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早稲田大学理工学術院の玉城絵美・准教授は、「ポゼストハンド」を開発し、アメリカ『TIME』誌の「世界の発明50」にも選ばれています。

2020-12-03 02:58:54 | 政治経済問題



大学や研究機関など日本には数多くの研究者がいる。研究成果では世界で後れを取り始めたとされるが、夢の実現や社会の改革に向けて地道な努力を重ねる研究者は少なくない。そんな人々を紹介する「ニッポンの研究者」。初回は早稲田大学理工学術院准教授の玉城絵美氏(36)。ベンチャー企業「H2L」創業者でもある玉城氏は、東京大学大学院博士課程在学時にコンピューター信号で人の手を自由に動かすことができる装置「ポゼストハンド」を開発し、アメリカ『TIME』誌の「世界の発明50」にも選ばれた。玉城氏が描く未来像とは――。

入院時の「外出できない」が原点
――どんなことがきっかけで、研究の道を志したのでしょうか。

高校生だった2001~2002年頃、先天性の心臓病が悪化して入院することになったんです。とてもつらく大変だったけど、入院生活自体は上げ膳据え膳で楽だなと思いました。

ただ、部屋の外に出られないことが苦痛で……。同室の人たちも子どものイベントやお祭りに参加できないことを「そこだけはつらいね」と話していたんですね。

当時、音声と映像はやり取りできました。音声はマイクというインプット(入力装置)とスピーカーというアウトプット(出力装置)があり、映像はカメラとディスプレイがあったわけです。

でも、体の動きに関しては当時、ジェスチャー入力もジェスチャー出力もどちらもなかった。外部とインタラクション(相互に作用)できる機械が欲しいなと思って探したけれど、売ってない。だったら、自分が研究者になって、作って、企業と連携するか起業するかして、社会に広めていくしかないと思って、研究者になろうと進路を決めました。

――世に知られるきっかけとなったポゼストハンド。「操られる手」という意味を持つこの装置は、コンピューターからの信号によって人間の手を動かすことができます。この発想にどうやって行き着いたのでしょうか。

ジェスチャー入力に関しては修士課程の頃から研究を始めました。でも、ジェスチャー出力をコンピューターから表現する分野は未開拓で、本当に研究者がいなかった。

それには理由があります。回路設計やプログラミング、機械学習など複合的な知識が必要なので、作るのが大変で、ややこしいんですね。だから、手掛ける人がいなかったんだと思います。


琉球大で学んだ基礎を基に、東大の博士課程で、来る日も来る日も研究にのめり込んで作ったのが「ポゼストハンド」でした。

電極が付いた2つのバンドを腕に巻き付け、電極から電気刺激を与えることで前腕の筋肉を収縮させ、手指の動きを制御する仕組みです。

――2012年にはベンチャー企業「H2L」を立ち上げました。そして、「アンリミテッドハンド」「ファーストVR」など次々と製品を世に送り出しています。それぞれ、どんな装置なんでしょうか。

まず、脳の仕組みから考えましょう。脳は電気信号を出して筋肉を制御しています。その電気信号を増幅させて、脳が筋肉にどういう動きをさせようとしているか、推定するのが「筋電」という技術なんですね。

その筋電技術を使って製品を製作しようと考えました。それが「アンリミテッドハンド」です。ポゼストハンドはアウトプット機能だけでしたが、アンリミテッドハンドはインプット機能も入れようと考えました。

産業レベルに持っていけなかった
でも、テストを繰り返して研究レベルではOKが出たんですが、機能的にどうしても産業レベルに持っていくことができなかった。


理由はノイズです。

スマートフォンやパソコンが近くにあると、そこから発している電気がノイズとなってしまい、脳の電気信号を受け取るセンサーとして使うことができないんです。

スマホやパソコンを遠ざけた場合など限られた環境では、筋電のセンサーは作動したんですが……。

――諦めたんですか。

私たちは、インプット・アウトプットのシステムを「プラットフォーム」にしたいと考えています。

プラットフォームになるためには、さまざまなアプリケーションの動作を保証する必要があるんです。そしてアプリケーションが確実に動くためには、プラットフォームはいろんな環境に適応していないといけない。

その点で、産業レベルに持っていくのは厳しいと判断しました。約1年、「筋電」をセンサーにしようと研究に費やしたけど、「今は使えないだろう」と。「これはもう仕方ないね」と封印したんです。


そこで新しく、筋肉が通す光に注目しました。体を動かすと、筋肉は膨らみます。膨らんだ筋肉に光を当てると、膨らんでいないときと比べて、光をより多く反射する。その性質を使おうと考えたわけです。

