「三人の旅行は楽しかった?」 「はい楽しかったですよ。と~っても」
本屋にて雪と淳は会話中だ。
話題は味趣連で行った日帰り旅行の件。淳は皮肉を込めて上記のセリフを言ったのだった。
「はぁ~‥他の男と旅行に行っておいて堂々と‥」
「前から約束してたんですよ!てか昨日行って帰ってきて疲れてるんですけど」
帰って来て早々淳からグチグチ言われ、雪はウンザリといった体である。
「てか太一は男じゃないですから!」と雪がこぼすと、「は~そうですか」と淳は呆れたように息を吐いた。
「とにかく私は”先輩拗ねた時積立金”したいですよ。たいそうなお金持ちになれそうです」
「え?俺がいつ拗ねたって?え?」
雪が考案した”先輩拗ねた時積立金”とは、どうやら彼が拗ねた時に溜まる貯金のようなものらしい^^
(そのお金で彼女は本を買うそうだ。)
ちょっとしたことで拗ねる彼と付き合い慣れてきた彼女故の、気安いジョーク。
「てか前から言ってあったじゃないですか。何で今になって‥何も無いですってば」
呆れながらもそう伝える彼女に、淳は目を閉じてフン、と拗ねる。
また雪の貯金が貯まったようだ。雪ちゃん、君がこの本屋中の本を買える日も近い。
「あ、そうだ」
ふと淳はあることを思い出し、カバンの中からある物を取り出した。
それは白い封筒だった。
「雪ちゃんのお金」
雪は驚きのあまり目を見開いた。
「あの時はバタバタしていて渡せなかったけど、」と言いながら淳は封筒を雪に差し出す。
雪は信じられない思いで、封筒を受け取った。父親からもらった、大事な大事なお小遣い。
もう二度と手元には戻ってこないと思っていた‥。
「先輩、本当にありがとうございます‥」
彼女から礼を言われ、淳は満足そうにニッコリと微笑んだ。
元々の封筒は汚れていたから捨てたと続け、
「今度からは通帳に入れておくといいよ」とアドバイスする。
雪は封筒を見つめながら、どういう経緯でこれが戻ってきたのかを改めて考えた。
脳裏に浮かんでくるのは、男の手を踏みつけていた彼の足‥。
雪の胸中は複雑な思いが渦巻いていた。
犯人を捕まえ、お金を取り返してくれたことに感謝する反面、
聡美の言うように彼に対して恐ろしいという思いもある‥。
雪は自分がどう言わなければならないか、を考えた。
彼女として、一人の人間として、彼のした行動に対しての自分の意見を。
雪は本を見ている先輩に近づくと、その服の裾を引っ張りながら声を掛けた。
「せ、先輩‥ウハハ‥あの、先輩‥」
わざとらしい笑みを浮かべる雪に、淳は思わずジト目である。
雪は笑みを浮かべながら、彼の反応を見るようにして言葉を続けた。
「だ、だけど~先輩ちょっとやり過ぎちゃったっていうか~」
雪は普段とは口調も違ってしまっているが、出来るだけ角が立たない言い方で続けた。
両手で淳の手を握りながら、自分の気持ちを口にする。
「ぼ、暴力は良くな‥」「良くないよね」
雪の言葉を先回りして口にする淳。
二人の時間が止まる‥。
見上げると淳は、怒るでも拗ねるでもない、
なんともニッコリとした笑顔を浮かべていた。
「分かってたんかい!」と雪のツッコミ炸裂&気まずさボルテージMAXである。
そのまま背を向けようとする雪に、淳は行かないで行かないでと言ってウリウリした。萌
そして淳は本来の彼が持つ小狡い笑みを浮かべると、彼女の肩に腕を回しながら口を開く。
「俺も分かってるよ。事実ちょっと後悔半ば。色々な面で‥」
彼は自分の気持ちを口にした後、意味有りげな視線を彼女に流した。
それに射られる雪はタジタジだ。
「も、もちろん!犯人を捕まえたことはとっても素晴らしいことですが‥」
「でもあれはやり過ぎだよね?」
淳はそう言って彼女の肩から腕を外すと、呟くようにこう口にした。
「他に方法はいくらでもある‥」
頭脳明晰、そして社会的地位の高い彼が口にする”他の方法”‥。
雪はあんぐりと口を開けた。
それきり何事も無かったかのように本を眺める彼。
雪はそれ以上何も言えずに俯いた。(恐ろしくてそれ以上は聞けない‥)
空気を変えるように、雪は「そうだ!」と一言発した。
「資格が取れたのも先輩のおかげです。ありがとうございました」
「え?いや俺は何もしてないよ」
「それでも‥塾だけじゃなく、勉強も一緒にしてくれたじゃないですか」
雪はもう一度、ありがとうございましたと彼に感謝を伝えた。
どういたしまして、と彼が笑顔でそれに応える。
雪は彼を見上げたまま、もう一言彼に言葉を掛けた。
「‥二学期もよろしくお願いします」
「うん」
いつの間にか見慣れた、彼の笑顔。
雪はそんな彼の顔を見ながら、ある思いが心の中に浮かぶのを感じた。
先輩と学生生活を送るのも、もう次が最後の学期だ
彼は次の学期を最後に、大学を卒業する。
その先はどうなっていくのだろう、二人は、どうなっていくのだろう‥?
