Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

家族再構築計画(4)ー言葉の狭間ー

2014-08-11 01:00:00 | 雪3年3部(静香と雪~家族再構築計画)
店を出てから、木々が秋色に色づく中を彼等は歩いていた。

先頭を行く母と父は、会話のないままただ歩を進めている。



そんな二人の様子を見て、蓮は亮にコッソリとこう言った。

「俺、中に入って会話を盛り上げてこよっかな?」



しかし亮はそんな蓮にヘッドロックを掛けると、こういう時はそっとしておくものだと言ってこめかみをグリグリした。

彼等の後ろで雪が、そんな四人の姿をぼんやりと眺めながら歩いている。



不意に亮が雪の方を窺うと、二人の目が合い、

 

雪は亮に対して、口だけ動かしてこう言った。

あ り が と



亮は彼女からのメッセージを読み取って、頷いた。

返事の代わりに、その微かな笑みを口元に湛えて。



そして彼等は秋の道を歩いた。

黙って歩けと言って蓮の首根っこを掴む亮、ジタバタする蓮、そんな二人の後ろで微笑みながら歩く雪。



温かい気持ちだった。

雪は微笑みを浮かべながら、心の中で一人呟く。

嬉しかった。



「間違ってた」とか、「申し訳なかった」とか、そういう言葉は無かったけど、

必ずしもそういった言葉が無くたって、私達は長い時間を共に過ごしてきた家族だ。

先ずはそれで十分だという気がした。




実際、大きな変化を期待しているわけじゃない。

それがどんなに難しいことなのか、知っているからだ。




けれど、小さな変化の兆候が、どこかから芽生えているような気がしている。



言葉は無かったけれど、いや言葉が無いからこそ、皆が似たような感情を共有していることを雪は感じた。

言葉と言葉の狭間に揺蕩う思いを胸に、赤山家はまた家族を再構築して行く‥。

「じゃ、俺ちょっと恵に会いに行ってくるわ!土曜だし!」



振り返ってそう口にする蓮に、雪は「その後は私とも会ってね?」と言って、蓮にプレッシャーを掛けた。

弟の将来についての話し合いである。ヒィッと息を呑み、怖がるように逃げ出す蓮‥。



そして蓮がその場から去ると、今度は亮が雪に向かってニヤニヤと笑ってプレッシャーを掛けた。

亮は腕組みをしたまま、肘で雪のことをウリウリと小突いてくる。



亮はクククと笑いながら、雪に向かって自分が持つ恩をひけらかした。

「いや~オレに感謝しなきゃな~?ありがてーだろ?ありがてーだろ?」



そう何度も繰り返す亮に対し、雪は言葉に詰まっていたが、

確かに今回自分が企てた「家族再構築計画」は、亮の働きなくして成功はしなかったと思われる。

雪は息を吐くと、彼の見返りを予想して口を開いた。

「あ‥また”メシおごれ”ですか?」



しかし亮は雪のその言葉に首を横に振った。

そして穏やかな微笑みを浮かべると、自分の気持ちを正直に口に出す。

「諦めねーで、オレにずっと勉強を教えてくれ」



「え?」と言って目を丸くする雪に、

亮は「どんなにバカだと思ってもよ」と言って笑った。



亮は、遠くを見るように顔を上げ、一つ息を吐くと、自分なりに将来を考えていた過程を雪に語った。

「ピアノを弾く弾かない関係なく、結局まともに社会で生きてく為には勉強を続けるべきなんだよな。

なんだかんだ、履歴書書く時も気になってたしよ。お前が何でオレに勉強しろっつったのかが良く分かったぜ」




雪は彼の言葉を聞いて、大学在学中の自分が高校中退した亮に偉そうに言ってしまったかと、

少し決まり悪い気持ちになりながら頭を掻いて応えた。

「はい‥まぁ‥出来る限り‥」と。



亮はそんな雪の答えに微笑み、前を向いた。

勉強という名目でも、彼女と一緒に居ることを了承してくれたことに、嬉しさと感謝をその笑みに湛えながら。



そして亮は、彼女の家族のことに話題を移した。

「それにしてもよぉ、お前の家族って毎度毎度騒がしいけど、かなり良い家族だよな。

社長だって古風だからああいう感じだけど、悪い人間じゃねぇしよ」




雪は突然亮が自分の家族を褒めてくれるような事を言ったので、少し戸惑いながら相槌を打った。

亮は尚も続ける。

