「いたっ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/23/6cfbcfba69fdd3ee3e7d68d85bc6e795.jpg)
暫し彼が薬を塗るのに身を任せていた雪だが、不意に触れられた傷がひどく痛んだ。
痛いです、と続けて口にした雪に、淳は謝る。
「ごめん」 「いや‥大丈夫‥清水香織のせいですから‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/c4/b84de86caa41c2d16d4f55538793cf8b.jpg)
そう言って首を横に振る雪に向かって、彼は尚も謝った。
「本当にごめん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/46/6e1b6d837b89203a7504f6e44cac45c7.jpg)
その「ごめん」が単に「痛くしてごめん」の意味じゃないことに、雪は気がついた。
自分の前にしゃがむ彼が俯いている姿を、改めて見つめる。
「ごめん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/aa/7bf21f9bb621453b0a97b2369afaabaa.jpg)
目を伏せながら謝罪を口にする彼に、雪は幾分驚いた。
目を丸くして、その姿を見つめている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/99/af9d018aaedb7a0681538abb17e415d6.jpg)
淳は雪の瞳を真っ直ぐに見つめながら、真剣に言葉を続けた。
「ただ闇雲に謝ることを、君が嫌がるのも分かってる。けどそれでも言わせて欲しい」
「ごめん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/6c/f3dab8e6c3536c019e305df46416128f.jpg)
突然切り出されたあの問題への謝罪に、雪は当惑して言葉を濁した。
すると淳は微かに微笑みを浮かべながら、雪の目を見て静かに言葉を続けた。
「俺は、急がないから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/57/51694f4f9be345850ca56b6cd87aaaa4.jpg)
「君がもう少し俺を理解して歩み寄ってくれるなら、それで満足だから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/7d/603f58d7b7b50056c7fe57f8e297e290.jpg)
淳は跪いた姿勢のまま、彼女の心に届くよう優しく言葉を続けた。
「だから、ずっと待てるよ。ゆっくりでも、君が近付いて来てくれるなら」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/1a/f74c89029aa335a84a8bc67b5a24fc04.jpg)
「ずっと待ってるから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/dc/ba1afee408182bd3d02e9096fa5d5d78.jpg)
彼の言葉が、夕闇迫る秋の空に溶けていく。
二人が付き合い始めたあの夏の日から、気がつけば季節を一つ越えていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/17/2f53f109ee71029c722f5a1cb052c858.jpg)
雪は沈黙したまま彼の言葉を受け止め、その意味を考えている。
彼は心の扉の中から出てこない。そこから彼女に向かって、「待ってる」と声を掛けている。
「‥私が先輩にまた歩み寄るって、分かったような口ぶりですね‥?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/4a/7c56141f55b67f91fa9bd6ad48e76850.jpg)
ポツリとそう口にした雪に、淳は口元を上げて言葉を返した。
「ああ。違うの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/29/f5cee105dd6366a4987fc228ddeeb113.jpg)
自信たっぷりにそう口にした淳に、雪は頭を抱えて一人悶々とした。
あ‥厚かましい‥!堂々としてるし‥!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/81/d8a8fac262e965b40bdef7cbae3c3a2b.jpg)
そんな彼女を、淳はニヤリと笑ったまま眺めている。
まるで結末は分かっているかのような顔をして。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/ea/531e330d570d5ae4993f7affcc17868b.jpg)
彼の笑みを目にした雪は、ただ渇いた笑いを立てるしか無かった。
そして彼は更に薬を雪の顔に塗り、雪は痛みに小さく声を上げる‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/12/f2d30aee1c7c136b454c9641b5b72afb.jpg)
やがて日も暮れ、先ほどまで橙色だった空には、濃紺の夜の帳が降りた。
