Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

合コン(2)

2013-08-15 01:00:00 | 雪3年1部(映画後~合コン)
雪は目を見開いた。

”青田淳の友達”だというその男が、目の前に立っていたからだ。



すると又斗内が立ち上がり、「何だテメェは」と凄み出した。



亮が悪びれずあっけらかんとしているので、斗内は彼の体を強く押す。



すると亮は斗内の手首を掴むと、そのままぐっと力を入れた。



その握力に、斗内の顔が歪む。

「早く手を下ろしたらどーですか?」「‥‥!」



亮の態度に、斗内は大きな声で吼えた。

ただのウエイターのくせに生意気だ、マジで頭おかしいんじゃないのかと。

「この底辺が!さっさと離せよ!」



その言葉に、亮は反応した。

振り払うように斗内の手を離すと、強い眼力で彼を睨む。

「はぁ?底辺だぁ?」



そのまま腕を斗内の方へ伸ばす亮。



斗内はその圧倒的な雰囲気に飲まれ、とうとう亮に向かって拳を振るった。

「うわぁぁっ!」



店内は騒然とした。女性客は叫び、男性客も一斉に席を立つ。

雪はその騒動の中、一人立ちすくんでいた。



殴られても不気味に笑う亮に、

錯乱した斗内はもう一度パンチを浴びせる。



その時雪は見た。

亮がわざと唇を噛み、その腔内から血が出るのを。



亮はそのままフラフラと覚束ない足取りでたたらを踏むと、

大きな音を立ててその場に倒れ込んだ。



亮は痛い痛いと言いながら、その場で転げ回った。

その大仰なリアクションに、斗内がふざけんなと捲し立てる。

すると亮は顎を押さえながら、口からペッと血を吐き出した。



「血が出てる!歯もグラグラしてる!めまいがして吐きそうだ~~!」



雪は、いきなりの亮の態度の変化に困惑しっぱなしだった。

斗内も腹が立ち、「いい加減にしろ」ともう一度亮に掴みかかろうとした。



すると亮は身を翻し、斗内の腕を取るとそのまま抗えない体勢へと持ち込んだ。

「人を何回殴れば気が済むんです?お客様、これは正当防衛です。自分を守る為のね」



もっと殴ってみろよ、と挑発に似た言葉を掛けながら、亮は斗内を制した。

しかし上司や他のウエイターに取り押さえられ、ようやく二人は引き剥がされた。



騒然とした店内に、先に手を出した斗内を罵倒するざわめきが聞こえてくる。

斗内は屈辱を感じ、赤面した。



大丈夫ですか、と声を掛けようと近付いた雪に向かって、斗内は暴言を吐いた。

「おい!あいつは何なんだ?!元彼か?!ビッチが合コンなんか出てきやがって!」



斗内はあらん限りの罵詈雑言を雪に浴びせた。

雪の脳裏に聡美の顔が一瞬浮かんだが、あまりに酷いその言葉に、ついに耐え切れず口を開いた。

「この全身油男が!!お前なんかに宴麺の味が分かるかっつーの!

