時は十数年前に遡る。
総合病院に入院した河村教授の見舞いに、淳が連れ出された時のことだ。


”恩師”と長い間言葉を交わす父の背中に目を遣りながら、幼い淳は病室を出た。
同じような造りの部屋が、まるで無限に続いているかのような眺め。
休憩所に着いた淳は、一人ソファに腰掛ける。

無理矢理連れ出された苛立ちを持て余しながら、
父が慕っている”恩師”に対しての疑問を心の中で声に出した。
「何が恩師だよ。頼み事しかしないじゃないか」と。

ふぅ‥

次第に疲れて来た淳は、溜息を吐き立ち上がった。
家にはやりかけの宿題が残っている。
いつまで話してるんだ?そろそろ帰らないと‥


すると少し離れたソファに、うつ伏せている女の子が居ることに気がついた。
悲しそうな泣き声が聞こえる。

自分より少し幼いくらいだろうか。
女の子はか弱い泣き声を漏らしながら、その小さな身体を震わせていた。

淳はその子の姿を見て足を止めたが、またすぐに歩き出した。
自分には関係ないことだ、と割り切って。

「ふぇ‥」

しかし少し離れると、すぐに泣き出す彼女。
その泣き声を、淳はどうしても無視することが出来なかった。
胸の中がやけに騒がしい気がして、何かが引っかかっているような気がして‥。


ゆっくりと、彼女へと近付いてみる。
そのソファの直ぐ傍まで。

胸の中を騒がせているその何かを知るために、淳はその女の子に問い掛けた。
「ねぇ、泣いてるの?どうして一人なの?」


けれどその子は応えない。
うわ言のように何かを呟き、悲しそうな声を漏らすだけだ。

「寝言か」

そう言って淳が背を向けた、その時だった。

小さく細い指先が、淳のそれを繋ぎ止めた。
淳は思わず足を止める。


涙で濡れた顔が幾分覗いたが、それでもその子は眠っていた。
未だ寝言を口にしながら。
「ふぇぇ‥」

淳は呆れたように口を開けると、一つ溜息を吐いた。
そろそろ帰らなくてはいけないし、家にはまだ宿題が沢山残っている‥。


パタパタと、病院内を駆ける小さな足音が聞こえる。
少年は姉を探して走り回っているのだ。
「静香ぁー!」

「おーい!どこだぁ〜?」

それはまだ幼い日の河村亮であった。
「おい!もうメシ食って家に帰んぞ!どこに居んだよ!」

亮は姉の名を呼びながら、病院内を走り回る。
ふと、目に止まる光景があった。

「あん?」

「あいつら何やってんだ?」

そこにはまるで恋人同士のように寄り添う子供二人の姿があった。
亮は眉を顰めながら一人呟く。
「ガキ共が神聖な病院で何やってんだか‥」

「つーかアイツの髪相当ダメージヘアじゃね?」

二人の前で足を止めていた亮は、そこではっと我に返った。
「おっと、こんなことしてる場合じゃねぇ!」

「静香!どこだぁ〜〜?!」

そして少年は、姉を探して走り去って行った。
ソファに座るこの二人を残して。

いつしか二人は、眠り込んでしまっていた。
重ねた手が二人の体温を分かち合う。
その運命の接点は、確かにこの時から繋がれていたー‥。

記憶にも残らないこの場面は、この物語のプロローグだ。
繋がっていた、三人の運命の輪。
その始まりを垣間見ることが出来た今、ようやく物語は終わる。
これまでチーズインザトラップを愛して下さり、ありがとうございました。

これで、この物語は完結する。
彼等に贈る言葉はただ一つ。
三人が心より、幸せになれますようにと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<エピローグ(3)ープロローグー>でした。
エピローグ最後の話は、幼い淳と雪、そして亮が実はすれ違っていた、という話でしたね。
淳目線の場面としては<脱却へ>
雪目線の場面としては<雪・幼少時>冷たい手かな?
散々おかしな子供と言われて来た淳は、泣いてる子を放っとけなくて手を繋いでやる優しい子だったし、
亮は結局静香を放っとけなくて走り回る優しい子だった‥。雪は‥ダメージヘア‥だった‥
(それかい)
三人のルーツが垣間見える終わり方でしたね。終わり‥方‥
あーっ本当に終わってしまったぁぁぁ
(時間差で来る喪失感)
本編ではあとがきがありますので、次回はそれをアップしますね
あぁぁさみしぃぃぃ‥
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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総合病院に入院した河村教授の見舞いに、淳が連れ出された時のことだ。


