Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

窮地と逆上(4)

2014-09-10 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)
横山翔は、頭の奥で何かがブチッと切れる音を聞いた。

掲示板に横山の写真をアップし、彼を貶めようとしている黒幕が今目の前に居る彼女だと知ったからだ。



お前だったのか、と横山は震える声で言いながら、地面に突いた手を固く握った。

そして肩から下げていた鞄を、勢い良く彼女に向かって投げ付ける。

「クソがあっ!!俺を弄びやがって!!」



雪は小さな声を上げ、何歩か後退った。

横山は怒り狂い、鬼のような形相で雪の方に向かって来る。

「このクソ女がぁっ!!止めねぇなら殺してやるっ‥!」



雪は目を見開くと、咄嗟に自分のポケットに手を突っ込んだ。

レコーダーと共に準備してあったそれを掴む。



そして雪は、横山の顔目掛けてそれを噴きかけた。シューッと言う音と共に、横山の絶叫が辺りに響く。

「ぐああああああああっ!!」



横山は目を押さえながら、あまりの痛みに地面に転がった。

「うわあああ!目がっ‥目がぁっ‥!!」



叫び続ける横山の前で、雪はそれのあまりの威力に驚いていた。

こんな小さな防犯グッズが、今自分の身を救ってくれたのだ。



この催涙スプレーは、先日亮から貰った物だった。

自分が傍に居ない時でも彼女を守ってくれる物を、亮は彼女に託していたのだ‥。

 







雪は、とにかく逃げることにした。

地面に転がる横山から背を向けて、全速力で家へと駆け出す。



すると横山は目を庇いながらも起き上がり、怒り狂いながら彼女を追って駈け出した。

「おいっ!!待てやぁっ!!」



雪は必死になって走った。後方からは、「殺してやる!」と叫ぶ声が迫って来る。

店‥店が近い‥!すぐそこだ!



この路地を突っ切れば、雪の家の食堂はすぐそこだ。

もうすぐだ‥走れっ‥!

 

雪は歯を食い縛りながら、死に物狂いで走った。横山の怒声が、もうすぐそこまで迫って来ている。

「待てぇ!待ちやがれ!おいっ!」



はぁはぁと息を切らせながら、雪は何とか路地を走り切った。

すぐそこに、店の灯りが見える。

 

雪はもつれる足を必死に前に運びながら、店の方へと走った。

すると目に入って来たのは、店の前で一服している父の姿だった。



雪は叫んだ。出来得る限りの大声を上げて。

「お父さぁぁぁぁーーーーーんっ!!」






不意に聞こえた娘の声に、父は不審を感じて声のする方に視線を向けた。

するとそこには、男に追いかけられて全力疾走する、娘の姿がある。






それを目にした途端、父は驚愕の表情を浮かべた。思わず指に挟んでいた煙草を取り落とす。

そして父は追いかけてくる男に向かって走り、大きな声で叫んだ。

「何だコイツは?!おいお前っ!」



突然現れた中年に横山はヒッと息を飲むと、

「クソッ」と言い捨てながら踵を返した。



そのまま走り去る横山の背中に、雪の父は尚も大声で叫ぶ。

「おい!どこへ行く気だこの野郎‥!」



父は横山を追い掛けようと走りかけたが、腰を押さえて途中で立ち止まった。

「うっ‥なんだアイツは‥くそっ腰が‥。狂った奴め‥!」



父親は突然の出来事に、腰を痛めてしまったようだった。

「お父さん‥」と小さく呟く雪が、心配そうに父を見つめる‥。







食堂にて、先ほどの経緯を父と雪から聞いた母と蓮は青ざめた。母は心配そうに雪を気遣い、蓮はその出来事に憤る。

「なーんでそんなに変態が多いのかねぇこの世の中は!てか一人暮らしやめても変わってねーじゃんよ!

