Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

影響ー与えるー

2015-06-18 01:00:00 | 雪3年3部(夜更けの治療~影響)
彼らと私の人生の間にある狭間は、あまりに広いー‥。



雪がそんなことを考えている頃、河村亮は一人段ボールの中を漁っていた。

「非常用の金が‥」



確かにこの辺りに仕舞ったはずだが、見当たらない。

逃げるにしてもあの社長の元に出向くにしても、まずは金が無いと始まらないのにー‥。

しかし金は見当たらず、代わりに段ボールの奥から、見覚えのある楽譜が出てきた。



「Maybe」

雪が好きだと言った曲。

久しぶりにピアノの前に向き合って、彼女の為に練習した‥。



暫し楽譜に目を留めていた亮だが、

ふと、床に落ちた一冊の本が目に入った。



手に取り、パラパラと中を眺めてみる。



高卒認定試験のテキストだった。

短い間だったが、雪に勉強を見てもらった。

何も分からない自分に、根気強く勉強を教えてくれた彼女の姿が脳裏に浮かぶ。



雪がマークしてくれた箇所、付箋を貼ってくれたページ‥。

いたる所に、彼女の親切が散りばめられている。



亮はテキストを床に置くと、再び楽譜を手に取った。

じっと表紙を眺めながら、雪の笑顔を思い出す‥。



知らない内に、自分の生活の中に彼女が溶け込んでいる。

自分が思っているよりもずっと、彼女から影響を受けていることに気付かされる。



決めた覚悟は、雪が絡むとこんなにも簡単に揺らいだ。

亮は再び一歩も動くことが出来ないまま、この場所にただ留まっている‥。





ちょっとはマシになった?



青田淳は先輩社員と並んで歩きながら、雪にメールを打っていた。

どこか疲れて見える彼に、先輩社員はこう声を掛ける。

「インターン疲れるでしょ。でも大学から脱出して、一歩前進成功なわけだから」



淳は曖昧に頷きながら、雪にメールを打っていた。

寝てるの?なんで返事がないの?



「でしょ?」と先輩社員は淳に返事を促した。

淳は携帯から顔を上げ、心ここにあらずといった体で同意する。

「あぁ‥そうですね」



胸中がざわざわと騒いでいた。

頭の中に、昨夜の自分の姿が浮かぶ。

「雪ちゃん、君もそうだったろ。初めから俺のことおかしいと思ってたろ」



いつもなら隠していた胸の内が、無数についた傷口のせいか、零れ出ていた。

もしかしたら、昨夜のせいで彼女は自分から背を向けたのではないかー‥。



自分のデスクに戻ってからも、仕事など手につかなかった。

携帯の画像フォルダをスクロールしては、その中で笑う彼女の写真を見てばかりだ。



こちらを向いて笑顔を見せる雪が持っているもの。

それは彼女に似たライオンの人形と、自分に似た犬の人形‥。



雪は自分を大切に思ってくれている。

そう言い聞かせてみるが、返信の無い今の状況を前にすると、心が騒いで仕方がなかった。



すると携帯電話が震え、メールが一通表示される。

ねーちゃんは大丈夫っすよ!

薬飲んで寝てるだけでNo problem!