一生そうめんにケチャップ混ぜて食ってやがれ!!」

















あれだけざわついていた店内は、一瞬にして静まり返った。

雪は椅子に置かれたカバンだけ素早い動きで取ると、「注文はキャンセルさせて下さい!」と言ったきり店を後にした。



そんな彼女の残像を見ながら、亮はあんぐりと口を開けた。



やっぱりあの女はおかしい‥。

只者じゃないと思っていたが、やはり曲者だったか‥。



ふと気がつくと、斗内がこっそりと逃げ出そうとしていた。

亮は彼の肩をがっしりと掴むと、顎をさすりながら慰謝料の話し合いをしようと詰め寄る。



しかし亮は上司から肩を掴まれ、笑顔で通告された。

「お前クビ」



河村亮、労働開始から解雇通告まで二時間足らず。



最短記録更新であった‥。








三日月の光る初夏の夜に、一人猛ダッシュしている女が居た。



その尋常じゃない様子に、道行く人は皆振り返った。

雪は先程の出来事に、あの男達に、耐え難い怒りを抱えながら爆走する。

「キャッ!」



するとパンプスのヒールが折れ、雪はその場に倒れ込んだ。



顎は擦りむき、膝はストッキングが破れ汚れている。

手のひらにも血が滲んだ。



雪は己の運命に、その悲惨さに、嘆きを通り越して笑ってしまった。



私が何をしたというのだろう。

なぜいつも私の人生はこうなのだろう。

いつまで這いつくばっていなければいけないんだろう。

「どうしてだんだんと惨たらしさが倍増していくの?!!」



これ以上どうすればいいのか、誰も教えてはくれない。

雪の叫びは暗い夜道に、吸い込まれるように消えていった。





その頃レストランでは、

逆上した上司が亮に掴みかかろうとするが、亮はなかなか斗内を離さない。



そんな折、亮はある物が店に残されていることに気がついた。



それはあの女が座っていた椅子の上に放置されていた、



時代遅れの携帯電話だ。



亮はそれを手に取ると、誰にも気付かれないようにポケットに仕舞った。






しばし頭を抱えていた雪は、続けてカバンを掴み取った。



聡美に電話して、問い詰めてやる。

一ヶ月分の学食の食券渡されたとしても許してやるもんかと、息巻いてカバンを漁った。



しかし手で探った感じ、無い。

次はカバンの中身をひっくり返してみたが、無い。

いつの間にか、彼女の携帯電話は姿を消していた。

雪はどこで失くしたのか記憶を辿ってみた。



お店に置いてきたのか、走ってる途中で落としたのか‥。

もし店に置いてきたのだとしても、今あそこに戻る勇気は無い‥。



雪はとりあえず家に帰ることにした。

折れたヒールの靴は履けなかったので、そのまま裸足でペタペタと歩いて行った‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<合コン(2)>でした。

<合コン(1)>にて、ケチャップ麺として載せていたものは、ビビンクックスという料理だというご指摘を頂きました。

訂正追記しましたので、どうぞ御覧くださいませ。

これからもご意見、どしどしお待ちしています。

間違った情報を載せてしまい、申し訳ありませんでした。

m(_ _)m

次回は<不機嫌な御曹司>です。

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合コン(1)

2013-08-14 01:00:00 | 雪3年1部(映画後~合コン)


大学の近くにあるレストランで、河村亮は絶賛アルバイト中だった。

しかしその大雑把な接客態度で、今日だけで既に三件も苦情が上がっている。



上司はその様子を影から窺いながら、それでも損ばかりでは無いと確信していた。

しかしまた女性客から、カップをぞんざいに置いた亮の接客態度に対してクレームが入る。



しかし亮は、真摯な態度で謝罪した。

新人で不慣れなものですみません、これから努力しますと。



その態度と表情に、女性客は頬を染めながら言った。「毎日チェックしに来る」と。

手慣れた対応に、上司はうちの店の看板ウエイターになるかもしれないと、満足そうに頷いていた。



その証拠に、亮が歩くと道行く人は皆振り返って行く。

確かにその存在は異質だった。

するとドアから、一組のカップルが入って来た。



喫煙席に案内されそうになるも、女の方が「タバコはちょっと‥」と言うので、



二人は禁煙席に移動した。

亮は女に見覚えがあった。地下鉄のホームで会って以来だ。



誰かと思えば、青田淳の女じゃないか。

亮は面白くなりそうだと、一人ニヤリと笑った。







雪は合コン相手を前に、先日の聡美の言葉を思い出していた。

「この人マジでいい人らしいし!これからの人生、またとないホットガイ!!」



男は、改めて自己紹介しますと切り出した。

又斗内と申します。お会いできて光栄です。斗内さんと呼んで下さい」



男は”また とない”という名だった。た、確かに今までの人生に会ったことのない、またとないホットガイ‥。

金のネックレスも指輪も腕時計も華美な印象だったが、何よりも笑顔がクドイ‥。



雪はそのギンギラギンな印象に、一人目を覆った‥。



確か聡美から見せてもらった写メは‥↓



微妙に違うような違くないような‥と雪は戸惑いを隠せない。



ガンガン会話をリードされるのにも若干、ついていけなかった。

(又斗内は雪の着ているワンピを見て「鈴蘭の妖精のようだ」と言ったが、雪はちっとも嬉しくなかった)



