Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<淳と亮>過去回想(10)ー的中ー

2016-07-27 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)


授業は終わり、放課後となった。

亮の視線は、席を立つ淳とショパンの二人を追う。



始め淳が教室を出て行き、その後ショパンが出て行った。

亮は席に就きながら、じっとその様子を窺っている。



そしてその背中が見えなくなった頃、亮はそっと席を立った。






一人廊下を歩くショパンの後方を、気付かれない様そっと歩く亮。

「‥‥‥‥」



今や胸中は疑心と裏切りへの憤懣でどうにかなりそうだった。

亮はショパンの背中を睨みながら、考えついた仮説を頭の中でなぞる。

淳の奴が‥アイツを何かしらの甘い言葉で誘導して‥



オレを呼び出し‥。二人、会ってどんな話をしやがんだ‥







そう考えながら、亮はふと窓の外を見た。

下に見えるのは、副級長の兄・城崎含む三年の不良達と、



彼らと親しげに会話する、青田淳の姿‥。







淳は彼らと二言三言会話をしてから、その場から去って行った。

亮は目を見開きながらその光景を凝視する。






ハッと気が付くと、ショパンが目の前のドアを開け中に入る所だった。

特に淳と会う素振りも見せず、ただ一人でその中へと入って行く。







疑心で目の前のことすら見えなくなっていた亮は、一人かぶりを振りながら来た道を戻り始めた。

あー‥止めだ止めだ。何やってんだよ、最近おかしいぞ



別にアイツも何もしてねぇじゃんか



亮はショパンが進んだドアの方を振り返りながら、初めて彼についてじっくりと思いを巡らせていた。

「‥‥‥‥」



‥アイツとも、一度ちゃんと話をしてみなきゃな



オレに対して溜め込んだモンがあんなら、

後で変な方向に走るより思い切りぶち撒けりゃいいんだよ。正面切って、堂々とよ




先日、亮に食って掛かって来た彼の姿が思い浮かんだ。

僕を無視するな、見下すなと声を荒げた彼を、亮は虫の居所が悪かったのもあって突っぱねてしまったのだ‥。

「‥‥‥‥」



このまま追いかけて呼び止めようか、とも思った。

しかし彼が叫んだ言葉が蘇る。「僕の名前はショパンでもピアノでもない」と。

名前くらい知ってからの方がいいな



亮はそのまま、ショパンに指定された場所へと歩いて行った。

工事中の別館には立ち入り禁止のテープが貼られているが、構わず中へ入って行く。



「河村ぁ!」



聞き覚えのある声が掛かった。

立ち止まった亮の前に、顔面傷だらけの岡村泰士とその仲間達が現れる。

「よぉ」



そこから先は、語るまでも無かった。

「この野郎ー‥」



暗澹たる絶望と、疑心と、憤懣と、裏切りに悶えたそのやるせない気持ちは、今も忘れることが出来ない。

何か一つでも違っていたら、違う未来が待っていたのだろうか‥。



八年の歳月を経てあの頃のことに言及した亮と淳。

ゆっくりと時計の針が、先に向かって進み始める‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(10)ー的中ー でした。

淳サイド+亮、からの過去回想はこれで終わり!と作者さんのブログに書いてありました。

左手事件の真相は明らかになったものの、結局はいつもの黒淳的な流れでしたね。

本当に何か一つでも違っていたら‥ともどかしく思いました。

さて次回はこの話し合いの決着です。

<忠告と真実>です。


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<淳と亮>過去回想(9)ー疑心と裏切りー

2016-07-25 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
河村静香は焦っていた。

「このままじゃマズイわよ!淳ちゃんとは仲直り出来ても、

他の学校のヤツらまで復讐のチャンスだって喧嘩しかけて来やがって‥!」




亮は自分の失言のせいで現状を引き起こしてしまった後ろめたさから、

そんな姉に対して何の言葉も掛けることが出来ない。

「身寄りがないってことがバレた時点で終わりなんだって‥!だからあれほど気をつけなさいって‥

あのチビがそう広めて‥」




そこまで口にした途端、静香は先日偶然目にした場面を思い出した。

「あ、そうだ!あたしなんか不安になってあのチビ追いかけたの。

そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!