「お前が家出するほどだから結構デカイ喧嘩だったんだろうに、

こんな風に仲直り出来たのはビックリだぜ。あ、でもそれが家族ってモンなんか?」




すると亮は、小さな声でこう言った。

「オレには、良く分かんねぇけど」



そして亮は微かに笑った。

被ったフードの影に、薄く笑った口元が見えた。



そんな亮の横顔に、雪は目が惹きつけられた。

その言葉と寂しそうに笑う声が、鼓膜の裏にこびりつく。



じっと見つめていると、被ったフードの影から、亮の瞳が見えた。

なんと形容したら良いのか分からないような、見ているこちらの胸を揺さぶるようなそんな瞳をしてー‥。



気がついたら、亮に向かって手を伸ばしていた。

あの‥と小さく声を漏らしながら、雪は亮の背中に触れようとする。



すると雪の手が触れる前に、亮が大きなクシャミをした。

思わず雪は彼の後ろで飛び上がる。



亮は鼻をすすりながら、雪の方を振り向いて言った。

「あー最近冷えるわ。はよ家帰れ!明日は出勤すっからまたそん時な。

オレ他の用事あっからもう行くわ」




雪は変なストレッチの様な仕草をしながら、亮に向かって伸ばしていた手の行き場を曖昧にした。

亮は雪の気持ちなど全く気づかず、そのまま彼女に背を向けて去って行く。

「んじゃな~」

 

雪は目を点にしたまま、ロボットのような格好で「さようなら‥」と呟いた。

亮に対して自分の心に芽生えた、さっきのあの感情は何だろう‥。



雪はそんな気持ちを不思議に思いつつ、そのまま家路を歩いて行った。

言葉と言葉の狭間、言語化出来ないその場所に、様々な感情が存在する‥。



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<家族再構築計画(4)ー言葉の狭間ー>でした。

家族再構築計画シリーズ、終わりました。

激しかった赤山家の衝突も、なんとか解決となりました。間に入っていた亮の存在が大きかったですね。

そしてこれで、この漫画における雪ちゃんの家族の問題は解決されたと見て良いんじゃないでしょうか。

溜め込んだ不満を吐き出し、ぶつけ、そして再構築する。

人間関係においてはこれが大事なプロセスですね。そしてこれが必要な人達が、次の話では出て来ます‥。


次回<繰り返す結末>です。


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家族再構築計画(3)ー家庭の面影ー

2014-08-10 01:00:00 | 雪3年3部(静香と雪~家族再構築計画)
そうして赤山家+河村亮は、焼肉屋へと移動した。

看板には豚カルビ専門店と書いてある。



一行は店員に案内され席に就き、亮もその後に続いて座ろうとした。

すると雪が、隣の座布団をポンポンと叩いて亮を呼ぶ。

「ここどうぞ、河村氏」



「左側の方が楽でしょう?」



亮は雪の提案に目を丸くする。

「え?」



不思議そうな顔でそう聞き返した亮だが、結局彼女の指示に従って雪の隣に座った。

赤山家の中に亮が混じっていることを、彼等はまるで違和感なく受け入れている。








やがて注文した肉や野菜が到着し、皆会話をしながら舌鼓を打った。

蓮はいつもの調子で会話をし、父と母は少しきまり悪そうな体で黙々と食事する。

雪は明るい笑い声を上げ、亮もそれに混じっていた。

  

そしていつしか彼等の話題は、亮のバイト遍歴や過去の武勇伝になっていった。

亮が得意げに思い出を語り、蓮がそれに大きくリアクションする。

「‥そんで結局その仕事は辞めて、港町へと移ったワケよ」

「亮さんの性格でソレどーやって堪えたの?!だって亮さん俺くらい怒りっぽいじゃん!」

「そういうのはなぁ、全部時と場合によんだよ。とにかく客なんだから我慢する時は我慢しねーとな!」



教え諭すようにそう口にする亮だが、雪は以前、合コンの席で又斗内と揉めた亮を知っていたため、

恐喝とか脅迫はするけどネ‥と思いながら、何も言わずにただそこに座って話を聞いていた。

すると母親が、蓮の背中を強く叩いて息子を叱る。

「ったくアンタは!堪えなきゃどうするつもりなの?!少しは亮君を見習いなさい!」

 