話題は雪の通っているA大学の話になり、斗内は成績の良い雪を褒め称えた。

雪は会話の糸口が掴めたので、聡美から聞いていた又斗内の事前情報、”留学経験がある”ことを話題に出してみる。

すると斗内は得意気に、「近頃は留学なんて基本でしょ?」と言った。


「雪さんも語学研修くらいは行ったことあるでしょう?どこの国?」「えっ?」



まだ行ったことがないと言う雪に、斗内は国内ばかりに居過ぎると息苦しい、海外に出るべきだと強い口調で言った。

何の疑いも無く物事の価値観を断定の口調で話す彼に、雪は閉口する。



その後斗内は自分の肌の黒さを自慢したり(日サロで焼いているそうだ)、

通っているフィットネスクラブで撮ったプロフィール写真を見に来てくれと言ったり、

力こぶを作って、触ってみても良いんですよと勧めて来たりした。



斗内はフィットネスクラブの話題から、スポーツのことへと話を流していった。

ゴルフはやるのか、スカッシュはどうだ、スキューバダイビングはやったことがあるか‥。



しかし全ての質問の雪の答えはNOだったので、斗内は黙り込んだ。


店内には、落ち着いたピアノ曲が流れている。

斗内は続けて、ピアノは弾いたことはあるかと聞いてきた。



雪は幼少時に少しやったことがある、と答えると、斗内は今流れている曲についての言及を始めた。

ショパンのノクターン第二番。

ペラペラと知識をひけらかす斗内に、苛立ちを感じているのは雪だけでは無かった。



亮は影からその会話を聞いて、聞き苦しいトリビアに青筋を立てていた。



斗内は、ショパンの言及から旅行についてへ会話を広げていく。

旅行でなら海外に行ったことがあるだろう、フランス、ヨーロッパ‥どこへ行ったことがあるかと聞いてきた。



しかし雪の答えは依然としてNOだった。今まで地道に勉学に励んできた雪は、海外に出たことが無かったのだ。

すると斗内が大きく溜息を吐きながら言った。

あからさまな落胆をその顔に表しながら。

「それじゃあ今まで何して生きてきたんですか?つまらない人生ですね」







雪は一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

けれどつまらない人生を送りたくて送っている人など居ないと、強く思う。

沸々と怒りが湧いて来て、雪は爆発しそうな感情を必死に堪えた。

これも紹介してくれた、聡美の顔を立てるためだ。



雪は何とか違う話題を探そうと脳内googleを働かせた。すると一つの検索結果が浮かび上がった。

「あ、料理!料理は好きですか?」「お、料理か!好きですよ!」



斗内が食いついて来た。

雪は特に自分が得意なわけではないが、母親が麺料理の店を営んでいるのでそこで習ったと言う。

すると斗内は、イタリア人の友人が営んでいるレストランの、トマトソースが忘れられないと思い出を辿るように言った。



また二人の距離は急激に遠くなる。

雪が「うちは宴麺屋です」と言うと、斗内はドン引きした。

「ええ?それって近所の年寄りが食べる物でしょ?」



ブチッ



とうとう雪の、堪忍袋の緒が切れた。

思わず立ち上がり文句を捲し立てようとすると、一際大きな笑い声が別の方向から聞こえてくる。



コントじゃねーんだから、とその人物は笑いを堪えながら言った。

雪はその姿を見て息を飲む。



目の前に立っていたのは、”青田淳の友達”の、あの男だった。



亮は、今のこの状況を面白可笑しく思っていた。

淳と何か関係ありそうだと思ったのに、そうめんにケチャップ混ぜて食べるような舌の腐った野郎と会ってるなんて、

失望したと言いながらも。

「お前は他とは違う何かを秘めてると思ってたのに‥ガッカリだぜ」



「なっ‥」




それは赤山雪と河村亮の、二度目のコンタクトだった。


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<合コン(1)>でした。

雪のお母さんの営んでいるのは「宴麺屋」さんだそうで。

宴麺とは‥小麦粉で作った麺を魚介のダシを取ったスープに入れて食べる料理。

結婚式や誕生日など祝の席で振舞われることも多い。



日本で言うところのそば、麺の種類はそうめんという感じですかね。

*8月15日訂正追記

あと探してみると宴麺にケチャップを混ぜた料理、ありました‥。

SAさんよりご指摘頂きました!コメント本分より↓
写真の赤いのは韓国のゴチュジャンソースをベースにしたビビンクックスだと思います。
あっちでは結構メージャーな食べ物です。夏の麺類は大体あのソースのが定番だと^^。。




ということで、ケチャップだと思っていたのはビビンクックスという旨辛ソースでした‥!

