結局雪は河村亮と別れた後、そのまま家に帰ってきた。
シャワーを済ませてからベッドに寝転がると、淳に向けて一通のメールを打った。
どこか落ち着かない気分のまま、とりあえず気になっていることだけメールする。
無事帰れました?
送信ボタンを押してから、雪はしばらく携帯を持ちながら返信を待ってみた。
しかし一向に携帯は鳴らない。
雪はもう一通だけ、短く用件を打つ。
寝ます?
時計を見ると、もう深夜一時を回っている。
既に彼が寝ていたとしても不思議ではない時刻だ。
しかし雪は携帯を見つめながら、じっと返信を待っていた。
雪は携帯を持ちながら、そのままゴロゴロと転がった。
「先輩ちゃんと帰れたかなぁ‥タクシー乗るまでは大丈夫だったけど‥。
何で返信こないのかなぁ‥」
雪はソワソワした気分で携帯を持ち、返信を待ち続けた。
気になっていることが、つい口をついて出る。
「酔った勢いでキスしといて‥次会った時記憶が無いってことはないでしょうね‥?」
キス、という単語を出すだけで頬が染まっていくのを感じる。
雪は高鳴る鼓動を抑えることが出来ないまま寝転がっていると、不意に携帯が鳴り返信が入った。
うn ゆきちゃんmおやすみ
恐らく片手で打ったであろうその簡素な返信を見て、雪は力が抜けていくのを感じた。
そして、どこか残念なような苛立たしいような、形容しがたい感情が彼女の胸を騒がせる。
「あ~なによも~!寝るの?!寝れるの?!よく平気で寝れるよねぇ?!」
雪はとてもじゃないけれど、眠れそうになかった。
ふと我に返るとすぐ、浮かんでくる場面があった。
大きな手が頬に触れた。
酒臭い彼の熱い吐息がかかり、唇が燃える‥。
「うぅ‥」
雪はぎゅっと枕を抱きしめると、唇にその感触が蘇ってくるようだった。
全身が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。もう自分で自分がコントロール出来なかった。
「うわあああああ!」
また部屋で叫んでいる姉に、蓮の怒号が飛ぶ。
しかし雪は一人赤面しながら、ベッドにバタバタと足を投げ出した。
「もー!!どーしよーー!!!」
夜は更けゆくのに、高揚のせいでちっとも眠れそうにない。
窓から空を見上げると、丸い月が浮かんでいた。
そして同じ月夜の空の下で、彼女を悩ます彼はベッドに横になっていた。
こちらは彼女と打って変わって、早くも熟睡中だ。スヤスヤと赤ん坊のような安らかな寝息を立てている。
大瓶四本の焼酎とキスの酔いが、彼を深い眠りの世界へと誘っていく。
おやすみ、先輩。
おやすみ、雪。
月の光は皆を包み、時は平等に巡って夜は更けゆく‥。
一夜開けて大学では、居場所の無くなった横山翔が一人悔しさを噛み締め項垂れていた。
俯きながら、ギリリと歯を食いしばっている。
畜生、と呟いて思い出すのは、先ほどの同期や先輩達の態度である。
「みんな!先輩も‥!今日は俺が飲み代持つっスから、腹を割って話を‥」
横山は彼らにそう声を掛けたが、同期や先輩達の自分を見る目は冷ややかだった。
「お前青田に謝ったのかよ?一度じゃ飽きたらず二度も噛み付きやがって‥」
そう言って彼らは背を向けた。
いやらしそうに嗤う声が、耳に残って心をざわつかせる。
アイツマジ変わってねーじゃんww
昨日まで自分をチヤホヤしていた彼らは、一度も振り返らずにその場から去って行った。
そして横山は悔しさを噛み締めながら、中庭にて彼女を待ち、ようやくその腕を捕まえた。
「直美さん、話を聞いてくれ!本当に誤解なんだって‥!」
しかし直美は腕を振り払うと、あんたと話すことはないと言って顔を顰めた。
「直美さん‥俺のこと、信じられない?」
横山は潤んだ瞳でそう問いかけるが直美は、
「ま‥またほとぼりが冷めたら話そ‥」
そう言って駆けて行ってしまった。
取り残された横山を指差して、ヒソヒソと話す声が聞こえる。
アイツまたやらかしたってさ マジ青田をなんだと思ってんだろ?
手が先に出るとか、本気で頭悪ぃよな
大学生にもなって、先輩の胸ぐら掴むとかありえねーよ
ウケるww
浴びせられる嘲り、嘲笑、自分を馬鹿にする彼らの心無い言葉達。
横山は震えるほど拳を握りしめながら、青筋を立てて憤った。
クッソ‥”先輩”だと?闘う理由があってこそのあの状況だろうが!
たった何歳か年食ってるってだけで、偉そうな顔して吠えやがって!クソが!
横山は頭を抱えて悶絶した。
クソ‥こんな大学に大した伝統と上下ルールなんてあるかよ‥。
青田のクソ野郎も、先輩として敬うべきだっていうのか?!
しかしどんなに頭を抱えて不満を蓄えたところで、状況は何も変わらない。横山は苛立っていた。
とにかく‥どうやって挽回すればいい?
やっと学校生活が変わってきたところだってのに‥
夏休みから水面下で自分を株を上げる努力をしてきたのに、ここに来て白紙に戻ってしまったことに横山は焦りを感じていた。
思い悩みながらふと顔を上げると、あの男の姿が目に入った。
長身のその男は、ゲームをしながら構内を歩いていた。
女の子に挨拶されて、手を振って応えている。
ケッ、と吐き捨てるように言った横山は彼から目を逸らした。
いけ好かない思いが胸を支配する中、一つの考えが浮かぶ。
もう一度、彼の姿をその視線が追った。
「おっとぉ‥」
前々から気に入らないあの後輩を貶めて、自分が株を上げる方法を横山は思いついた。
彼はニヤリと意地悪い笑みを浮かべると、その後輩の後をこっそりとついて行った‥。
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<意識>でした。
雪ちゃん可愛いですね~(*^^*)連載史上最高の”オトメ度”だったんじゃないでしょうか?
そして‥この先何日も萌えない展開が続きます‥。orz
皆様お辛いでしょうが、私も辛いですから‥!頑張ります‥(テンション低)
次回は<太一への陰謀(1)>です。
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