ピロリン、とメールの受信フォルダが光った。雪は届いたメールを見て、思わず一人声を出す。
「お!図書館のバイト申請通ったって!」

隣に居る聡美が、「ヤッタじゃん!」と相槌を打つ。今学期、雪は大学内でアルバイトをすることにしたのだ。
「もう学外でバイトはしないの?」「うん、空講時間にだけバイトして、残りの時間は勉強しようかと思って。
お小遣程度だけ稼げれば良いから」

聡美は頷き、軽く溜息を吐いて天を見上げる。もうすっかり秋の空だ。
聡美と雪は三年生も後半に突入し、青田先輩の代に至っては大学生活最後の学期だ。
先輩がインターンに正式に行くことになれば、もう大学構内で会うことも難しいだろう。
「はぁ~先輩いいな~。お金持ちだし~イケメンだし~。
倍率ヤバイZ企業にもビシッとインターン決めちゃってさぁ!この世で手に入らんもんはないだろーね!」

雪は聡美を前にして、乾いた笑いを立てるしかなかった。会長の息子だからネ‥と心の中でそっと呟く‥。
すると聡美は、雪の携帯に付いているストラップを手に取った。
「それに彼女持ちだし!」

以前先輩から貰った、モジャモジャたてがみのライオン人形が揺れる。
「これ先輩とおそろなんでしょ?あ〜なんだかこそばゆいわぁ!」

聡美は青田先輩がこれを付けているのが想像できない、と言って笑った。
高い物では無いんでしょ? という聡美の問いに、雪はかぶりを振った。
大学の近くのKマートで買った物で、スマホにした記念につけてみた、と。

すると不意に聡美が眉を寄せながら、
「あ!そういえば!」と言って声を出した。

聡美は雪に忠告するような口調で、雪と先輩のこれからのことを心配する。
「インターン先にはコンサバ系のキレーなお姉さまが溢れてると思うけど、
会いに行った時変に自分と比べたりしないのよ!」

「え‥会社まで行きは‥」 「近くなら遭遇するかもじゃん!」
聡美は雪と先輩が、Z企業の近くでデートをすることを想定して忠告をしているのだった。
「てか先輩の周りに美女がひしめいてるって状況が問題なんじゃん!
だからある程度はキレイ目な服や靴を用意しなくちゃ!」

聡美からそう言われ、雪は先輩が美女と一緒にいるところに会いに行った場面を想像してみた。
どんな場面よコレ‥と思いつつ、実際そういった状況に遭遇したら、何だか惨めになりそうな気もする‥。
「知ってる店で、安くて可愛いとこがあるの!学校の近くで値段も手頃で質も良くてさ‥」

積極的な聡美の誘いに、雪は戸惑いつつ頷いた。
そしてキャイキャイと会話している二人の元に、あの彼女が現れた。
「雪ちゃん!」

清水香織は気安い笑みを浮かべながら、二人の元に近付いた。
「ねぇねぇもうお昼食べた?よかったら一緒に‥」

苦笑いを浮かべる雪の横で、聡美が「あー食べた食べた!」と投げやりに言った。
そっか、と言いながら香織は頭を掻く。彼女を見つめる雪の視線は少し厳しい‥。

暫し会話の無くなった三人だったが、香織は雪の方を向くと再び嬉しそうに口を開いた。
「私たちの服、今日似てるね?流行ってるのかな~?
それと、今回もグルワあるね!一緒の班になれるといいなぁ~!」

でしょ? と同意を求める香織を前にして、雪は自分の顔が引き攣っていくのを感じた。
先学期のグループワーク、彼女のせいでDをもらったことを、未だに雪は忘れていない‥。

それじゃ‥と言ってこの場から退散しようとした雪だったが、不意に香織が雪の方に身を乗り出してきた。
雪の携帯にぶら下がったライオンの人形に目を留めている。
「あれ?このストラップ可愛い~!」

どこで買ったの?とすかさず香織が聞いてきた。
雪は嫌な予感がして、そのまま何も言わずに沈黙する。


似たような服装、同じ髪型、そして何でも一緒にしたがるその性質‥。
聡美が嫌がっているのもあって、雪はだんだんと香織に優しい態度が取れなくなっていた。
「あ‥私らちょっと用事が‥」