アイツ、あたしたちのポジ狙ってんじゃないの?!ちょっとどうにかしてよ!アンタのせいでしょ?!」




それを聞く亮の視線は、静香ではなくとある人物に注がれていた。

壁の向こうから顔を出した”ショパン”は、亮と目を合わせずに、小さな声でこう呟く。

「お前‥授業終わったらちょっと出て来いよ」



彼とは一度話をつける必要があると感じていた亮は、その申し出を引き受ける。

「おお。オレもちょっとお前に話あんだわ」

「ちょっと!こっち来なさいよ!アンタでしょ?!あの噂流したの!」



静香がショパンに向かって大声で叫んだが、彼はそれには答えず、そそくさと二人に背を向けた。

「工事中の別館に来いよ‥」



そのどこかオドオドした彼の態度を見て、静香は余計頭に血がのぼったようだ。

「ちょ‥なんなのよアイツ!!あたしと喧嘩しても負けそ‥うっ?!」



「うううーーっ!」



亮はショパンが去った方向を睨みながら、チッと一つ舌打ちをした。

静香と別れて一人になってからも、先ほど姉が口にした話が頭から離れない。

あいつが全部‥噂を広めたって‥



その事実を耳にしても、亮はどこか腑に落ちない気分だった。

そもそも彼から恨まれるようなことを、自分はしでかしていただろうか?



くさくさしながら廊下を歩く亮の視線の先に、淳を含めたクラスメートの群れが見える。

クソッ‥



彼らはぞろぞろと歩きながら、淳を中心にして何やら話をしていた。

耳を澄ますと、どうやらそれは亮のことについて話しているらしいことが分かる。

「よぉ、最近なんか明るくね?」「だよな。なんかよく笑うし」

「今まで亮のせいで色々苦労してきたもんなぁ?w」



淳の肩を叩きながら笑う彼らに対して、淳は冷静にこう返した。

「いや、むしろ気になってるよ。やっぱりお互い気になっちゃうし‥けど‥」



「皆、亮にあまり酷いことしないでくれな」

「おいおい、俺らがいつそんなことしたよ?俺らはそんな人間じゃねーぜ?」

「つーか怖くていじめらんねーってのwそれすんのは岡村くらいのもんだろ







ははは、と彼らは笑いながら去って行った。

亮はその場に立ち尽くしながら、同じような場面を、同じようなセリフを体験したことを思い出す。

「西条の奴、まだ学校こねーの?」



あの時淳は言った。何食わぬ顔をして。

「そうなんだ。早く良くなると良いね」



その言葉を聞いて、思わず亮は吹き出したのだ。

早く良くなると良いねだとよ‥テメーが病院送りにしたよーなモンじゃねーか



そう思いながら。

見せかけ‥



淳のその言葉と笑顔に、”見せかけ”という言葉がピッタリと嵌まる。

思えばあの時もそうだった。

「明後日、◯◯区にある店に皆が集まることは知ってるよな?」

「あそこにある焼肉屋に来いって、先輩達からメールが来たろ?」

「西条は呼ばれてないの?」「西条も行く?行きたいならさ」




その違和感を、亮は確かに感じていた。

「え‥雑用って何の?てか掃除は?」

「明日の一限に使う資料だって。今持って行って欲しいって先生が」

「てかなんでそれをお前一人に‥」

「別に俺一人ってわけじゃないさ。もう一人連れて来いって言ってたから、一緒に行こう。

掃除はしなくていいってさ」
「お?おー‥」

集まり、行かねーのか?行くの止めたのか?



全てが淳の思うがままに進むかのような、その現実を目の当たりにして。

「西条の奴入院したらしいぜ。三年にやられたらしい」

「かつを入れるとかなんとか‥。おとなしく卒業してくれりゃいいのに」



同じ様に違和感を感じていた人間も居るには居た。

西条が入院した時、同じクラスの副級長・城崎仁は、亮にこう聞いてきたのだ。

「マジで淳が酒飲みに行こうなんて誘ったわけじゃねーよな?」

「でも青田が最近急に仁の兄貴達と仲良くなったのは事実なんだ」



あの時亮は淳を庇って、事実無根だと城崎に告げた。

けれど本当にそれが真実だったのだろうか?

「あたしなんか不安になってあのチビ追いかけたの。

そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!」




実は真実は、感じた違和感の方にあったんじゃないのか?

