Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>彼との相違

2016-04-03 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)



雪はふらつく身体で、学祭に浮かれた構内を歩いていた。

まるで鉛でも飲み込んだかのように、その足取りは重い。







疲れ切った顔で辺りを見回してみると、皆楽しそうに笑っていた。

窮屈な日常の合間にある非日常を、誰しもが心から楽しんでいるように見える。



あまりにも、自分とは違っていた。

同じ大学生なのに、同じ立場であるはずなのに、彼らとは何もかもが違って見える。






雪は疲れて凝り固まった顔を、手の平でぐいぐいとほぐしてみた。

それでも口から漏れるのは、疲れ切った溜息だけだ。







ぼんやりと前を見つめながら、雪は昨日彼が口にしたその言葉を思い出していた。

やったからって誰も見てないって



そしてその言葉を、覆すかのような今日の皆の反応も。

「先輩、まだ調子悪かったら今日はもう帰って下さい。昨日は一人で大変だったんですから」

「淳がいなかったらまともに準備も出来なかったって」

「風邪引いてるなんて知らなくて‥知ってたらうちら残ったのに!」



モヤモヤとしたものが、胸の中に広がって行く。

良かったね。見ててくれる人が沢山居て



心の中で呟いたその皮肉は、昨日の自身の姿をどんどん惨めにした。

急に降り始めた雨の中、誰にも気づかれないのに、作業を続けた自分‥。



ある意味、青田淳の言った通りだった。

やったって誰も見てはくれない、きっと彼もそれを分かっていた。

あの時‥帰れって言われた時、

そのまま帰って勉強でもしてれば良かったのに




どうして私は‥残って作業して、雨に降られて、ストレス溜めて‥

結局学祭に参加さえ出来ないのに‥




疲労で重たい身体を引き摺りながら、皆が学祭を楽しんでいる構内を後にする雪。

脳裏には、熱に浮かされて寝込んでいる彼の姿が浮かぶ。



あの時雪は、確かに思ったのだ。

もしかしたらこの人も、私と‥



同類なのかもしれない、と。






思わずプハッと、雪は吹き出した。

似てるとか‥ありえないっつーの!



プクク‥



自虐的な笑いが、だんだんと込み上げて来る。

私、バカじゃん?恥ずかしげもなくあんな風に考えて‥マジありえないから!



はは‥



考えれば考える程、彼との相違を感じて可笑しくなった。

こんなことを考えているのなんて、世界中で自分くらいのものだろう、と。

マジで私が一番変人だわ



雪は自虐的な自身の考えに笑った。

自分が”変”であることを前提にして。


するとそんな彼女の元に、メールが一通届いた。

帰ってくる時、お惣菜買って来てくれる?

最近余裕なくて、おかずが切れてることにも気付かなかったわ




母から、夕飯のおつかいのリクエストだった。

しかし今雪の財布には、手持ちが随分と少なかったはず‥。

それ買ったら、明日の私のお昼ご飯‥



ちょっと計算してみたものの、深く考えるのは止めにした。

雪は薄く微笑みながら、様々なことを諦める。



うん、まぁどうにかなるさ!



そして雪はそのまま、学祭に参加することなく家へと帰って行った。

彼女が去った後の構内では、楽しそうな声が響き続けている。



雪が準備に奮闘した経営学科のバーも、大盛況に終わった。

その賑わいも皆の笑顔も、雪が目にすることは無かったけれど。



そしていつしか、祭りは終わった。

雪と淳不在の学祭は、これにて幕が下りたのだった。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>彼との相違 でした。

長かった学祭準備から学祭までがこうして終わりました。

でも本番は雪も淳も不在なんですね。二人のエプロン姿見たかったなぁ‥。


次回は<雪と淳>勘違い です。

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<雪と淳>無意識の許容

2016-04-01 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
バーで目覚めた淳は自分の鞄の中に入っていた折りたたみ傘を、

そっとその場に置いて来た。まだ雨はザアザアと降りしきっていたが。



寝ている彼女にブランケットを掛け、そのまま淳はその場を去った。

それが昨日のこと。








今日になってしきりに、後方に気配を感じていた。

皆と別れ、一人になると尚の事気配は強くなる。

ゴホッゴホッ!



