Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

Yの要求

2015-06-30 01:00:00 | 雪3年3部(握った手~幕間)
「ゲホッ!ゲホッ!」



河村亮はみぞおち辺りを押さえながら、地面に這いつくばるようにして倒れていた。

痛みに悶える亮の姿を吉川社長はニヤリと眺め、元同僚の男はアタフタと慌てながら心配する。

「ゲホッ‥くっそ‥いきなり腹を‥!」「それじゃ言ってから殴りゃいいのか?」



「息しやがれ!息!」



はっ、はっ、と弱々しい喘鳴が、喉の奥で鳴っている。

震えながら地面に手をつく亮に向かって、社長は手を差し伸べた。

「お前が自首して来たから、これでも手加減してやったんだよ。紳士的だろ?な?」



しかし亮はその手を取ることなく、自力で起き上がる。

マジ死ぬっつーの‥

「つーかどうしたその顔は」



みぞおち辺りがひどく痛み、呼吸を整えるのがやっとだった。

「亮、大丈夫?!」と元同僚が声を掛けるが、亮は黙って立ち上がる。

「まぁいいさ」



社長は亮に向かってニヤリと口角を上げ、こう続けた。

「お前とは旧知の仲だ。金の返済期間は十分に与えてやる。

その代わりまた逃げたりしたら、マジで生き埋めにしてやるからな」




許しと脅しを交えながらの社長の言葉に、亮は小さく舌打ちをして頷く。

「分かりましたよ‥」

 

素直な亮の態度を見て、社長はふっと笑った。そして亮の高い鼻を、更に高く持ち上げる。

「こンの恩知らずの外人野郎がぁ!

俺がどんだけお前を可愛がってやったか!」




吉川社長は亮のことを、自分の若い頃を見ているようだと言ってしみじみ語り出した。

亮は痛む鼻を押さえながら、そんな社長の話に適当な相槌を打つ‥。



不意に社長は亮に近づくと、強い力で肩を抱いた。

「それとも、このまま俺ともう一度地方に帰るか?」



その提案に、思わず目を見開く亮。



社長は亮の肩に置いた手を徐々に深く回し、ヘッドロックの様な格好で言葉を続けた。

「今度デカい事業に取り組むことになってな‥お前腕っぷし良いからよ。

一緒に帰るんなら、今回のことはなかったことにしてやるし、金も十分に用意してやるよ」




「どうだ?考えてみるか?」

「あーもう!ったくよぉ!



バッと亮は顔を上げ、社長に向き直った。

「返すっつったっしょ?!逃げねぇよ!返すっつーの!」

「いやマジな話、お前が信じらんねぇからこんなこと言ってんじゃねぇ」



声を荒げる亮に対して、社長は冷静に言葉を返した。その笑みの中に、亮に対する情が見え隠れする。

「本気だからな?よく考えてみろ」「いや行かねーって‥」

 

共に行くつもりはさらさら無い亮。しかし亮が最後まで言い切る前に、社長はズバリこう言った。

「ぶっちゃけお前、金稼ぐアテもねぇんだろ?」

 

ぐっ、と亮は言葉に詰まった。社長は亮の左手を握ると、笑みを浮かべてこう続ける。

「俺はお前のこと買ってんだよ。力ある奴が無駄に才能腐らせてどうするよ?」



ポンポン、と激励に似た仕草を取った後、社長は亮に別れを告げた。

「それじゃあな。連絡しろよ?」 「りょ、亮!じゃあね!」

 

遠ざかって行く二人の背中。

亮はその後姿を見つめながら、暫しそこに立ち止まっていた。心に厚い靄がかかっていくようだ。



あの社長のことだ。半殺しになるとばかり思っていた。

事実、同僚の男も以前こう言っていた。



蛇のような執着心で、金を搾取しに来たのだと思っていた。

けれどー‥

「それとも、このまま俺ともう一度地方に帰るか?」



冷えた汗が、頬を伝っていく。

社長が真に欲しているものは、おそらく金じゃないー‥。



亮は暫くその場から動けなかった。

橙色の夕焼け空を、徐々に濃紺の闇が覆って行く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<Yの要求>でした。