あぁ平穏な生活を送りたいっ!」


「警察に通報しようかしら?こんな‥。大事になるとこだったじゃない‥今日に限って亮君も居ないし‥」



心配する母に向かって雪は、「特に怪我をしたわけじゃないし、あの男は元々変な奴だから」

と言って、事を荒立てない方向へと話を持って行った。

父は腕組みをしながら席に座り、立腹している。

「女なんだから、夜道は気をつけないとダメだろう!大事になったらどうするんだ!」



堂々と娘に説教をする父だったが、そんな彼の方を指差して、母と蓮は彼をからかった。

「それでもお父さんってば久しぶりに血相変えて走って‥」

「うははは!父さんってば~!カッコイイねぇ!」



雪は二人につられて笑いそうになったが、父の方を見てそれも引っ込んだ。

不機嫌そうに頬を突く父から、気まずい顔で目を逸らす‥。

 

すると突然、食堂の入り口から人が入って来た。

「あらッ?」



「今日は早めの閉店~~?お腹すいてるんですけどぉ~!」



現れたのはこの店の常連でもある、河村静香だった。

その彼女の登場で、赤山家はなんとなく白けた空気に包まれる‥。





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<窮地と逆上(4)>でした。

ようやく窮地と逆上シリーズも終わりです。雪と横山の攻防、激しかったですね‥!

亮さんがくれた催涙スプレーが無かったらどうなっていたことか‥。亮さんGJでした。


そしてそしてそして

今日9月10日は、柳楓の誕生日です~~



おめでとう柳!!大好きだー!!


次回<語らぬ彼>です。


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窮地と逆上(3)

2014-09-09 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)


横山の目は血走り、今や怒りでブルブルと震えていた。

”アンタなんて先輩に何一つ敵わない”と、雪から完全に見下された事実が胸を抉る。

横山は、掠れる声で呟いた。

「青田‥なんかの‥どこがいいってんだよ‥」



そして横山は、自虐するように渇いた笑いを立て始めた。

その尋常でない雰囲気に、雪の身が軽く竦む。

「ハ!ハハハ‥。ここで「はいそうですか」って素直に納得するとでも思うかよ?

クッソが‥お前の大学生活、メチャクチャにしてやろうか?」


 

横山はその細い目を更に細めて雪を睨むと、彼女に向かって脅しを掛けた。

「帰り道の度に身の竦むような思いをさせてやろうか?

お前んちの食堂に来てる客の前で髪の毛引っ掴む真似でもしねーと、お前は目ぇ覚まさねぇか?」




ハッタリだ、と雪は内心思っていはいたが、本能的に身体が強張った。

横山は尚も雪に対して攻撃的な言葉を掛けてくるが、雪は俯いたまま黙っていた。頬に汗が伝う。



そして雪は横山に気が付かれぬよう、微かに微笑んだ。

もう少し‥



ポケットの中のレコーダーは、この横山の罵詈雑言を一言一句記録している。

雪は虎視眈々と、脅迫の確実な証拠が集まるまでその時を待っていた。

それに気が付かぬ横山は、歯噛みしながら今一度雪に釘を刺す。

「もういい。ヤンキー野郎にあのスレ消せって言っとけ。

そうじゃなきゃ、マジでただじゃおかねぇ。お前もヤンキー野郎も、俺は殺しちまうかも‥」




横山がそれを言い切る前に、雪は「それならもう手遅れよ」と口にした。

その言葉の意味が解せず眉を顰める横山を見下ろし、雪はその切れ長の目を更に吊り上がらせる。



横山は雪を見上げてその意味を尋ねた。雪は淡々とそれに答える。

「は‥?どういうことだ?」

「あのスレが立った時点で既に時遅しなのよ、アンタ」



その雪の冷たい物言いと冷淡な視線に、横山は逆上した。

あの”ヤンキー野郎”の顔が脳裏に浮かぶ。

「それじゃあこれからもアップし続けるってのか?!今からでも削除しろと伝えやがれ!

あれが俺だって、気づいた奴も出て来てる。マジで通報すんぞ?!早く削除しろっ!」




窮地に追い詰められたイタチが牙を剥いた。

しかし相対するライオンは怯まず、淡々と言葉を紡ぐ。

「私は今までアンタに、何度もこういうことは止めろと言って来たわよね?」



それは、他人が聞けば何気ない言葉だった。

しかし横山にとってそれは、どこか聞き覚えのあるその言葉‥。

「は‥?」



横山は目を丸くして雪を見上げた。

雪は表情を変えぬまま、もう一度その台詞を口にする。

「ずっと言ってきたわ、”もう止めろ”って。それを聞かなかったのは、アンタ自身よ」







今雪が口にしたその言葉を、横山が以前目にしたのはあの掲示板だった。

”もうこの辺で止めておけば?”