背中を押さえて痛がる蓮と、笑いながら「あと10発は叩かなきゃ」と言って笑う雪。

そんな親子のやり取りを見ていると、ふと頭の中に昔の光景が思い浮かぶ。



幼い頃、祖父と暮らしていた頃の思い出だった。年子の姉弟は毎日のように喧嘩し、二人はいつも傷だらけだった。

けれど家の中には笑いが絶えず、常に祖父の家は騒がしかった。


次に思い浮かんだのは、青田家で会長を囲んで談笑する自分達の姿だった。

中学生になっても高校生になっても、亮と静香は度々青田家を訪れ、淳と共に食卓を囲んだ。



赤山家の賑やかな空気の中で、亮は記憶の中にある家庭の面影を思い出していた。

けれど思い浮かぶのは、そのたった二つの場面だけだ。団欒の思い出は、その二つしか思い出せない‥。



心の隙間に、冷たい風が入り込んでくるような気持ちがした。

亮は賑やかな彼等をぼんやりと眺めながら、一人その場で口を噤む。



雪はどこか寂しそうな表情をした亮を見つめながら、何か心に感じるものがあった。

けれどそれが何に対してのものなのかは、まだよく分からない‥。


「骨なしカルビ追加、お待たせしました」



店員が追加オーダーの肉を持って来て、テーブルは沸いた。

けれど今日は雪の奢りだということを蓮は思い出し、「結構な出費だけど大丈夫?」と雪に聞く。

雪は厳しい表情でそれに答えた。

「もうお金は入って来ないよ。残りの学期間はバイトしないつもりだから」



母は頷き、「そうね、勉強だけに集中なさい」と口にする。父は黙ったまま娘の言葉を聞いていた。

「あーオレ話しててほとんど食ってなかったわ」



亮はそう言って箸を持った右手を伸ばしかけたが、ふと違和感を感じてその手を見た。

そしてなんとなく、箸を左手に持ち替えてみる。

 

二三度、箸を持った左手を動かしてみた。以前より強く握れているような気がする。

「あ、やっぱり」



するとそんな亮を見て、雪が話し掛けて来た。

「食事の時、結構左手使ってますよね。やっぱり左側に座った方が楽でしょう?」



さらりとそう言った雪に、亮は目を丸くしてもう一度左手を見た。

実は亮は、自分では気づいていなかったのだ。食事の時に故障しているはずの左手を使っているということを。



左手は、今箸をしっかり握っている。

地道に通ったリハビリの成果が、着実に出ている。



ほんの数ヶ月前まで、箸を持とうとしても力も入らなかったのに‥。



亮は、隣で食事する雪をチラリと見た。

自分でも気が付かなかった左手の変化に、彼女は気づいていたのだ‥。

 

暫し雪のことをじっと見ていると、彼女は父親と不意に目を合わせて気まずくなっていた。

父親の方も、決まり悪そうに娘から目を逸らす。

 

やがて肉を頬張っていた雪は咽せ、何度も咳をした。

亮はそんな雪の様子から、未だ和解しきれていない父と娘の関係を知る。



すると亮はニカッと笑い、雪の父と母に向かって彼等の娘の話題を切り出した。

「あ!ところでダメー‥じゃねーや、お嬢さんってば、めっちゃ頭良いみたいっすね!