というか、全く隠し切れていないのだ。

彼女は常に咳き込んでいたし、柱の陰には常にその姿が見え隠れした。



傘を握り締めながら、咳込み、鼻を啜る彼女。

気づかれてないとでも思っているのだろうか。






淳はチラと後方を窺いながら、そのまま一人歩き続けた。

無意識にその歩調を、僅かに緩めながら。






彼女はずっとついてくる。一体いつ傘を渡してくるのだろうか。

彼女と自分を繋ぐ接点は、一体どうやって繋がるんだろうかー‥。

ふっ






今自分が微かに笑ったことに、淳は驚き口元に手を当てた。

いつの間にか、無意識下で許容していた彼女の存在。彼女に対して、こんな感情を持つなんて‥。









突如、思い浮かぶ光景があった。

淳は目を見開きながら、その暗い記憶を一人辿る。

聞こえてくるのは、まだ高校生だった自身の笑い声‥。

「ははは!はは‥」



「は‥」



それは亮と静香と共に、公園で花火をした時のあの記憶だった。

自分はどうしていつも肩肘張って一人で足掻いているのだろうと、自由奔放な亮と静香を見ていて可笑しくなった‥。







ひとしきり笑った淳が夜空を見上げていると、そんな淳を見ていた亮と静香はニコッと笑った。

楽しそうに。心から嬉しそうに。

「淳ちゃんってばー」「こいつめー」



「んな風に笑ってんの初めて見たぞオイ!はははっ」



そして亮は、こう言ったのだった。

楽しそうに、心からその言葉を。

「変なヤツー」








雪はじっと彼のことを凝視していた。

気難しそうに口を噤み、じっと何かを考える彼の横顔を。







青田淳は腕組みをしながら、皆の中で静かに佇んでいた。

表情無く俯く彼を見て、キノコ頭こと、金城美沙が声を掛ける。

「あれ?!先輩、まだ調子悪いんですか?!」



その騒がしい声を契機に、周りの視線は淳に集まり始めた。

「ホントだ!顔色も悪いですよー」「昨日残って一人で作業されたんでしょう?」

「ええー大丈夫?」



糸井直美が皆に向かって、昨日の作業についてかいつまんで説明し始める。

「そういえば雪ちゃんとうちらがポスター貼りの仕事残して帰ったから、

淳君一人で全部やったんだよね。風邪引いてるなんて知らなくて‥知ってたらうちら残ったのに!」



「ごめんね~?」

「先輩、まだ調子悪かったら今日はもう帰って下さい。

昨日は一人で大変だったんですから」




すると淳の隣に居た柳が、皆の気持ちを代弁するかのようにこう語り始めた。

「うんうん、淳はスゲーよ」



「ぶっちゃけインフルのせいでグダグダ感半端ねーし。

淳がいなかったらまともに準備も出来なかったって」




ざわざわ、ざわざわと、喧騒が淳の感覚をぼかして行く。

自身のことを言われているのに、その騒がしさの間に沈み込んで行くような、そんな感覚だった。

「一人で皆をまとめて後片付けまでやってよぉ」「ですよね!」

「うん‥」



曖昧に、ぼんやりと頷く淳。

するとそんな彼の意識を引き戻すかのような音が、その場に響いた。

タン!







いつの間にか隣に来ていた雪が、傘を机の上に置いた。

彼女は若干強張ったような表情で、彼の方を見ぬまま固まっている。







淳はまだどこかぼんやりとした表情で、そんな彼女の横顔をじっと見つめていた。

そして先ほどまで皆が話していた内容を思い出し、あっと気がつく。



淳はいつもの笑みを浮かべると、皆の方を向いて口を開いた。

「いや、雪ちゃんも‥」



しかし雪は、何も言わぬままただペコリとお辞儀をして去って行った。

自分も残って作業したとも、その大半を自分がやったとも、一言も漏らすこと無く。



「何だ?」「傘?」



淳はあんぐりと口を開けながら、小さくなる彼女の背中をただ見つめるしかなかった。

彼女と自分を繋ぐその接点が、プツリと切れた現状を目の当たりにしながら‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>無意識の許容 でした。

嫌悪するべき存在に対して、淳が無意識下で漏らした笑み。

それは雪に対しても、昔の河村姉弟に対しても同じだったんでしょうね。

淳が花火の記憶の後また固く口を噤んだのは、心の扉が緩んでも、どうせまた裏切られると思い直したのかな。

ここから淳の感情がどう転んで行くのか、楽しみですね~

2016.4.1
スンキさんのブログにて、ストレス性腸炎の為、本家は三週間休載とのことです(T T)

