グランプリ出場をかけた最終決戦、G1全日本選抜は岸和田競輪場で行われた。
決勝当日の天候は朝から雨で生憎のコンディションとなった。
スタートはお互い牽制しあったため誰も出ようとせず、渋々6・小橋正義が前に行くも、それでも牽制状態が続く。
結局、3・金子貴志-4・山口幸二-9・合志正臣、2・小嶋敬二-7・加藤慎平-8・前田拓也、1・海老根恵太-5・村本大輔-小橋となった。
残りあと3周を通過したあたりで小嶋以下のラインが上昇。小嶋は正攻法の位置へ。すると残りあと2周から海老根が上昇。しかし一旦引いた小嶋がジャン前から一気に発進。すると金子が4番手、海老根は8番手となって残りあと1周。
海老根が1センターから捲りを放つ。しかし小嶋との車間はまだ大分あり、海老根の動きを察知した金子が2センター捲りを敢行。
だが、金子の動きに合わせて踏んだ加藤が前田、合志の落車に巻き込まれかけながらもそのまま1着ゴール。2着は外から突っ込んできた山口だったが、落車の件で加藤が審議の対象になった。
しかし失格には至らないということで加藤の優勝が決定。80期勢としては初のG1優勝者となった。
「最後の新人王」としても名を刻む加藤。有言実行のタイプで、大物感も漂わせたが、一時戦法に迷いが生じて低迷に陥ったこともあった。
そんな中、なんでもできる自在脚を持つこともあり、「オレ流」と称された変幻自在な戦法を駆使し始めたのが丁度1年前の武雄のS級戦から。
そこで完全優勝した加藤は続く地元・岐阜記念も完全優勝。さらに競輪祭の1・2次予選も勝って大垣・全日本選抜の特別優秀戦から数えて10連勝を果たし、競輪祭でも決勝2着と頑張った。
決勝2着の内容も良かったことから、
「いつでも加藤はタイトルを取れる」
ともてはやされたが、その後はムリに競りに行ったりだとか、はたまた「オレ流」というには程遠い「ラインでの仕事」に固執した部分があって年初の勢いがいささかなくなりかけていた。
今シリーズも初戦・2戦(事故入)とも5着ともう一つの内容であったが、準決勝で小嶋の逃げを差したことで俄然チャンスが巡ってきて、決勝も小嶋マークから堂々押しきっての優勝であった。
新人王戦を勝利した後、加藤は中途半端な競走が多くなり、地元ファンからも一時見放されていたこともあった。だが前述したとおり、展開に応じて逃げも打てば、追い込みにも回るという「オレ流」走りを貫き通したことでついにG1制覇を成就した。
この「オレ流」というのは、やれそうでいてなかなかできない。やろうとする選手は大概「追い込み」に回ってしまうからだ。しかし加藤は、
「先行できなければ自在なんて戦法はありえない」
と話しており、相手次第では恐らく今後も捲りや先行といった自力を多用してくることであろう。また、それができるようならばさらにタイトルを追加できるのではないか。
山口は加藤の後ろ3番手を嫌って金子マークに出て一か八かの勝負に出た。惜しくも2着だったが、常に上を目指す競走を今年は年間通じてできたのではないか。そしてまだまだタイトル戦線にヤマコウありというところを来年も見せてくれるはずだ。
海老根は残りあと3周で小嶋に正攻法の位置を許したことが悔やまれる。小嶋の発進は想定済みだったはずであり、分かっていても結局小嶋に本来の走りをされてしまった。
しかし最後大外強襲しての3着は評価できる。この調子で行けばタイトル奪取は時間の問題だろう。
内外におけるレースで常に好成績を収め、逆転グランプリ出場の目も十分あった金子は大事に行き過ぎてまたもや悲願のG1タイトル奪取はならなかった。
脚的には今や輪界ナンバーワンといってもよく、いつでもタイトルを取れる位置にあると思うが、反面、調子の良さを過信しすぎるところも見受けられる。流れに応じた戦い方ができれば相当に強くなると思われるが、まだ現段階ではその途上にあるのかもしれない。
小嶋は7着に終わったものの、今シリーズはただ一人自らの持ち味を如何なく発揮した選手であった。
とりわけ決勝では金子、海老根といった強力自力選手に対して全く付け入るスキを与えなかった。その結果、加藤の優勝を呼び起こした。
自身は30日のグランプリを前々から見据えており、今回はG1の決勝ながらもその「脚試し」的なところもあったかと思う。しかしながらシリーズ通じての好調さは維持できたみたいだし、現段階では優勝候補の最右翼といえよう。
何年来、「世代交代」とさえも言われなくなった競輪界であるが、加藤の優勝をはじめ、海老根、金子といった今年とくにブレイクした選手がビッグレースにおいても常時活躍できる様相となってきたことで来年は大きく動きのある可能性も出てきた。
後半はいささか取りこぼしが目立つようになった武田豊樹もレースをさらに覚えてくればいつでもタイトル奪取は可能であるし、さらに90期の大物新人・北津留翼も既にS級入りを果たした。
ということは来年はタイトルをまだ取ってない「組」の初タイトル連発の可能性も十分。競輪界も漸く「新たな時代」へと向かうようだ。