勉強教える時もテキパキしてるし、先生にだってなれんじゃないすか~?」




雪は突然持ち出されたその話題に驚いていたが、亮は雪の両親に向かって尚も続けた。

「その頭脳は父親と母親どっちから来てんすか?」と質問すると、それに母親が答える。

「それはお父さんでしょうね。この人は大学と会社は本当に良い所入ったから‥」



母の発言に対して父は「なんだそんな話をして」と幾分決まり悪そうにしていたが、

それに乗っかって蓮が話を続ける。

「そうだそうだ!そんで会社の近所の母さんのお祖父さんがやってた宴麺屋で、

二人は出会ったんだよね~!」
「そうそう!」「マジで?!」「マジマジ」



姉弟は両親の馴れ初めで盛り上がり、それを聞いた亮はこう言った。

「いや~マジで宴麺が繋いだ家なんだな!そーじゃないすか?!」



そう言って亮は笑顔を浮かべた。少しとがった空気の角を、その明るさで削り、丸くする。

彼等の会話を、父親は無言のまま聞いていた。



宴麺屋で出会った二人が宴麺屋を開店することになるなんて、と運命の因果を話す母に、

そんな二人の間に生まれた俺には宴麺の血が流れていると言って笑う蓮。

亮も笑ってそれを聞いていた。



雪はそんな亮の横顔を見ながら、陰ながら助け舟を出してくれたのかと彼の行動の裏を読む。

彼抜きでは動かなかった空気が、家族の関係性が、亮によってなめらかに進んで行く。



雪はそんなことを考えながらそこに座っていた。

ざわざわと賑やかな店内に、彼等の会話が溶けて行く‥。



食事を終えた後、雪はレジにて会計をしようと財布を出した。

しかし雪がお金を支払う前に、父親が店員にクレジットカードを差し出す。

 

雪は驚いて、父に声を掛けた。

「あ‥今日は私が‥」 「いいから。学生が幾らも持ってないだろう」



父はそう言って会計を済ませてしまった。

先ほど雪が口にしていた言葉を、父は覚えていたのだ‥。

「もうお金は入って来ないよ。残りの学期間はバイトしないつもりだから」






雪は父の背中を眺めながら、父が考えていることに思いを馳せて立ち止まっていた。

そして両親の後に続いて、雪は蓮と亮と共に店を出た。



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<家族再構築計画(3)ー家庭の面影ー>でした。

少し気まずそうな雪ちゃんと父親の仲をもう少し良くしようと、雪ageの話題を振る亮さんの気配りが温かいですねぇ。

食事の時に左手をちょいちょい使ってることに気づかせてくれたお礼でそうしたのかな‥。

亮の両親は一体亮が何歳くらいの時に亡くなったんですかね。両親との団欒の記憶が全く無いところが、悲しいなと思いました。。

さ、次回で家族再構築計画シリーズは終わりです。


<家族再構築計画(4)ー言葉の狭間ー>です。



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家族再構築計画(2)ー意外な提案ー

2014-08-09 01:00:00 | 雪3年3部(静香と雪~家族再構築計画)


亮は、ニヤッと笑みを浮かべて雪に手を振った。

口だけ動かして、彼女をからかう。

家出娘~



亮の仕草に雪が苦い顔をしていると、ふと父親がこちらを向いた。

「何‥」



振り向いた父は、ビクッと身体を強張らせた。

雪と蓮が居ることにも勿論驚いてはいるが、妻がここに居ることが特別、彼の動揺を誘っている。



父はチラシを必死に隠そうとその胸に抱えながら、二三歩後退りをした。

「ど、どうしてここに‥!」 「おーっとどこに行かれるんすか~?」



亮はそんな父を逃げられないよう掴み、「あれ~手が言うこときかねーなぁ~」と言って思い切り空惚けた。

父はそんな亮に腹を立てる。



すると蓮が二人の間に積まれた大量のチラシを手に取り、父に質問した。母も一枚手に取る。

「てか父さん、これ何なの?チラシ?父さんが作ったの?!」

 

そこで目にしたチラシには、おなじみのあの人がモデルを務めていた。

宴麺屋赤山 ~外国人も認めるその味~



目を丸くしている蓮や雪の母に、亮は得意気になって言った。

「オレが協力したんだぜ!往年の経験を活かしてな!」



以前塾でもモデルを務めていた彼にとっては、いかなるポージングも朝飯前だ。

亮は”外国人”としてスーツとHIP-HOP系の2パターンを決めて、そこに写っていた。

グハハ、と笑う亮に、雪を始めとする三人は無言である‥。


そして暫しチラシを見ていた母が、怪訝そうな顔で父に聞いた。

「あなたが作ったんですか?どうしてこんな‥」



妻からの質問に、夫は汗を多量に掻きながら怒鳴るように答えた。

「駅前は人通りも多くて、宣伝にピッタリだろうが!