雪からの返信が無いことに居てもたっても居られず、淳は蓮に雪の今の状況を聞いていたのだった。

蓮のメールに目を通した後、心の靄が一気に晴れたような気になった。

「今日は残業ナシらしいぞ!チーム長は外勤ー」「よっしゃ!」



社員の一人が口にしたグッドニュースで、オフィスも明るいムードに包まれた。

淳も思わず笑顔を浮かべ、先輩社員に相槌を打つ。

「良かった!なぁ?」「はい」「何かいいことあったかー?」



今まで自分一人でバランスを保持していた心が、雪が絡むとこんなにも簡単に揺らいだ。

そして迎えた就業時間の終わりに、淳は皆と別れの会釈を交わす。



淳は皆に背を向けると、足早に病院へと向かった。

早く彼女に会いたい、その一心で。







そして亮は、決着をつけに外へ出るところだった。

昨夜淳からもらった連絡先に話をつけ、待ち合わせ場所へと向かう。



雪から影響を与えられた二人の男は、それぞれに急いだ。

すべて雪が原因なのだ。こんなにも心が揺れるのはー‥。






その頃雪の意識は、眠りの淵を歩いていた。

影響を受けてばかりなのは孤独だ



耳から聞こえる病院内の音や、消毒液の匂いが、昔の記憶を辿らせる。

だけど影響を与えるのは怖い



笑っている祖母。その前に居るのは、涙を流せていた頃の幼き自分。

何やってるんだろ、私‥



そして雪は、ゆっくりと眠りに落ちて行った。

目の前にある裂け目の向こうで、淳と亮と静香が、楽しそうに笑い合っている‥。

どうせ私が二人の為に出来ることなんてないのに‥





病院内の湿った空気は、今まで閉じ込めて来た暗い記憶を引き摺り出す。

鼓膜の奥で、小さな自分の泣き声が聞こえる‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<影響ー与えるー>でした。

<影響ー受けるー>では、様々な人や色々な出来事から影響を受ける雪ちゃんの話が中心でしたが、

今回の話では、雪から影響を受けた淳と亮の心情が中心でしたね。

記事中の淳の心情の描写は私の想像が主ですので、「Yukkanenはこう思ってるのか」程度に留めて置いてくださいね^^;


次回からは雪の幼少時の記憶を辿ります。

本家では<影響ー受けるー><影響ー与えるー>(ブログ記事)=<特別編 洞窟の中>(本家3部94話)

が雪幼少時の回(本家3部93話)の後に来ますが、ブログでは時系列で並べ替えた順にしてあります。あしからず‥。


次回<雪・幼少時>祖母の記憶 です。


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影響ー受けるー

2015-06-16 01:00:00 | 雪3年3部(夜更けの治療~影響)


秋空の裾野が、橙色に染まる時刻。

雪は病院のベッドに横たわりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。



白い壁と白い天井の境目が曖昧にぼやけ、意識まで曖昧になってしまいそうだ。

何やってんだろ私‥



雪は窓から見える夕焼け空を眺めながら、今の自分の状況を思った。

かなり退屈だわ‥。真っ昼間から寝たから、これ以上寝るのも疲れるし‥

携帯見るのも飽きたし‥


  

はぁ、と大きな息を吐く。もう何度目の溜息だろう。

時間がなかなか過ぎて行かない‥



普段忙しい毎日を送っている雪には、今の状況がこの上なく退屈に感じられた。

しかし頭の中とは裏腹に、身体は正直に反応する。

ううっ‥。それでもさっきよりはマシか‥

 

ストレス性胃腸炎。

雪は両指をお腹の上で組みながら、同じ痛みを味わった去年のことに思いを馳せた。

去年もそうだった。ストレスの絶頂‥とはまさにこのこと‥



そして脳裏には、今年に入ってから体験したあらゆることが浮かんでは消えて行く。



一難去ってまた一難‥まさにそんな言葉が相応しい一年だった。

そして昨年の初め頃、占い師に掛けられた言葉が脳裏をよぎる。

「男に気をつけなさい!この悪運は年を越すよ!」



五百円で占ってもらった運勢だったが、それは確かに当たっていた。

だから二年連続で倒れたのか‥



一体誰のせいなのか?

雪は思い当たる男性陣の顔を脳裏に浮かべ始めた。

‥先輩?河村氏?健太先輩?横山?蓮‥

隣のおじさん?遠藤さん?下着泥棒?




彼氏の顔から以前隣に住んでいた秀紀の顔まで、思い当たる人物は次々と浮かんだ。

途中「何やってるんだろう‥」と我にかえりつつ、溜息を吐いて結論をまとめる。

とにかく私が巻き込まれてるって意味でしょ‥迷信のせいじゃなく‥



様々な人を介して、あらゆる災難に巻き込まれ続けた一年だった。

そして雪の脳裏には、先程新たな災難の匂いを嗅ぎ取った出来事が浮かぶ。

そういえば倒れる前‥

明らかに河村氏が誰かを避けてるみたいだったけど‥あれ何だったんだろ?




誰かを見て血相を変えた亮に引き摺られ陰に隠れ、大きな手の平で口を塞がれた。

あれはどういうことだったのだろう。雪は一人思案に耽る。

どう考えても誰かに追われてたみたいだけど‥あの人、一体何やらかしたの?

いつも蓮と二人でコソコソしてるから私が知る由もないし‥。

大学に通ってるってことはピアノは弾いてるみたいだけど‥高卒認定試験の勉強は?ちゃんとしてるの?

