ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

3分切り、私は悪くありません

2024-05-15 08:24:22 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「その場にいたとしたら」5月9日
 『環境相 水俣病団体に謝罪』という見出しの記事が掲載されました。『水俣病の患者・被害者らが1日に伊藤信太郎環境相と懇談した際、環境省職員が被害者側のマイクの音を発現中に切った問題で、伊藤氏は8日午後、熊本県水俣市で患者団体の関係者と面会し、直接謝罪した』ことを報じる記事です。
 記事によると、『伊藤氏は8日、対応が不適切だったとして同省の和田篤也事務次官と神ノ田昌博環境保健部長に口頭で厳重注意した』とのことです。では、注意の対象となった不適切な行為とは何だったのかというと、曖昧なのです。
 記事では、『持ち時間を超えた場合にマイクの音を切るという方針を事前に決めていたという。ただ、懇談時に会場でそうした方針を説明するアナウンスはなかった』とあります。国会答弁でも、『これまでも各関係団体の発言時間に大きな格差が生じたり、大臣から回答する時間を十分確保できなかったりという進行上の問題が生じていた(略)マイクの音を切るという対応も含め。環境省の事務方で対応例を準備してきた』と担当者が説明しています。
 さらに野党からの追及に対し環境省側は、『限られた時間の中でどのようにすればみなさんの意見がうかがえるか、知恵を出していきたい』と回答し、マイクの音切りを止めるとは言っていません。一方で、岸田首相は『関係団体の皆様方を不快にさせる不適切な対応だった』と述べています。ここでも、何が不適切だったのかということは明確には述べられていません。
 公務員は、法令と上司の命に従って職務を遂行する義務を負うています。上司の命については、明らかに法令に違反する場合を除いて、従う義務があるのです。今回の場合で言えば、「3分を過ぎてま話し続ける奴がいたら、ぶん殴ってマイクを取ってこい」という命令であれば、暴行罪を犯せと強要しているわけですから「違法な命令には従えません」と拒否することができますが、「発言者に公平に発言時間を割り振り、大臣が話す時間を確保するために3分を超過した場合マイクの音を切りなさい」という命令が明確に違法であると判断することはできません。
 公務員法の解釈では、上司の命が「明らかに」違法である場合に拒否できるとされ、もしかしたら問題なんじゃないかな、という程度では拒否できないし、拒否しなくても責任は問われないとされています。上司の命に対し、職員個人が「少し疑問だ」というレベルで従わないということが頻発すれば、校務の円滑の執行が妨げられる弊害が大きいという理由からです。
 そう考えると、今回のマイク切り事件でその場にいた職員が関係団体やメディア、世論から非難を受けるに値する行為は、事前に説明をし忘れたということだけになります。逆のいい方をすれば、事前にマイクを切るという説明をしておけば、事務方の最終的な責任者である事務次官以外は非難されるべき者はいなかったということになります。もしそうなったら、関係団体やメディアの方々は納得したでしょうか。納得しないでしょうね。
 教員や教委の職員も公務員です。多少違和感を覚えたとしても、上司の命に従わざるを得ません。もちろん、決定・執行の前に意見を述べることは許されますが、それでも決定事項が覆らない場合、自分の思いや感情とは別に従うのが義務なのです。私自身、そうした場面はいくつもありました。苦情を言っている相手の方に感情移入しながらも相手を説得する、俺だって上司にそう言ったんだよという言葉が口まで出かかりながら、相手の要求を突っぱねる、それが公務員の辛さなのです。
 多くの若者があまり意識をしませんが、公立学校の教員になるということは、そういうことも含んでいることを忘れてはなりません。

 

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