最近店に客が増えたのは、全部わしのおかげだぞ!」




妻はもう一度チラシに目を落とし、やはり訝しさに似た目で夫を見る。

「どうしてこんな似つかわしくないことを‥こんなことは恥ずかしいと言って、絶対にしなかった人が‥」



雪の父は、母達がいきなり来てあーだこーだ言われることに閉口したが、

やがて大事そうにチラシを胸に抱えると、こう口にした。

「‥どんな仕事だって誰かがやらんといかんだろう。

こんなことは、厨房の仕事と比べればたいしたこともない」




そして父は、決まり悪そうに何度も咳払いをした。

母は初めて夫の心情を耳にして、言葉が紡げなかった‥。







暫くしんとしていた赤山家の面々だが、やがて父が亮に向かって口を開いた。

「それにしてもどうしてここに‥お前が話したのか?!口止めしただろうが!」



そう言われた亮は、悪いことをしてるわけでは無いのだから隠さなくても‥と言い返した。

すると恐る恐る、彼等の後ろで雪が手を上げる。

「あ‥私が通りすがりに見ちゃって‥。

それで河村氏に予め引き留めておいて下さいってお願いして‥」
「なに?!」

   

そう言って振り返った父に、雪は目を合わせられず俯いた。

赤山家の面々に、再び沈黙の帳が下りる‥。



そして彼等は一様に目を逸し、決まり悪そうにその場に佇んだ。

その中で一人他人の亮だけが、「なんだよこの空気」と言いながら立ち尽くしている。



やがて雪が気まずい空気を変えるように、皆に向かって提案した。

「と、とりあえず一旦止めにしてご飯食べに行こうよ!

通勤の時間でも無いから、人もそんなに通らないし‥」




雪の提案に蓮が乗っかり、子供達は父親を外食へと促そうとするが、

父はそっぽを向き、仕事中だと言って頑なに頷かなかった。



すると亮は雪の父が持っていたチラシを全て奪うと、赤山家の面々を皆まとめてグイグイと押しやった。

「ったく!何言ってんだかマジで!いいからメシくらい食って来いっつーの!」



そして赤山家の面々は団子のようになって、その場から追い立てられた。

四人の背中を見ながら、亮が明るく声を掛ける。

「さっさと行けさっさと~!オレが片しとくからよ!」



しかしその台詞に雪は振り向き、目を丸くしてこう亮に問い掛けた。

「え?一緒に行かないんですか?」   「えっ‥?」



その雪からの問い掛けに、亮は心底意外そうに目を剥いた。

しかし雪の母も、雪と同様なぜ亮がそこに留まるのかと不思議そうに聞いてくる。



亮はチラシを抱えたまま、困惑して口を開いた。

「え?だって家族で食事に‥何でオレが‥」



すると雪の父が苛立ったような表情で、亮に向かって手招きをする。

「おい、何言ってんだ。それじゃわしらだけで行くのか?

いいからもう早く来い!」




父は「何を今更」と、亮が一緒に行くことをまるで疑問に思わず彼を促した。

赤山家皆同じ意見だが、当の本人は「オレがチラシを‥」と未だ口にして困惑している。



そんな亮を見かねて、蓮が彼に声を掛けた。そして後ろに居る父親にも。

「亮さん、それは後で俺とやろ!

そんで父さんは今後こんなこと止めてよ。これからは亮さんと俺でやるからさ」




蓮は気恥ずかしそうに微笑むと、父に向かって最後にこう言った。

「やっぱり父さんは、店で社長っぽくしてるのが合ってるよ」



照れたようにヘヘッと笑う蓮を見ながら、父は無言で佇んだ。

息子なりに尊敬しながら父親の背中を見てきたという事実が、皆の心の中にそっと息づく。



そして父は彼等に背を向けると、ぶっきらぼうに「早く来い!」と言った。

けれどその言葉の中に、怒気は感じられない。



行こ、と亮を促して走る蓮の後ろで、亮はポカンとしたまま雪の父の後姿を見ていた。

今の展開は亮にとって青天の霹靂だった。手に持ったチラシの重ささえ忘れるほどの。



そしてふと、胸の中に小さな感情が芽生えるのを感じた。

随分久しぶりに味わう、懐かしくてこそばゆいその気持ち‥。



亮は胸を震わせるそんな思いを抱きながら、赤山家の後ろについて歩いて行った。

幾分恥ずかしそうに、未だ幾分戸惑いながら‥。





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<家族再構築計画(2)ー意外な提案ー>でした。

一緒に来ないかと言われて素でビックリする亮さんが、なんだかいじらしいです。


そしてこの日の服装、以前(漫画の中だと3日前)雪への思いを自覚した時と同じ服装ですね。

あ、インナーまで全く一緒‥と思いきやこの時は更に白シャツを中に着てますが、今回は着てないですね。(細かすぎるクラブ~)