そのスレ主は横山に向かってそう言い放った。

自分が赤山雪を追いかけている写真を、無数にアップし続けながら。



横山の脳裏に、以前図書館まで赤山を追って行った時の、彼女とのやり取りが思い出された。

雪はあの時、自分に向かってこう言ったのだ。

「もう私もおとなしくしてるばかりじゃないわよ。

アンタと私、どっちがバカでどっちがそうじゃないか、今後様子を見ようじゃないの」




あの時はただのハッタリだと思っていた。苦し紛れに発した彼女のつよがりだと。

「は?”おとなしく”しなかったらどうなるっての?

お前にビクビクしなきゃいけねーの?」




だからそう言って鼻で嗤った。どうせ何も出来やしない、と。


しかしそれは間違いだった。

横山は顔を青くしながら、震える声で事実を口に出す。

「あ‥あのスレは‥お‥お前が‥」



雪は呆れたような表情を浮かべながら、横山に向かってそれを肯定した。

「私じゃなかったら、他に一体誰がアップするっていうの?私も一緒に写ってるじゃないの」



それが事実だった。

あのスレッドに横山翔の写真をアップしたのは、雪自身がやったことなのだ。






横山がウェブ掲示板に頻繁に書き込みをしていることを突き止めたのは、太一だった。

PC室で横山がいつも何かを書き込んでいたのを、太一はじっと窺っていたのだ。

 

そして、つい先日味趣連が揃った時に、太一はそのことを雪と聡美に打ち明けた。

一連の流れを聞いた雪は頷き、太一に向かってこう言った。

「◯◯サイト?それじゃ私がアップするわ。

太一がやると、色々都合悪いこともあるでしょ」







そしてその日の夜、雪は大量の写真を掲示板にアップした。

頭の中は、連絡のつかない淳とのことでいっぱいだったが。




二度目のアップは、横山が静香と淳の写真を手に皆の前で弁解をした日の夜だ。

皆の前で横山が悪者になった所を見届けた雪は、念には念をともう一度写真をアップした。

  

一つ一つ道を塞いで行くように、雪はイタチの逃げ道を無くしていったのだ。

冷静に、そして賢明に。




窮地に立たされたイタチは、頭の後ろで何かがブチンと切れる音を聞いた。

追い込まれた小さな獣は、ライオンの喉を食い千切ろうと、その牙を剥き出しにする‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<窮地と逆上(3)>でした。

ここでやっと「横山の写真をアップしたのは誰なのか」ということが明らかになりましたね!

「先輩か?」と最初思いましたが、途中「やっぱり太一?」と思い直したら、まさかの主人公本人だったという‥。

予測出来ませんでした‥。作者さん凄い‥!


次回<窮地と逆上(4)>です。

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窮地と逆上(2)

2014-09-08 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)
赤山雪は、土下座にも似た格好で頭を下げる横山翔を、冷たい眼差しで見下ろしていた。

なぜならば彼が謝っているのは本心ではなく、何らかの計算の元でこうしているだけだと見抜いたからだった。



雪が力無くぶらんと垂らした手には、携帯電話が握られている。

光っていない画面を見て、横山は心の中でこう思う。

ろ‥録音はしてないな‥



横山は雪のポケットの中にあるレコーダーの存在を知らぬまま胸を撫で下ろすと、大きな声で口を開いた。

「お、俺!マジで念書書いたって良いぜ?

もう二度とお前の前に姿は見せない!だから‥!」




白々しく口にするその言葉を、雪は信じはしなかった。

冷淡な表情で、「だから?」とその続きを促す。



横山は項垂れながら、地面に両手をついて弱々しく言葉を続けた。

「だから‥あのヤンキー野郎に止めるようにって、お前から話しておいてくれよ‥な?」



横山が口にした「ヤンキー野郎」というのは勿論河村亮のことだ。

彼はネットに彼の写真をアップしているのは、河村亮の仕業だと考えている。

「ヤンキー野郎?」



しかし雪には、横山が言っていることの意味が分からなかった。

首を傾げる雪に向かって、横山は逆上する。

「とぼけんな!アイツじゃなきゃ誰がアップしてるって言うんだ?!

