「‥‥‥!」
雪は驚愕した。
先ほど彼の口から語られた真実は、彼が世界的企業の跡取り息子だということだった。
目を見開きながら彼を凝視する雪の視線を受けて、淳は若干気まずそうな表情で話を続ける。
「まぁ‥とは言えちゃんと下積みからだよ」
彼は今学期からZ企業のインターンに一般学生と共に入り、研修を始める。
会長の息子だからといって、特別扱いされるわけではないようだ。
「父はその辺厳しいんだ。俺も親の七光りとは言われたくないし‥」
「とにかく頑張らなくちゃいけないだろうな」と彼は続けた。
跡取りという立場に甘んじることなく精進することで、やがて父親や社員達にも認められるようになっていくだろう、と。
お、お金持ちだと思ってはいたけど‥
雪の胸中は、未だ動揺の最中であった。
彼が資産家の息子だということは知ってはいたが、まさかここまで大きな会社の跡取りだとは‥。
「雪ちゃんがいつも頑張ってるように、俺も頑張らなくっちゃ。でしょ?」
そう言って微笑んだ彼の横顔に雪は視線を移したが、すぐに目を逸らしてしまった。
先ほどの衝撃がまだ尾を引いている。雪は彼がどういう存在なのかということを、改めて考える。
お父さんの会社‥。留学‥。跡継ぎ‥。
想像も出来ないような大きなスケールのファクターを、さらりと何でもないことのように口にした隣の彼‥。
外車のハンドルを握り、整った横顔で自分の横に座る、大企業の跡継ぎ。およそ悩みなどないような顔をしている。
雪の脳裏に、将来に思い悩む四年生の先輩達の姿が浮かんで来た。
思うようにいかない就活、漠然とした将来、常に感じる焦燥感‥。
くさくさしている柳瀬健太や、爪を噛む佐藤広隆の姿も浮かんで来た。
そして辿り着く結論は、一年後は自分もその集団の中で彼らと同じ表情をしているだろうということだった。
何で‥今更‥
雪の胸中は驚愕という嵐が去った後で、がらんどうの状態だった。
その暗闇に残される自分と、およそ自分とは立場の違う、隣に座る彼‥。
二人はこんなにも近くにいるのに、その境遇は天と地ほどに違う。
人生が一本の道だとしたら、今は交差している二人の道も、やがて違う方向へと伸びていくだろう。
雪は彼の横顔を眺めながら、今の自分の気持ちを心の中で呟いた。
今更、先輩が別世界の人に感じられる。
この人は最初から、就職の心配がないんだな‥
お店の方はどう? と穏やかな表情で口にする彼は、先ほど雪が思い浮かべた苦悶した四年生達の姿と、
およそ真反対に位置するように思えた。そしてそれは同じく、自分と彼が正反対の方向に居るということでもあった。
私は‥
そして雪は、今自分が置かれた境遇を改めて省みた。
頭の中に思い浮かぶのは、懸命に働く両親の姿‥。
両親は麺屋を営んでいる‥。
父親の事業の失敗と店の開業で、二人の元にはもう殆ど蓄えはない
開業してからというもの、両親の心から笑った顔を一度も見ていない気がした。
いつも何かに心を囚われ、色々と思い悩み、溜息を吐いている姿しか思い浮かべることが出来なかった‥。
両親の老後は、私と蓮が面倒を見なくちゃいけない。
けど彼のアメリカでの勉強も、将来どうなるかは全く分からない‥
頼みの綱の長男も、いきなり帰国したかと思えば毎日遊ぶかバイトをするか‥。
卒業の目処さえ立たない彼に両親の将来まで任せる気には、とてもじゃないがなれなかった。
そしてなぜここまで自分の未来に希望が持てないのか、雪は今の自分を取り巻く状況を省みてようやく気がついた。
何一つとして、安定していない‥。
目の前に広がる漠然とした未来を渡っていくための武器が、何も無い。
一つでも保証された何かがあれば、安心出来るのに。
隣に座る彼の生き方のように、自分を守ってくれるものが何か一つでもあればいいのに。
確実な未来が保証された男と、その彼の車に乗って将来を悩む私
相反する生き方の二人。
分かってはいたものの、あまりにも違う互いの境遇に、心が重く沈んでいく。
先輩は先輩で、私は私なのに‥。
なのに何でこんなにも、苦しい気持ちになるんだろう‥。
空は暗く、厚い雲が立ち込めているのがネオンの明かりでぼんやりと見えた。
心に巣食う息苦しさを感じながら、雪はふとあることを考え始める。
そして雪は、彼に一つ質問をしてみることにした。
「あ‥それじゃあ仕事の他に、何か目標があったりしますか?