雪はそうそっけなく言って、彼女に背を向けた。
これまでとは違った雪の態度に、香織は微細な変化を感じた。口を開けたまま、向けられた背中を見つめている。

「雪ちゃん!」

その後ろ姿が去る前に、香織は雪の名を呼び引き止めた。
苦い表情をして振り返る雪に、「ど、どうしたの? 私‥何かした?」と言って頭を掻く。

そして彼女は雪が予想もしなかったことを口にした。
浮かべられた笑顔に、どこか優越感を含みながら。
「難しく考える必要はないけど‥私達、秘密を共有した仲じゃない」

「は?何‥」

雪は最初、香織が何を言っているのか分からなかった。
しかし暫くすると、脳裏に浮かんでくる記憶があった。あれは丁度一年前の今頃‥。

平井和美が、雪のコップに下剤を入れたことを清水香織が教えてくれたのだった。
そういえば先学期グルワで一緒になった時も、香織はそのことを口にしていた‥。
去年は二人だけの秘密もあったし‥

実を言うと、雪自身そんなことはとっくに忘れていた。
けれどそのことを未だに口にしてくる香織はどこか嬉しそうで、そして誇らしげだった‥。

雪が何も言えずに黙っていると、香織は「だから気楽に接してくれればいいよ」と言って微笑んだ。
聡美は一人置いてけぼりで、苦い表情をしてその会話を聞いている。

香織はその後、授業があるからと言ってその場を後にした。
彼女の背中が小さくなるのを見届けて、聡美は雪の肩を揺さぶりながら問う。
「何何?なんなの?!あの子何言ってたの?秘密って何?!」

雪は戸惑いながらも、去年平井和美がコップに下剤を入れた時のことをかいつまんで話した。
その話を聞き終わった聡美は、すごい形相で立腹した。一体いつまで自分の恩を売るつもりだ、と。
「あの子マジでちょっとおかしいんじゃないの?!‥ムッカつく」

怒り心頭の聡美の肩を抱きながら、雪は彼女を宥めて廊下を歩き出した。
聡美ほどの怒りを感じているわけではないが、どこか嫌な気持ちがする‥。

そして雪の第六感が、香織に不気味な何かを感じて反応していた。
振り返って窺った彼女の後ろ姿は、雪ととてもよく似ている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<秘密の共有者>でした。
キレイ目スタイルの雪ちゃん、また見たいなぁ‥。
いつものファッションも好きですが、又斗内との合コンの時や、
聡美のお父さんが病院に運ばれた時に来ていたワンピース姿も、すごく好きです。また見れる日は来るの‥か?^^;
そして今回の雪のボーダーシャツ、途中でボーダーが消えるというマジコーが起きてますね‥。イッツァマジコー!
さて清水香織がジワジワ来てますね~。
次回は彼女が雪をコピるキッカケとなった話です。(しかし大半の方が興味ないことを予想
)
<清水香織の事情>です。
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「お!図書館のバイト申請通ったって!」

隣に居る聡美が、「ヤッタじゃん!」と相槌を打つ。今学期、雪は大学内でアルバイトをすることにしたのだ。
「もう学外でバイトはしないの?」「うん、空講時間にだけバイトして、残りの時間は勉強しようかと思って。
お小遣程度だけ稼げれば良いから」

聡美は頷き、軽く溜息を吐いて天を見上げる。もうすっかり秋の空だ。
聡美と雪は三年生も後半に突入し、青田先輩の代に至っては大学生活最後の学期だ。
先輩がインターンに正式に行くことになれば、もう大学構内で会うことも難しいだろう。
「はぁ~先輩いいな~。お金持ちだし~イケメンだし~。
倍率ヤバイZ企業にもビシッとインターン決めちゃってさぁ!この世で手に入らんもんはないだろーね!」

雪は聡美を前にして、乾いた笑いを立てるしかなかった。会長の息子だからネ‥と心の中でそっと呟く‥。
すると聡美は、雪の携帯に付いているストラップを手に取った。
「それに彼女持ちだし!」

以前先輩から貰った、モジャモジャたてがみのライオン人形が揺れる。
「これ先輩とおそろなんでしょ?あ〜なんだかこそばゆいわぁ!」

聡美は青田先輩がこれを付けているのが想像できない、と言って笑った。
高い物では無いんでしょ? という聡美の問いに、雪はかぶりを振った。
大学の近くのKマートで買った物で、スマホにした記念につけてみた、と。

すると不意に聡美が眉を寄せながら、
「あ!そういえば!」と言って声を出した。

聡美は雪に忠告するような口調で、雪と先輩のこれからのことを心配する。
「インターン先にはコンサバ系のキレーなお姉さまが溢れてると思うけど、
会いに行った時変に自分と比べたりしないのよ!」

「え‥会社まで行きは‥」 「近くなら遭遇するかもじゃん!」
聡美は雪と先輩が、Z企業の近くでデートをすることを想定して忠告をしているのだった。
「てか先輩の周りに美女がひしめいてるって状況が問題なんじゃん!
だからある程度はキレイ目な服や靴を用意しなくちゃ!」

