Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

転落

2014-09-14 01:00:00 | 雪3年3部(語らぬ彼~隠された思惑)


いつの間にか、手が震えていた。

予想も出来なかった急展開。目の前が暗く霞んで行く。

「おい‥それでこれ‥俺のことみてぇだけど?」



横山が顔を上げると、同期の男は携帯を掲げてそれを見せた。

そして皆に聞こえるように、大きな声でその内容を読み上げる。

「”最近五年つきあった彼女と別れた”ってのも、

”別れの発端になった喧嘩の理由が、五周年のプレゼントのせい”ってのも合致すんだけど?」




横山はさっと青ざめた。嘗て、それを書いたのは確かに自分だからだ。

しかし同期が怒っているのはそのことでは無かった。横山を睨みながら、憎らしさを込めて言葉を続ける。

色々と書かれている後輩達も、横山に向かって声を上げた。

「つーか俺は親父にクレジッカードをプレゼントしたことはあっても、

親父からクレカ盗んで使ったことはねーけど?なんなんだこれは?!」


「”前に豚丼恵んでやった後輩”ってのは俺のことっすよね?

てか先に奢ってやるって言ったのは先輩なのに、何でこんな書き方するんすか?!」


「”教養の試験でカンニングをお願いした”のは俺じゃなくて

横山先輩じゃないですか。何でアベコベにして書き込んでるんですか?!」




それが皆を怒らせている原因だった。

その横山の書き込みは、自分の好きなように真実をねじ曲げ、誇張して書いてあるのだ。

「何とか言えよ!」



責められている横山の近くで、柳瀬健太は文章を追っているところだった。

自分のことについての内容が、悪意を込めて書いてある。

最年長のウザ男は、強いフリして実はめっちゃボンビーマンw

他人にモノ借りて返さねーし、身長は190越えのデクの棒。マジでバカすぎてどうやってこの大学に入ったのか謎すぎ。

今回も後輩のノートPC借りパクしてたけど、きっと使い方知らねーんだアレ。

多分この大学に入るのに3浪4浪してるわww 親が気の毒ww

若い女達に熱上げってけど、ハッキリ言って成功率0%ww




その文章を読んだ途端、健太の頭の中で何かが切れた。



健太は大声を上げて、横山に掴みかかる。

「おいっこの野郎っ!こんのクソガキ!誰に向かって‥!くたばりてぇかっ?!」

 

そのあまりの剣幕に、店に居る他の客は皆健太の方へ視線を寄越した。

今にも殴りかかリそうな健太に、学生達は彼の腕を取って必死に制止する。しかし健太の怒りは鎮まらない。

「この口先ばっかのストーカー野郎が!おい!コイツはストーカーだぞ!お前ら知ってたか?!」

 

健太は横山に向かって叫んだ後、皆の方を向いてそう言った。

横山の信用が完全に失墜した今、周りの学生は健太の言葉を信じて顔を顰める。

「俺はお前を信用して家族のことまで話したってのに、

お前はそれをここに書き込んでたってか?!このクソ野郎がぁぁっ!」


「これ、俺のことなんだろ?」 「つーかマジ、なんでこんなことが出来るワケ?」

「ネットカフェで金借りて返さなかったのは、俺じゃなくてお前の方だろ!?キ◯ガイ野郎が!」



驚くべきことに、横山の書き込みはそこに居る男子学生ほぼ全員分あった。

誰もが横山に侮蔑の眼差しを送り、動かない彼の肩を強く押す。

「おい!最後のコレはまたヒデェぞ!聞けよ!」



すると一人の学生が、最後にその内容を音読し始めた。

「”アイツらは乞食根性があって、成金野郎がメシ奢るっつーと小躍りしやがる。

俺もそれを真似て奴らにメシ奢り始めたら、さもしい乞食みてーにくっついて来たよww

正直、名門大っつったって、俺みてーな人間ばっかじゃねんだよね。こんな奴ら全部消して、綺麗で清潔な学校にすべき”」






ゲームセットだった。

放心状態の横山を見下げて、皆開いた口が塞がらない。



テーブルの上には、食い散らかした後の皿が幾つも並んでいる。

今目にするそれは、一層汚らしく見えた。



横山はただじっとその場に座ったまま、無意識に自分の体に腕を回していた。

暗く歪んで行く目の前に、チリチリとした砂が舞う。

脳天から血が下がって、指の先まで冷たかった。



横山は、言い訳をすることも、パフォーマンスとしての謝罪も、身を守る術を何一つ実行出来なかった。

ただ木偶のように固まっている。

そんな横山に向かって、誰かが冷たい声で言い捨てた。

「クズ野郎」



その一言を皮切りに、皆口々に横山を罵倒し始めた。

「ふざけんな」「頭おかしいコイツ」「いいかげんにしろ」‥。数々の罵声が、横山の頭上から降り注ぐ。



するとそんな皆を掻き分けて、柳瀬健太が横山の目の前に躍り出た。鬼のような形相だ。

「おいこのゴミ野郎が!何とか言ってみろよ!!」



横山は脱力して、壁に凭れ掛かったままただ降り注ぐ罵声を聞いていた。

しかし鼓膜の裏に薄皮一枚挟まっているかのように、その声は遠い。元より、聞き取る気力も無かった。



自分を責め立てるその声が、まるでボイスチェンジャーで音声をスローにした時のような、低くくぐもった声に聞こえる。

ぼうぼうとぼやけた無数のそれが、暗闇に転落していく横山に襲い掛かる。



汗が止まらなかった。冷や汗か脂汗か分からないが、全身から噴き出してくる。

横山は小さな声で呻きながら、ガタガタと震え出した。

「う‥ううっ‥」



「うわあああああああ!」



そして横山は、とうとう逃げ出してしまった。震える手で鞄を引っ掴み、一目散に駆けて行く。

「おい!金払ってから行けよ!」



後方からそう怒鳴る同期の声も聞こえない程、横山は必死に走った。

バンッと、店のドアを乱暴に開ける。

「キャッ!」



するとそこに、直美とその友人が居合わせた。

目を丸くして横山の方を見る直美達と、青ざめた顔でそちらを振り向く横山‥。



やがて直美は、忌々しそうに横山から顔を背けた。彼女の友人は、あからさまに彼を罵倒する。

「うっわ最悪」 「何見てんのよ!」 「クズ!」



彼女らは疫病神でも見たかのような態度で、横山に背を向けた。

そそくさと逃げるように、横山は駆け出して行く。







尻尾を巻いて逃げ出したイタチの姿を、一人その場に佇んで見つめる男が居た。

福井太一である。



彼は今まで集めた数々の証拠が晴れて実を結んだと、小さくなるイタチの後ろ姿を見て確信した。

何も口にはしないが、心の中の靄が晴れる。

「何してんのー授業行くよー」「ハーイ今行きまス」



何も知らない聡美に呼ばれて、太一はその場を後にした。

「あぁスッキリした」と、青い空に呟きながら‥。





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<転落>でした。

横山、やらかしてましたね‥。

そしてあのスレを一つ一つキャプチャーして取ってあった太一、GJでした。

雪が横山に困らされているのと同時に、太一も横山には何度も煮え湯を飲まされて来ましたからね‥。

彼なりの報復が出来たという証の、最後の決め顔だったんでしょう‥。

キリッ




次回は<自滅>です。


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