亮が雪から指定された待ち合わせ場所で彼女を待っていると、不意に携帯電話が鳴った。メールが入っている。
授業が長引いていて10分くらい遅れます。すいません

亮はそのメールを見ながら呟いた。
「やっぱ奢りたくなくなって言ってんじゃねーだろーな?」

暫し訝しげな表情を浮かべていた亮だが、気がつけばポツポツと雨が降ってきている。
傘を持っていないのでアタフタしながら、とりあえず亮はコンビニで雨宿りをすることにした。

軒下に駆け込んだ亮は、建物の中を覗き込んだ。
傘を買うかどうか暫し迷ったが、雪が持ってるかもしれないと考えるとお金が勿体ない気がして止めた。
(しかし結局傘は売り切れだったので、亮の思案もそこまでとなった)

ぼんやりとガラス越しに中を覗いていた亮だったが、不意に聞き覚えのある声がしたような気がして、一、二歩後退した。
壁に掛かったテレビに目をやる。

そこに映っていた人物を見た時、心臓がドクンと跳ねた。
思わず目を見開き、亮は暫し呆然とする。

高校の時の、ピアノの恩師だった。
見覚えのあるその姿は、少し年を取ったが変わっていない。

テレビからは恩師とその弟子が司会者を交えて談笑する会話が聞こえてきた。
今回もC君の演奏に誰もが驚かされましたね。
先生との特別なご縁が、今回こうして世界に通用する人物を生んだのでしょう。

司会者はその先生に対して、C君への意見を求めた。
マイクを向けられた先生は笑顔を浮かべながら、誇らしそうに口を開く。
はい、彼こそが私の人生におけるたった一人の弟子ですね

プツッと、それを最後にテレビ画面は切り替わった。
突然の暗転。

それ以降、可愛らしいアイドルの映像が流れ続けたが、亮の耳には、その目には、一切が入って来なかった。
一人テレビを見上げたまま、その場に佇んだ。

頭の中で、様々な記憶が波のように打ち寄せる。
鼓膜の奥で、声が聴こえる。
亮、リハビリするんだろう? 先生は君を信じてるよ‥


雨が降る。無情な雨が。
空から落ちてくる幾筋もの雨。
心に引っかかっていた数々の思いの断片が、その雨のように降り注ぐ。
亮 河村亮

声が聴こえる。
自分を呼ぶ声が。自分に向けられた様々な人の声が。
お前これから何するの? 河村クンミュージシャンとみたぞん!
自分の体たらくを振り返った方がいいんじゃない?

お前手イカれちまったんだっけ? たった一人の弟子です

数々の言葉が、雨のように落ちては心の中に溜まっていく。
亮は激しい降りの中で、一歩も動けず立ち尽くしている‥。
一方雪はというと、ようやく授業が終わり外に出て来たところだった。
約束の時間は、もうとうに過ぎている。

雪は傘を差しながら、待ち合わせ場所の周辺を見回した。亮の姿は無い。
まさか何も言わず帰ったわけじゃあるまいと、キョロキョロと辺りを探した。
すると少し離れた場所に彼の姿を見つけた。ずぶ濡れで、傘も差さずに立ち尽くしている。

雪は声を掛けようと「あの、」と口を開いた。
しかしその時、見てしまった。

彼の頬に伝うものを。

亮はずぶ濡れだったが、その水滴は雨ではなかった。
心の中に溜まった万感の思いが溢れて流れ落ちた、それは涙だった。

ザアザアと、強い雨足が彼を濡らす。
雪はその場から動けぬまま、ただ彼の姿を目にしていた。

俯き、項垂れる彼。

彼の横顔を見ていた雪は、自然と足がそこへと吸い寄せられた。
何も言わずに近づいて、彼に向かって傘を差し掛ける。

亮も、何も言わない。
彼女の傘の中で、涙を拭っただけだった。

ふと空を見上げると、黒い雲は陰り、低い雷鳴が聞こえている。
地面を叩く雨音の中で、その傘の中で、二人は長い間佇んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<無情な雨>でした。
これは亮‥辛いでしょうね(T T)
そして日本語版で分かった事実、あの先生はおじさんだった‥。
「先生信じてるからな‥」

ピンクのカーディガン着てるからてっきりおばさんだと思っていたのに‥。

ということでおばさん説もいまいち捨てきれず、記事ではどちらかぼかしました(笑)
有名なピアニストだったんですかね~
次回は<これからのこと>です。
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授業が長引いていて10分くらい遅れます。すいません

亮はそのメールを見ながら呟いた。
「やっぱ奢りたくなくなって言ってんじゃねーだろーな?」

暫し訝しげな表情を浮かべていた亮だが、気がつけばポツポツと雨が降ってきている。
傘を持っていないのでアタフタしながら、とりあえず亮はコンビニで雨宿りをすることにした。