ということで、このブログがまたまた最新話に追いつく日も近そうです。。うう‥

しかしストレス性腸炎て‥まんま雪ちゃんですねスンキさん‥お大事に‥


次回は<雪と淳>彼との相違 です。

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<雪と淳>喧騒の狭間

2016-03-30 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
ううっ‥



講堂での授業中、雪は腹部に痛みを感じて表情を曇らせた。

聡美はそんな雪を見て「顔色悪いね」と心配そうに声を掛ける。

咳はなんとか治まったっぽいけど‥風邪の終わりかけなのかな、

今度は胃が痛い‥。病院行くべき?




なかなか治りきらない身体。しかし雪はグッと痛みに耐え、気を引き締めた。

いや、このくらいなら我慢出来るな。お金も無いし‥

 

そう決めた雪は、結局授業が終わるまでその場に座り続けた。

そして終了のチャイムが鳴ると、大講堂から学生達が一斉に流れ出る。



ざわざわと動く人の波。

その中で青田淳は、一人目を閉じてその狭間に沈んでいた。

「はい注目ー」



「三、四年は自主参加だから授業ある人は行って。

一、二年は出来るだけバー行って手伝ってくれ。あ、ちなみに一年は強制参加な」




淳はぼんやりと目を開けた。

顔の無い人々が、彼の目の前を無数に動いて行く。

「特に準備に参加しなかった奴には積極的に来いって言っといてな」

「はーい」「バーってどこにあるんだっけ?」



淳は目の前に広がる光景を、ただその場で俯瞰していた。

全てが心の表面を滑って行く。人も、言葉も。

まだ体調が完全には回復していないのかもしれない。

まるで水の中に居るみたいに、全ての声が薄い膜の向こう側で響いている。



「インフル流行ってるって‥」「準備した人達、皆ざっくりとしかやんなかったらしいよ」

「てかメニューって何があるの?」「うーん金が‥」

「料理得意な子居る?」



そんな喧騒の中で、少し聞き覚えのある声がした。その中に出てくる名前が、真っ直ぐに耳に届く。

「うちら二人は準備参加出来なかったからバー行くつもりだよ。

雪、アンタ昨日雨に降られてからずっと調子悪そうじゃん」


「俺、後で話しときますからこっそり抜けたらどうデスか」

「ちょっと変な目で見られるかもだけど‥OK?」



淳はその会話を聞きながら、指先をトン、トン、と一定のリズムで動かしていた。

彼女がどんな返事をするのか、無意識に待っている自分が居る。

「‥‥‥‥」



「うん‥ありがと」



まるで突然自身を覆っていた水の膜が弾けたかのように、その声はハッキリと淳の耳に届いた。

淳は目を丸くしながら、その声の主の方を向く。



案の定そこに彼女は居た。

顔のない人々の間で、彼女だけには表情がある。






しかしすぐに、彼女は雑踏の中に紛れ込み見えなくなった。

ざわざわと響く喧騒の狭間。いつの間にか彼女を探している。






淳は彼女から目を逸らした。

彼女を気にする自身からも、目を逸らすような心持ちで。

そんな中、彼女の声が再びハッキリと耳に届く。

「あ、これ?私のじゃないの。青田先輩の‥」






彼女の口から自分の名前が出たことに、淳は訳もなく衝撃を覚えた。

頭は未だにその変化について行けないまま、ただ耳だけが彼女らの会話を追っている。

「なんで返さないで持ってんの?」「それは‥どうしてなんだろうね」

 