亮さん、遂に社長の元へ向かいましたね。

一応本人はお金を返す方向で解決を試みてますが、いかんせん亮さんが今取り組んでいるのが‥

◯志村教授の元でのピアノレッスン

◯高卒認定試験

と、今すぐお金にならないことばかり‥。

非常用のお金も静香に盗られて無いと分かった今、どうやってお金を返して行くのか‥。
(そもそもいくらくらいの借金があるのやら‥)

暗雲立ち込めてまいりました。。


次回は<無数の目>です。


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三人の行方

2015-06-28 01:00:00 | 雪3年3部(握った手~幕間)
夕闇迫る時刻。

構内を歩く一人の女に、男性陣は皆目を奪われていた。



彼女が歩くたびにヒールの靴音が響き、

靴から伸びた真っ直ぐな足と、細い足首の美しさに目が留まる。



真っ赤なルージュとコンパクトを片手に歩くのは、見目麗しい河村静香である。

今日は一段と気合が入っている。



鼻歌交じりに化粧を施す静香のことを、佐藤は彼女と並んで歩きながら、黙って見つめていた。

周りの男達が皆静香に釘付けなのに、静香は一向に気にしていない。佐藤は変な気分だった。

 

「‥‥‥‥」



しかし隣を歩いているのに、話し掛けないのも逆におかしなことだ。

佐藤は静香の方を向いて口を開く。

「あ‥俺があげた本、どうだった?」「ん?」



「あ~あれ?見応えあったわよ~。てか今日のあたしどう?イケてる?」

「えっ?」



静香はそう言うと、微笑みながら佐藤の方を向いた。

その華やかな美貌の周りに、キラキラと光が舞っているように見える。



佐藤はドギマギしながらも、小さく頷いた。

「う‥うん‥」



「とっても綺麗だよ‥」



静香はククッと笑いながら「トーゼンw」と自信満々だ。

チラ、と目を上げて、佐藤は彼女のことを見つめてみる。



「今日は昼間から浮かれてたけど‥どこか行くの?」

「あぁ、お偉いさん達のJrが集まるパーティーがあんのよ」



静香は嬉々としてそう言うと、前を向いてこう呟いた。

「それにしても最近日照り続きだったのに、こんなオアシスが‥」



色々取り上げられてばかりだった淳からの、久々の甘いご褒美‥。静香はクスリと笑う。

「なんだって?」

「ううん~なんでもな~い!友達がそのパーティーやってんだぁ」



静香は意気揚々とサングラスを掛けると、佐藤に向かってこう言った。

「アンタもそんなとこ行ったことないでしょ?

あたしが行った感想聞かせてあげるからね~?」




ラララ~♪



そして静香は行ってしまった。

佐藤はそんな彼女の後ろ姿を、幾分寂しげな顔で見つめている‥。













ところ変わって、こちらは大学内のPC室。

柳瀬健太は、佐藤から奪ったノートPCでメールを打っているところだった。



柳~!一緒にベンキョーしねーか?

一人じゃ集中できねーだろー?




しかし待てど暮らせど、柳から返事は来なかった。

しんとしたPCを前に、健太のイライラは募って行く。



「チクショー!」



「うぁぁ~~!あーーー集中出来ねぇ~~~」



健太はノートを投げ出し、ぐんと大きく伸びをした。

「気分転換が必要だな!」



そう己への言い訳を口にすると、いつも見ているサイトをクリックする。

「なーに見よっかな~?何か新着ねーかな~。エロいやつで‥。これは観たし‥これも映画館で観たし‥」

  