雪は家の近くの道を、疲れた身体を引き摺るようにしてトボトボと歩いている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/3a/f02161a37e6c7e6d7b185b221fa61122.jpg)
そう、とにかく私には時間が必要だ
雪は歩いている途中も家に着いてからも、頭の中でずっと考え事をしていた。
試験が終わり、また家の仕事を手伝わなきゃいけないし、横山のことについても気を張らなくちゃいけない。
恵と付き合い始めた蓮がこれからどうするのか、蓮の気持ちも聞かなきゃいけない
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/7a/294550bbcf58b8da227b4b7cf69ac27e.jpg)
それに、学科の皆からどんな目で見られるだろうかという心配も尽きない
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/5f/8114360e261b1a5757d180f007ecd6b5.jpg)
おまけに、そこに先輩のことまで‥。
今でさえ疲労困憊なのに、更に疲労が降り積もっていく。そして先輩もそれを分かってる‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/88/17f825a48a02813626ae6f887c98bdd3.jpg)
部屋に入り、シャワーを浴びて、ご飯を食べて‥。
単調に作業をこなす雪の頭の中は、ゴチャゴチャとしてとても散らかっていた。
出来ることなら、全部投げ出してどこかへ行ってしまいたいくらいだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/4d/9d3b0daa0616cbde4595bf3bbdfd9081.jpg)
けれどそんなこと出来ないことくらい、雪はとっくに分かっていた。
ベッドに潜り込みながら、騒ぐ胸の内が頭の中を更にかき乱す。
特に今日は心が落ち着かない。
皆の前で床にしゃがみ込み、晒されていた清水香織の姿が瞼の裏に焼き付いて離れない
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/ba/3f8b84a6674750a368b0ef3f12db883c.jpg)
あの崩れ落ちた清水香織を見た時、雪は崩落した砂の城のようだと思った。
土台も無いところにギリギリまで積まれた、不安定な城が崩れたのだと。
そして、雪は思った。
崩れるのはほんの一瞬だ。
そして、再び立ち上がるには時間が掛かるだろう と。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/b7/d793fd99b34ceb45cf6191c5f2c88a21.jpg)
清水香織のことを、彼はこう語った。
清水香織のような被害者意識が過剰で、他人のものを自分のものと勘違いするような人間は、
いつもああいう風になってしまうんだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/84/2aaec74b41ea964b609c873d5ed70d23.jpg)
雪は彼の言葉に、頭の中で言葉を返した。
ううん、あの子の行く末があんな最低な終わり方じゃなかったとしても、
実際はそんなことどうでも良いんです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/34/4c5803ff11734aeaabb1c50722d11636.jpg)
あんな終わり方を期待して無かったとか、惨めな香織に罪悪感を覚えたとか、そういう訳じゃなかった。
再び、彼の言葉が脳裏に響く。
そんな人達には同情の余地も無いよ。心に溜め込まないで
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/91/265a46277efc795db13f1accca17d1ed.jpg)
そして雪は自分の気持ちを丸裸にして、頭の中でそれを伝える。
先輩はそう言っていたけど、同情でこんな気持ちになったんじゃないんです。
余計な煩わしさは少しでも減らしたい、そんな私のエゴってだけ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/b1/7e13b304d33f7ca486846a5d2ac0a1d3.jpg)
あんな終わり方になってしまうと、後の処理が大変だ。
それに向き合って事後処理にまた気を遣うパワーなど、今の疲れた雪には皆無だった。
だからそこに後悔したというだけだ。清水香織に同情なんてしていなかった‥。
眠りに落ちる寸前まで、雪の頭の中は考え事でいっぱいだった。
脳裏に色々な人の顔が浮かんでは消える。
清水香織は、なぜ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/b7/37dc8a59186c883ccdbbb6305a2cbdfc.jpg)
先輩は、どうして‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/44/a8c248b59611fd8a6c69a49654219c2d.jpg)
お父さんは、お母さんは、蓮は‥。皆はなぜ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/ca/4370d8fed30d8c2ace05a35bacd22ef8.jpg)
無意識に他人のことに頭を悩ませる、それは雪の性分だった。
想像を越えて、理解し難い「心」というもの。
雪は他人のそれを考えるうち、自分の心も彷徨っていくような気持ちがした。