あのヤンキー野郎なんだろ?!◯◯サイトに俺がお前を追いかける‥いやとにかく俺の写真を投稿してんのは‥!」




横山の声は、狭い夜道の壁に大きく反響した。眉を顰める雪に向かって、横山は再び下手に出て言葉を続ける。

「お前だって知ってんだろ?頼むから止めてくれよ‥。

したら俺も警察沙汰にはしねーから‥」




道の片隅に立ち尽くす雪と、地面に正座して項垂れる横山。

通行人達はジロジロとそんな二人に好奇な視線を送り、通り過ぎて行く。



雪は気まずい思いで胸がいっぱいになり、二三歩後退りながら声を上げた。

「もういい。頼むからもう止めて、早く帰って!

去年も色々やらかしときながら、また今年もうちの近所にまで追いかけてくるなんて‥。

アンタどうかしてるんじゃないの?!」




吐き捨てるようにそう言った雪を見上げて、横山は歯噛みした。

またしても胸に沸いた怒りにまかせ、雪に向かって不平を鳴らす。

「クソが‥俺を弄んで楽しいかよ?こっちがお前に好意見せてるの良いことに調子乗って、

俺のこと見下しやがって‥!」




雪はその横山の言葉に、声を荒げて反論した。勘違い行動を繰り返す彼に、その間違いを突き付ける。

「はぁ?!アンタおかしいんじゃないのマジで!

アンタこそ私を振り回すのは止めて!いきなりプレゼントは送って来るわ、ストーキングするわ、問題ばっか起こすわ!

私のことが好きだなんてよく言うわ!いつアンタが本心で告白して来たって言うの?!」




「ふざけんなっ!!」



カッと来た横山は、そう反射的に叫んでいた。

夜道に響く大声に、近くの飲食店の中の客さえも二人に視線を寄越す。



それに気づいた横山は幾分冷静さを取り戻し、再び気持ちを鎮めて声を顰める。

窮地に追い込まれた自分が今すべきことは、とにかく謝罪のスタンスをとることだ。

「‥ふざけんなよ。お前に優しくしてやろうとしたけど、

その前にストーカー扱いしてフリやがったじゃねーか‥」




横山の胸の中で、理性と感情が入り混じって心を揺らしていた。横山は雪を睨みながら、苦々しい表情で己の心情を吐露する。

「悔しくてこのままじゃ終わらせられねーんだよ。もう一年もこんな状態で、俺だってウンザリなんだぜ?

無視され続けて傷つけられて‥ムカついて尚の事止めれねーんだよ!

だけどその分本気だからな!二股野郎の青田とは違う‥!」




横山の胸中には、雪への愛憎が渦巻いていた。

こんなにも雪のことを想っているのに、まるで相手にされない現状が、悔しくて堪らないのだ。

横山は今一度雪の瞳をじっと見つめると、熱い言葉で”愛”を懇願する。

「頼むから、一度俺のこと真剣に考えてみてくれよ。な?」



横山の真剣なその告白。

けれど雪の心は、一ミリたりとも動かなかった。キッと彼を見据え、ハッキリと本心を口に出す。

「違う。アンタは、人を好きになってるわけじゃない。

アンタは結局、そんな自分自身が好きなだけよ!」




雪は言葉を続けた。

彼の頭上から、剥き出しの言葉でその本質を突き付ける。

「自分の思い通りにならないとすぐキレる、ナルシストで我が強い、自己顕示欲丸出し!

しかもアンタはね、無理なモンは無理だってこと受け入れる能力が皆無なんだよ!」




そして雪は青筋を立てながら、嫌悪感を露わにして言い捨てた。

「そんなアンタの愚行に、私を巻き込まないで!