登場人物達のコーデ、いつか特集してみたいものです。


次回は<家族再構築計画(3)ー家庭の面影ー>です。


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家族再構築計画(1)ー娘の帰宅ー

2014-08-08 01:00:00 | 雪3年3部(静香と雪~家族再構築計画)


家のドアの前まで来たものの、雪はなかなか中に入ることが出来なかった。

帰り道で整理した自分の考えを、もう一度頭の中で復唱する。

お父さんは家長としてお父さんゆえの苦労があって‥。お母さんは更年期に若干のうつ病まで‥。

蓮もそれなりの悩みがあるんだろう。いつまでも私一人だけ腹を立ててるわけにはいかない‥




そう考えてはみるものの、なかなかドアノブに手が伸びない。

そんな雪の鼓膜の裏に、彼の声が響いた。

だから、もう我慢するのは止めにしないと



彼のアドバイスが、すっと自分の心に入ってくるような気がした。

ゴチャゴチャした自分の考えの遥か上から、彼の言葉がその先へと導いてくれる。



そしてようやく雪は玄関のドアを開けた。

ただいま‥と小さく口にする雪の元へ、母親は大きな声を上げて走り寄る。

 

<短い家出を終えて二日ぶりに家に帰ったら、お母さんから背中への平手打ちを食らい、>

「このおバカッ!二日も外泊して!どこにいたの!もう!!」

「ちょっ‥お母さん‥!ギャッ」



その騒ぎに、部屋から父親が出て来て雪と目が合った。父は気まずそうに口を開く。

「お‥帰ったか。まぁゆっくり休みなさい‥」

  

<お父さんはぎこちなかったけど、どうやら怒ってはいないようだった>

「ったく‥あのプライド頑固ジジイ‥



そんなんだから事業が失敗するんだと毒づく母の横で、雪は少しホッとして胸を撫で下ろした。

そして母に背中を押され、二人はリビングへと入って行った。




少しゆっくりした後で、雪は母親と向い合って話をした。母は、優しい口調で娘に語りかける。

「今までずっと‥虚しさを感じていたの?そういえば夏休みの時もそう言ってたわよね‥。

お母さんも分かってたはずだったのに‥。お店を始めてからは余裕がなくって、却って雑な扱いになっちゃってたわね‥」




そして母は雪の手に自分の手を重ね、傷ついた娘に心から謝った。

「お母さんが悪かったわ」と。雪は、首を横に振り、口を開く。

「う、ううん。私も大声出して‥ごめんなさい。八つ当たりみたいになっちゃって‥」



雪の言葉を聞いて微笑んだ母親は、また折を見てお父さんにも謝りなさいと娘を諭した。

そして俯きながら息を吐くと、母は重苦しい気持ちを口に出す。

「雪が出て行ってから、父さんと大喧嘩したわ‥。もう私もよく分からないの。

そんなに店をやりたくないのなら、違う仕事を探さなきゃならないのかしら‥」




母は続けて、「どうしてあんなにフラッと出て行っちゃうのか‥」と言った。

それを聞いた雪は、「それは‥」とつい先日知った真実を口に出そうとする。



「‥‥‥‥」



しかし途中で雪は口を噤んだ。とある考えが頭の中に浮かんだのだ。

雪は一つ、母に提案する。

「お母さん、明日さ‥」 「ただいま~」



しかし雪が話を始めようとした矢先、蓮がリビングへと入って来た。

二日ぶりに帰って来た姉の姿を見て、蓮は驚愕と気まずさの交じり合った顔をする。



しかし蓮はすぐにニコッと笑みを浮かべると、姉の機嫌を取るような態度で雪に駆け寄った。

「姉ちゃんおかえりー!大変だったよね~??」



そんな蓮に対して、雪は「アンタ、明日空けといてね」と早速切り出した。

土曜日なのに、と言いかけた蓮を雪は鋭い視線で黙らせる。蓮は思わずショボンである。

  