聡美からそう言われ、雪は先輩が美女と一緒にいるところに会いに行った場面を想像してみた。
どんな場面よコレ‥と思いつつ、実際そういった状況に遭遇したら、何だか惨めになりそうな気もする‥。
「知ってる店で、安くて可愛いとこがあるの!学校の近くで値段も手頃で質も良くてさ‥」

積極的な聡美の誘いに、雪は戸惑いつつ頷いた。
そしてキャイキャイと会話している二人の元に、あの彼女が現れた。
「雪ちゃん!」

清水香織は気安い笑みを浮かべながら、二人の元に近付いた。
「ねぇねぇもうお昼食べた?よかったら一緒に‥」

苦笑いを浮かべる雪の横で、聡美が「あー食べた食べた!」と投げやりに言った。
そっか、と言いながら香織は頭を掻く。彼女を見つめる雪の視線は少し厳しい‥。

暫し会話の無くなった三人だったが、香織は雪の方を向くと再び嬉しそうに口を開いた。
「私たちの服、今日似てるね?流行ってるのかな~?
それと、今回もグルワあるね!一緒の班になれるといいなぁ~!」

でしょ? と同意を求める香織を前にして、雪は自分の顔が引き攣っていくのを感じた。
先学期のグループワーク、彼女のせいでDをもらったことを、未だに雪は忘れていない‥。

それじゃ‥と言ってこの場から退散しようとした雪だったが、不意に香織が雪の方に身を乗り出してきた。
雪の携帯にぶら下がったライオンの人形に目を留めている。
「あれ?このストラップ可愛い~!」

どこで買ったの?とすかさず香織が聞いてきた。
雪は嫌な予感がして、そのまま何も言わずに沈黙する。


似たような服装、同じ髪型、そして何でも一緒にしたがるその性質‥。
聡美が嫌がっているのもあって、雪はだんだんと香織に優しい態度が取れなくなっていた。
「あ‥私らちょっと用事が‥」

雪はそうそっけなく言って、彼女に背を向けた。
これまでとは違った雪の態度に、香織は微細な変化を感じた。口を開けたまま、向けられた背中を見つめている。

「雪ちゃん!」

その後ろ姿が去る前に、香織は雪の名を呼び引き止めた。
苦い表情をして振り返る雪に、「ど、どうしたの? 私‥何かした?」と言って頭を掻く。

そして彼女は雪が予想もしなかったことを口にした。
浮かべられた笑顔に、どこか優越感を含みながら。
「難しく考える必要はないけど‥私達、秘密を共有した仲じゃない」

「は?何‥」

雪は最初、香織が何を言っているのか分からなかった。
しかし暫くすると、脳裏に浮かんでくる記憶があった。あれは丁度一年前の今頃‥。

平井和美が、雪のコップに下剤を入れたことを清水香織が教えてくれたのだった。
そういえば先学期グルワで一緒になった時も、香織はそのことを口にしていた‥。
去年は二人だけの秘密もあったし‥

実を言うと、雪自身そんなことはとっくに忘れていた。
けれどそのことを未だに口にしてくる香織はどこか嬉しそうで、そして誇らしげだった‥。

雪が何も言えずに黙っていると、香織は「だから気楽に接してくれればいいよ」と言って微笑んだ。
聡美は一人置いてけぼりで、苦い表情をしてその会話を聞いている。

香織はその後、授業があるからと言ってその場を後にした。
彼女の背中が小さくなるのを見届けて、聡美は雪の肩を揺さぶりながら問う。
「何何?なんなの?!あの子何言ってたの?秘密って何?!」

雪は戸惑いながらも、去年平井和美がコップに下剤を入れた時のことをかいつまんで話した。
その話を聞き終わった聡美は、すごい形相で立腹した。一体いつまで自分の恩を売るつもりだ、と。
「あの子マジでちょっとおかしいんじゃないの?!‥ムッカつく」

怒り心頭の聡美の肩を抱きながら、雪は彼女を宥めて廊下を歩き出した。
聡美ほどの怒りを感じているわけではないが、どこか嫌な気持ちがする‥。

そして雪の第六感が、香織に不気味な何かを感じて反応していた。
振り返って窺った彼女の後ろ姿は、雪ととてもよく似ている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<秘密の共有者>でした。
キレイ目スタイルの雪ちゃん、また見たいなぁ‥。
いつものファッションも好きですが、又斗内との合コンの時や、
聡美のお父さんが病院に運ばれた時に来ていたワンピース姿も、すごく好きです。また見れる日は来るの‥か?^^;
そして今回の雪のボーダーシャツ、途中でボーダーが消えるというマジコーが起きてますね‥。イッツァマジコー!

さて清水香織がジワジワ来てますね~。
次回は彼女が雪をコピるキッカケとなった話です。(しかし大半の方が興味ないことを予想

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