間違った情報を載せてしまって申し訳ありませんでした。

これからもどうぞよろしくお願いします!


次回は<合コン(2)>です。


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線引き

2013-08-13 01:00:00 | 雪3年1部(映画後~合コン)
その日の赤山雪は、何かが違っていた。



いつもはしないマスカラ。



着慣れないフェミニンワンピ。



履きなれないヒールパンプス。

彼女は振り返り、ぎこちなく朝の挨拶を口にする。

「オハヨウゴザイマス‥」







先輩は目を見開き、どうしちゃったのと、

あまりにもいつもと違う彼女に驚く。



用があって‥と言う雪を、先輩は驚愕の眼で見つめていた。

「‥‥‥‥」



その眼差しに、雪はなんだか気恥ずかしくなって赤面してしまう。

よりによって何で先輩と一緒の授業の日に、合コンがセッティングされたんだろう‥。



「へ、変ですよね‥?」と照れ隠しに頭に手をやりながら聞く雪に、

先輩は「全然変じゃない、すごく似合ってるよ」と笑顔で言った。

「ほ、本当ですか?」「うん、本当!すごく可愛いよ!」



思わず雪も笑顔が溢れる。

今度から大学にもこういう格好で来ればいいのに、と言う先輩に、雪は頭を掻きながら言った。

「いや~見せる人もいないし~」



青田淳は幾らか微妙な気分で、二の句を継げず黙ったのだが、

雪が彼の反応に気づくことはなかった。



ふと雪は恵のことを思い出し、時間も合いそうだし今日恵と先輩を引き合わせようと思い立った。

おずおずと、先輩に声を掛ける。

「先輩‥、今日時間‥ありますか?」「ん?」



「授業終わってから‥が、学館寄って‥お昼でもどうですか?」

「‥今日?」




雪は変な気分になりながら先輩をランチに誘った。

いつもとは違う彼女がいつもと違う提案をしたことに、先輩は幾らか神妙な顔をしている。



二人の間に少し間が出来ると、雪は「忙しかったら全然大丈夫なんで‥!」

と慌てて付け足したが、先輩は急いでそれを打ち消した。

「それじゃあ行こっか。雪ちゃんから誘ってくれるなんて、初めてだしね」



先輩はその後ニコニコと雪の隣りに座っていた。



雪は幾らか不安だったが、運を天に任せることにした‥。






学食に着いてから、雪は落ち着きなく辺りをキョロキョロと見回した。

すると向こうから恵がやって来て、雪の格好を見るやいなや、可愛い可愛いとはしゃぎながら褒めまくる。



雪が先輩に対し、この子もランチを一緒して良いかと尋ねると彼は笑顔で了承し、

三人は共に学食へと入っていった。



この間はジュースご馳走様でしたとお礼を言う恵に、笑顔で返す先輩。

雪はその自然な流れに、一人ガッツポーズをした。



席に着いてからも、雪は自然な展開になるよう頑張った。

(しかしそれは傍目から見ると果てしなく不自然だった‥)