私は、なぜ‥?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/8f/683cd0f7c164c213727de96090d43e5e.jpg)
自分のものなのに、心は時に暴走して理性の範疇に収まらない。
そしてそれを動かしている性分というものは、滅多なことでは変わらない。
変わらない姿勢で彼女を待ち続ける、扉の向こうで鎮座する彼のように。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/1d/8bdc3620f83a1bcfb35209bab42b0bcf.jpg)
雪は次第に眠りに落ちて行った。
意識が無くなる寸前に見えた誰かの顔は、白んでいてよく分からなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<性分>でした。
この「どうして‥?」と悶々と考える雪ちゃんは、特別編の雪ちゃんを思い出しますね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/31/f4d3240c7dd8a0d18522fd21bd9c8d13.jpg)
考えてもしょうがないことを考え続けてしまう、萌菜はそんな雪を「疲れない?」と一蹴しますが、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/05/ffbf6db6ccc2c53c3a5c801ecf6cdb76.jpg)
なかなか雪は自分のそんな性分を変えることが出来ない。
極限に疲れた時にこそ、人の「性分」というものは姿を表すようです。
あの「疲れがピークだった日」に、雪を見つけた淳のように。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/cc/5305a6851c297202c143c3b8bc0d805d.jpg)
そして今回が雪ちゃんのそれでしたね。
そんな彼女は、扉の向こうで動かない淳の「性分」が変わらないことを見抜いて、また頭を悩ませるわけです‥。
ちなみに、その淳の「性分」が形作られる過程での話が本家版の流れでは次に来るのですが、
これは以前の記事<父の相談>にて記事を上げてますので、そこを御覧ください。
次回は<ジャンヌ・ダルクを讃えて>です
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暫し彼が薬を塗るのに身を任せていた雪だが、不意に触れられた傷がひどく痛んだ。
痛いです、と続けて口にした雪に、淳は謝る。
「ごめん」 「いや‥大丈夫‥清水香織のせいですから‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/b6/760f89d46973cbb785a15732894d3b58.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/c4/b84de86caa41c2d16d4f55538793cf8b.jpg)
そう言って首を横に振る雪に向かって、彼は尚も謝った。
「本当にごめん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/46/6e1b6d837b89203a7504f6e44cac45c7.jpg)
その「ごめん」が単に「痛くしてごめん」の意味じゃないことに、雪は気がついた。
自分の前にしゃがむ彼が俯いている姿を、改めて見つめる。
「ごめん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/aa/7bf21f9bb621453b0a97b2369afaabaa.jpg)
目を伏せながら謝罪を口にする彼に、雪は幾分驚いた。
目を丸くして、その姿を見つめている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/99/af9d018aaedb7a0681538abb17e415d6.jpg)
淳は雪の瞳を真っ直ぐに見つめながら、真剣に言葉を続けた。
「ただ闇雲に謝ることを、君が嫌がるのも分かってる。けどそれでも言わせて欲しい」
「ごめん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/6c/f3dab8e6c3536c019e305df46416128f.jpg)
突然切り出されたあの問題への謝罪に、雪は当惑して言葉を濁した。
すると淳は微かに微笑みを浮かべながら、雪の目を見て静かに言葉を続けた。
「俺は、急がないから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/57/51694f4f9be345850ca56b6cd87aaaa4.jpg)
「君がもう少し俺を理解して歩み寄ってくれるなら、それで満足だから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/7d/603f58d7b7b50056c7fe57f8e297e290.jpg)
淳は跪いた姿勢のまま、彼女の心に届くよう優しく言葉を続けた。
「だから、ずっと待てるよ。ゆっくりでも、君が近付いて来てくれるなら」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/1a/f74c89029aa335a84a8bc67b5a24fc04.jpg)