続けて彼女が言ったその言葉は、淳の心を突き動かした。

「本当に変人でしょ」



「マジで超おかしいんだよ私‥」「それは今に始まったことじゃないですヨ」

「今世界で一番変なのって私だと思う」「アンタ今熱でちょっとおかしくなってんのよきっと」



「早く返しちゃって、家帰って寝な。分かった?」







淳は彼女の方を向いた。

人ごみの間に、微かに見えるオレンジ色の頭。



その手に握られている、自分の傘‥。






淳は雑踏の狭間で見え隠れする彼女から、目が離せなかった。

遂に雪が自分の方へ、彼女の方からやって来る‥。



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<雪と淳>喧騒の狭間 でした。

淳は疲労のピークや体調が悪い時、こんな風に人々の間に沈み込みますね。

そしてやはりそんな時は、雪に意識を持って行かれてしまう、と。

今回は雪と淳以外の人の顔がほとんど描かれていないのが印象的です。


次回は<雪と淳>無意識の許容 です。


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<雪と淳>対照

2016-03-28 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
翌日。



青田淳が置いていった傘を手に持ちながら、雪は構内に佇んでいた。

ゴホゴホと咳込みながら、彼の姿を探して廊下を歩く。

とにかく‥返さなくちゃ



「あ」



廊下の突き当たりに差し掛かった時、遂にその姿を見つけた。

噂をすれば‥



彼に向かって一歩踏み出そうとした雪。

しかしすぐにその足を止める。

またいっぱい引き連れて‥



青田淳は同学科の男子学生に囲まれながら、ぞろぞろと廊下を歩いていた。

雪はそんな彼に声を掛けられるはずもなく、傘を握り締めたままその場に佇む。



不意に、全てが馬鹿馬鹿しくなった。

本当にウンザリだ。あの人に話し掛けようか掛けまいか悩むのも



へりくだって、無視されて、観察して、警告されて‥。

あの人に関わると、いつも神経がささくれ立つ。

嫌というほど目にした、あの疎ましい後ろ姿‥。







もう彼のことを気にすること自体が、嫌になっていた。

けれどこの手の中にあるのは、彼が置いていった彼の所有物‥。

もうこれで本当に最後なんだから



雪はそう自身に言い聞かせて、手の中にあるその傘を握り締めた。

そしてタイミングをはかりながら、彼の後をつけて行く‥。



彼の周りに居た学生達が、一人、また一人と離れて行った。

雪は彼の背中を追いかける。



ようやく一人に‥



一人きりになったところを見計らって、雪は彼に声を掛けようと駆け寄った。

しかし声を出そうとしたその時、急に咽るように咳き込んでしまう。

ゴホッゴホッ






その間に、淳は携帯で誰かと通話を始めた。

その表情は明るい。







昨日熱を出して寝込んでいた人とは、とても思えなかった。

雪はまだしんどい自身と対照的な彼に、じっとりとした視線を送る。

顔色良いじゃん‥。いいね、健康だからすぐ治って‥くっ‥

「はい、」



「父さんは俺にすごく期待してるから」



不意にそんな言葉が聞こえてきた。

どうやら淳は、自身の家族と会話しているようだ。

「はい、はい」



「また家の方にもちょくちょく顔出して下さいよ。

一人暮らしになってから父さんの顔もめったに見れないし、母さんにしてもこのままじゃ顔も忘れそう」




「はい、大学生になって子供に逆戻りしたみたいです」



「あはは」







彼の笑顔を目にし、その会話を聞いている内に、雪の胸中にモヤモヤとしたものが膨らんで行った。

そして思い出すのは、昨日父親から言われた心無い言葉‥。

「この家にゃ使える人間が一人も居やしない!」






彼に返さなくてはいけない傘を握り締めながら、雪はずっとその場に佇んでいた。

自分とはあまりにも対照的な彼の、その会話を聞きながら‥。







淳は携帯電話を耳に当てながら、ふと後ろを振り返ってみた。

そこにある木の向こう側に、彼女の気配を感じながら‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>対照 でした。

これは学祭準備(雪と淳が熱を出して寝込んだ日)の翌日ですね。

今日は午前中は授業で、午後から学祭らしいです。一日中じゃないんですね‥。


次回は<<雪と淳>喧騒の狭間>です。

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<雪と淳>あの日の続き

2016-03-26 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
取って食われてしまう



不吉な言葉が、ズキズキと痛む雪の頭の中を廻り続けている。

思い出すのは、込み上げる吐き気と高熱の倦怠感。



耐えられず嘔吐し、雪は動かぬ身体で壁に凭れていた。

脳裏に浮かぶあの残像と、鼓膜の裏で響くその言葉に苛まれながら。



本気で取って食われてしまう



ゾクゾクと悪寒が全身に駆け巡る。

高熱のせいだろうか、それともこの身に蓄積した恐怖のせいだろうか。



いつの間にか傍らに佇んでいた彼。

身動きも取れない。

遠くで鳴っていた雷鳴が、すぐ傍へと迫り来る‥。









雨足は相変わらず強いままだった。

しんとした室内には、ただ雨音と雷鳴の音だけが響いている。







雪はようやく、深い眠りの淵から目覚めた。

そこに見えたのは、見慣れない天井。



状況を把握するのに数秒掛かった。

そして把握するやいなや、雪は白目になってガバッと起き上がる。

「‥!」






目の前に広がるのは、学祭を明日に控え、飾り付けが施されたバーの風景だった。

状況を理解した雪は、目を見開いて隣りにあるソファの方を見やる。

バッ!



