開講の日は雲一つ無い晴天で、色濃く揺れる緑と鳥の囀りがなんとも心地良かった。
キャンパスは学生達で賑い、皆思い思いに会話したり久々に顔を合わせた面々と挨拶を交わしたりしている。
赤山雪は教室へ向かう道すがら、伊吹聡美とチャットをしながら歩いていた。
新しく買ったスマートフォンは使いやすく、雪は上機嫌だ。
聡美とのメッセージのやり取りが終わると、新しくトークボタンが光った。彼からのメッセージだ。
雪ちゃん今どこ？ 教室に向かってます
俺も、と彼の返信があった。
思わず雪の顔に笑みが漏れる。
しかし無邪気に笑っていたのもつかの間、教室の前まで来ると変な緊張が押し寄せて来た。
雪はドアの前で立ち止まり、生唾を飲み込んだ。
私と先輩が付き合ってること、まだ誰も知らないんだよな‥。
どうせいつかはバレるんだろうけど‥
雪は無駄にギクシャクしながら教室へと入って行った。辺りを見回し、変な雰囲気じゃ無いかどうかを確認する。
すると二人の女子学生が雪の方を見ているのに気がついた。同期の子達だ。
二人は雪と目が合うと、笑顔を作り「おはよう」と挨拶をした。
雪は少し変な空気を感じながらも、二人に挨拶を返す。
そしてもう一人、雪と目が合った人物が居た。
横山翔‥。
今学期から復学すると聞いていたものの、いざ彼を目の前にするとゲンナリした。
雪は溜息を吐きながら、更に教室の奥へと進む。
すると一際明るい声が雪を迎えた。
「ゆきぃ～！こっちこっち！」
太一が席をどき、聡美が向こう側に一席つめた。雪は太一と聡美の間に座る。
その間、二人は雪を見てニヤけ顔だ。
「ん？一人？何で一人で来たの？ん？ん？」
太一と聡美のみならず、向こうの席では柳先輩まで雪の方を見てほくそ笑んでいる。
今この教室で雪と淳が付き合っているのを知っているのはこの三人だ。
雪はバレるのも時間の問題だと確信し、手で顔を覆った‥。
すると太一が、雪が持っているスマホを見て、新しい携帯見せて下さいヨと手元を覗き込んだ。
雪は快諾し、二人して携帯を見る。
見ようによっては、仲の良いカップルにも見える画だ。
太一は自分の名前が”福井太一”とそっけなく登録してあるのを見つけ、
「俺の名前のとこ、めっちゃクールでイケメンな後輩☆に変えなければいけませんヨ」と真顔で言った。
苦笑いする雪‥。
親しげに会話する太一と雪の姿を見ながら、先ほど雪の方をじっと見ていた同期二人は何やらヒソヒソと話をしている。
やがてその内の一人が席を立つと、雪の方へやって来て声を掛けた。
「あの～雪ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど‥」
その子は「雪ちゃんと太一君が‥」と言いかけたのだが、
次の瞬間教室の入口辺りで上がった声に、その質問はかき消された。
「よぉ～！おはよ！」 「先輩おはようございます！」
皆の視線が、教室に入ってきた青田淳に注がれた。
同じく雪も淳を見ていた。そんな視線に気がついて、彼と彼女は目が合う。
雪は淳から送られた視線に、照れたような笑顔で応えた。
首を掻きながら、えへへと笑う。
そんな彼女を見て、彼も笑顔を浮かべた。
モノクロの人々の間で、色付いて見えるただ一人の彼女。
淳はそのまま雪に近付き、皆が見ていることをまるで気にせず、彼女に声を掛けた。
「早かったね？」
雪が躊躇いがちに頷くと、聡美がニヤニヤしながら先輩に席を譲った。
雪の隣に座っていた太一をどかす。
淳は柳と挨拶を交わすと、笑顔で雪の隣に座った。
ニコニコと彼女を見る彼と、皆の視線に緊張する彼女‥。
波乱の新学期が始まった。
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＜新学期＞でした！
いや～３部始まりましたね。波乱の二学期の始まりでもあります。
雪ちゃん、夏休みは淳の隣に並ぶならそれなりの格好しないとな、とか言ってたのに‥。
結局いつもの格好！
チャンチャン♪＾＾；
次回は＜交際宣言＞です。
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