未来は、予測することが出来ない。
本屋を見回してみると、色々な人が居る。
皆様々な事情を抱えて、沢山の縁に導かれ、出会い、別れ、それぞれの人生を歩んでいく。
雪は思う。
これから先どんなことが起こるのか、誰と出会うのか、知ることは出来ない。と。
雪は周りを見回していた視線を、目の前の彼に戻した。
彼は雪の目の前に立ち、こちらを見つめて微笑んでいた。
けれど、
互いが一緒に居るということだけで、
もっと素敵な未来が待っているというそんな期待をしてみたって、良いのではないだろうか。
未来を予測することは出来ないけれど、もっと素敵な明日が来て欲しいと願ったり、
この人とずっと一緒にいたいと祈ることは出来る。
運命という大きな歯車に組み込まれた、小さな私達。
けれどそんな一人一人が持つささやかな願いで、この広い世界は回っている。
二学期もよろしく、そんな前向きなメッセージを抱いて、二人は次のステージへと向かって行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<二学期もよろしく>でした!
遂に二部も終わりを迎えました~~~!皆様、ここまで着いてきて下さってありがとうございましたT T
記事にして、二部は全154話でした‥長かったですね。一部の三倍‥。
さて明日からは三部に入ります!
相変わらず誤訳等あると思いますが、生温かい目で見守って下さるとありがたいです
「三部もよろしくお願いします」
と雪ちゃんに言ってもらっちゃたりして‥^^
さ、次回は<新学期>です。
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本屋にて雪と淳は会話中だ。
話題は味趣連で行った日帰り旅行の件。淳は皮肉を込めて上記のセリフを言ったのだった。
「はぁ~‥他の男と旅行に行っておいて堂々と‥」
「前から約束してたんですよ!てか昨日行って帰ってきて疲れてるんですけど」
帰って来て早々淳からグチグチ言われ、雪はウンザリといった体である。
「てか太一は男じゃないですから!」と雪がこぼすと、「は~そうですか」と淳は呆れたように息を吐いた。
「とにかく私は”先輩拗ねた時積立金”したいですよ。たいそうなお金持ちになれそうです」
「え?俺がいつ拗ねたって?え?」
雪が考案した”先輩拗ねた時積立金”とは、どうやら彼が拗ねた時に溜まる貯金のようなものらしい^^
(そのお金で彼女は本を買うそうだ。)
ちょっとしたことで拗ねる彼と付き合い慣れてきた彼女故の、気安いジョーク。
「てか前から言ってあったじゃないですか。何で今になって‥何も無いですってば」
呆れながらもそう伝える彼女に、淳は目を閉じてフン、と拗ねる。
また雪の貯金が貯まったようだ。雪ちゃん、君がこの本屋中の本を買える日も近い。
「あ、そうだ」
ふと淳はあることを思い出し、カバンの中からある物を取り出した。
それは白い封筒だった。
「雪ちゃんのお金」
雪は驚きのあまり目を見開いた。
「あの時はバタバタしていて渡せなかったけど、」と言いながら淳は封筒を雪に差し出す。
雪は信じられない思いで、封筒を受け取った。父親からもらった、大事な大事なお小遣い。
もう二度と手元には戻ってこないと思っていた‥。
「先輩、本当にありがとうございます‥」
彼女から礼を言われ、淳は満足そうにニッコリと微笑んだ。
元々の封筒は汚れていたから捨てたと続け、
「今度からは通帳に入れておくといいよ」とアドバイスする。
雪は封筒を見つめながら、どういう経緯でこれが戻ってきたのかを改めて考えた。
脳裏に浮かんでくるのは、男の手を踏みつけていた彼の足‥。
雪の胸中は複雑な思いが渦巻いていた。
犯人を捕まえ、お金を取り返してくれたことに感謝する反面、
聡美の言うように彼に対して恐ろしいという思いもある‥。
雪は自分がどう言わなければならないか、を考えた。
彼女として、一人の人間として、彼のした行動に対しての自分の意見を。
雪は本を見ている先輩に近づくと、その服の裾を引っ張りながら声を掛けた。
