![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/3a/14d3df89813db391e546864d33b72ebd.jpg)
陽が傾いて暫く経った頃、再び河村静香は佐藤広隆の前に現れた。
その足取りはふらふらとおぼつかない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/c4/8c83c5a6bea9794255ad98441807e862.jpg)
「あっ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/93/23f8c80aa0d6ef3c6fee868282c83c99.jpg)
堪らず佐藤は静香の元に駆け寄った。
「どこか悪いのか?今日おかしいぞ?」「ほっといてよ‥」
ほっといて欲しいならどうしてちょくちょく現れるんだよ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/85/f295b9be08e7df3f83caee3581693488.jpg)
その手にはチケットが二枚握られている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/12/a2639cf66088c872e618846934508762.jpg)
それは、先程小西恵から貰ったものだ。
「これどうぞ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/25/3abb47a3bddd2c797b710e4fe89c132c.jpg)
「前に静香さんにあげたんですけど、行かなかったみたいなので。展示会の招待券です
新しいの差し上げますから、デートがてら沢山お話でもしてきて下さい。それじゃあたしは彼と会うので〜」
「デ‥デートって‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/99/82ca2c466399f038defc31e623b40746.jpg)
佐藤は「デート」という言葉に動揺しながら、そのチケットを手にどう彼女を誘おうかと考えあぐねていた。
チラと静香の方を窺ってみる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/ea/c533c57918836c4f3e5a94d094aeb9e3.jpg)
そこにはぼんやりと空を見つめる静香が一人佇んでいた。
佐藤の胸中が複雑に揺れる。
いや‥あんな様子なのにそんなこと言えないだろ‥。
どうすれば元気にしてあげられる‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/5f/be4836cad05c16b2aaec5531592d8086.jpg)
彼女のその寂しそうな横顔を見ていると、胸がざわめいた。
それはデートだなんて甘い響きよりももっと、佐藤の心を如実に揺らすー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/d8/57a2166135811192b43820c8d603dead.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/aa/22ec9726cd0db510e2977604c7861c58.jpg)
不意に静香は佐藤に背を向け、ふらつく足取りでそのまま歩いて行った。
思わず呼び止める佐藤。
「えっ?」「行くわ」
「どこへ行くんだ?!おい!静香さん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/22/401c015fd5fc0663d475220925cd7db6.jpg)
「静香!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/0b/2615e2d61217b7f78b0cf4a49dcf8048.jpg)
”静香”
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/7b/ce51c03e4c6e496764a8592ba60244cf.jpg)
どこかから声が聴こえる。
「静香」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/0d/bdc9cd77feb7cc01da1bd7ea047386c1.jpg)
それはかつて、心の糧としていた者達の声。
「風邪引くなよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/4b/84e22c0f955d38d98930a60834b77311.jpg)
「すまん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/d7/8b9bf52a703be9760fced2d06a1ee647.jpg)
「こっちにおいで。今日学校では何事も無かったか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/d3/2e605828ab5e18c913863b413c9d1fd4.jpg)
見る間に遠くなって行く。
残るのは暗く苦しい現実だけ。
「亮を探してるのかい?あの子ならいないよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/68/18f574c86a12b93b2d558660a8cbfc0b.jpg)
最後には、自分の声だけが暗闇に響いた。
もう一度、もう一度探さなきゃ‥あたしの人生‥終わっちゃう
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/1f/38805c61b49255ad2dec39d97112a0ae.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/bc/77861a6687baa021804da6b7cadf5595.jpg)
自身を追い詰める焦燥感。
気がつけば家の前の道に辿り着いていた。目の前には、見覚えのある靴がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/5b/5dd8f35bd9927d80f266ae6eedd14193.jpg)
顔を上げると弟の姿があった。
目深に被ったキャップのせいで、その表情はよく分からない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/c3/e777049c273939df3c832c65f8339fd0.jpg)
静香は呂律の回らない口調で、揶揄するように話し始めた。
「アンタあたしのことからかってんでしょ?マジで出てくつもり?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/82/c75e94d8e05fbb623a28fddfb9545f6f.jpg)
「だったらどうして戻って来たのよ。また逃げるつもりなの?
あたしを置いて自分は好き勝手生きてくの?ねぇ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/84/ee008a884c80ed31f243d7ca4611d828.jpg)
「結局淳に弄ばれたまま逃げるんだ?
アンタ、さも自分から許したみたいにかっこつけてるけど、嵌められてんだよ!このクソが!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/05/87c86d9d7ae32c713326f9f65983a099.jpg)
静香はニヤリと口元に微笑を称えると、遂に秘めて来たその切り札を切る。
「ねぇ、面白い話をしてあげるわ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/16/6f9e16cf42c89385ab5c78df1b8634b7.jpg)
それはあの暴行事件があった数日後のことー‥。
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<糧>でした。
亮さん‥どうしたのこのどすこい感‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/14/8a0fdc57a4e5b004473bf42fb5fd36ea.jpg)
だるまみたいです‥。
次回は<亮と静香>高校時代(32)ー後日録ー です。
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