「ずっと待ってるから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/dc/ba1afee408182bd3d02e9096fa5d5d78.jpg)
彼の言葉が、夕闇迫る秋の空に溶けていく。
二人が付き合い始めたあの夏の日から、気がつけば季節を一つ越えていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/17/2f53f109ee71029c722f5a1cb052c858.jpg)
雪は沈黙したまま彼の言葉を受け止め、その意味を考えている。
彼は心の扉の中から出てこない。そこから彼女に向かって、「待ってる」と声を掛けている。
「‥私が先輩にまた歩み寄るって、分かったような口ぶりですね‥?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/4a/7c56141f55b67f91fa9bd6ad48e76850.jpg)
ポツリとそう口にした雪に、淳は口元を上げて言葉を返した。
「ああ。違うの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/29/f5cee105dd6366a4987fc228ddeeb113.jpg)
自信たっぷりにそう口にした淳に、雪は頭を抱えて一人悶々とした。
あ‥厚かましい‥!堂々としてるし‥!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/81/d8a8fac262e965b40bdef7cbae3c3a2b.jpg)
そんな彼女を、淳はニヤリと笑ったまま眺めている。
まるで結末は分かっているかのような顔をして。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/ea/531e330d570d5ae4993f7affcc17868b.jpg)
彼の笑みを目にした雪は、ただ渇いた笑いを立てるしか無かった。
そして彼は更に薬を雪の顔に塗り、雪は痛みに小さく声を上げる‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/12/f2d30aee1c7c136b454c9641b5b72afb.jpg)
やがて日も暮れ、先ほどまで橙色だった空には、濃紺の夜の帳が降りた。
雪は家の近くの道を、疲れた身体を引き摺るようにしてトボトボと歩いている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/3a/f02161a37e6c7e6d7b185b221fa61122.jpg)
そう、とにかく私には時間が必要だ
雪は歩いている途中も家に着いてからも、頭の中でずっと考え事をしていた。
試験が終わり、また家の仕事を手伝わなきゃいけないし、横山のことについても気を張らなくちゃいけない。
恵と付き合い始めた蓮がこれからどうするのか、蓮の気持ちも聞かなきゃいけない
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/34/ec85f11eda91fc914362c5b0cd98e282.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/7a/294550bbcf58b8da227b4b7cf69ac27e.jpg)
それに、学科の皆からどんな目で見られるだろうかという心配も尽きない
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/5f/8114360e261b1a5757d180f007ecd6b5.jpg)
おまけに、そこに先輩のことまで‥。
今でさえ疲労困憊なのに、更に疲労が降り積もっていく。そして先輩もそれを分かってる‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/28/18f4732b506aa357ab1ee7a3205adaa7.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/88/17f825a48a02813626ae6f887c98bdd3.jpg)
部屋に入り、シャワーを浴びて、ご飯を食べて‥。
単調に作業をこなす雪の頭の中は、ゴチャゴチャとしてとても散らかっていた。
出来ることなら、全部投げ出してどこかへ行ってしまいたいくらいだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/4d/9d3b0daa0616cbde4595bf3bbdfd9081.jpg)
けれどそんなこと出来ないことくらい、雪はとっくに分かっていた。
ベッドに潜り込みながら、騒ぐ胸の内が頭の中を更にかき乱す。
特に今日は心が落ち着かない。
皆の前で床にしゃがみ込み、晒されていた清水香織の姿が瞼の裏に焼き付いて離れない
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/ba/3f8b84a6674750a368b0ef3f12db883c.jpg)
あの崩れ落ちた清水香織を見た時、雪は崩落した砂の城のようだと思った。
土台も無いところにギリギリまで積まれた、不安定な城が崩れたのだと。
そして、雪は思った。
崩れるのはほんの一瞬だ。
そして、再び立ち上がるには時間が掛かるだろう と。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/b7/d793fd99b34ceb45cf6191c5f2c88a21.jpg)
