まだ日が昇る前の、静かな時間。
河村亮は丁寧に靴紐を結んだ。
早朝の空気はひんやりしていて、夏の終わりといっても肌寒いほどだった。
亮は長袖のジャケットに灰色のキャップという出で立ちで、自分の部屋のドアの前に立つ。
そんな亮の気配を察して、寝ぼけ眼の小太り君が自分の部屋から顔を出した。
「河村クン、何でこんな朝早く出てくんだなん?新しい仕事かん?」
「おう」
「何の仕事かん?」
「食堂」
「はっは~ん」
小太り君は頷き、頑張れだなん、と言って大あくびをした。
亮が短く「おう」と答える。
小太り君が部屋のドアを閉めると、亮は一つ深呼吸をした。
自分の部屋の玄関まで持ってきている、大荷物を振り返る。
河村亮は、今日この下宿を去る。
二つの大きなカバンと身一つで、また違う町へと移動する。
階段を下り、下宿の玄関を出た。朝の光が眩しかった。
亮は大あくびをしながら、その清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
通い慣れた通りを、一人闊歩する。もう来ることは無いだろう。
ここからの旅立ち、そして新しいステージへの、出発の朝だ‥。
そして私達は、私のせいで行けなかった旅行に日帰りで行った
ザザン、と海岸に波が打ち寄せる。
雪、聡美、太一の三人は波打ち際に立っていた。太一は二人の方を向きながら、ある重大な発表をする。
「もうあのゲームはしないッス」
太一はどうやらネットゲームのオフ会に参加し、メンバーとの仲違いの末喧嘩をして帰ってきたらしい。
ギリギリと歯噛みしながら、その事件を語る。
「自分達はゲームヘタクソのくせに、全部俺のせいにしやがったんス!
それにアイテム配分もめちゃくちゃで!それに対して不満も言っちゃいけないっていうんスか?!!」
そんなん知るか!と聡美の喝が飛ぶのも構わず、太一は叫びながら海へと走って行った。
多数こそが正義なのか!抗議すら出来ないのか!と憤りながら太一は飛ぶ。
聡美は太一を指さし喝を飛ばす。
「何で旅行直前にオフ会なんかして騒ぎを起こすのよ!それみたことか!」
雪と聡美が、砂浜に座る。
「日帰りだってのに時間がもったいないっての!」
海辺は風も強く、少し肌寒いほどだった。
相変わらず海に向かって叫び続ける太一の背中を見て、聡美が呆れ顔で息を吐く。
聡美は隣に座る雪に、日頃太一に感じている不満をぶち撒けた。
それは怒っているようであり、心配している風でもある。
「太一の奴、普段は無表情で飄々としてるくせに、
たまにカッとする癖があるから問題なのよ。いつか何かやらかすんじゃないかと思って気が気じゃないよ」
聡美はそう言った後、雪に向かって忠告するように言葉を掛けた。青田先輩のことだ。
「雪、あんたも先輩のこと注意して見てなさいよ。
あの事は確かにすごいと思うけど‥。理由はともかく暴力は良くないよ」
青田先輩が捕まえたあの犯人は、見ているこちらの気分が悪くなるくらいに殴られていた。
彼女を助けてくれた彼氏、と言うと聞こえは良いが、暴力が大嫌いな聡美にとっては、あれは衝撃的な出来事だったのだ。
「ヒーローはフィクションの中だけで、現実は現実なんだしさ」
聡美の言葉に、雪は複雑な気持ちで頷いた。
雪も彼の暴力は良くないと思ったが、”自分のため”にしてくれたことだからと、
彼にその是非を問うことが出来ないでいたからだ‥。
「あ!メウンタン!」
不意に太一が振り返り、メウンタン(魚出汁の辛い鍋)を食べに行こうと言って二人の元に戻ってきた。
ここの地方の名物料理なのだ。
太一が携帯でお店を調べるのを、二人がワイワイと覗き込む。味趣連、いよいよ出陣である。
すると雪が、とあるものに気がついた。
思わず顔が綻ぶ。
「夕焼けだ!夕焼け!」
三人はそれを見て感嘆の声を上げた。
「おおー」 「キレー!」
夕陽に向けて携帯を向けた。こういうのは撮るのが難しいと言って太一が苦戦する。
三人はキャイキャイとはしゃぎながら、日が沈む前の刹那を堪能する。
聡美が言った。
やっぱり三人はいいね、と。
太一が頷く。
携帯の中の夕陽は、キラキラと輝いている。
うん、と雪が答える。
黄金の光が、彼女の瞳に映りこむ。
少し寒いから、と言って太一が上着を二人に着せ掛けた。
三人は風に吹かれながら、互いの温もりを感じながら笑い合う。
三人って超いいね、と誰かが言った。
他の二人は心から頷く。
綺麗な夕陽が三人を染め上げる。
キラキラと輝きながら、キャイキャイとはしゃぐ彼らを。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<綺麗な夕陽>でした。
いや~もうなんか最終回みたい^^;
誰にも告げずに下宿を出て行く亮、一匹オオカミが様になってますね!
小太り君、悲しむだろうなぁ‥。
そして夕陽の前に肩を寄せ合う味趣連!大好きなところでした。
三人が食べに行くというメウンタンはこちら↓
めっちゃ辛いらしいですね。いつか食べてみたいです。
今回の太一のセリフは、訳をるるるさんに手伝って頂きました^0^!!感謝感謝デス~!
Special Thanx!!
さぁ、次の話で長かった2部もとうとう終わりを迎えます!!
次回<2学期もよろしく>、がんばります~!