自ら先輩の向かいに席を移動し、

隣の椅子は汚れてるから先輩の隣りに座るよう恵に促したり。







舞台は整った。それは雪がセッティングした合コンに他ならない。

二人を見て微笑む雪。



そして青田淳は気がついてしまった。



その図られた意図を。

ここに連れて来られた理由を。



隣りに座った小西恵は、淳に世間話を振ってくる。

四年生の多忙さについて、美大との課題の違いなど、他愛のない話題だ。



それに対し淳は、雪に対して一つトラップを仕掛けることにした。

「あ、雪ちゃん。この間一緒に観に行った映画のことだけど‥」



映画?と虚を突かれた恵に、淳は「雪ちゃんと二人で観に行ったんだ」と答える。



雪は動揺し、慌てて恵に向かって弁解を始めた。

「映画鑑賞の課題!あくまでも課題だからね!私達同じ授業聞いてるからさ!」



面白そうと言う恵に、「全然そんなことない」と否定する雪。

その露骨な雪の反応に、淳は表情が固まった。



雪はそんな淳の思惑や当惑に気が付かず、ひたすらに恵をアピールし続ける

「この子可愛いから印象に残るんじゃないですか?」と言う質問に、

先輩は「そうだね。モテるんじゃない?」と返す。

恵はそんな彼の言葉に頬を染めた。



雪は事態は思い通りに進んでいると確信する。



それからと言うもの、雪の恵推しは止まらなくなった。

恵は小さい頃から可愛くて良い子で、色々な男に付きまとわれて大変だったのだという話から始まり、

こうして並ぶ二人を見ているとまるで違和感無いですと、行き過ぎを止めようとする恵にも気づかず喋り続けた。



「もうなんていうかとにかく‥超お似合いですね!」



「‥‥‥‥」



ダラダラと冷や汗を流す恵に、キョトンとした先輩。

その二人の前で、雪は血の涙を流した‥。



慣れないことはするものではない。

墓穴掘りまくりの雪は、それ以上なにも喋れなくなった。

その気まずい空気に耐え切れず、恵がうちの学科に面白い先生がいると話題を変えてくれた。



ふと時計を見ると、すでに合コン開始の時刻に迫っていた。

そろそろ行かないとと、雪は慌てて立ち上がる。



そしてカバンの中から、青田先輩に渡す為用意していたお金を出して、テーブルに置いた。

先ほど出してくれたご飯代とお茶代ですと付け加えて。



お茶代?と尋ね返す先輩に、雪はこの間の映画の時のお茶代だと言った。

「あの時、先輩が全部払ってくれたじゃないですか。

映画代はともかくお茶代まで出してもらうのはちょっと悪いかなって‥」




淳は「そんなのいいのに」と言ったが、雪は譲らなかった。

「お世話になったのもあるし、ただの先輩後輩の間なのに毎回奢ってもらうわけにはいきません」



ピッと、二人の間に引かれた”先輩と後輩”というライン。

淳は見えないその線の前で、何も言えず固まった。



人や物事に対していつも”適当な線”を引いてきた淳は、初めて人から線を引かれた。

あからさまに堂々と、そして無自覚な残酷さと共に。



急いでこの場から去る彼女の後ろ姿を、淳はそのまま見送るしかなかった。



小西恵が、「今日の雪ねぇ、すごく可愛くないですか?」と明るい声で言う。



淳が今日は何か特別なことでもあるのかと聞くと、

恵は「雪ねぇ、今日合コンに行くんですよ!」と目を輝かせながら言った。



聡美が超イケメンを連れて来るのだと、

出席しない自分の方が浮かれちゃって眠れなかったと、恵ははしゃぎながら言った。

うまくいく気がする、と言う恵の言葉に、淳は返事を返すことが出来ない。




淳は雪によって引かれた線の向こう側へは行けない。

残されたのは、彼女が連れてきた幼馴染みの女。

そして彼女は合コンへ行った‥。




淳は心の襞が揺れるのを感じた。

心に立ち込める暗雲が、不穏にその胸の中を覆って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<線引き>でした。

青田先輩は、雪の3弾コンボ攻撃(線引き+恵紹介+合コン)でめった打ちですね‥。

映画の時、「先輩が後輩に映画一回奢るってだけなんだから」



とか変に”先輩後輩”感出しちゃったのが裏目に出ましたね。。


次回は<合コン(1)>です。


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事態は進行中

2013-08-12 01:00:00 | 雪3年1部(映画後~合コン)
恵とランチ中、雪の携帯に聡美からのメールが入った。

雪!合コン行くよ!あんたに断る権利はないからね!