軒下に駆け込んだ亮は、建物の中を覗き込んだ。
傘を買うかどうか暫し迷ったが、雪が持ってるかもしれないと考えるとお金が勿体ない気がして止めた。
(しかし結局傘は売り切れだったので、亮の思案もそこまでとなった)

ぼんやりとガラス越しに中を覗いていた亮だったが、不意に聞き覚えのある声がしたような気がして、一、二歩後退した。
壁に掛かったテレビに目をやる。

そこに映っていた人物を見た時、心臓がドクンと跳ねた。
思わず目を見開き、亮は暫し呆然とする。

高校の時の、ピアノの恩師だった。
見覚えのあるその姿は、少し年を取ったが変わっていない。

テレビからは恩師とその弟子が司会者を交えて談笑する会話が聞こえてきた。
今回もC君の演奏に誰もが驚かされましたね。
先生との特別なご縁が、今回こうして世界に通用する人物を生んだのでしょう。



司会者はその先生に対して、C君への意見を求めた。
マイクを向けられた先生は笑顔を浮かべながら、誇らしそうに口を開く。
はい、彼こそが私の人生におけるたった一人の弟子ですね

プツッと、それを最後にテレビ画面は切り替わった。
突然の暗転。

それ以降、可愛らしいアイドルの映像が流れ続けたが、亮の耳には、その目には、一切が入って来なかった。
一人テレビを見上げたまま、その場に佇んだ。

頭の中で、様々な記憶が波のように打ち寄せる。
鼓膜の奥で、声が聴こえる。
亮、リハビリするんだろう? 先生は君を信じてるよ‥


雨が降る。無情な雨が。
空から落ちてくる幾筋もの雨。
心に引っかかっていた数々の思いの断片が、その雨のように降り注ぐ。
亮 河村亮

声が聴こえる。
自分を呼ぶ声が。自分に向けられた様々な人の声が。
お前これから何するの? 河村クンミュージシャンとみたぞん!
自分の体たらくを振り返った方がいいんじゃない?

お前手イカれちまったんだっけ? たった一人の弟子です

数々の言葉が、雨のように落ちては心の中に溜まっていく。
亮は激しい降りの中で、一歩も動けず立ち尽くしている‥。
一方雪はというと、ようやく授業が終わり外に出て来たところだった。
約束の時間は、もうとうに過ぎている。

雪は傘を差しながら、待ち合わせ場所の周辺を見回した。亮の姿は無い。
まさか何も言わず帰ったわけじゃあるまいと、キョロキョロと辺りを探した。
すると少し離れた場所に彼の姿を見つけた。ずぶ濡れで、傘も差さずに立ち尽くしている。

雪は声を掛けようと「あの、」と口を開いた。
しかしその時、見てしまった。

彼の頬に伝うものを。

亮はずぶ濡れだったが、その水滴は雨ではなかった。
心の中に溜まった万感の思いが溢れて流れ落ちた、それは涙だった。

ザアザアと、強い雨足が彼を濡らす。
雪はその場から動けぬまま、ただ彼の姿を目にしていた。

俯き、項垂れる彼。

彼の横顔を見ていた雪は、自然と足がそこへと吸い寄せられた。
何も言わずに近づいて、彼に向かって傘を差し掛ける。

亮も、何も言わない。
彼女の傘の中で、涙を拭っただけだった。

ふと空を見上げると、黒い雲は陰り、低い雷鳴が聞こえている。
地面を叩く雨音の中で、その傘の中で、二人は長い間佇んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<無情な雨>でした。
これは亮‥辛いでしょうね(T T)
そして日本語版で分かった事実、あの先生はおじさんだった‥。
「先生信じてるからな‥」