たとえ本当に好きだとしても、鳥肌が立つわ!」







キッパリと彼を否定した雪を見て、横山は怒りに顔を歪めた。

それでもなんとか理性を保ちながら、雪に向かって問いかける。

「ふざけんじゃねーぞ。そう言うお前は、一度だって俺と正面から向き合ったことがあんのか?

本気で俺が告白したらどうする?受け入れてくれんのか?」




そして横山はプライドを傷つけられた悔しさから、ふてぶてしく彼女に感じる”憎”を口に出す。

「俺だってなぁ!俺だって、どうしてお前みたいなのが好きなのかマジで分かんねぇしムカつくっつの!

金持ちで顔の良い青田みてーな奴にコロッと落ちる所も、お前の見た目も!マジで俺の好みじゃねーから!」




支離滅裂な横山の発言に、雪はハッと息を吐き捨てた。

「アンタまさか、暴言やストーキングで私を困らせることで、

逆に私の気を引こうっていうんじゃないでしょうね?

それに‥私が青田先輩と付き合ってるのは、そんな理由でじゃない」




雪は落ち着いたトーンで話を進め始めた。

横山は膝をついたまま、雪の言葉を聞いている。

「先輩に惹かれた理由が容姿とスペックだけなら、

私も去年から彼の取り巻きに入ってキャーキャーやってる。私が先輩と付き合ってるのは‥」




雪は、その本心を口に出した。

「私がしんどかった時、いつも手を差し伸べてくれたから‥」



雪の顔は横山の方を向いていたが、その視線はどこか遠いところを見ているかのように曖昧だった。

記憶の中の、淳の姿が浮かぶ。

瞳の中に見えた温かいものは、雪のことを想う彼の本心‥。




そして雪は目の前の横山を改めて見下ろし、彼に対して冷静に自分の思う所を伝えた。

「横山、アンタは私がどんな状況に置かれてるのか、

いつどんな時にしんどかったか、知ろうとしたこともなかったでしょ?

ううん、初めから、アンタの行動自体が私を困らせてるって認識さえないでしょ?」




横山は目を丸くしたまま、じっと雪の話を聞いている。

「目を覚ましてよ。アンタは度々先輩を引き合いに出すけど、

私にとって先輩は、元々アンタとは比較にもならない存在なの」




そして雪は声を上げ、彼をハッキリ拒絶した。

「アンタなんか、先輩に何一つ敵わねーよ!!」



雪の理性と感情両方が、完全に目の前の彼を否定していた。

初めは何も考えられなかった横山も、徐々に腹の中で怒りが沸々と煮え滾り始めた。地面に突いた拳が震えている。



先ほどまで相反していた二つの感情は、煮え滾る怒りが”憎”を肥大化させ”愛”を霞ませる。

横山は見開いた目を血走らせながら、徐々に己の凶暴性が剥き出しになって行くのを感じ、身体を震わせる‥。





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<窮地と逆上(2)>でした。

雪ちゃんが誰かに先輩への思いを語るのは、これが初めてのような気がします。

(その相手が横山だとは思いもしなかったですが‥^^;)

今までしんどいことがある度に一人で耐えて来た雪ちゃんにとって、先輩が手を差し伸べてくれたことは、

本当に大きいことだったんでしょうね。。


しかし雪ちゃんよ、話が通じない相手にこんな正攻法で‥。

読者はいつもハラハラです‥。


次回も<窮地と逆上(3)>です。



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窮地と逆上(1)

2014-09-07 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)
大学から帰路を辿る雪は、今大あくびをしていた。

体にも心にも、疲労が溜まっている。



雪はトボトボと夜道を歩きながら、一人肩を落として息を吐いた。

あー‥超疲れた‥。授業に集中しなきゃって変に力が入っちゃった‥死ぬかと思った‥。

てか結局私だけ消耗されていく気が‥。中間が微妙だった分、期末で取り返さなくちゃだし‥。




雪が一人考えに耽りながら歩いていると、不意に壁に貼られたとあるチラシが目に入った。

そこには、”閉店セール”と大きく書かれ、肩マッサージ機や足マッサージ機が破格の値段で売り出し中だった。

「おおっ!」



雪は店のガラスドアにベタッと張り付き、この広告を食い入るように見つめる。

こんなとこにこんなものが‥ネットで見るより安いんじゃない?