雪は急な事態の展開にビックリした。思わず何事かと独りごちる。



恵がどうしたの?と聞くので、雪は事情を話した。

「合コン?!キャー!大学生っぽい~~!」



恵は目を輝かせて雪の門出(?)を祝った。早く雪ねぇの彼氏に会ってみたいと言って。


しかし雪は全然乗り気じゃない。

初対面の人といきなり面と向かって話せと言われたって、どうすればいいのか分からないのだ。



しぶる雪に、恵は「もっと気楽に考えなよ、とにかく行ってみることが大事だよ」と言った。

雪以上にワクワクしている恵を見ながら、雪は先ほど男子学生に青田先輩との関係を聞かれたことを思い出した。



人の噂は広まるのが早い上に、真実は歪曲して伝わる。

先日のキノコ頭のこともあり、合コンに行くことで青田先輩のことがデマだという証拠になるかもしれないと考えた。

運が良ければ素敵な人に出会えるかもしれない‥。



雪は聡美に承諾のメールをした。恵が手を叩いて喜んだ。



恵は大学生活が楽しいと言った。最近ときめいてるんだぁと。



友達も沢山出来たし、かっこいい先輩もいるし‥。

「あ!あたしちょっと前に青田先輩にまた会ったんだよね」という言葉から語られたのは、

青田先輩に挨拶をしたら名前を覚えていてくれて、恵とその友達の分までジュースを買ってくれた、ということだった。



恵は鼻高々、友達は超羨ましがっていた‥。


それを聞いた雪は微妙な気持ちになった。まだ青田先輩のこと気になってたんだ‥と。

そんな雪に向かって、恵は身を乗り出した。

「だからと言っちゃなんだけど、雪ねぇが協力してくれないかなぁ?」



あからさまな合コンとかではなく、彼と話す機会を設けて欲しいとのことだった。

そのお願いに、雪は若干躊躇いを感じた。



雪の反応に、恵が「迷惑だったら大丈夫だから!ただ聞いてみただけだからね!」と慌てる。




雪は考え込んだ。それは恵が思っている”迷惑”とは、全く種類の違うものだった。



脳裏には去年の彼の姿が思い浮かぶ。

  

間違いなくあれも彼の姿だ。

恵の見ていない面を、雪は去年沢山見てきた‥。

でも‥。

  

今年に入ってからの彼の姿を思い出して、雪は結論を出した。




「‥うん、分かった。協力出来るように頑張るよ」



まだ完全に自分の中で答えが出たわけではないが、雪は恵の頼み事を請け負うことにした。

頬を染めて喜ぶ恵を前にして、大丈夫だと思うことにした。


「けど雪ねぇは本当に大丈夫? 青田先輩とはホントに親しいんだよね?」




恵の言葉で、最近の青田先輩との出来事がフラッシュバックする。




落ち込んでいた雪を、身動きが取れなくなっていた自分を、連れ出してくれた先輩。

「笑顔でいてね」と、初めてその瞳の中に見出した温かさ。





一緒に行った映画館。初めてのゲームセンター。笑い合って進まない課題。





雪はそれらの記憶をたどった後、複雑な感情が胸を掠めるのを感じた。


先輩と映画館へ行った時、彼と話したこと‥。

「人と人とはある程度付き合ってみて、初めて分かり合える」ということ。

それは雪の言葉だった。

そして今雪の胸を掠めているのは、ほんの僅かだけれど生まれ始めた、先輩との”分かり合えた”時間だった。





「うん、前よりは親しいかな!」




それでも彼女はその正体が何なのか、まだ良く分かってはいない。

喜ぶ恵を前にして、雪もまた笑顔になった。











恵とのランチから帰って来た雪は、早速聡美隊長の”合コン作戦会議”に駆り出された。



議題はファッションと髪型のこと。

いつものジーパンTシャツではなく、もっとふんわり柔らかい雰囲気のものを着て髪を整えて行けと、聡美隊長はアドバイスした。

雪はこの間ママに買ってもらったワンピースがそんな感じなので、それを着て行くと言った。

すると聡美隊長は、ある懸念事項を確認した。

「私が合コン勧めたってこと、青田先輩には言わないでね?」  「はぁぁ~?!」



雪は男子学生に続き直美先輩達、終いには聡美にまで青田先輩のことを聞かれヒステリーを起こした。



マジで何の関係も無いんだと訴える雪に、聡美隊長はフッと笑って流した。



この後雪は合コン相手の写メを見せてもらったが、意外と悪くないという印象だった。

聡美隊長は握りこぶしを固く握り、雪にむかってファイティングポーズを取った。

「もし上手くいったら盛大に奢りなさいよね! この人マジでいい人らしいし!