社会人になったら趣味で始めたいことがあるとか、三、四十代までには何か達成してたいとか‥。
長い目で見た計画のようなものが」
雪の質問は、奇しくも高校時代、河村亮が彼にした質問と本質の似た問いであった。
お前って勉強の他に得意なことってあんの?でなけりゃ、したいこととかさ
淳は少し考え込んで、天を煽ぐ。
「ん?三十代か‥。老けてイケメンじゃなくなってるかもな」
冗談だよ、と言って彼は笑ったが、
なぜかいつも先輩の冗談は笑えない‥。
そして彼は真面目に語り始めた。これから先、十年後二十年後の、未来の話を。
「まぁその頃には経営のイロハも身について上に上がってるだろうね。
それとも海外支社に発令が出たりとか‥」
「‥‥‥‥」
彼はその後も話を続けたが、雪の耳にはそれ以降の内容は入って来なかった。
心の中が重く沈む。雪はある期待を込めてその質問をしたからこそ、より一層その落胆が心に重く伸し掛かるのだ。
変なの‥。
私は今、彼に対する”嫉妬”以上に、彼に”冷淡さ”を感じている。
先ほどから語られる彼の将来に‥先輩の未来に‥
私がいない。
父親の会社、留学、跡継ぎ‥。
先ほど晒された真実はどれも受け入れるのに難いものだったが、それ以前に彼は、自分の彼氏だ。
質問をする前に過った甘い想像が、脳裏を掠める。
"雪ちゃんと結婚するつもり"なんて、期待しているわけじゃない。
私も、先に進もうだなんて思ってない。
だけど、と雪は思った。
彼の横顔を窺い見る。雪の本音が、がらんどうの心の中で寂しく響く。
たとえ口先だけでも、”その時雪ちゃんと一緒に何かしてるんじゃないかな”って、
言って欲しかった‥
とはいっても、まだ付き合い始めて二ヶ月しか経っていない。
まぁ‥まだ私のことをそこまで好きじゃないってのもあるだろうけど‥
そう考えれば納得できるような気もした。
しかし雪の心に引っかかるのは、先日自分が頭を抱えて将来を考えた時のことだった。
卒業後、就職後出会い?ちゃんと軌道に乗れる?ひょっとして社内恋愛?
先輩就職、私=四年生 時間が合うのか? 外資に入社したらどうする?
一晩中悩んだが、答えは出なかった。
けれどそのノートの中に描かれる未来の中には、確かに彼が存在していた。
悩んだけどな‥私は‥
言い様のない寂しさが、心の中に広がっていく。
自分の未来には彼が居るのに、彼の未来には自分が居ない。
境遇の問題だけではなく、雪は彼との距離とその温度差をひしひしと感じた。
しかしよくよく考えてみると、自分が先走って期待しているだけのような気もしてきた。何と言ってもまだ付き合って二ヶ月だ。
先ほどは自分の為に留学を辞めたとまで言ってくれた‥。
けれど考えれば考えるほど、どこまで本当の話なのか分からなくなってきた。
”今は他の方向も検討中”と言っていたのもあって、卒業したらまた進路は変わるかもしれない‥?
こ、こんがらがってきた‥!
真実が何なのかハッキリしない状況で、雪は考えすぎてグルグルと目を回した。
そしてよく考えてみると、”雪が居るから留学を辞めた”という事実が、彼女に罪悪感を背負わせた。
私のせいで留学が中止に‥。いやでもそれは冗談だって‥
俯いて思案を続ける雪の方を見ながら、彼が「どうしたの?」と聞いてきた。
よほど挙動不審であったようだ。
しかし雪はパッと顔を上げると空を眺め、「雨が降りそうですね」と言ってその場を誤魔化そうとした。
貼り付いたような笑顔である。
淳はそんな彼女を見て、思うところを口にする。
「俺、自分の話ばっかしすぎた? 何か気を悪くさせる話でもしちゃったかな」
雪は自分の動揺が見破られたことを知り、幾分焦った。
再び誤魔化そうと口を開くが、彼は悟ったように呟く。
「バレバレだよ‥」
「‥‥‥‥」
雪はすっかりバレているこの状況に観念したように俯き、口を噤んだ。
暫し悩んだが、深刻な雰囲気を出さないニュアンスで、自分の気持ちを口にすることにした。
「せ‥先輩が卒業して社会人になった時‥その‥まだ先輩の側に私はいられるのかな~なんて‥」
雪の告白を受けて、淳はキョトンとした顔をした。
雪の悩んでいる内容は、彼にとってまるで予想外のものだったらしい。彼は笑顔で口を開く。
「何だ、そんなこと心配してたの?」
「‥‥‥‥」
雪はしどろもどろになりながら、現実問題それはその‥とゴニョゴニョ続けた。
彼はそんな彼女の悩みなど何でも無いことのように、爽やかに笑って言った。
「社会人になったらもう会えないと思ってる?留学に行ったって会ってる人たちは会ってるのに」
サラリとそう答える彼の隣で、
雪は「ソウデスネ‥カンタンナコトデスネ‥」と言って頷いた。
聞きたい質問と、聞きたい答えのピントが微妙にズレていく。
そんな雪の心の引っ掛かりなど知る由もなく、淳はどこか嬉しそうに笑っていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女の居ない未来>でした。
いや~今回の話、皆さんどう思います?