カチ、カチ、とクリックとスクロールを繰り返していた健太であったが、PCが思うように動かないことに気がついた。

「あーもうなんだよ!なんでどんどん遅くなって行くんだ?!佐藤の野郎め、良いPC買えよなー!金持ちなんだからよぉ!」



強引にマウスをパッドに打ち付け、PC本体を何度も手で叩く健太。

するといきなり、画面がパッと暗転した。



「え?」



パッ



暗転した次の瞬間、見たことのない青色の画面が現れた。

健太は目が点である。



「なんだ?どうなってんだ?!」



押しても叩いても、画面は元に戻らない。

けれどこういう時は慌てずに‥

「困った時は再起動‥と」



健太は電源ボタンを押した。

けれど画面は一向に変わらない。

「え‥」



何を押しても、叩いても捻ってもPCは動かない。

これは佐藤から借りた、おそらく高額のノートPC‥。

「え‥?」



健太の血の気が引いて行く。

画面はその顔色と同じように、青いまま固まっていた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<三人の行方>でした。

今回の萌えポイントは、静香に「とっても綺麗だよ」と言う佐藤先輩‥。



女の子に綺麗だなんて言ったことなさそうな佐藤先輩が!(失礼)

そして健太‥。

借り物のPCでエロい映画観ようとした挙句壊すなんて‥。

もう本当救いようが無い‥(涙)


次回は<Yの要求>です。


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握った手

2015-06-26 01:00:00 | 雪3年3部(握った手~幕間)
「ごめ‥なさ‥」



悔やんでも悔やんでも、赦されることのないあの出来事。

祖母の手を振り払ってしまった罪悪感が、今も尚雪を苦しめている。



夢の中で、雪は手をぎゅっと握りしめた。目の前で祖母が悲しそうな顔をしている‥。

「ごめんなさい‥おばあちゃん‥」



消え入るような声で、懺悔を繰り返す雪。

そしてそんな雪の姿を、彼はじっと見つめていた。



苦しそうな表情で、何度もごめんなさいと、私が間違っていたと、そう告白する雪。

淳は彼女が抱える何かを目の当たりにしている。



暫し淳は、雪の顔を見つめていた。

彼女の手を握り続けていると、次第にその表情は安らいで行く。



すると、雪は薄く瞼を開けた。

「ん‥」



けれど雪が完全に覚醒する前に、淳は彼女の瞼から額に掛けてを手の平で覆う。

「まだ寝てな」



そう言って瞼を閉じさせると、雪は小さな声を出しながら、

再び眠りの中へと潜って行く。

 

完全に眠りに落ちるまで、淳は掌で雪の瞼を押さえていた。

次第に小さな声も聞こえなくなる。



そして再び雪の口から寝息が漏れ始めると、淳はそっと手の平を外した。

健やかな彼女の横顔を、複雑な思いで見つめる淳‥。

 





そっと外した左手。

握った右手は、まだ繋がれたままだ。

けれどその意味が何なのか、淳は図りかねていた。



小さな寝息を立てる彼女を前に、淳はポツリとこう呟く。

「分からなくなるよ。俺のことが好きなのか、それとも離せないのか‥?」



彼女が自分の手を握るのは、どういう感情が元になっているのだろう。

淳は雪の寝顔を見つめながら、そのことに関する記憶に思いを巡らせる。







繋いだ手。

この手を離そうとすると、いつも彼女はそれに追い縋った。



あの時も。



あの時も。



あの時だって。



怯えたように手を掴む彼女に、どうしても違和感を感じた。

なぜそんなにも必死で、繋ぎ止めようとするのかと。



今淳は雪の手を握りながら、同じような場面を繰り返しなぞっていた。

けれど、不思議とそこに絶望は無かった。

繋いだ手の温もりを、噛み締めながら淳は言う。

「実は別に構わないんだ」



その感情がどんな感情だとしても














暗闇の中で彼女を見つけた時、胸に芽生えた感情は恋だっただろうか?