裏切り‥



胸の中にこびりついた”見せかけ”と”裏切り”は、みるみる内に膨れ上がって行った。

亮は教室に戻ってからも、疑心を込めた眼差しで淳の背中をじっと睨む。

まさか今度は‥

 

何も語らぬ淳の後ろ姿が、全てを語っているような気がしていた。

今にも溢れ出しそうな感情を噛み殺しながら、亮はぐっと拳を握り締めた‥。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(9)ー疑心と裏切りー でした。

亮や静香、ショパン達の既出場面と、初出の淳のシーンを絡めた構成になってましたね。

だんだんと亮が淳に抱く疑心が膨らんで行く様が、丁寧に描かれています。

さて過去回想も次回で最終回。


<淳と亮>過去回想(10)ー的中ー です。


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<淳と亮>過去回想(8)ー利用価値ー

2016-07-23 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
冷たい態度を貫く淳に対して、静香は追い縋るようにして彼を引き止める。

「亮が淳ちゃんのことを会長にチクったことも!」



「あたしが代わりに謝るから!」



必死とも言える態度で言葉を続ける静香。その顔には悲壮感すら漂っている。

そして静香はその口調に、次第に女性特有の媚の香りを滲ませ始めた。

「でも亮がやらかしちゃったからって、

あたしにまでこんなことする必要なくない?でしょ?」




「それじゃあたしは逆に、会長のことで分かることあったら教えるから!

淳ちゃんの為に何でもするし!ねっ?!」


「何言ってるの」



淳は一言そう口にして、静香の肩に手を置いた。

静香はそのスキンシップを受け入れながら、「あたしはただ‥」と口ごもる。



「あたしは淳ちゃんの味方だってこと分かってほしくて‥」

「俺の味方して何になる?父さんの方に付いた方が得だろ、お前達は」

「そりゃ‥。ただもっと、」



そうして静香は淳に向かって、甘えるような視線を投げかけた。

「狡賢く生きてみようかな、って」



「将来的には淳ちゃんが会長の座を継ぐわけだし、

淳ちゃんについた方が後々得じゃん?そうしなきゃあたしも生きていけないわけだし」




静香は堂々と己の下心を口に出した。

未来の会長に対して、ヘラヘラとした笑顔を浮かべながら。







全ては利用価値があるかないか。

気持ちの良いものではなかったが、淳はそんな静香の考えが嫌いではなかった。

馬鹿げた発想や行動だろ。だけど悪い気はしなかった。



父さんと手を組むまでは、静香とは上手く行ってたんだ。



問題だったのは、要領の良い姉に比べて不器用で世渡り下手な、真っ直ぐな弟‥。

お前に静香くらいの柔軟さがあったら、あんなことにはならなかったんだろう





傷だらけの亮の顔面を見て、学生達は皆振り返った。

「おい‥」「うわ、すげぇな」「見たか?あの目付き」



亮に恨みのあるピアノ科の後輩・岡村泰士の弟は、

友人に愚痴をぶち撒ける。

「河村亮の奴、なんで未だにエラソーなわけ?

先公達もアイツの味方しやがって。

もう先輩なんて呼んでやんねー。あんなクソ野郎!」




”河村亮は青田家から援助を受けている”