てかあんな風に追われててすぐに病院を飛び出すって‥。あの人のプライベートってどういう感じなんだろ‥謎‥




モヤモヤと色々な考えが頭に浮かぶけれど、真実はまだ何一つ分からない。

雪は傍らに置いてあった携帯電話に手を伸ばす。



画面を見ていると、ふと先輩の声が聞きたくなった。

発信ボタンに指が伸びかけるが、彼の今の状況を思い出してそれを止める。

先輩は今会社で仕事してるよね‥すごく忙しいよね‥



そして彼の顔を思い浮かべると、今は傷だらけということも思い出した。

てかあの顔はどうするつもりなのか‥あれで出勤したんかい



高校時代からの因縁が元で、幼馴染と喧嘩した彼。けれど会社で正直にそれを言う訳にはいかないだろう。

インターンだから周りに調子合わせなきゃいけないだろうし‥お父さんの会社だから大丈夫なのか?



頭の中で、”会社の中の彼”を想像してみる。

けれどどんな風に働いているのか、どんな気持ちで日々を送っているのか、

どんな表情を浮かべているのかは、想像できなかった。浮かんで来るのは後ろ姿ばかりだ。



どんな仕事をしているんだろう。どんな人の下で働いているんだろう。

彼より優秀な人は居るのだろうか?そして彼の周りに、綺麗な人はいるのだろうか‥?



そう考えた時、先輩の近くに居るとびきりの美人のことが思い浮かんだ。

そういえば河村氏のお姉さん‥静香さんだっけか

あの人は資格の勉強するだけであの会社に入れるんだっけ。そして先輩と一緒に‥




いつか見た、先輩と静香が腕を組んでいる写メを思い出す。

自由奔放なあの調子で、静香は淳に接近中‥?



あああああああああ だっから何考えてんの私はーーーーっ!!



親密な二人を想像すると、予想以上にダメージが大きかった。

雪はくしゃくしゃと頭を掻きながら、以前静香から言われた言葉を思い起こす。

アンタ、あたしの弟とあたしの幼馴染み、

あの二人と上手くいってると思ってるみたいだけど、いつまでそうしていられると思ってるワケ?




てかアンタ達付き合ってどのくらいなのよ。長くて半年ってとこ?

それじゃああたしとはどのくらいの付き合いだと思う?




ハスキーな静香の声が、鼓膜の裏で再生される。

雪は夕焼け空を眺めながら、あの美しく獰猛な彼女の顔を思い出す。



身体の中がチクチクと痛み出す。

静香の言葉は、雪の身体にじわじわと痛みを広げていく。



雪は寝返りを打つと、お腹を抱えるような格好で寝転んだ。

頭の中に、去年静香に電話をしていた先輩の声が蘇る。「風邪引くなよ」と、まるで彼女に囁くような声で言っていた。

そりゃそうよ。私より遥かに長い付き合いでしょうよ。

知ってるって。河村氏と長い付き合いなのは言うまでもないし‥お姉さんだもん




静香は淳と亮、二人の歴史を知っている。

いや知っているだけではなく、彼らは三人で一緒に長い時間を共有して来たのだ。

アンタは、互いの何をどのくらい分かってるっていうの?

人と人との関係ってさぁ、浮き沈みはあるとしても、

長続きするのはマジ並大抵なことじゃないじゃん




アンタは、それを始めることすらしなかったじゃない



雪は携帯電話を置いて、ぼんやりと窓の外を眺めてみる。

長い間点滴を打っているお陰かよく眠れたお陰か、頭の中はいつもよりクリアだ。



夕暮れに輝く金色の陽が、紅葉の葉を橙に染める。

なんか‥ううん、



いつも‥すごく距離があるように感じてた



私はいつも彼らを遠巻きに眺めて‥それ以上の行動が出来なくて



結果的に‥どこへ動くことも出来ずに、ただ影響だけを受けている



陽の光を受けて染まる紅葉のように、雪は常に周りに影響されて来た。

だけどそれに抗う術はなく、それがどうしようもないことだということを知っている。

悔しいけど、河村氏のお姉さんの言う通りだ。私が彼らと同じ日々を過ごして来たわけじゃないし、

分かったような顔をして溶けこむことも出来ない。無理矢理割り込むなんて冗談じゃないし‥




私達は互いに経験して来たことが違う



脳裏に浮かぶのは、高校時代の自分。

そして、同じ時間を過ごして来たであろう三人の姿‥。



目を閉じると、目の前に深い溝があった。

その亀裂の向こうで、彼ら三人が笑い合っている。

彼らと私の人生の間にある狭間は、あまりに広い‥



彼らはこちらを振り向かずに、楽しそうに遠くへと歩いて行く。

そんな三人の背中を見つめながら、だんだんと意識が薄れて行く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<影響ー受けるー>でした。