今まで独りきりだった自分が初めて同類を見つけた時の、あの感情は‥。



恋じゃなくても、愛じゃなくても、心が充足すること。

そこに意義があった。

淳は雪の髪を撫でながら、彼女が抱えた重荷を思う。

「罪悪感でも、何でも‥」



心に抱えた傷があるなら、それさえもひっくるめて背負いたい。

そして彼女の心が軽くなればいい。

自分に向けられるその感情が何であれ、自身を必要としてくれれば、淳はそれで満足だった‥。






鞄の傍らに置いてあった、携帯電話が不意に震えた。

着信画面には、”父”とある。



けれど淳は出なかった。

胸の中にあるシコリが、淳の心を固く閉ざす。



不在着信 3件



淳は画面を眺めながら、この後実家に顔を出さねばならないことを思った。

おそらく全てを知っている父親から、たっぷりと灸を据えられることになるだろう。



するともう一度携帯が震えた。今度は同僚からのメールだった。

今日はすごく具合悪そうだったけど、もう大丈夫ですか?うちに良い薬があるんですけど‥。

次の飲み会には絶対参加して下さいね。早く治りますように。

仕事のことで相談したいことがあるんだけど‥私、上司のことがちょっと苦手で‥。連絡待ってます


  

メッセージは次々と入って来た。

机の上に置いた携帯が、ひっきりなしに震えている。



溜息を吐きながら画面に目を落としていると、静香からのメールが入って来たことに気がついた。

一体どうしちゃったのー?

ま、あたしに借り返すんならこのくらいのことして当然だけどね。

こんな超ステキなことすんの、久しぶりじゃーん








淳は文面に目を通すと、ピッと携帯の電源を切った。

静かになった携帯を再び机に置き、目の前に居る彼女へと視線を移す。



健やかな寝顔の雪を見つめながら、淳は自分の心が充足して行くのを感じていた。

邪魔者はいらない。

雪が傍にいれば、それだけで良い‥。



そして淳は口元に薄っすらと笑みを浮かべながら、雪の寝顔を見つめ続けた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<握った手>でした。

おばあちゃんごめんなさい、と苦しげに呟く雪に、何らかの罪悪感を感じ取った淳。

自分を求めるその理由が罪悪感でもいい、と言う淳ですが、それって‥。

罪悪感だとしても傍に居て欲しいんですねぇ‥。

それってどうなのかな、幸せになれるんでしょうか‥。

うーん‥。

そして同僚女子からのメール!モテる男は大変ですな~。


次回は<三人の行方>です。


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<雪・幼少時>懺悔

2015-06-24 01:00:00 | 雪・幼少時


祖母は、帰らぬ人となった。

遺族は皆黒い衣服に身を包み、祖母の墓前で涙を流す。



雪はぽかんと口を開けたまま、じっと祖母の墓を見つめていた。

大好きだったおばあちゃんが亡くなったということを、幼い雪はまだ実感出来ていないのだ。

「ううっ‥お母さん‥」



雪の隣で泣いていた親戚のおばさんが、不意に雪の手を取った。

「雪、こっちへいらっしゃい」



おばさんは雪と蓮を両脇に抱えると、涙を流しながら墓前で母へと話し掛ける。

「母さん、雪と蓮のこと大好きだったでしょう?

逝く前に沢山見ていって下さいな‥うっ‥かわいそうな母さん‥」




おばさんは子供らの肩を抱く力をぐっと込めながら、二人に向かってこう言った。

「お前達も挨拶しなさい。静かにお眠り下さいって‥」



肩に回されたおばさんの腕は温かかった。健康な人間の体だ。

けれどあの日雪が触れた祖母の手は、まるで死んでいるかのように冷たかったのだ。







手を放した、そこにあったのは単純な恐怖だった。

死を恐れる感覚。何を考えるより先に、身体がそれを拒否していた。



身を捩りながら叫んだ雪が最後に見たのは、弱々しく呻く祖母の横顔だった。



変わり果てた姿になった祖母。

それでもおばあちゃんはあの時、まだ生きていたのに。



雪の目から、止めどなく涙が流れた。

おばあちゃんは死んでしまったのだ。

もう二度と、あの手を繋ぐことは出来ない‥。







その日、雪は一人で街を歩いていた。

目の前に、おばあちゃんと手を繋いで歩く少女の姿がある。



チクリと胸が痛み、雪はその少女から目を逸らした。

ほんの数ヶ月前まで、自分もおばあちゃんとああやって手を繋いで歩いていたのだ。



ふと、いつか耳にした誰かの言葉が甦った。

おばあちゃん、雪にすごく良くしてやってただろう?