1つのセンサーの中に発光部と受光部を設け、受光部が受け取る光の強さによって、力の強さやジェスチャーを推定するという機能をアンリミテッドハンドに追加しました。


「ファーストVR」はアームバンド型のコントローラーを腕に巻くだけで、光学式筋変位センサーが腕の筋肉の動きを検出します。これを使えば、手の動きだけでVRやARを自在に操作できます。

――玉城さんは「H2L」の創業者です。研究者であると同時に起業家。そこにはどんなプラスがありますか。

研究者にとって「どうやって研究の寄与を世の中に引き渡していくか」は、いつの時代も変わらず重要な課題です。どんな形で社会に役立てるのかを見定めないで研究を続けていくと、研究の方向性が定まらなくなってしまうんですね。

研究者はみな、どんな研究なら世の中に寄与できるか考えあぐねており、異業種交流会などに参加してその点を考え続けているんだと思います。

研究者が企業に関わると「世の中に何が求められているか」がすごくよくわかる。これは研究者にとって、大きなメリットです。逆に、起業家が研究者の要素を持っていると、やりたいことが「どれくらい再現できるか、どれくらい新規性があるのか」などを技術的、科学的に分析しやすい。

研究者と起業家、両方をやることで科学的なイノベーションを起こせる新規性、再現性、寄与が実現しやすくなると私は考えています。

3つの制約がなくなる
――「ボディーシェアリング」(身体共有)という研究も続けているそうですが、これはどういう内容なのでしょうか。

ボディーシェアリングとは、ひと言で言うと「時間と身体、空間の制約がなくなる」ということです。

1つ目の「時間の制約がなくなる」は、過去を追体験できるようになることを意味しています。起きたことを口頭で伝えたり、文字にして書籍にまとめたり、映像にまとめてYouTubeにアップしたり。これらは今でも行われていることですが、そんな追体験が「時間的制約がなくなる」という意味です。

2つ目の「身体の制約がなくなる」は、バーチャル・リアリティー(VR)の中で、美少女のキャラクターになっていろんな経験をするようなことを指します。そういうふうに他の体を使って何かを体験することもできるようになってきました。

3つ目の「空間の制約がなくなる」は、例えば1カ所で生活しないといけない人が、一瞬で遠隔地の沖縄にいるような状態になることを意味します。


ボディーシェアリングの最終目標は、ニューヨークにいる人がトルコにいる人やロボットの体を使えるといった空間的な制約をなくすことです。遠く離れた場所にある体と、装置を身に着けた自分との間で相互に「触感」を伝え合えるようになることで、実現できると考えています。

新型コロナウイルス感染症が拡大して以降、外出する機会は大きく減りました。その代わりにリモートワークが増え、以前は出張が必要だった会議でもZoomやMicrosoft Teams、Skypeを使って参加するようになりました。映像的な意味では、空間的な制約は既に取り払われつつある。

その延長線上で、ボディーシェアリングのステップに移っていけたらと思います。コロナは悪い影響をもたらしているけれど、そのおかげでイノベーションが動き始めたとも感じています。

新しい技術を生活に取り入れてほしい
――「他人やロボットの体を借りる」という概念を一般の人が受け入れることができるのでしょうか。ずいぶん先の話になるようにも思えます。新しい発想を広く社会に受け入れてもらうには何が必要だと考えますか。

新しい技術を自分の生活にどんどん取り入れてほしいと思います。


少し傲慢に聞こえるかもしれませんが、研究者はそれぞれの分野で挑戦している。研究者に限らず、仕事でも生活でも子育てでも、人間が何か活動しているときは少なからず、何かに挑戦しているわけですよね?

新しい技術は挑戦の塊みたいなものです。

その成果である新しい技術や製品を生活の中に取り入れ、「ここは使いにくかった」などの感想をフィードバックしてもらえたら、研究者は世の中に対しての寄与の方向性を定めることができます。

そういう相互作用を繰り返していくうちに、イノベーションが起きるし、より生活が豊かになっていくという好循環が生まれると考えています。

――自身の研究が実現したら、どんな未来になっていると思いますか。

身体的かつ空間的な制約による機会や経験の不平等がない世の中になったらいいなと思っているんです。沖縄に住んでいたらスキーを楽しむ機会は少ないし、シベリアに住んでいたらビーチで泳ぐ機会はすごく少ない。「家から出られない」人もたくさんいます。

私も高齢になれば、外出できなくなるときも来るでしょう。だからこそ、みんながいろいろな経験を積める“平等”な世の中にしたいと思います。

取材:当銘寿夫=フロントラインプレス(Frontline Press)所属
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