今回の話は、本家版では「特別編」になってます。

進行するストーリーとは別に、登場人物の心情がそれぞれ描かれていますね。


自身が曖昧で、常に周りに影響され様々な災難に巻き込まれ‥。

2部35話のモノローグで、「曖昧な私」と自身を省みる雪ちゃんを思い出します。



この「自身が曖昧」という点は淳にも当てはまりますよね。

そして今まで自分の生き方を持っていた亮も、雪に出会って揺らいで来ている。

しかし静香はブレないので、曖昧な彼らはもれなく彼女に振り回されます^^;





次回は<影響ー与えるー>です。


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賑やかな病室

2015-06-14 01:00:00 | 雪3年3部(夜更けの治療~影響)


目を覚ますと、雪は大学病院のベッドに寝かされていた。

手の甲に付けられた点滴の針が痛々しいが、気分はいくらかマシになったようだ。



ベッドの周りには、赤山家全員が勢揃いしている。

「ストレス性胃炎ですってよ。大した病気じゃなくて良かったわ。薬飲んで寝てなさい!」

「へ~ここが姉ちゃんの大学の大学病院か~」



ワイワイと自分を囲む家族の中で、雪はどこか変な気分だった。

覚えてはいないが、何か怖い夢を見ていたような気がしてならない。

「亮君から電話もらった時、どれほど驚いたか!

事故にでもあったんじゃないかって思ったわよ」




母の口から出たその名を聞いて、雪はギクリとした。

「あ‥河村氏が‥」



蓮は、先程の状況をこう振り返る。

「亮さんがあんなにテンパってんの初めて見たよ。もう口から魂抜けんじゃないかと思っちゃった。

でもお医者さんの話聞いたらすぐに出てっちゃったんだよね。なんでだろ?」


 

亮が自分の為に必死になっていたのだと思うと、苦い気分が胸に広がった。

返す言葉が見つからないが、それ以上は蓮も突っ込んでこなかった。

「もう大丈夫なの?」「うん、さっきよりは‥ちょっと休んだら良くなると思う」



そう言ってすぐにでも起き上がりそうな雪に向かって、母は怖い顔をして諭し始める。

「まったくもう!奨学金のことはもういいわよ。そのせいで倒れたようなもんでしょう?当分店で働くのも止めときなさい」

「そうだぞ。もうすぐ四年生だし、就活のことだけ考えなさい」

「姉ちゃんのガッコ変なやつ多すぎだからさー、そのせいで倒れたんじゃね?」



家族は三人三様に、それぞれが雪を心から心配していた。中でも母親はとびきり、雪の抱えたそれを強調する。

「雪は変に頑張っちゃうからねぇ‥。とにかくストレスのせいよ、ス・ト・レ・ス!」



性分のせいだと思っていても、ストレスは知らず知らずのうちに自分を追い込んでいた。

雪は返す言葉もないまま、しばしの休息を余儀なくされたのだった。






しばらくしてから父が退室し、続いて蓮が席を立った。

「そんじゃお先ー」「勉強しに行くんでしょうね?」「そうだってば!」



雪は今の状況を、携帯メールに書いて送る。

TO 聡美と太一「お腹痛くなって病院で寝てる。今日は授業出れないやTT」

TO 河村氏「河村氏、もう目が覚めました。助けてくれてありがとうございました」



すぐに返信があった。

From 聡美「へっ?!大丈夫なの?!ゆっくり休みなよTT

深刻な症状じゃないよね?そーだよね??」


From 太一「去年も倒れてるし、虚弱体質になっちゃってるんじゃないでスカ?