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河村亮は丁寧に靴紐を結んだ。
早朝の空気はひんやりしていて、夏の終わりといっても肌寒いほどだった。
亮は長袖のジャケットに灰色のキャップという出で立ちで、自分の部屋のドアの前に立つ。
そんな亮の気配を察して、寝ぼけ眼の小太り君が自分の部屋から顔を出した。
「河村クン、何でこんな朝早く出てくんだなん?新しい仕事かん?」
「おう」
「何の仕事かん?」
「食堂」
「はっは~ん」
小太り君は頷き、頑張れだなん、と言って大あくびをした。
亮が短く「おう」と答える。
小太り君が部屋のドアを閉めると、亮は一つ深呼吸をした。
自分の部屋の玄関まで持ってきている、大荷物を振り返る。
河村亮は、今日この下宿を去る。
二つの大きなカバンと身一つで、また違う町へと移動する。
階段を下り、下宿の玄関を出た。朝の光が眩しかった。
亮は大あくびをしながら、その清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
通い慣れた通りを、一人闊歩する。もう来ることは無いだろう。
ここからの旅立ち、そして新しいステージへの、出発の朝だ‥。
そして私達は、私のせいで行けなかった旅行に日帰りで行った
ザザン、と海岸に波が打ち寄せる。
雪、聡美、太一の三人は波打ち際に立っていた。太一は二人の方を向きながら、ある重大な発表をする。
「もうあのゲームはしないッス」
太一はどうやらネットゲームのオフ会に参加し、メンバーとの仲違いの末喧嘩をして帰ってきたらしい。
ギリギリと歯噛みしながら、その事件を語る。
「自分達はゲームヘタクソのくせに、全部俺のせいにしやがったんス!
それにアイテム配分もめちゃくちゃで!それに対して不満も言っちゃいけないっていうんスか?!!」
そんなん知るか!と聡美の喝が飛ぶのも構わず、太一は叫びながら海へと走って行った。
多数こそが正義なのか!抗議すら出来ないのか!と憤りながら太一は飛ぶ。
聡美は太一を指さし喝を飛ばす。
「何で旅行直前にオフ会なんかして騒ぎを起こすのよ!それみたことか!」
雪と聡美が、砂浜に座る。
「日帰りだってのに時間がもったいないっての!」
海辺は風も強く、少し肌寒いほどだった。
相変わらず海に向かって叫び続ける太一の背中を見て、聡美が呆れ顔で息を吐く。
聡美は隣に座る雪に、日頃太一に感じている不満をぶち撒けた。
それは怒っているようであり、心配している風でもある。
「太一の奴、普段は無表情で飄々としてるくせに、
たまにカッとする癖があるから問題なのよ。いつか何かやらかすんじゃないかと思って気が気じゃないよ」
聡美はそう言った後、雪に向かって忠告するように言葉を掛けた。青田先輩のことだ。
「雪、あんたも先輩のこと注意して見てなさいよ。
あの事は確かにすごいと思うけど‥。理由はともかく暴力は良くないよ」
青田先輩が捕まえたあの犯人は、見ているこちらの気分が悪くなるくらいに殴られていた。
彼女を助けてくれた彼氏、と言うと聞こえは良いが、暴力が大嫌いな聡美にとっては、あれは衝撃的な出来事だったのだ。
「ヒーローはフィクションの中だけで、現実は現実なんだしさ」
聡美の言葉に、雪は複雑な気持ちで頷いた。
雪も彼の暴力は良くないと思ったが、”自分のため”にしてくれたことだからと、
彼にその是非を問うことが出来ないでいたからだ‥。
「あ!メウンタン!」
不意に太一が振り返り、メウンタン(魚出汁の辛い鍋)を食べに行こうと言って二人の元に戻ってきた。
ここの地方の名物料理なのだ。
太一が携帯でお店を調べるのを、二人がワイワイと覗き込む。味趣連、いよいよ出陣である。
すると雪が、とあるものに気がついた。
思わず顔が綻ぶ。
「夕焼けだ!夕焼け!」
三人はそれを見て感嘆の声を上げた。
「おおー」 「キレー!」
夕陽に向けて携帯を向けた。こういうのは撮るのが難しいと言って太一が苦戦する。
三人はキャイキャイとはしゃぎながら、日が沈む前の刹那を堪能する。
聡美が言った。
やっぱり三人はいいね、と。
太一が頷く。
携帯の中の夕陽は、キラキラと輝いている。
うん、と雪が答える。
黄金の光が、彼女の瞳に映りこむ。
少し寒いから、と言って太一が上着を二人に着せ掛けた。
三人は風に吹かれながら、互いの温もりを感じながら笑い合う。
三人って超いいね、と誰かが言った。
他の二人は心から頷く。
綺麗な夕陽が三人を染め上げる。
キラキラと輝きながら、キャイキャイとはしゃぐ彼らを。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<綺麗な夕陽>でした。
いや~もうなんか最終回みたい^^;
誰にも告げずに下宿を出て行く亮、一匹オオカミが様になってますね!
小太り君、悲しむだろうなぁ‥。
そして夕陽の前に肩を寄せ合う味趣連!大好きなところでした。
三人が食べに行くというメウンタンはこちら↓
めっちゃ辛いらしいですね。いつか食べてみたいです。
今回の太一のセリフは、訳をるるるさんに手伝って頂きました^0^!!感謝感謝デス~!
Special Thanx!!
さぁ、次の話で長かった2部もとうとう終わりを迎えます!!
次回<2学期もよろしく>、がんばります~!
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