これからの人生にまたとないホットガイ!!」




雪は隊長の熱意に圧倒されっぱなしだった。

既に合コンは、数日後に迫っていた‥。











場所は変わり、ここは都内某レストラン。

スタッフ控え室で、新入りのウエイターが上司から教育を受けていた。



上司は幾らか高圧的に言った。

このレストランは大学の近くという立地でありながら、他店とは違い高級店である、

お客さんに対しては一層の気遣いとサービスを提供しなければならない、と。

その言葉に対し、新人ウエイター・河村亮は無愛想に返事をした。

「あ、ハイ」



その態度に、上司は「笑顔で!優しく!」と指導した。

それに対して亮は笑ってみせたが‥。


「‥‥‥‥」

色々と問題はありそうだが、なんとか採用となった。

明日から出てくるように、と上司は言うと制服を亮に手渡して出て行った。




亮は制服を見て青ざめた。



蝶ネクタイ‥。

嫌な記憶が脳裏を過る。









帰り道、姉に電話した亮は蝶ネクタイのくだりを話すと、彼女にしこたま笑われた。



静香はペディキュアを塗りながら、以前亮が蝶ネクタイが嫌で飛び出して行ったことを引き合いに出して笑った。



先日の険悪な空気が幾らか和らいだところで、静香は亮に愚痴をこぼした。

「青田会長がさぁ、経理の仕事やらせてくれるって言うんだけど、

電算なんとかって資格が要るみたいでさぁ。もうマジダルいんだけど!」




静香はそんなめんどくさいことはしたくないと言った。そのまま適当にやらせてくれればいいのに、と。

それを聞いた亮は、そんな彼女の態度に閉口した。



いい加減にしろと幾らか説教もしたが、静香は全く聞く耳を持たない。

ファッションモデルのバイトに申し込んでみたが、もういい年だからと断られた、という愚痴へと話はシフトしていった。

「あんたも自分の年意識して、顔の手入れしっかりしなさいよ。

あたし達の取り柄といえば、それしか無いんだから」




分かってる、と言って亮は電話を切った。

静香は生意気な弟に腹を立てながら、ネイルサロンでも行こ、とその場から立ち上がった。



彼女の記憶の中に沈んでいた蝶ネクタイの苦い思い出が掠めて、気分が悪くなる。

それを振り払うように目の前の快楽を、貪るように求めるのだ。


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<事態は進行中>でした。

それにしても雪のTシャツ、シンプル過ぎやしませんか‥。


次回は<線引き>です。


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不穏な成り行き

2013-08-11 01:00:00 | 雪3年1部(映画後~合コン)
教室へ向かう道を歩いていると、雪は同学科の女子達に声を掛けられた。

おはようございますと朝の挨拶をする。



レポートの進み具合から始まる会話。

そんな中直美さんが、気になっていたことを雪に尋ねた。

「ねぇ雪ちゃん、何かあったの?」「え?」



直美は、雪が泣いているのを青田先輩が慰めていたという噂を聞いたと言った。

雪は驚きのあまり動揺したが、「別に大したことじゃないんです」と頭を掻く。



直美は少し居心地悪そうに、こう言った。

「心配だから、青田先輩だけじゃなくあたし達にも相談してくれればいいのに」



雪はその真意を探りながら、あの時のことをざっくりと話し出す。



就活相談でボロクソに言われ、そのショックでボーッと突っ立っていただけだと。

別に泣いていたわけじゃないんですと、苦笑してみせる。

その話題を皮切りに、女子達は就活相談の半端ない厳しさについて盛り上がった。

ある子は「泣きたくなった」と言い、ある子は「鬱になるかと思った」と言う。



先ほどの雰囲気が幾らか和やかになったところで、彼女たちは胸を撫で下ろすかのように言った。

「なんだぁ。青田先輩と何かあったんだと思ったのにー」

「ホントホント。スキャンダル炸裂かと思ったよねー。残念~」



それが彼女たちの本音だった。

雪が噂の情報源は誰かと詰め寄ると、直美さんは向こうに居る女子学生を指差す。



「フン!」



キノコ頭の子は、雪を見るなり不満気に踵を返した。

雪は困ったように溜息を吐く。



自分は何もしてないつもりでも、時折向けられる敵対心や猜疑心。

去年は平井和美がそうだった。

雪は自覚出来ない分、その対処の方法が分からなかった。

それは今年も変わらない‥。







別の日、授業が終わって教科書を鞄に仕舞っていると、

聡美が今日のランチについて話しかけてきた。



すると。