運動しましょうネ!」




亮からの返信は無かった。

続けて雪は、淳へのメールを書く。

TO 先輩「先輩、私今大学病院で寝てます。お腹痛くなっちゃって‥TT 

一日だけ入院するかもです」


From 先輩「え?大丈夫なの?」



雪が引き続き携帯を眺めていると、母親が時計を見ながら立ち上がった。もう昼食の時間なのだ。

「病院のご飯食べたくないでしょ?お粥でも買ってくるわ」「うん」

「とりあえず今日は入院して、明日退院だわね」「ん」



母はそう言うと、財布を片手に病室を出て行った。

雪は寝たままで母を送り出す。








カーテンが閉じられると、先程まで賑やかだったそこは急に静かに感じられた。

雪はぼんやりと天井を見つめる。



カーテンで仕切られただけの個人スペースからは、あちらこちらで面会の人の声やテレビの音が漏れていた。

回診で訪れる医者や看護師の声、運ばれるベッドのキャスターが転がる音、病院には色々な音が溢れている。





「‥‥‥‥」



雪はだんだんと落ち着かない気分になった。

慣れない今の状況もそうだし、気掛かりなことが多すぎるのもその要因だった。

あ‥財務学会始まったんだっけ‥。しかもすぐ期末テストだ‥

奨学金も‥本気で諦められるわけないし‥どうしよ‥




うーん‥



重ね合わせた手は、点滴のせいか冷たかった。

いつの間にか目を閉じていた雪は、母が帰ってくるまで暫し微睡む‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<賑やかな病室>でした。

赤山家、ほんといい感じになりましたよね。

皆が雪のこと心配して顔を揃えている様子を見てると、胸がじーんとなりますね‥。


次回は<影響ー受けるー>です


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臆病の虫

2015-06-12 01:00:00 | 雪3年3部(夜更けの治療~影響)


雪はゆっくりとその場に倒れて行った。

その顔は真っ青で、口からは荒い喘鳴が聞こえる。



亮は恐る恐る、彼女の愛称を呼んだ。

「ダ‥ダメージ‥?」

 