その噂が広まってからというものの、

元々亮のことを良く思っていなかった人間は、

ますます亮に恨みを抱くようになって行った。

そしてその波紋は、勿論淳の所にまで及ぶわけで‥。

「なぁ、級長」



副級長の城崎は、不満そうな顔で亮についての話を口にする。

「河村の奴、昨日もまた大勢相手に喧嘩したみたいだぞ」



「全員掛かって来いって息巻いて大騒ぎだよ。

大事になったらどうすんだ?」




すると城崎の後ろに、彼の姿が見えた。

亮が何度も口にしていた、”ショパン君”だ。



淳は表情を変えることないまま、こう一言返答した。

「まぁ、一度痛い目見ないとおさまらないだろうね」



城崎が唸りながら去って行った後、ショパンはおずおずと淳に近付く。

「あの‥青田君‥」



淳はニコリと笑ってそれに応えた。



ショパンはオドオドしながらも、用意して来たその言葉を口に出す。

「クラシック音楽を聴くのが好きって‥聞いて‥」「うん」

「僕‥今コンクールの準備してて‥良かったら一度‥聴きに‥その‥」



「その‥普段僕のピアノ聴いてない人に聴いてもらって

意見をもらいたいっていうか‥その‥」




「ど‥どうかな?」



目を合わせられず下を向きながらそう聞くショパン。

淳は微笑みを浮かべながら、快くそれを了承する。

「うん、分かった。楽しみにしてるよ」



淳の返事を聞いたショパンは、胸を踊らせて自身の練習時間を伝えた。

この時間になったら練習室でピアノを弾くから、どうか聴きに来てくれと。




けれど。




約束の時間。

ショパンはピアノの練習室の前で、滑らかに響く音の洪水に飲み込まれてしまっていた。



膝を抱え込みうずくまる彼を見て、淳は何があったのかを推し量る。

視線はゆっくりと練習室の方へと流れた。







聴くもの全てを惹きつけるその音は、聞き覚えのあるそれだった。

時に嫉妬すら駆り立てる程の、その音。

その旋律‥。







淳は練習室の扉へと、ゆっくりと近付いて行った。

そして音を立てぬよう、ガラス窓から中を覗き込む。



そこに、顔面傷だらけでピアノを弾く亮の姿があった。

彼は声も掛けられない程鬼気迫る表情で、音の洪水を起こし続けている。







亮は叩きつけるようなタッチで鍵盤を弾いていた。

まるで胸の中に溜まった鬱憤を、全て音符に乗せて晴らすかのような。



淳は暫く亮の姿を見ていたが、

練習室の前でうずくまるショパンは、じっとその場から動かない。



彼は頭を抱えながら、ブツブツと何かを呟いていた。

「どうして‥アイツなんだ‥」



鼓膜をつんざくようなその音が、ひたすらに耳障りだった。

どうしていつも自分の前には、河村亮が立ちはだかるのかーー‥。







ふと目線を上げたショパンの目に飛び込んで来たのは、淳の足元だった。

彼はハッと我に返り、目の前に居る彼に向かって声を上げる。

「あ、青田君!」

「どうしたの?

もう君の順番なら、そう言って代わってもらえばいいじゃないか」




「‥‥‥‥」



冷静にそう諭す淳を前にして、ショパンはあからさまに動揺していた。

一番見られたくない姿を、一番見られたくない相手に見られてしまったのだから。

「きゅ、級長!見なかったことにしてくれないかな?僕はただ‥」

「落ち着いて」



しかし淳はそんなショパンの胸の内もお見通しと言った具合で、にこやかにこう言葉を続ける。

「大丈夫。恥ずかしく思うことじゃない」







ひたすらに耳障りだったその音が、淳のお陰で幾分柔らかくなった気がショパンにはしていた。

言葉を忘れたかのように立ち竦む彼の肩を、淳は優しくポンポンと叩く。



「ピアノ、また今度聴かせてな。悩みがあるなら聞くし」



「俺で良ければ」と言い残し、淳はその場からゆっくりと去って行った。

ショパンは何も言えないまま、淳の発した甘やかな言葉を胸に、溢れる涙を拭ったー‥。










「お前、普段から彼のことをかなり気に入っていたようだけど、

彼が内心どんなことを思っていたのか、あの事件が起こるまで全く知らなかっただろ」




話を聞き続ける亮に向かって、淳はあの時のショパンのことをこう語った。

亮は何も言い返すことのないまま、未だにぼんやりとしか思い出せない、

あの頃の彼のことを再び回想する‥。





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<淳と亮>過去回想(8)ー利用価値ー でした。

皆さん、前回の記事の私信に温かいコメントを沢山ありがとうございました

嬉しかったです

なんとかまだ更新出来そうです。今週分で淳+亮の過去は終わりみたいなので、

どうにか全部記事にしたい‥!頑張ります



静香の意味深発言を受けても、淳はあまり動揺しませんね〜。

下心全開なのが却って小気味良いんでしょうかね。なんだかスレた高校生だな‥

そしてショパンが聞いてるとこで「一度痛い目見ないと」と口にする淳‥。怖いー!!

最後の優しげな言葉も、完全に味方に付ける為の布石なんでしょうね。怖いー!!


次回は<淳と亮>過去回想(9)ー疑心と裏切りー です。


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<淳と亮>過去回想(7)ー父の抑圧ー

2016-07-21 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
「話がある」



帰宅した淳を待ち受けていた父は、そう口にして息子を呼び止めた。



淳は普段通りの”聞き分けの良い息子”の笑顔を浮かべ、

父に促されるまま彼の後に付いて行く。



テーブルに置かれた珈琲を挟みながら、父は息子に言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「亮も失言だったと認めて、もう何十回も謝っただろう。