「雪ねぇ!」



ドアの所に小西恵が立っており、雪に向かって手を振っていた。

雪は聡美に向き直ると、今日は恵とランチ行くねと言って行ってしまった。



残った太一と聡美。

太一は「学食行きマスか」と聡美に声を掛けるも、聡美は白目になり思わず愚痴を零した。

「なんか‥雪を取られた気分‥!」



雪はあたしの親友なのに‥と爪を噛む聡美に、

太一は小学生じゃあるまいし、と若干引き気味である。



しかし聡美の言い分はこうだ。

「あんたは女心が分かってないね~!口に出さないだけでこういう葛藤はよくあるもんなのよ!」



聡美はそう苦言を呈した。あんたはお姉さんが三人も居るくせにそんなことも分かんないのか、と。

このままじゃ味趣連の存続に危機が‥と言いかけた聡美だったが、次の瞬間空き教室から興味深い話が聞こえてきた。

「やっぱ経営学科の中では平井和美がダントツだろ!」



聡美の耳がピクッと反応する。

そのまま二人は息を潜めると、会話の続きを盗み聞いた。



「学科全体で見たらそうじゃね?」「でも背が高すぎんだよなー」

「お前が小さいだけだっつーの」「性格も悪いじゃん」

「じゃあ平井の代わりになる奴は誰がいんだよ」



男たちは、好き勝手に喋り続けた。沢山の女子の名前が挙がっては消えて行く。

途中聡美の名前も挙がったが、彼女の評価は上々だった。

イエイ!


しかし次に挙がった名前を前に、二人は固まった。

「それじゃあ赤山雪は?」「赤山〜〜??」



男達は雪が最近青田先輩のお気にらしいとの噂を口にし、その内の一人は雪に確認までしたと言う。

かなりの形相で否定していたらしいが‥。



彼らの雪への評価は、あまり良くない。

顔は割かし可愛らしいという評価だが、愛嬌が無くガリ勉なところが問題だと。

ファッションセンスも評判が悪く、ある学生は、「父親の服を着ているようだ」と嗤った。



太一の横で、聡美の怒りボルテージが沸々と上がっていく。

遂に沸点に達した聡美は、大声と共にドアを蹴飛ばした。

「このろくでなしどもがぁぁぁぁ!!」



聡美は暴れた。

雪があんた達に愛嬌振りまく必要なんて無いんだよと怒り、

何を着ようがガリ勉だろうが関係無いだろと叫ぶ。



蜘蛛の子を散らすように男子学生達は逃げて行った。

外で聡美を待っていた太一は、まだ追いかけようとする彼女の襟首を掴んで止める。



興奮冷めやらぬ聡美は、思いのままに叫んだ。

「こうなったら合コンだ!!」



なんでそーなるの‥とツッコむ太一にも反応せず、

聡美は「雪に超イケメンの彼氏を作ってあいつら黙らせてやる」と意気込んだ。

「え?それじゃあ青田先輩はどうなるんスか?」



太一の質問に、聡美は「何の進展も見えないから待ちきれない」と結論を急いだ。

頭に血が昇っているのもあって、すぐさま携帯を取ると通話ボタンを押す。

「あたしの友達に超いい子が居るんだけど、合コンセッティングして貰えない?

かなりのハイレベルで頼むわ」




聡美の要求したスペックはこちら。

*イケメン *金持ち *礼儀正しい *スポーツ万能 *留学経験有り =つまり神レベル

ってかこれ青田先輩でよくね?

聡美は言うだけ言って一方的に電話を切った。



しかし太一はその内容よりも、電話相手の方が気になっている。

「‥男っスか?」



聡美は、前に友達の紹介で知り合った男性だと言った。

付き合っているわけでは無いが、たまにデートする仲なんだと。

太一はその関係に引っかかりを感じた。

「付き合ってもないのに、どうしてデートなんかするんスか?」 「え?」



そんな太一に、聡美はいきなりタックルをかました。

男と女が会うのに恋愛が全てではない、あんたとあたしみたいなもんだと言って。



しかし聡美は太一の肩を掴むと、あんたとは比べ物にならないレベルの”友達”だけどね、と言って笑顔を浮かべた。

「そうだ!雪にメールしとこ!」



聡美の後ろ姿を見ながら、太一は煮え切らない思いを抱え黙り込む。



自分以外の”友達”とデートする聡美のことも、

その”友達”と同じジャンルでくくられる自分のことも、到底納得出来なかった。




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<不穏な成り行き>でした。

色々なメンツと男女間の友情が成り立つ聡美は素敵ですね。太一はヤキモキするだろうけどねーー!

しかし聡美が合コン相手に指定したあのスペック‥。まんま青田先輩ですね‥。


次回は<事態は進行中>です。



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