しかし雪はそれに応える余裕もなく、

お腹を押さえながらガクガクと震え出した。

「おなか‥おなか‥いた‥おなかが‥」



「ほ‥ほんとに‥いた‥死ぬほ‥ど‥」



痛い、と言い終える前に、雪の瞼は閉じた。

雪は縮こまった体勢のまま、それきり意識を失くしてしまった。





「ダメージ!!」



「おいっ!しっかりしろっ!おいっ!!」



どんなに呼びかけても、身体を揺すっても、反応が無かった。

このままじゃまずい。全身から汗が噴き出る‥。










閉じた瞼越しに、光が舞っていた。

そのうち身体がふわりと持ち上がり、聞き覚えのある声が耳に届く。

「119番!119!」



亮は敷地内にある大学病院へと走った。傷だらけの顔で、必死の形相で。

雪はぼんやりとした意識の中で、あることを考えていた。

思い出した



私のお腹の中には臆病の虫が居て‥

普段虫は縮こまって、

逃げて、

身体の中に身を潜めている




普段の私は何食わぬ顔で、

何気なく日々を過ごしているけれど、

虫は時折こんな風に、身体の中で暴れまわる。

そのことを、忘れていた‥




亮は必死になって走った。人々の間を掻き分けて。

薄目を開けた雪の目に、緑の十字が見える。



病院‥



身体の中で暴れまわる、臆病の虫。

それは暗い過去を引っ張り出して、昔の記憶を雪に見せる。

病院は‥



怖い‥。それに‥



長椅子に座った、小さな足が揺れていた。隣には、まだ幼い弟の蓮が居る。

小さな雪は大人から言われたとおりに、大人しくそこに座っていた。



するとそこに、親戚のお姉さんがやって来た。

「雪」



お姉さんは雪に向かって、優しくこう提案する。

「おばあちゃんに会いに行こっか」



「うん!」



お姉さんは雪を抱え上げると、駆け足で病室へと向かった。

すれ違った看護師が、子連れの彼女を見て注意する。

「あら!子供は入室禁止ですよ!」



しかしお姉さんは止まらなかった。

彼女は雪を抱っこしたまま、祖母の居る病室に入室する。



その部屋は、何の音もしなかった。

幼い雪は初めて見るその光景に、なんとも言えない空気を感じ、目を見開く。



雪はお姉さんの首に回した手に、ぎゅっと力を入れた。

彼女は静かに寝台の波間を歩きながら、祖母のそれを見つけて雪に知らせる。

「あそこよ」



「おばあちゃん、雪が来ましたよ」



お姉さんは立ち止まり、寝台に寝ている祖母に声を掛けた。

雪はキャッとはしゃぎながら、おばあちゃんの方に身を乗り出す。

「雪のこと可愛がってたでしょう?」



雪は嬉しかった。

長い間会えていなかった、大好きなおばあちゃんにようやく会えるのだからー‥。




そこで雪の、暗い夢は終わった。

薄れていく意識の中で、もう一度繰り返す。


私のお腹の中には臆病の虫が居て‥

普段それは‥

縮こまって‥





臆病の虫が暴れている。

胸が苦しい。

心が痛い‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<臆病の虫>でした。

今回の雪のモノローグは、記事の中で流れに合うように少し意訳にしています。

直訳を知りたい方も勿論いらっしゃると思うので、以下直訳です↓

私は実は臆病で、縮こまって、逃げて、中に隠れて‥

いつも当たり前のような顔して、何気なく日々を過ごす中で、

それが時折こんな風に、中で破裂するってこと、

忘れてた‥




という感じです。


雪ちゃんの抱えた傷の話が、だんだんと紐解かれて行きますね‥。


次回は<賑やかな病室>です。


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君だけは

2015-06-10 01:00:00 | 雪3年3部(夜更けの治療~影響)
「ん?」



急に黙り込んだ雪を見て、亮は首を傾げた。差し当たって思い当たる理由を口にしてみる。

「どうした?もしかしてお前の彼氏と喧嘩したから怒ってんのか?」

「あ‥そうじゃなくて‥」「それでなくても蓮から文句ー‥」



その時だった。



遠方に見えたのだ。見覚えのある二人組が。

バッ!!



亮は動いた。考えるより早く。

雪を連れて、建物の陰に隠れる。



当然雪はわけが分からない。青い顔をして動揺する。

「ナッ‥ナッ‥なにっ‥」

 

今にも叫び出しそうな雪に、亮は咄嗟に手を伸ばした。

彼女の唇に、彼の大きな手が触れる。



静かに、静かに、ひたすら静かに。

建物の陰に、ひっそりと二人は息を潜める。



しかし雪は強制的に黙らされていた。息が出来ない程強い力で押さえられている。

何度もタップするも、亮の手はびくともしない。

「うっ‥うっ‥」



亮は彼女の口を押さえたまま、ゆっくりと振り返った。







構内の広い道の方に、彼らは居た。何かを話しながら、亮を探している。

そして吉川社長が、自分の居る方を振り返った。



ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

心臓が跳ね、全身に汗が噴き出る。亮は息を殺した。



尋常ではないその表情を見て、雪は疑問に思った。

彼は一体何から隠れているのか‥。



亮は心の中で、必死の弁解をする。

れ‥連絡するつもりだった!そのつもりだったぜ?!くそっ‥!



壁に手を付き、雪を守るように体勢を変える。見つかるわけにはいかない。

でも今は、今はダメだ



亮は思う。

君だけは、絶対に巻き込ませないと。

ダメージがいる‥こいつが居るんだよ!

少しでもダメージが巻き込まれたら‥こいつに何かあったら‥オレは‥




オレは本当にー‥



ドクン、ドクン。



ドクン、ドクン。



ドクン、ドクン‥








足音は徐々に遠のいて行った。

姿が見えなくなったのを確認してから、ようやく大きく息を吐く。

ぷはっ



そして亮は、雪が苦しそうにしていることにようやく気づいた。

「うおっ!すまねぇ!息出来んかったか?!」



うう、と苦しそうに項垂れる雪。亮は雪に向かって、曖昧な理由を口にする。

「その‥大したことじゃねーけど、ちょっと会いたくねえ奴がいて‥」



しかし亮は気が付かなかった。雪の顔色がどんどん悪くなって行くことに。

雪はお腹を押さえながら、ゆっくりと身体を傾げて行く。

「詳しいことはー‥」



トン‥。



亮は目を見開いた。

雪は縮こまった姿勢のまま、地面に身体を横たえる‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<君だけは>でした。

遂に亮→雪のこのシーンがっ!



思い出すのは雪→淳へのシーンですね~。



これは‥壁ドンならぬ口ドン?流行るかもしれません(ほんとか)


しかし雪にだけは絶対に危険を及ばせたくないと、身体を張って守る亮さんが印象的でしたね。

まぁもともと本人が問題から逃げてるせいでこうなってんですけど‥(汗)


次回は<臆病の虫>です。


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