「お母さんも、明日はちょっと店閉めて付き合って」との雪の提案に、

母は「どこへ行くの?」と質問する。雪は母に対してこう答えた。

「あ‥たまには外食でもしようよ」



しかしただ外食するだけではない。

雪は一旦バラバラになりかけた家族を再構築する、計画を企てようとしているのだ。




翌日、何も知らない母親は雪と蓮に背中を押されて外へと連れ出された。

勿論蓮も知らないのだが、雪のおごりで食事が出来るということで、外出に乗り気なのである。



しかし母親は不満気だった。わざわざ店を閉めてまで連れて来られた意味が分からない。

母は、先ほど歩いて来た道を戻ろうとした。雪が必死でそれを止める。

「もう帰って店開けるわ。こんな所まで連れて来て‥一体なんなの?」



そして暫く雪と母がすったもんだしている内に、蓮がとあることに気がついた。

「あれ?」と言って目にする先に、見慣れた二人の姿がある。



そして蓮は指を差しながら、母親に向かって大きな声でこう言った。

「あれ、父さんと亮さんじゃね?」「え?」「ほら、あれあれ!何してんだろ?」

 

そして蓮は躊躇うことなく二人の元へ駆け寄って行った。

そんな蓮の後ろで目を丸くする母を、雪は内心ヒヤヒヤとして見つめている。

「父さ~ん!亮さん!」



最初にこちらに気がついたのは亮だった。

大量のビラを腕に抱えながら、亮はこちらの視線に気づく。



そんな亮に、雪は小さく手を上げて見せた。

少し決まり悪そうな笑顔を浮かべながら。



そして亮はそんな雪に、彼もまた手を振り返す。

この「家族再構築計画」の協力者として‥。






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<家族再構築計画(1)ー娘の帰宅ー>でした。

記事には入れられなかったのですが、ここの雪の顔が好きです^^



そして結構この服、襟ぐり広いですね!チラリと覗く肩紐がセクシーです雪ちゃん。

もっと先輩の前でもオシャレしてあげて‥!


次回も計画は続きます。<家族再構築計画(2)ー意外な提案ー>です。


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二人の姉

2014-08-07 01:00:00 | 雪3年3部(静香と雪~家族再構築計画)


背筋に冷たい汗が伝う。

ガリガリ、と彼女が揚げ物を咀嚼する音が、鼓膜の裏まで響いてこびりつくようだ。

「どうしたの?」



静香はそう言って、食べ物が付着した指を舐めた。脂が唇を妖しく光らせ、どこか不気味な印象を与えた。

雪は顔を青くしながら、依然として俯いている。

「さっきから黙っちゃって。本当に食べないの?」



形勢は静香の圧倒的有利。雪は沈黙を守りながら、どうにか自分が優位に立つ術は無いかと考えていた。

膝の上で握る拳に力が入る。

弱点‥。先輩に関することの他に、何か弱点があるはずだ‥。



雪は必死に考えた。何から手を付ければ良いのだろうと。

すると脳裏に、自分と静香の共通点が一つ浮かび上がる。

 

思い浮かんだのは、それぞれの弟の姿だった。つまり雪と静香は両者とも、姉であるという点が共通している。

そして雪は唐突に会話を切り出した。

「そ‥そういえば弟さんとすごく仲が良さそうですよね‥!」



いきなり亮の話題を持ち出した雪に対し、静香は冷めた表情で「は?」と言った。

笑顔の余韻を引きずった雪と、そのまま相対する。



静香は溜息を吐くと、気怠げにこう口を開いた。

「そう見える?アイツが宴麺屋で私に食って掛かってたの見てなかったの?」と。

すると雪は笑いながら首を横に振り、その発言をフォローした。

「いやいや、ケンカする程仲が良いって言うじゃないですか。

よく河村氏からお姉さんの話を聞きますし、相当お姉さんのことを気に掛けてるってことですって!」




雪はペラペラと喋り続けたが、静香の表情は芳しくなかった。

さぁ、と言いながら、話を続ける雪を訝しげな顔で見つめている。



雪はそんな静香の態度に幾分焦りながらも、必死に口を動かし続けた。

「わ、私も弟が居るんですよ!可愛いですけど憎らしい時もあるっていうか‥、

時々ぶん殴りたくなりますよ‥!」




そうでしょ‥?と雪は静香に向かって問いかけると、静香はしぶしぶといった表情で頷いた。

「まぁ‥珍しいことじゃないわね」「そっ‥そうですよね~!!」



ようやく静香が少し話題に乗っかってきたので、雪は更に会話を続けた。自分と弟のことについての話だ。

「祖母も両親も弟だけ可愛がるから、憎らしいですよ。

それに留学だって、あの子だけが行ったんですよ?ヒドイでしょう?私だってすごく留学したかったのに‥弟だけ‥」


 