私、最初読んだときは「何で先輩は未来予想図に雪ちゃん加えてないねん!」と雪ちゃん寄りで読んだのですが、
ここを読み返せば読み返すほど、雪ちゃんが変だなと思うようになりまして‥。
そもそも先輩に”将来の計画”を聞いた時点で、彼の頭の中はお仕事モードになるというか、
雪ちゃんを交えない自分の未来予想図を語るのは男性として普通じゃないかと思うんですよね。(おまけにそれまで就職の話をしていたし)
自分が彼の未来に居ないことを落胆する、というのは女性特有の考えかもなぁと思ってみたり。
そして雪ちゃんがノートに彼との未来を書き出してうんうん悩んでいましたよね。
あれ、何か先学期のD判定もらったグループワークの時と同じだなぁと思いました。
あの時も、動かない他の人達に苛立ちながらも自分で全て解決しようとしてましたよね。
一番大事なのはコミュニケーションだったのに。
彼との未来を考えるなら、まずは会話することから始めるべきだったね、雪ちゃん‥。(語りかけモード)
とまぁ、色々と考えることが多い回でした。
そして高校時代も、そして今回も、「したいこと」が答えられない先輩が、哀れ‥(T T)
次回は<唇まで10センチ>です。
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雪は驚愕した。
先ほど彼の口から語られた真実は、彼が世界的企業の跡取り息子だということだった。
目を見開きながら彼を凝視する雪の視線を受けて、淳は若干気まずそうな表情で話を続ける。
「まぁ‥とは言えちゃんと下積みからだよ」
彼は今学期からZ企業のインターンに一般学生と共に入り、研修を始める。
会長の息子だからといって、特別扱いされるわけではないようだ。
「父はその辺厳しいんだ。俺も親の七光りとは言われたくないし‥」
「とにかく頑張らなくちゃいけないだろうな」と彼は続けた。
跡取りという立場に甘んじることなく精進することで、やがて父親や社員達にも認められるようになっていくだろう、と。
お、お金持ちだと思ってはいたけど‥
雪の胸中は、未だ動揺の最中であった。
彼が資産家の息子だということは知ってはいたが、まさかここまで大きな会社の跡取りだとは‥。
「雪ちゃんがいつも頑張ってるように、俺も頑張らなくっちゃ。でしょ?」
そう言って微笑んだ彼の横顔に雪は視線を移したが、すぐに目を逸らしてしまった。
先ほどの衝撃がまだ尾を引いている。雪は彼がどういう存在なのかということを、改めて考える。
お父さんの会社‥。留学‥。跡継ぎ‥。
想像も出来ないような大きなスケールのファクターを、さらりと何でもないことのように口にした隣の彼‥。
外車のハンドルを握り、整った横顔で自分の横に座る、大企業の跡継ぎ。およそ悩みなどないような顔をしている。
雪の脳裏に、将来に思い悩む四年生の先輩達の姿が浮かんで来た。
思うようにいかない就活、漠然とした将来、常に感じる焦燥感‥。
くさくさしている柳瀬健太や、爪を噛む佐藤広隆の姿も浮かんで来た。
そして辿り着く結論は、一年後は自分もその集団の中で彼らと同じ表情をしているだろうということだった。
何で‥今更‥
雪の胸中は驚愕という嵐が去った後で、がらんどうの状態だった。
その暗闇に残される自分と、およそ自分とは立場の違う、隣に座る彼‥。
二人はこんなにも近くにいるのに、その境遇は天と地ほどに違う。
人生が一本の道だとしたら、今は交差している二人の道も、やがて違う方向へと伸びていくだろう。
雪は彼の横顔を眺めながら、今の自分の気持ちを心の中で呟いた。
今更、先輩が別世界の人に感じられる。
この人は最初から、就職の心配がないんだな‥
お店の方はどう? と穏やかな表情で口にする彼は、先ほど雪が思い浮かべた苦悶した四年生達の姿と、