今赤山家にあるマッサージ機は調子が悪く、いつも父や母が凝った肩に頭を悩ませていた。

お父さんとお母さんに買ってあげようかな‥



そう思いながら、広告を見つめていた時だった。

ガラスに反射して、夜道の向こうに人影が見えたのは。



雪は恐る恐る振り返って見た。

しかしそこには誰も居ない。暗い夜道はしんと静まり返っているだけだ。



けれど、彼女が元来持つ鋭敏さと培ってきた経験で、雪はそこに人が居ることを察知していた。

ポケットに入れてある、レコーダーの録音スイッチを押す。



そして雪は携帯を手に持つと、いつでも証拠写真が撮れるようそれを高く掲げた。

準備が整った後、雪はよく通る声で隠れている人物に向かって声を掛ける。

「出て来て」






しかし通りの向こうはしんとしている。

雪は隠れている人物によく聞こえるよう、大きな声で続けた。

「出てこなければ警察に通報するし、このまま逃げてもいいんだけど?」






すると今まで動きの無かった路地に、人影がゆらりと揺れた。

路地の隙間から決まり悪そうな顔をして、横山翔がオズオズと出て来る。



横山は雪に向かって手を伸ばしながら、ヨロヨロと近付いて来た。

「ゆ、ゆきぃ‥」



突然呼び捨てにされた雪は顔を顰め、「そんな風に呼ばないで」と嫌悪感を込めて言う。

横山は小さな声で、雪に向かってこう言った。

「お前‥なんでLINE見ねーんだよ?」



雪は顔に青筋を立てつつ、横山に言葉を返す。

「はぁ?アンタのLINEなんてずっと前からブロックしてるけど?」



雪の返事を聞いて、横山はぐっと歯を食い縛った。

そのままよろめきながら、雪の方へ近づいてくる。



横山は何も言わない。雪は身を固くしながら、携帯を掲げ声を上げた。

「な‥何よアンタ‥それ以上近寄ったら大声出すわよ?!」



「ここは店だって多いし、人も沢山‥!」



しかし雪は、それ以上言葉を続けることが出来なくなった。

次の瞬間、横山がその場で土下座し始めたのだ。

「雪っ‥!」



横山は這いつくばって雪の名を呼んだ。

雪は顔面蒼白だ。何が何やらサッパリ分からない。

「ゆきぃぃぃぃ!!」 「????」



すると、困惑する雪の前で横山は、手を両膝の傍らに置き頭を下げて、雪に謝罪を始めた。

「俺が悪かった‥!」



横山は人目も憚らず、道の真ん中で頭を下げた。通行人はジロジロと自分達を見て通り過ぎて行く。

雪は困惑しながら言葉を返した。

「な‥何なのアンタ!おかしいんじゃないの?!」



しかし横山は大きな声で謝罪を続けた。必死になって言葉を紡ぐ。

「俺が‥俺が全部悪かった‥!今までお前を困らせたこと全部、俺が悪かったよ‥!

もう二度と困らせないから、今回だけ許してくれ‥!頼むよ‥!」




横山は懇願した。窮地に追い込まれたイタチが、膝をついて命乞いをする。

雪は目を剥いて、「な‥何なのいきなり‥」と不愉快な思いを抱えながらたじろいだ。



何度も許しを乞う横山であったが、不意に彼は周りをギョロッと見回した。

自分は周りにどう映っているか、そして下手に出ることで雪がどういった行動に出るかを、

不安定なその視線は捉えようとしている。



それは横山が刹那に見せた視線の揺らぎだったが、雪はその鋭敏な性分でそこに彼の本心を見た。

今謝罪しているのは見せかけのそれであり、保身の為にこうしているだけだということを。



横山を見下ろす雪の視線が、冷たく彼を射る。

窮地に追い込まれたイタチは自分が助かる方法を、膝を付きながら必死に考え続けている‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<窮地と逆上(1)>でした。

さて始まりました、雪と横山の一騎打ち!