ピンクのカーディガン着てるからてっきりおばさんだと思っていたのに‥。

ということでおばさん説もいまいち捨てきれず、記事ではどちらかぼかしました(笑)
有名なピアニストだったんですかね~
次回は<これからのこと>です。
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「自分が何者で、何を目指し、どこへ行くのか」と。
冗談を言っても元気が出ないし笑えないこの頃。
しかも昨日は、たった一人の姉さんとの忌まわしい記憶を掘り起こしてしまった・・・。
一匹狼だと強がってみても、“俺はお前の友達か?”と、自分の存在を雪に確かめたくなってしまった。
天狗だった自分を可愛がってくれた、初めて自分を認めてくれた、怪我をしても信じてくれた先生・・・。
怪我に向き合えなかった、絶望してしまったあの時・・・。
期待を裏切り、ピアノを裏切り、自分を裏切った。
あの時は仕方がなかった、でもあの頃にはもう戻れない。
先輩が顔のない人に囲まれて生きてきたように、亮くんも自分がどこにいたのか分からないまま、壊れた手を抱えて生きてきました。
自分が何者なのかわからない、これからどうしたらいいのかわからない・・・。
こんな時は、やはり誰かの助けが必要なのだと思います。
何の目的も持たず、真面目に向き合ってくれる雪ちゃんは、亮くんにとって大切な存在ですよね・・・
同様に、静香さんにも誰かの助けがなければ、自力で過去を解くことはできないと思うのです。
静香さんと、たとえ対立しても真剣に向き合ってくれるのは、たぶん雪ちゃん一人・・・。
・・・・。胸の中にもやもやと感じていることがまだあるのですけど、うまく文章に出来ません・・・。
中途半端ですみませんが、この辺で限界です・・・。
師匠の記事にかぶせて読むとタマラン切なくなるざんす。すんません、今風邪ひいて寝たきりながらのコメントでごんす。
私もコレが精一杯…バタン
そうですよね、亮は本当最近色々なことがあって、それで最後のトドメと言わんばかりの先生の言葉‥。
どんぐりさんのコメントを読んで私も少し補足したくなったので書かせて下さい!
幼い頃両親と死別した亮は、虐待まがいのおばさんのもとで育ち、おじいちゃんはいたものの、やっぱり無条件で自分を肯定してくれる愛情みたいなものに飢えて生きてきたんだと思うんですよね。
そこでピアノという自分の才能に出会って、それに没頭することで人々から与えられる賞賛、そして自分を丸ごと信じていると自己を肯定してくれる先生に出会って、亮は”確固たるもの”をようやく築けていたんだと思うんですよ。でも指がダメになって、唯一の自分のアイデンティティと呼べるものが崩壊してしまった。
今回、ある意味親代わりともいえる先生が他の人のことを「自分の生涯でたった一人の弟子」と言っているのを聞いて、唯一亮の中にあった”確固たるもの”も無くなってしまった。それを受けてのあの涙なんですよね。
そう考えると3部でピアノにもう一度向きあおうとしているのも、指がダメになった原因に関与した淳に復讐心をとことん燃やさないのも、亮の強さや大人っぽさだなぁと思うんですよね。
静香みたいにもっと歪んだ人間になっても全然不思議じゃないのに、人々からは好かれるしすごく優しい人間だし‥。なんだか考えれば考えるほど亮が魅力的に思えてきました。(^^;)
どんぐりさん、ありがとうございました!
姉様大丈夫ですか~!この年の瀬に風邪とは‥。
沢山寝てゆっくりと身体を休めて下さいね~!
亮さーん、うぉ~ん!!(T T)
さあさ、チートラ内不幸度トップクラスの亮さんに清き一票を!
追伸:ちょびこ姉様お大事にです~
その泣き声(鳴き声)は、聡美のマネだね?
師匠の補足、読んだ後にこの近辺のシーンを
ウロついてみたんですが、先輩って、
亮に比べて表情が乏しくて、飽きるなーと。
亮は見てて飽きない。
あー、もう限界。
さっき最新版記事アップしました。
もう布団に戻ります。
優しいお言葉ありがとうごじゃりました。
おいとま。
上の“一考察”、私のひとりよがりなコメでスミマセン。
(記事に感動してしまって、なんだか書きたくなってしまうのです・・・)
でも、そのおかげ(!?)で、師匠の深い解釈をコメ欄で知ることができ、ますますこのブログとチートラが好きになりました!
雪ちゃん、先輩、亮くんの3人ともが、今まで信じていたものを失ってしまったのですね・・・。
この状況にどのように対応していくのか、今後の展開が待ちきれないです。
ちょびこ姉様、体調不良の中、記事アップお疲れ様でした。
楽しみにしている読者としては嬉しいのですが、
あまり無理せず、お大事になさってください・・・。
Yukkanen師匠、皆さまも、あたたかくしてお過ごしくださいね・・・。
なるほど表情の乏しさ!確かに変な表情などしませんね先輩は‥。
でも亮の変顔より真顔で3本線ジャージ履いてる先輩の方がげんなりするのは何故でしょう(笑
姉さま風邪はいかがですか~
ホットゆずを飲んであったまって下さい!
一度亮と先輩が並びましたが、また亮が頭一つリードですね!
地味に票を伸ばしてる太一にも注目ですよ!彼は別に不幸ではなさそうですが‥(^^;;
姉さまの仰る通り、どんぐりさんのコメに感動してらっしゃる方も沢山いらっしゃいますよ!私もその一人です。どんぐりさんの文章大好きです^ ^
そして雪、淳、亮が三人とも信じていたものを失ったという解釈、言われて初めて気づきました!目からウロコ!!
それを受けての孤立だったのですね~!どんぐりさんすごい!!
いやー何度読み返しても新しい解釈の飛び出るチートラ、やめられませんね!!
早く続きが読みたい~!
心の雨に傘をくれたのはあなた1人だった…
こことか特に!
後はスピッツの春の歌やミスチルの星になれたらですかね。