これは子供達の間で起こったただのハプニングに過ぎない」




「事実無根だということがすぐに明らかになったのに、

ずっと被害を受け続けるのはあの子達の方じゃないか。お前が寛大に理解してやるんだぞ」




「それでこそ私の息子だ」



父はそう口にしてニッコリと笑った。

一見優しげな表情と言葉のその裏には、息子への抑圧が隠れている。



淳の瞳からは光が消えていたが、父はそれには気が付かなかった。

ふぅ、と息を一つ吐き、父は自身が考えていた息子達の将来について口を開く。



「本当ならお前達三人一緒に留学させようと思っていたんだが、

亮は今回のことで遠慮したのか、行かないと言い出したよ」




「お前と静香の二人だけでも、とも思ってるんだが。

もしお前が行きたいのであれば、一度調べてみるぞ」




息子も亮も静香も、父は自身の手の内にあると思っている。

彼の考える最良の道を、三人が共に歩めばそれが一番だと。

「後々のことを考えれば留学はしておいた方が‥」

「あ、俺、留学はしません」



「何?」



しかしそこで、エラーが起こった。

しかも一番忠実だと思っていた実の息子が、それを起こしたのだ。

「センター試験を受けて、国内で大学へ通います」



父は当惑しながらも、とりあえず息子の意図を聞くことにした。

「そうしたいのか?」



「まぁそうだな。国内も悪くない」



よく考えれば、現在の時点で留学しないことはそこまでの問題でもなかった。

父は笑顔を浮かべながら、息子の決めた方向性を肯定する。

「ここで社会性を身に付けて、勉強はその後でも十分‥」

「父さんの望むようにしますよ」



淳は笑顔を崩さず、しかし父の言葉を遮る形で自身の意見を口にした。

普段とは違う息子の姿に、父は驚きを隠せず絶句する。

「俺が離れるのは不安でしょう?”父さんの息子”が何をしているのか‥。

一人残って一人付いて来られるのなら、俺もこちらの方がマシです」




”何の打算も目的もなく、ただ互いのために気を掛け合える存在が必要だ”

河村教授が遺したその言葉通りに、物事は進んでいるはずだった。

しかし。



その時、漠然とした不安が、父の胸中に広がり始めた。

もしかしたら自分は最初から、何も見えてはいなかったのではないかー‥。








翌日淳が構内を歩いていると、聞き慣れた声が彼を呼び止めた。

「淳ちゃん!」



「ちょっと話があるんだけど!」



河村静香は淳の前に立ち塞がると、強い眼差しで彼を睨んだ。

口を真一文字に結びながら、身体を微かに震わせながら。







淳は無言でそんな静香を見ていたが、やがてふいと身体を背けた。

静香は淳の態度に焦りながら、強い力で彼の腕を取る。

「お願いだから話を聞いてよ!ねぇ、淳ちゃんってば!」



「ごめんね?あたしが全部悪かったの。ね?」



「何が?」



そう素っ気なく言い放つ淳を見ながら、静香は涙目になって俯いた。



「だから全部‥」

「え?」



「こんなことになったのも亮がコンクールの時口を滑らせたからだろう。

お前がこんな風に謝る必要ない」




淳はそう言い捨てて、静香の前から去って行こうと足を早めた。

静香はなりふり構わず、必死に彼を引き止める。

「あ、ほらだからっ‥亮が淳ちゃんのことを会長にチクっちゃったことも!」



「あたしが代わりに謝るから!」



真実はいとも簡単にねじ曲がる。

何かを繋ぎ止める為に必死になればなるほど、元の原型を無くして行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(7)ー父の抑圧ー でした。

三人一緒に留学って‥。実の兄弟でもそんなことはしませんよね。

淳がだんだんと神経を尖らせて行くのが分かります。

そしてラストの静香の意味深な言葉‥。気になりますが、4部42話はここで終わりです。




あと‥ワタクシゴトのご報告で恐縮なのですが、このたび第三子を授かりまして、

8月頭に出産の予定を控えております。

もう正産期に入ったこともあり、生まれたら更新出来なくなる予定です
(二番目と年子になることもあり、再開目処も全く立ってません

いつも楽しみにして頂いてる方達には申し訳ない思いでいっぱいですが、ご理解して頂けると幸いです。

LINE漫画で4部の日本語版が始まったようなので、それだけが救い‥かな?

生まれるまで全力で更新がんばりますので、どうぞよろしくおねがいします


次回は<淳と亮>過去回想(8)ー利用価値ー です!