およそ真反対に位置するように思えた。そしてそれは同じく、自分と彼が正反対の方向に居るということでもあった。
私は‥
そして雪は、今自分が置かれた境遇を改めて省みた。
頭の中に思い浮かぶのは、懸命に働く両親の姿‥。
両親は麺屋を営んでいる‥。
父親の事業の失敗と店の開業で、二人の元にはもう殆ど蓄えはない
開業してからというもの、両親の心から笑った顔を一度も見ていない気がした。
いつも何かに心を囚われ、色々と思い悩み、溜息を吐いている姿しか思い浮かべることが出来なかった‥。
両親の老後は、私と蓮が面倒を見なくちゃいけない。
けど彼のアメリカでの勉強も、将来どうなるかは全く分からない‥
頼みの綱の長男も、いきなり帰国したかと思えば毎日遊ぶかバイトをするか‥。
卒業の目処さえ立たない彼に両親の将来まで任せる気には、とてもじゃないがなれなかった。
そしてなぜここまで自分の未来に希望が持てないのか、雪は今の自分を取り巻く状況を省みてようやく気がついた。
何一つとして、安定していない‥。
目の前に広がる漠然とした未来を渡っていくための武器が、何も無い。
一つでも保証された何かがあれば、安心出来るのに。
隣に座る彼の生き方のように、自分を守ってくれるものが何か一つでもあればいいのに。
確実な未来が保証された男と、その彼の車に乗って将来を悩む私
相反する生き方の二人。
分かってはいたものの、あまりにも違う互いの境遇に、心が重く沈んでいく。
先輩は先輩で、私は私なのに‥。
なのに何でこんなにも、苦しい気持ちになるんだろう‥。
空は暗く、厚い雲が立ち込めているのがネオンの明かりでぼんやりと見えた。
心に巣食う息苦しさを感じながら、雪はふとあることを考え始める。
そして雪は、彼に一つ質問をしてみることにした。
「あ‥それじゃあ仕事の他に、何か目標があったりしますか?
社会人になったら趣味で始めたいことがあるとか、三、四十代までには何か達成してたいとか‥。
長い目で見た計画のようなものが」
雪の質問は、奇しくも高校時代、河村亮が彼にした質問と本質の似た問いであった。
お前って勉強の他に得意なことってあんの?でなけりゃ、したいこととかさ
淳は少し考え込んで、天を煽ぐ。
「ん?三十代か‥。老けてイケメンじゃなくなってるかもな」
冗談だよ、と言って彼は笑ったが、
なぜかいつも先輩の冗談は笑えない‥。
そして彼は真面目に語り始めた。これから先、十年後二十年後の、未来の話を。
「まぁその頃には経営のイロハも身について上に上がってるだろうね。
それとも海外支社に発令が出たりとか‥」
「‥‥‥‥」
彼はその後も話を続けたが、雪の耳にはそれ以降の内容は入って来なかった。
心の中が重く沈む。雪はある期待を込めてその質問をしたからこそ、より一層その落胆が心に重く伸し掛かるのだ。
変なの‥。
私は今、彼に対する”嫉妬”以上に、彼に”冷淡さ”を感じている。
先ほどから語られる彼の将来に‥先輩の未来に‥
私がいない。
父親の会社、留学、跡継ぎ‥。
先ほど晒された真実はどれも受け入れるのに難いものだったが、それ以前に彼は、自分の彼氏だ。
質問をする前に過った甘い想像が、脳裏を掠める。
"雪ちゃんと結婚するつもり"なんて、期待しているわけじゃない。
私も、先に進もうだなんて思ってない。
だけど、と雪は思った。
彼の横顔を窺い見る。雪の本音が、がらんどうの心の中で寂しく響く。
たとえ口先だけでも、”その時雪ちゃんと一緒に何かしてるんじゃないかな”って、
言って欲しかった‥
とはいっても、まだ付き合い始めて二ヶ月しか経っていない。
まぁ‥まだ私のことをそこまで好きじゃないってのもあるだろうけど‥
そう考えれば納得できるような気もした。
しかし雪の心に引っかかるのは、先日自分が頭を抱えて将来を考えた時のことだった。
卒業後、就職後出会い?ちゃんと軌道に乗れる?ひょっとして社内恋愛?