誰の声かは分からない。分からないが、それは真実を話す声だった。

そうだったか? すごく好いてたじゃないか。

あの子がおばあちゃんおばあちゃんって付いて行くから、あの偏屈だったばあさんもだんだん丸くなっていって‥




握った手に力を込めると、自分を見て笑ってくれた。

蓮に内緒でお菓子を貰った時なんて、この世のすべてを手に入れたような気になった。

最初は蓮しか見てなかったあのばあさんがねぇ‥



なのに‥。



ふっくらしていたおばあちゃんの頬はこけ、身体は骨と皮だけになってしまっていた。

あの時、最後の力を振り絞って、手を伸ばしてくれたのかもしれないのに‥。

 

頭の中で声がする。

真実を話す声が。

雪、おばあちゃんは亡くなったのよ



あぁ‥可哀想な母さん‥





あれが、最期だったのに。





頭の上から徐々に徐々に、重たく冷たいものがのしかかってくる。

雪は涙を浮かべながら、亡き祖母に向けての懺悔を口にした。

あれが最期だったのに‥あの時手を振り払わなければ‥

「ご‥ごめんなさい‥ごめんなさ‥」




すると突然、声が聞こえた。

それは祖母の声だった。

厳しく雪を叱る、昔よく聞いたあの文句ー‥。



泣くんじゃない!悪い子め!何を偉そうに泣いてるんだい!




ビクッ、と雪は身を竦めた。

”悪い子”という言葉が、上から重くのしかかる。








”悪い子”は泣いてはいけない。

”悪い子”は、その罪を背負いながら、涙を飲み込んでしまわなければー‥。




雪は涙を拭うと、そのまま一人で歩いて行った。

もう手を繋いでくれるおばあちゃんはどこにもいない‥。





そして雪は泣けなくなった。


ただ、涙が込み上げるたびに、頭の中で祖母の声がするだけだ‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


<雪・幼少時>懺悔 でした。

雪の抱えた心の傷の原因となった出来事が、ついに明らかになりましたね。

やたら病院を怖がるのも(聡美のお父さんが病院に運ばれた時も)、

離れて行く手を咄嗟に掴むのも(先輩の手を何度も掴んでますね)、そして涙を流せないのも、

すべてがこのおばあちゃんの手を振り払ってしまったところから来ているようです。

相手が亡くなってしまっているからこそ、その罪を赦してもらうことが出来ず、

今でも背負ってしまっているんですよね。(それが罪なんて、きっとおばあちゃんは思ってないだろうけど)