窮地に追い込まれたイタチと立ちはだかるライオンとの決闘、ですね。


横山が口では謝罪をしつつも、実は自分の保身の為だという描写‥。

雪ちゃんが見せた冷めた表情と、以前淳が見せたあの表情がかぶります。

 

(去年、球技大会のことの謝罪をしながらも、横山は皆の目をチラチラ気にしてますね。↑)

人の本心を見抜く術に関しては、雪も淳も本当に長けていますね。

だからこそこの二人は、色々と見てみぬフリをしなければ付き合っていけないのかも‥。


次回<窮地と逆上(2)>へと続きます。




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見えない相手

2014-09-06 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)
横山の元から早足で去った雪は、先ほどのことを思い出すにつれ段々小走りになっていった。心臓が早鐘を打つ。

私の人生の中で女優の真似事をする日が来るとは‥。

変なことが起こりすぎて、おかしなことばかり達者になってるな、私‥。




勢いでウソを重ねてしまった‥。雪は、これからどうするべきか考えあぐねた。

さてどうする?河村氏のお姉さんに話して、口裏合わせとくべきか?

いや‥何で私がそこまでしなきゃならないんだ‥。




よくよく考えてみると先ほど吐いたウソは、この先そこまで大事にはならなそうな内容だ。

フォローを入れなくても大丈夫、と安心する傍らで、なぜ自分がここまで神経を使っているのだと思い苛立った。

あーもう!一体なにやってんの私!

これも全部、先輩が皆に悪口言われて誤解されると思ったから‥!




雪は両手で顔面を覆いながら、こじれていく現状に頭を抱えた。

なぜここまでストレスを抱えなければならないのか。咄嗟に吐いたウソも今の展開も、全ては先輩の為なのに‥。



雪は苛立つ気持ちを押さえながら、先輩へ電話を掛けた。しかし案の定、彼は電話に出ない。

出ませんかそーですか。何が起こってるのかすら知りませんかそーですかっ



雪はくさくさしながら携帯をポイッと投げた。

そして授業開始時刻に合わせ、急いで教室へと駆け込んだ。





雪が授業を受けていると、不意に携帯電話が震えた。見てみると、彼からのメールが届いている。

ごめん。会議中で電話に出られなかった



雪はその短い文に、自分も短文で返事を返す。

今日も忙しいんですか?

 

そしてこれだけは伝えたいと思っていることを、続けて文字に連ねる。

先輩が怒ってるのは分かってるけど、

私も聞きたいことや答えて欲しいことがいっぱいあります。




メッセージを書き込んだ後、雪は再び携帯を机の上に置いて返事を待った。

授業を進める教授の声が、耳から耳へと滑って行く。



そして数分後、彼から短い返事が来た。

俺も



そして続けて、彼の気持ちが文字に連なる。

すぐ行こうと思ってたけど、色々あって‥そのままになってた。

仕事が終わり次第すぐに行くから




今まで背を向け沈黙を守っていた彼が、少しだけ振り向いた。

でもまだその心の中は分からない。

会って話しても、固く閉ざされた心の扉を、彼は開けてくれるだろうか‥。



雪はその後上の空で授業を聞いた。

文字の向こうに居る見えない相手のことを、ただずっと考えながら‥。







その日の夜、横山翔は再びあのWEB掲示板に張り付いていた。

そこにはこんなメッセージと共に、自分の写真が山のように貼り付けられている。

まだ写真はたくさんある



隠れて赤山の後ろ姿を撮る自分、彼女の細い足にシャッターを切る自分、

図書館で働く彼女を本棚の影で見つめる自分。写真はわんさとあった。

 

そしてそれに続く掲示板では、この写真を見たスレ住人達が好き勝手に書き込んでいる。

お?ここどー見てもA大じゃね?A大通ってる奴だれかいねーの?

てかdisってもdisってもどんどんクソな面が出てくるな。てかこんなん書いてマジ大丈夫なの?俺はおもろいからいーけどw

なんだよやめんなよ。もっとうpキボン。

いやまじでコイツクズだわw 氏ねばいーのに




横山はそれを見て顔面蒼白した。

ついにA大ということまで明らかにされ、いつの間にか自分が危険人物として認知されつつある。



横山は血相を変えながらキーボードを打った。

い、今まで書き込んだ文は全部消したのに‥!