清水香織のことを、彼はこう語った。
清水香織のような被害者意識が過剰で、他人のものを自分のものと勘違いするような人間は、
いつもああいう風になってしまうんだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/84/2aaec74b41ea964b609c873d5ed70d23.jpg)
雪は彼の言葉に、頭の中で言葉を返した。
ううん、あの子の行く末があんな最低な終わり方じゃなかったとしても、
実際はそんなことどうでも良いんです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/34/4c5803ff11734aeaabb1c50722d11636.jpg)
あんな終わり方を期待して無かったとか、惨めな香織に罪悪感を覚えたとか、そういう訳じゃなかった。
再び、彼の言葉が脳裏に響く。
そんな人達には同情の余地も無いよ。心に溜め込まないで
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/91/265a46277efc795db13f1accca17d1ed.jpg)
そして雪は自分の気持ちを丸裸にして、頭の中でそれを伝える。
先輩はそう言っていたけど、同情でこんな気持ちになったんじゃないんです。
余計な煩わしさは少しでも減らしたい、そんな私のエゴってだけ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/b1/7e13b304d33f7ca486846a5d2ac0a1d3.jpg)
あんな終わり方になってしまうと、後の処理が大変だ。
それに向き合って事後処理にまた気を遣うパワーなど、今の疲れた雪には皆無だった。
だからそこに後悔したというだけだ。清水香織に同情なんてしていなかった‥。
眠りに落ちる寸前まで、雪の頭の中は考え事でいっぱいだった。
脳裏に色々な人の顔が浮かんでは消える。
清水香織は、なぜ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/b7/37dc8a59186c883ccdbbb6305a2cbdfc.jpg)
先輩は、どうして‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/44/a8c248b59611fd8a6c69a49654219c2d.jpg)
お父さんは、お母さんは、蓮は‥。皆はなぜ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/1c/13b8fbaefd846a83692267a7626bba1a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/ca/4370d8fed30d8c2ace05a35bacd22ef8.jpg)
無意識に他人のことに頭を悩ませる、それは雪の性分だった。
想像を越えて、理解し難い「心」というもの。
雪は他人のそれを考えるうち、自分の心も彷徨っていくような気持ちがした。
私は、なぜ‥?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/8f/683cd0f7c164c213727de96090d43e5e.jpg)
自分のものなのに、心は時に暴走して理性の範疇に収まらない。
そしてそれを動かしている性分というものは、滅多なことでは変わらない。
変わらない姿勢で彼女を待ち続ける、扉の向こうで鎮座する彼のように。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/1d/8bdc3620f83a1bcfb35209bab42b0bcf.jpg)
雪は次第に眠りに落ちて行った。
意識が無くなる寸前に見えた誰かの顔は、白んでいてよく分からなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<性分>でした。
この「どうして‥?」と悶々と考える雪ちゃんは、特別編の雪ちゃんを思い出しますね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/31/f4d3240c7dd8a0d18522fd21bd9c8d13.jpg)
考えてもしょうがないことを考え続けてしまう、萌菜はそんな雪を「疲れない?」と一蹴しますが、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/05/ffbf6db6ccc2c53c3a5c801ecf6cdb76.jpg)
なかなか雪は自分のそんな性分を変えることが出来ない。
極限に疲れた時にこそ、人の「性分」というものは姿を表すようです。
あの「疲れがピークだった日」に、雪を見つけた淳のように。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/cc/5305a6851c297202c143c3b8bc0d805d.jpg)
そして今回が雪ちゃんのそれでしたね。
そんな彼女は、扉の向こうで動かない淳の「性分」が変わらないことを見抜いて、また頭を悩ませるわけです‥。
ちなみに、その淳の「性分」が形作られる過程での話が本家版の流れでは次に来るのですが、
これは以前の記事<父の相談>にて記事を上げてますので、そこを御覧ください。
次回は<ジャンヌ・ダルクを讃えて>です
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