”恩師”と長い間言葉を交わす父の背中に目を遣りながら、幼い淳は病室を出た。
同じような造りの部屋が、まるで無限に続いているかのような眺め。
休憩所に着いた淳は、一人ソファに腰掛ける。

無理矢理連れ出された苛立ちを持て余しながら、
父が慕っている”恩師”に対しての疑問を心の中で声に出した。
「何が恩師だよ。頼み事しかしないじゃないか」と。

ふぅ‥

次第に疲れて来た淳は、溜息を吐き立ち上がった。
家にはやりかけの宿題が残っている。
いつまで話してるんだ?そろそろ帰らないと‥


すると少し離れたソファに、うつ伏せている女の子が居ることに気がついた。
悲しそうな泣き声が聞こえる。

自分より少し幼いくらいだろうか。
女の子はか弱い泣き声を漏らしながら、その小さな身体を震わせていた。

淳はその子の姿を見て足を止めたが、またすぐに歩き出した。
自分には関係ないことだ、と割り切って。

「ふぇ‥」

しかし少し離れると、すぐに泣き出す彼女。
その泣き声を、淳はどうしても無視することが出来なかった。
胸の中がやけに騒がしい気がして、何かが引っかかっているような気がして‥。


ゆっくりと、彼女へと近付いてみる。
そのソファの直ぐ傍まで。

胸の中を騒がせているその何かを知るために、淳はその女の子に問い掛けた。
「ねぇ、泣いてるの?どうして一人なの?」


けれどその子は応えない。
うわ言のように何かを呟き、悲しそうな声を漏らすだけだ。

「寝言か」

そう言って淳が背を向けた、その時だった。

小さく細い指先が、淳のそれを繋ぎ止めた。
淳は思わず足を止める。


涙で濡れた顔が幾分覗いたが、それでもその子は眠っていた。
未だ寝言を口にしながら。
「ふぇぇ‥」

淳は呆れたように口を開けると、一つ溜息を吐いた。
そろそろ帰らなくてはいけないし、家にはまだ宿題が沢山残っている‥。


パタパタと、病院内を駆ける小さな足音が聞こえる。
少年は姉を探して走り回っているのだ。
「静香ぁー!」

「おーい!どこだぁ〜?」

それはまだ幼い日の河村亮であった。
「おい!もうメシ食って家に帰んぞ!どこに居んだよ!」

亮は姉の名を呼びながら、病院内を走り回る。
ふと、目に止まる光景があった。

「あん?」

「あいつら何やってんだ?」

そこにはまるで恋人同士のように寄り添う子供二人の姿があった。
亮は眉を顰めながら一人呟く。
「ガキ共が神聖な病院で何やってんだか‥」

「つーかアイツの髪相当ダメージヘアじゃね?」

二人の前で足を止めていた亮は、そこではっと我に返った。
「おっと、こんなことしてる場合じゃねぇ!」

「静香!どこだぁ〜〜?!」

そして少年は、姉を探して走り去って行った。
ソファに座るこの二人を残して。

いつしか二人は、眠り込んでしまっていた。
重ねた手が二人の体温を分かち合う。
その運命の接点は、確かにこの時から繋がれていたー‥。

記憶にも残らないこの場面は、この物語のプロローグだ。
繋がっていた、三人の運命の輪。
その始まりを垣間見ることが出来た今、ようやく物語は終わる。
これまでチーズインザトラップを愛して下さり、ありがとうございました。

これで、この物語は完結する。
彼等に贈る言葉はただ一つ。
三人が心より、幸せになれますようにと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<エピローグ(3)ープロローグー>でした。
エピローグ最後の話は、幼い淳と雪、そして亮が実はすれ違っていた、という話でしたね。
淳目線の場面としては<脱却へ>
雪目線の場面としては<雪・幼少時>冷たい手かな?
散々おかしな子供と言われて来た淳は、泣いてる子を放っとけなくて手を繋いでやる優しい子だったし、
亮は結局静香を放っとけなくて走り回る優しい子だった‥。雪は‥ダメージヘア‥だった‥

三人のルーツが垣間見える終わり方でしたね。終わり‥方‥
あーっ本当に終わってしまったぁぁぁ

本編ではあとがきがありますので、次回はそれをアップしますね

あぁぁさみしぃぃぃ‥

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半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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