雪が眠りに落ちる前、そこには青田淳が寝ていたのだ。

しかし今は誰も居ない。雪は安堵の溜息を漏らした。

ふーっ‥



ようやく少し落ち着いた雪は、今の自身の状況を改めて顧みる。

何‥私ここで寝ちゃったの?

疲れたからちょっと休もうと思って、座ってただけだったのに‥




ぐるりと店内を見回した後、傍にあるテーブルの上へと視線を流した。

そこには、雪が青田淳の為に置いた薬と水がそのまま置いてある。



そして少し離れた所にある自身の鞄の傍に、

傘が置かれているのに気がついた。



雪のではない。だとすれば‥



未だ雨は降り続いているようだった。

雪はまだ若干湿っている服に寒気を感じ、ゴホッと大きく咳き込んだ‥。









どうにか家へと辿り着いた雪。しかしまだ咳は止まらない。

気怠い身体をどうにか動かし室内へと入る。

「ただいま‥」



「あ‥誰も居な‥」



暗い室内を見て、雪がそう呟いた時だった。

突然後ろから、誰かが雪を押し退けて家へと入る。

「ひっ!」



思わず身体を強張らせた雪だが、見慣れたその背中に、ホッと胸を撫で下ろした。

「お父さん!」



父は大きな足音を立ててズンズンと室内を進んで行った。

雪は未だドギマギしながら、その背中に声を掛ける。

「階段使ったの?ビックリ‥。お父さん?」



父は娘の言葉には返答せず、ただ無言で何かを探していた。

呆気に取られて玄関に佇む雪に、やがて父は荒々しい口調でこう問い掛ける。

「雪、お前あの書類が入った封筒見なかったか?茶色の‥」

「えっ?ううん、私は‥」



雪は自分は今帰って来たところだからと言葉を続けようとしたが、それはかなわなかった。

父は大声で苛立ちを口にしながら、そのまま家を出て行く。

「あー!くそったれ!この家にゃ使える人間が一人も居やしない!あ、木村社長!」

 

「それは私が今‥」



バタン!と大きな音を立てて、ドアが閉まった。

雪は”使えない”と言い捨てられたまま、ただその場に立ち尽くす‥。






ゴホッゴホッ‥



繰り返す咳で、浅い眠りはすぐに途切れてしまう。

熱は未だにあるようで、こんな時間にも関わらず雪はまだ眠れずに居た。

すると枕元に置いてあった携帯電話が、不意にメールを受信する。



こんな時間にメールを送ってくるのは、一人しかいない。

雪は咳込みながら、アメリカに居る弟への文句を口にする。

「あー‥もう蓮のヤツ‥こっちは明け方だって何度言ったら‥」



そこに表示されていたのは、ハンバーガーの画像と彼の弱音だった。

雪は暗闇の中で、ぼんやりと光るそれを見ている。

一週間ずっとハンバーガー。母さんが作ったキムチチゲが死ぬほど食いたいー



姉ちゃんはいいよな、そこに居られて。

やっぱ家が一番だよ







熱で気怠い身体を横たえながら、咳で眠れない夜を明かしながら、

雪はその言葉を何度も反復していた。

暗い布団の中でずっと、ただ今の状況に耐え続けながら‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>あの日の続き でした。

ここでなんと学祭準備の、淳が雪の指先を掴んだ<<雪と淳>指先>の続きが出てくるとは!

最近LINE漫画の方がこの辺りの話をやっていたので、若干タイムリーな感じですが‥。


最初の”取って食われてしまう”の所は、学祭終了後のモノローグですので、

そこの詳細はもう少し先の記事に出てきます。時系列混乱しますね^^;


そしてこの時期の雪のお父さん、事業が傾いてるせいか相当雪にキツイですよね。

蓮も早くもホームシックにかかってるみたいだし、赤山家みんなが余裕の無い時期だったのかもしれませんね。


次回は<雪と淳>対照 です。


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