雪の話を、静香は黙ったままただ聞いていた。雪はまだ話を続ける。

横に置いてあった、大きな鞄を持ち上げて見せた。

「見て下さいよ!それで大げんかして家出までしちゃったんですから。今家を出て二日目で‥」



しかし目の前の静香は、依然として沈黙したままだった。

頬杖をつき、退屈そうな、なぜそんな話をするのかと不満を抱いているような、そんな表情を見せながら。



二人の間にはしんとした静寂が広がり、雪は場を誤魔化すように頭を掻いた。

「あ‥私ったら何の話を‥」



弟話に乗ってこない静香に対して雪はそう口にしたが、

次の瞬間静香は、またあのぶりっ子キャラになって甘い声を出した。

「社長令嬢~!超苦労したんだねぇ~~?」



その静香の振る舞いに、雪の顔が引き攣った。静香はぶりっ子キャラのまま話を続ける。

「うちのジイさんも青田会長も、実際亮の方ばっか気にかけちゃってさ」 「そ、そうですか!」

「小さい頃は叔母さんも毎日亮のこと褒め称えながらあたしのこと殴ったのよ。それであたしも‥」 「ええ、ええ!」



元気良く静香の話に相槌を打っていた雪だったが、続けて口にした静香の言葉に息を飲んだ。

「凄い勢いで噛み千切ってやったわ」



強烈すぎるエピソード‥。雪の顔面が瞬時に青ざめ、背筋が寒くなった。しかし静香は上機嫌で笑っている。

「それで緊急治療室運ばれたことがあるのよね~叔母さん。スカッとしたわ~」



青ざめる雪に対し、静香は元のキャラに戻ってこう言った。

「先に噛み千切ることが出来なきゃただの間抜けなカモよ。それは家族の間柄だとしても変わらないわ」



静香は雪の方へと身を乗り出すと、鋭い目つきをしながら口元に指を運び、舐めた。まるで舌なめずりをする獣のように。

相対する雪はそんな彼女の雰囲気に押されながら、「はい‥」と言って小さく頷く。



静香はニヒルな笑みを浮かべると、更に話を続けた。

「まぁ今は立場逆転してるけどね。皆があたしのカモよ、亮だってそう」

 

そして静香は嘲りに似た笑みを浮かべながら、最後にこう口にした。

「アイツがあたしのことを心配してるとでも?」



そう言って彼女はケラケラと笑った。

弟と、弟が自分を気にかけているなどと言った雪に対して嘲笑する。



雪は、自分とはあまりにも違う”姉”を前に愕然としていた。

胸の中いっぱいに、重々しい不安が広がって行く‥。





店から出た二人は、最後に別れの挨拶を交わした。静香が機嫌良く雪にこう声を掛ける。

「また今度会いましょ?思ったより面白かったわ~」



そして静香は後ろから雪の頬を突付き、冗談を口にした。

「もし淳ちゃんと別れたら、あたしの弟に手を出しても良いわよ?」



なんとも気まずいジョーク‥。雪は乾いた笑いを立てながら、小さく「さようなら‥」と口にした。

去って行く静香の後ろで、どっと疲労が押し寄せて息を吐く。



小さくなって行く静香の背中を眺めながら、雪は心の中で思った。

‥どうにか合わせられた‥。けど今上手く欺けたとしても今後は果たして‥



胸の中に充満した漠然とした不安は広がり続けていた。

あの虎は、今はまだ爪を隠して状況を俯瞰しているに過ぎない‥。



雪は重苦しい気持ちを抱えながら、深く息を吐いてその場から去って行った。

家路へと続く道のりが、より雪の心を憂鬱にさせる‥。


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<二人の姉>でした。

静香と雪の食事風景、緊張感漂ってましたね~。

お腹が空いていたとしてもこの状況では、雪ちゃんは食べれなかったかもしれませんね^^;


さ、次回は二日ぶりに家に帰った雪ちゃんのお話です。

<家族再構築計画(1)ー娘の帰宅ー>です。


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