちゃいない。

絶望の中で聡美(風邪で病院なう)と太一(バイトなう)にメールしてみるも、

その返事は雪の助けにはならなかった。

聡美:あの人どーしたんだろーね?

あたし今注射の順番待ってるとこー


太一:バイト代わってくれる人いないんスよ‥TT



‥これは本気で広報チームのピンチかもしれない。

すると皆に向かって青田淳が口を開いた。

「落ち着いて下さい。

とりあえず設営チームの仕事は昨日ほとんど終わって、余裕がありますからー‥」




「皆で一緒にここの仕上げをしてから、広報の仕事もやりましょう」

「んなバカな!!」



その淳の提案に、健太が待ったを掛けた。

健太は雪の肩を揺さぶりながら、自己主張を続ける。

「俺ら以外の奴らも連れて来てやらせろよ!

マジありえねーって!俺と赤山だけが~!」




雪はもう一度「いやだから‥私は違‥」と言ってみたが、やはり健太は聞いちゃいない。

淳はそんな健太の主張に対し、苛立ちを隠し切れない表情で説得を試みる。

「‥とにかくこんな状況ですから、

とりあえず全員で早く仕上げてしまいましょう」




そう締め括った淳に、健太は「ったくよぉ!と不満たらたらだった。

淳が「それじゃ始めよう」と声を掛けても、プリプリと怒っている。







そして掃除が始まったのだが、健太の不機嫌が移ったのか、皆どこかピリピリしていた。

雪はモップ片手に、その空気を感じ取る。

うわ‥この雰囲気どうするよ‥



本当のところ、義務ではない学祭の準備に時間を取られることは、どこか損をしていると皆思っているのだろう。

しかしやらないわけにはいかない、それを雪はちゃんと分かっていた。



やらなきゃいけないなら、さっさと終わらせてしまおう。

雪はそう決めると、作業する人々の間を縫ってモップを掛けていく。

 

机を動かす人、ナプキンを並べる人、皆それぞれの作業をこなしていた。

雪は皆の邪魔にならぬよう、開いた床を見つけては掃除する。



不意に、身体に違和感を感じるようになった。

意識が、徐々にぼやけて行くような気がするのだ。

目がシバシバして来て、雪は何度も瞬きする。






はぁ、と深く息を吐くと、随分と熱い吐息が口から漏れた。

心なしか地面が揺れているような気がする。

暑くない‥?なんか熱ありそう‥



顔が熱くて、頭がぼんやりする。

雪はニットキャップを取ると、一度上を向いて深呼吸した。



熱い。

目の前がクラクラして、背中に変な汗が伝う。



もう切り上げて帰った方が良いかもしれない。

雪はそう思い、周りを見回した。



もうほとんど作業は終盤だ。

大体全部終わったかな‥



そう思いながら歩き出そうとしたその時、

モップに足を取られた。



ぐらりと目の前が揺れ、身体のバランスが崩れる。

冷やっとした感覚が全身に走った。

「あっ‥」



転ぶ。

そう思った時だった。


ガシッ



地面に膝をつくかと思ったその時、ふわりと身体が宙に浮いた。

大きな手が、雪のパーカーのフードを掴んでいる。



雪は目を丸くしたまま、そろりと後ろを振り返った。



しかし彼と目が合うより先に、グイッとフードを引っ張られ、

雪は前傾姿勢から直立の姿勢にされた。



改めて、彼の方を振り返る。




「あ‥」



見上げると、彼も雪の方をじっと見ていた。

雪はその視線を逸らすことが出来ぬまま、礼を口にする。

「あ‥ありがとうございま‥」



しかし言い切る前に、淳の方が視線を逸らした。

不機嫌な横顔。



雪は変な気分になった。

さっきからこの人‥感情がダダ漏れ‥特に私の前では‥

本当に具合悪いのか?


「昨日のことだけど」



そして淳は雪に向かって、ぶっきらぼうにこう言った。

「わざとじゃないから」



その言葉に、思わず雪は「え?」と聞き返した。

けれど彼はそれ以上口にすることなく、さっさと歩いて行ってしまった。



何のことだか全然分からない。

思わず雪は首を傾げる‥。

「えぇ?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>不機嫌 でした。

健太の人間の小ささ‥いちいちイライラしてしまいます‥。


そして転びかける雪のパーカーを掴む、先輩のタイミングの良さ‥。

きっとずっとチラチラ見てたんでしょうね~ 

中学生男子か! 笑


次回は<雪と淳>去りゆくメンバー です。

この学祭準備編はなんのひねりもないタイトルが多くなってしまいました‥すいません‥(@@;)

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