「せ、先輩‥ウハハ‥あの、先輩‥」
わざとらしい笑みを浮かべる雪に、淳は思わずジト目である。
雪は笑みを浮かべながら、彼の反応を見るようにして言葉を続けた。
「だ、だけど~先輩ちょっとやり過ぎちゃったっていうか~」
雪は普段とは口調も違ってしまっているが、出来るだけ角が立たない言い方で続けた。
両手で淳の手を握りながら、自分の気持ちを口にする。
「ぼ、暴力は良くな‥」「良くないよね」
雪の言葉を先回りして口にする淳。
二人の時間が止まる‥。
見上げると淳は、怒るでも拗ねるでもない、
なんともニッコリとした笑顔を浮かべていた。
「分かってたんかい!」と雪のツッコミ炸裂&気まずさボルテージMAXである。
そのまま背を向けようとする雪に、淳は行かないで行かないでと言ってウリウリした。萌
そして淳は本来の彼が持つ小狡い笑みを浮かべると、彼女の肩に腕を回しながら口を開く。
「俺も分かってるよ。事実ちょっと後悔半ば。色々な面で‥」
彼は自分の気持ちを口にした後、意味有りげな視線を彼女に流した。
それに射られる雪はタジタジだ。
「も、もちろん!犯人を捕まえたことはとっても素晴らしいことですが‥」
「でもあれはやり過ぎだよね?」
淳はそう言って彼女の肩から腕を外すと、呟くようにこう口にした。
「他に方法はいくらでもある‥」
頭脳明晰、そして社会的地位の高い彼が口にする”他の方法”‥。
雪はあんぐりと口を開けた。
それきり何事も無かったかのように本を眺める彼。
雪はそれ以上何も言えずに俯いた。
空気を変えるように、雪は「そうだ!」と一言発した。
「資格が取れたのも先輩のおかげです。ありがとうございました」
「え?いや俺は何もしてないよ」
「それでも‥塾だけじゃなく、勉強も一緒にしてくれたじゃないですか」
雪はもう一度、ありがとうございましたと彼に感謝を伝えた。
どういたしまして、と彼が笑顔でそれに応える。
雪は彼を見上げたまま、もう一言彼に言葉を掛けた。
「‥二学期もよろしくお願いします」
「うん」
いつの間にか見慣れた、彼の笑顔。
雪はそんな彼の顔を見ながら、ある思いが心の中に浮かぶのを感じた。
先輩と学生生活を送るのも、もう次が最後の学期だ
彼は次の学期を最後に、大学を卒業する。
その先はどうなっていくのだろう、二人は、どうなっていくのだろう‥?
未来は、予測することが出来ない。
本屋を見回してみると、色々な人が居る。
皆様々な事情を抱えて、沢山の縁に導かれ、出会い、別れ、それぞれの人生を歩んでいく。
雪は思う。
これから先どんなことが起こるのか、誰と出会うのか、知ることは出来ない。と。
雪は周りを見回していた視線を、目の前の彼に戻した。
彼は雪の目の前に立ち、こちらを見つめて微笑んでいた。
けれど、
互いが一緒に居るということだけで、
もっと素敵な未来が待っているというそんな期待をしてみたって、良いのではないだろうか。
未来を予測することは出来ないけれど、もっと素敵な明日が来て欲しいと願ったり、
この人とずっと一緒にいたいと祈ることは出来る。
運命という大きな歯車に組み込まれた、小さな私達。
けれどそんな一人一人が持つささやかな願いで、この広い世界は回っている。
二学期もよろしく、そんな前向きなメッセージを抱いて、二人は次のステージへと向かって行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<二学期もよろしく>でした!
遂に二部も終わりを迎えました~~~!皆様、ここまで着いてきて下さってありがとうございましたT T
記事にして、二部は全154話でした‥長かったですね。一部の三倍‥。
さて明日からは三部に入ります!
相変わらず誤訳等あると思いますが、生温かい目で見守って下さるとありがたいです
「三部もよろしくお願いします」
と雪ちゃんに言ってもらっちゃたりして‥^^
さ、次回は<新学期>です。
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