畜生‥これ全部キャプチャーして警察に‥




そう思って全ての文をコピーしようと試みるが、きっとこれを持って警察に行った所で‥。

ところでこの、あなたがストーカーというのは事実なのですか?



こう言われて墓穴を掘ることになりかねない。

横山はどうすることも出来ない現状に、ただ苛立っていた。

「クソがっ‥!!」



ガシャン、とキーボードは机に当たって落ちた。横山の心の中に、漠然とした不安が広がって行く。







翌朝大学に登校する時も、いつ後ろ指を刺されるかと気が気じゃなかった。

横山がビクビクしながら構内を歩いていると、不意に後ろから声が掛かる。

「おい!」



心臓がビクリと跳ね、全身が硬直した。

横山が恐る恐る振り向くと、そこには手を上げて走り寄る柳瀬健太の姿がある。



横山は胸を撫で下ろしたが次の瞬間苛立ちが襲って来て、先輩に向かってぞんざいな声を出した。

「な、なんなんスか?!」「なぁお前もしかして‥何か写真撮られたりしたか?」



”写真”というワードに、横山はヒッと息を呑んだが、とりあえず心を落ち着けて笑顔を浮かべた。

健太はヒソヒソと横山に耳打ちをする。

「ど、どういうことスか?」

「いや~◯◯サイトにイッてる野郎の写真が上がっててよ、それがどーにもこーにも‥」



そして健太は横山に携帯画面を見せた。そこには横山が昨日目にした、あの写真が映っている。

「ほらほら!これお前じゃね?」



ピキッと、横山の表情が固まった。

恐るべし柳瀬健太‥。普段は鈍いくせに、いざという時に野生の勘が働き、厄介な物に鼻が利く。

横山は苛立ちながら、健太に対して言葉を返した。

「俺じゃないっスよ!俺がそんなヤバイことするわけないっしょ?!

それでなくても俺最近不幸続きなんすから、もう絡まんで下さいよ!」




ウザそうに健太を追い払う横山に、健太も青筋を立てながら「あーそうかよ。エッラそうに」と言葉を返し、背を向けた。

どう見ても横山の写真なのに‥と健太は首を傾げながら去って行く。



横山の心の中に、不安がじわじわと波のように押し寄せる。

その場に立ち尽くした横山の、握った両の拳が震えている。



そんな横山の横を、直美を含む同期女子達が歩いて行く。彼女達は、すれ違いざまに横山を罵倒した。

「うわっ最悪!クズ野郎!」



四面楚歌だった。誰も自分の味方になってくれる人は居ない。

横山は苛立ちながら、こうなってしまった原因の雪に向かってメールを打つ。

クソが!あのヤンキー野郎がネットに俺のこと書き込んでんだろ!?

いい加減止めねーとマジで告訴すんぞ!




メッセージを送信してから、横山は周りを見回した。

その顔には冷や汗とも脂汗ともつかぬ汗が、滝のように流れている。



構内には平和な風景が広がっているのに、通行人は誰も自分を見ていないのに、

横山は怖くてたまらなかった。全身にかいた汗が、みるみる内に冷たくなって行く。



横山は目を皿のようにしながら、木々の間や建物の影を必死に探した。

見えないその相手の姿を。向けられる携帯電話を。聞こえないそのシャッター音を。

どこだ‥どこで見てやがる‥!



どこにも姿が見えない。その素顔は謎のベールで包まれている。

横山は身を震わせる恐怖と共に、抑え切れない程の怒りが全身を包むのを感じた。

「クソがぁっ‥!!!」



横山は吼えた。その場で何度も地団駄を踏む。

しかし不安と恐怖は消えない。再び全身に汗が吹き出す。



見えない相手がどこかから自分を見つめ、そしてそのシャッターを切る‥。

横山は経験したことのないその恐怖に、全身を震わせていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<見えない相手>でした。

横山よ、それはあなたによってずっと雪が経験してきた恐怖ですよ‥。(と言ってやりたい)

ただ横山は相手が見えない分、恐怖も大きいのかもしれません。

そして横山ガン無視の直美‥(笑)




次回<窮地と逆上(1)>です。

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