
父はフンと息を吐くと、蓮に向かって言葉を掛けた。
「雪ばっかりと言うが、それは雪がそれだけ努力してるからだろう、バカモンが」
「アンタお父さん見てたら分かるでしょ?簡単に儲けようとすると簡単に失敗するのよ」
「なんだと?!」

淳はその場に立ち尽くしたまま、問題を解決して行く赤山家をただ眺めていた。
自分が立つこの場からは、雪の表情は窺えない。
「とにかく親のことを心配する前に、まずは自分のことをきちんとやりなさい」
「あいっ!」

雪の父は淳に向き直ると、息子の非礼を詫びた。
「助けに来てくれて感謝するよ。うちの愚息が迷惑を掛けたね。まったくお恥ずかしい‥」
「あ、いいえそんなことは‥。大変だったのは雪ちゃんですよ。
大事にならなくて幸いです。若気の至りというやつでしょう。あまりお叱りになりませんよう‥」「ああ」

その隣では、蓮と恵が会話している。
「大変だったね、蓮」「ウン‥」

「二度とこんなことしないで。あたし本当に心配したよ」

恵の温かな言葉に、思わず蓮はウルウルと涙ぐんだ。恵はそっと蓮の頬に手を伸ばす。
「とりあえず二人でちょっと話さない?これからのこととかさ」
「キンカン‥」「最初に言っとくけど、」

そう前置きする恵に蓮が「え?」と聞き返すと、彼女は衝撃発言をした。
「次こんなことしたら別れるからね?」

思わずゾゾッと身震いする蓮を引っ張って、恵は元気良く彼の両親に挨拶する。
「おじさんおばさん、あたし達先帰りますね!タクシー呼びました!」
「恵ちゃん、蓮のこと懲らしめてやってね」

「お先失礼します〜」

そうして去って行く蓮と恵の後方で、亮は人知れず皆に背を向けた。
するとその背中に、雪の母の声が掛かる。
「亮君!」

「何こっそり帰ろうとしてるの」「あーっと‥」
「最近はどう?上手くやってるの?」
「ハイ、まぁ‥。近いうちにご挨拶に行きます」

言葉を濁す亮のことを、雪の母はまっすぐ見つめてこう言った。
「そうね。亮君は真面目で仕事もきちんとやるから、
どこへ行っても上手く行くと思うわ」

そう言って彼にエールを送る。少し離れた所から、雪の父も亮に声を掛ける。
「辞めたからって遠慮せずに時々メシでも食いに来るんだぞ!」「‥ハイ」


赤山家の父と母は、温かな目で亮のことを見つめていた。
少し離れている場所に居た雪も、亮に向かって会釈する。

しかし亮は雪から視線を外すと、そのまま皆に背を向けた。
「それじゃこれで‥帰ります」「ああ、じゃあな」「今日はありがとうね!」
「先輩、今日はこのまま帰ります。親と一緒に帰った方がいいと思うので‥」
「そうだね、そうした方がいい」

「それじゃ失礼します」
「ああ、運転気をつけてな。良い車に乗ってるな‥」「アナタ何言ってるのよ」
「はい」


淳は雪が車に乗り込むのを見送った。
自身を見つめる淳に向かって、雪が最後に声を掛ける。
「先輩」

「今日は本当に本当にありがとうございました。気をつけて帰って下さいね」

雪はそう言ってニッコリと笑った。心からの笑顔で。
「うん、じゃあね」

淳もまたニッコリと笑っていた。
しかしその笑顔がどこか不自然なそれだったことに、ガラス越しの雪は気が付かない。


その車が走り出しても、淳は暫くの間そこから動かなかった。
胸の中をざわつかせるその感情と、その変化の余韻が淳を縛り付ける‥。


握れなかったその手は、ポケットの中に置いてけぼりになった。
もう雪の姿はとっくに見えなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<変化の余韻>でした。
問題解決した赤山家と、そこに未練を残さないよう去って行く亮、そして無言で雪を見送る淳‥。
本当一難去ってまた一難です。引き続き暗雲漂ってます〜〜(TT)
でも次回は心温まるお話ですよ^^
<時の流れ>です。
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雪ちゃんを自分の手の内に置いておきたかったのに、黒淳化したために自立して自分の出る幕がなくなったと?
雪ちゃんが頼ってくれなくなると、あたたかい家庭や友達もいる雪ちゃんは自分から離れて行ってしまうという不安があるのでしょうか。
雪ちゃんもグレー化し始めて、先輩の手が必要なくなったってことですか?!?!ンンンン????
とりまいい方向ではないのか...?
ボキャ貧で気の利いたコメントは出来ませんが、いつも楽しく読ませていただいております。ありがとうございます。
育児、大変かと思いますがこれからもご無理はせずに頑張っていただけたら嬉しいです。
ますます雪と自分との隔たりを感じている淳が露呈しているよう。
なんだか淳が哀れに見えて来ます。。
雪ちゃんが離れていったら自分はまた1人になってしまう。
勝手にモノローグ考えてました。
ここのあたり淳視点で読んだら辛いですね。
まずはサイト主様翻訳ありがとうございます
淳は雪もそして亮でさえも家族もしくはそれに値する者がいて、なにかしらの集団の一員で孤独なのは自分だけ、同類は誰1人としていないことに気づいてしまったのかな、って思いました。わたしの見解ですが。。とりあえず
チートラ大好きです!!笑
この次々回の記事で淳のモノローグが出てくるので、詳しくはその回の後で色々語り合えたら嬉しいなと思います!
ぴのぴさん初コメありがとうございます^^
3日でここまで辿り着く猛者!睡眠不足が心配ですよ!お体大切にしてくださいね!
この文はどういう意味ですか?
"앞으로 어디 한번 개털이랑 지지고 볶고 잘 해봐라"
亮が言った
第63章
ありがとうございました
わはは!むくげさん面白い!
あの醜態を見て愛が冷めないのすごいですよね‥恵、菩薩なのか‥??
まいくさん
お、先週分の亮の台詞ですね。
ちょっと日本語にしにくい言い回しっぽいんですが、おそらく
「せいぜいダメージと腹割って話し合ってみるんだな」みたいな感じだと思います。そこに少しエール要素も含まれそう。続く台詞が「これは本心だぜ」ですし。