小さい雪ちゃんにはあまりにも重く、辛い出来事です‥。


次回から現在に戻ります。<握った手>です。


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<雪・幼少時>冷たい手

2015-06-22 01:00:00 | 雪・幼少時


季節は流れ、再び祖母は伯父の家へと出掛けて行った。

そしていつもなら雪の家に戻ってくる時期になっても、祖母は帰って来なかった。

「おばあちゃん家に来ないの?どうして最近来ないの?」

「おばあちゃんはご病気だから、ずっと伯父ちゃんの家に居るのよ」



母に尋ねても父に尋ねても、答えは同じだった。

雪は口をへの字にして、しゅんと下を向く。



祖母といつ会えると誰も教えてくれないまま、再び日々は流れて行った。



「お義母さんが倒れたって‥!」「何だって?!もう一回電話してみろ!」



「車のキーはどこだ?!」



それは突然の出来事だった。

伯父から祖母が倒れたという知らせを受けた赤山家は、バタバタと支度をして病院へ向かう。




病院の廊下で、大人達は祖母の容態について話し合っていた。誰もが皆余裕の無い表情をしている。

心臓発作が‥前から入院させとけば‥でも本人が拒んで‥と子供には理解しがたい言葉が切れ切れに聞こえる。



雪はそんな大人達の姿を、蓮と並んで座りながらただ黙って見ていた。

何の説明も受けていない雪は、普段と違うその雰囲気をただ不思議に思うのみだ。





「ちょっと一服しに行くわ」「雪、ここで蓮と一緒に座ってなさい。何か食べるもの買ってくるわ」



大人達はそう言って、皆その場から席を外した。

雪は大人しく言いつけを守り、蓮と一緒に長椅子に座って待っている。



するとそこに、親戚のお姉さんがやって来た。

「雪」



お姉さんは雪に向かって、優しくこう提案する。

「おばあちゃんに会いに行こっか」



「うん!」



お姉さんは雪を抱え上げると、駆け足で病室へと向かった。

すれ違った看護師が、子連れの彼女を見て注意する。

「あら!子供は入室禁止ですよ!」



しかしお姉さんは止まらなかった。

彼女は雪を抱っこしたまま、祖母の居る病室に入室する。



その部屋は、何の音もしなかった。

幼い雪は初めて見るその光景に、なんとも言えない空気を感じ、目を見開く。



雪はお姉さんの首に回した手に、ぎゅっと力を入れた。

彼女は静かに寝台の波間を歩きながら、祖母のそれを見つけて雪に知らせる。

「あそこよ」



「おばあちゃん、雪が来ましたよ」



お姉さんは立ち止まり、寝台に寝ている祖母に声を掛けた。

雪はキャッとはしゃぎながら、おばあちゃんの方に身を乗り出す。

「雪のこと可愛がってたでしょう?」



雪は嬉しかった。

長い間会えていなかった、大好きなおばあちゃんにようやく会えるのだからー‥。



寝台を覗き込んだ雪の目に飛び込んで来たのは、

まるで同じ人とは思えない程やつれた、祖母の姿だった。



もう喋ることも出来ないのか、祖母は呻きともつかない低い声を出し、

震えながらその手を上げる。



骨ばって皺の寄ったその手が、

ゆっくりと雪の方へ近づいて来た。



それを見たお姉さんは、雪に向かってこう言った。

「おばあちゃん、雪の手を握りたいみたいね」



お姉さんは、青ざめた雪の手を取ると、祖母の手の方へと伸ばした。



雪はただ促されるまま、祖母と手を握らさせる。



骨ばった冷たく固い手が、雪の小さな手の上にのしかかる‥。




「うわああああっ!」



バッ、と思い切り手を振り払った。雪はパニックを起こし、叫びながら身を捩る。

「うわああ!うわあああっ!」

「雪?!突然どうしたの?!」



突然叫び出した雪にお姉さんが驚いていると、その騒ぎを聞いて看護師が駆けつけた。

「子供は入っちゃダメですよ!」



「い、行こう行こう」「うわああん!」「お静かに!」



二人が退室しても、いつまでも雪は泣いていた。

背中からせり上がってくる怖気を放出するように、雪は声を上げて泣き続ける。

怖い! 冷たくて! 固くて!



怖いよ‥!




そしてこれが、最期になった。

大好きだった祖母との、それが最後の記憶ー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪・幼少時>冷たい手 でした。


今回の記事は<臆病の虫>の後半部分を再び載せてます。あしからず‥。


大好きだったおばあちゃんが変わり果てた姿になり、その姿に恐怖を感じてしまった雪ちゃん。

その手を振り払ってしまったことが、拭えない傷になってしまいます。


次回<雪・幼少時>懺悔 です。

次回で雪の幼少期編終わります。



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