先輩就職、私=四年生 時間が合うのか? 外資に入社したらどうする?
一晩中悩んだが、答えは出なかった。
けれどそのノートの中に描かれる未来の中には、確かに彼が存在していた。
悩んだけどな‥私は‥
言い様のない寂しさが、心の中に広がっていく。
自分の未来には彼が居るのに、彼の未来には自分が居ない。
境遇の問題だけではなく、雪は彼との距離とその温度差をひしひしと感じた。
しかしよくよく考えてみると、自分が先走って期待しているだけのような気もしてきた。何と言ってもまだ付き合って二ヶ月だ。
先ほどは自分の為に留学を辞めたとまで言ってくれた‥。
けれど考えれば考えるほど、どこまで本当の話なのか分からなくなってきた。
”今は他の方向も検討中”と言っていたのもあって、卒業したらまた進路は変わるかもしれない‥?
こ、こんがらがってきた‥!
真実が何なのかハッキリしない状況で、雪は考えすぎてグルグルと目を回した。
そしてよく考えてみると、”雪が居るから留学を辞めた”という事実が、彼女に罪悪感を背負わせた。
私のせいで留学が中止に‥。いやでもそれは冗談だって‥
俯いて思案を続ける雪の方を見ながら、彼が「どうしたの?」と聞いてきた。
よほど挙動不審であったようだ。
しかし雪はパッと顔を上げると空を眺め、「雨が降りそうですね」と言ってその場を誤魔化そうとした。
貼り付いたような笑顔である。
淳はそんな彼女を見て、思うところを口にする。
「俺、自分の話ばっかしすぎた? 何か気を悪くさせる話でもしちゃったかな」
雪は自分の動揺が見破られたことを知り、幾分焦った。
再び誤魔化そうと口を開くが、彼は悟ったように呟く。
「バレバレだよ‥」
「‥‥‥‥」
雪はすっかりバレているこの状況に観念したように俯き、口を噤んだ。
暫し悩んだが、深刻な雰囲気を出さないニュアンスで、自分の気持ちを口にすることにした。
「せ‥先輩が卒業して社会人になった時‥その‥まだ先輩の側に私はいられるのかな~なんて‥」
雪の告白を受けて、淳はキョトンとした顔をした。
雪の悩んでいる内容は、彼にとってまるで予想外のものだったらしい。彼は笑顔で口を開く。
「何だ、そんなこと心配してたの?」
「‥‥‥‥」
雪はしどろもどろになりながら、現実問題それはその‥とゴニョゴニョ続けた。
彼はそんな彼女の悩みなど何でも無いことのように、爽やかに笑って言った。
「社会人になったらもう会えないと思ってる?留学に行ったって会ってる人たちは会ってるのに」
サラリとそう答える彼の隣で、
雪は「ソウデスネ‥カンタンナコトデスネ‥」と言って頷いた。
聞きたい質問と、聞きたい答えのピントが微妙にズレていく。
そんな雪の心の引っ掛かりなど知る由もなく、淳はどこか嬉しそうに笑っていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女の居ない未来>でした。
いや~今回の話、皆さんどう思います?
私、最初読んだときは「何で先輩は未来予想図に雪ちゃん加えてないねん!」と雪ちゃん寄りで読んだのですが、
ここを読み返せば読み返すほど、雪ちゃんが変だなと思うようになりまして‥。
そもそも先輩に”将来の計画”を聞いた時点で、彼の頭の中はお仕事モードになるというか、
雪ちゃんを交えない自分の未来予想図を語るのは男性として普通じゃないかと思うんですよね。(おまけにそれまで就職の話をしていたし)
自分が彼の未来に居ないことを落胆する、というのは女性特有の考えかもなぁと思ってみたり。
そして雪ちゃんがノートに彼との未来を書き出してうんうん悩んでいましたよね。
あれ、何か先学期のD判定もらったグループワークの時と同じだなぁと思いました。
あの時も、動かない他の人達に苛立ちながらも自分で全て解決しようとしてましたよね。
一番大事なのはコミュニケーションだったのに。
彼との未来を考えるなら、まずは会話することから始めるべきだったね、雪ちゃん‥。(語りかけモード)
とまぁ、色々と考えることが多い回でした。
そして高校時代も、そして今回も、「したいこと」が答えられない先輩が、哀れ‥(T T)
次回は<唇まで10センチ>です。
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