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<淳と亮>過去回想(6)ー背信ー

2016-07-19 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
”青田淳と河村亮は腹違いの兄弟”という噂が流れた後、淳は自身の考えを変え、

彼らに対する態度も変化させて行った。

あの時から、俺はお前達と少し距離を置くようにした。

自分の意思をはっきりと父に伝えるためにね。




突然冷たくなった淳に亮は苛立ち、静香は途方に暮れた。

それでもそうするしかない、限られた選択肢の中で、淳は淳なりに足掻いていたのだ。

高校生だった俺に出来ることは、それくらいしか無かったから









誰も居ない廊下で、淳は一人窓の外を眺めていた。

ここは皆からの好奇な視線も、ヒソヒソと囁かれる噂話も届かない。

けれど、淳の胸中は常にざわざわとざわめいていた。



「あの‥」



すると背後から、弱々しい声がした。

声のした方をじっと見ていると、オドオドとした男が一人近づいて来る。



「あの‥」



俯きながら「あの」を繰り返すその男に、淳は向き合って声を掛けた。

「何?」

「いやその‥聞きたいことが‥あって‥」



男はクラスメートであり、亮と同じピアノ科の学生だった。

淳は見せかけの笑顔を飾りつつ、彼の発言を優しく促す。

「何かな?大丈夫だから、言ってみなよ」







彼は幾分逡巡していたが、やがておずおずと口を開いた。

「も‥もしかして河村亮も‥

君の家から援助を受けてるの?」








柔和な笑顔を保てない程、その質問を前にして淳は絶句した。

明らかに表情の変わった淳を見て、ピアノ科の学生は狼狽える。

「い‥いやその‥

君のお父さんが‥この前家に訪ねて来られて‥」




「僕‥コンクールにも出られずに落ち込んでたから‥励ましに来て下さったみたいで‥」

「大丈夫ですよ」



そして彼は、スポンサーである淳の父親が家に訪ねて来た時のことを話し出した。

「大きな賞を取ることを期待して援助している

わけではないですから。負担に思う必要は無いですよ」




「ご子息が私の夢を広げてくれることの方が何倍も嬉しいですから。

私は元々クラシック音楽が好きなもので、それで援助の手を広げているだけなのです。

同じ高校と別の高校のピアノ科にも、同じ様に援助している子らがいるのですよ」







淳は黙って彼の話を聞いていた。

ピアノ科の学生はボソボソと喋りながらも、淳に聞きたいことを確実に口にしてくる。

「皆ご両親は健在だし、お金持ちだし‥。

青田君にいつも引っ付いて、家のこともよく分からないのが河村亮だから‥」




「その上あんな噂まで‥」



ピアノ科の学生はそこまで口にしたものの、

淳の前で口にすべき話題では無かったと気づき、すぐさま訂正した。

「あっ勿論嘘だろうけど!」



淳はまだ何も返さない。

ピアノ科の学生は、それを自身の発言を許容しての態度だと理解し、言葉を続ける。

「それでもしかしたら河村亮がそうなのかもって‥。それって‥本当なの?」



そう言ってチラと淳の顔を見た彼の表情は、どこか優越感を感じさせるものがあった。

気弱なその態度の中に、嫌悪している相手の弱点を見出した時特有の小狡さが、見え隠れしていたのだ。



はっ、と淳は小さく息を吐き捨てた。

彼が浮かべた表情は、淳が飽きるほど目にして来た、相手を出し抜こうとする小者の表情だ。



いつもなら当たり障りない言葉でやんわりと否定しただろうが、

もう状況は違って来ていた。

目の前に居るその小狡い人間は、淳の返事を期待を込めた表情をして待ち侘びている。







河村亮という人間が作り出した影が、今意志を持って動き出そうとしていた。

その光を飲み込もうと、鬱々とした感情を従えながら。

「調べてみなよ」



否定も肯定もしない、それでいて影を先導するその言葉が、

事態を何倍ものスピードで進行させて行く。



「おい、河村も援助受けてるらしいぜ」

「え、マジ?」「何何?」



「おい、お前どうして何も言わねーの?

かくしてねーでアイツらに援助してるって言えばいいじゃんか」




「マジで天使かっつーの!」



淳は何も言わずただ笑顔を浮かべていた。

”天使”は自らの手を汚さずとも、背信に動く影が、いつか光を飲み込むからと‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(6)ー背信ー でした。


少し短めの記事で失礼しました。

ピアノ君(今は”ショパン”でしたね)が淳に、亮が「援助を受けてる」という裏を取りに行った場面でしたね。

これを静香が覗いていたんですねぇ。



だんだんと抜けていた過去エピが埋められて行くのはゾクゾクしますね!


次回は<淳と亮>過去回想(7)ー父の抑圧ー です。

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