ヨミドクター 知りたい! 2025年6月4日 医療・健康・介護のニュース・解説 長嶋茂雄さんも患った「脳梗塞」 暑くなる時期は要注意 予兆の発作が出ることも
プロ野球・読売巨人軍の選手、監督として活躍した長嶋茂雄さんが89歳で亡くなりました。2004年3月には脳 梗塞こうそく を発症しましたが、懸命にリハビリを続けていました。脳梗塞とは、どのような病気なのでしょうか。埼玉医科大病院脳神経外科教授の小林正人さんに聞きました。(聞き手・道丸摩耶)
欧米型の重いタイプが増えている
長嶋茂雄さんも患った「脳梗塞」 暑くなる時期は要注意 予兆の発作が出ることも
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――脳梗塞はどのような病気ですか。
脳の血管が血のかたまりで詰まり、血流が止まって脳細胞が死んでしまう病気です。血のかたまりには、その場で作られる血栓と、他の場所から流れてくる 塞栓そくせん があります。首の太い動脈( 頸けい 動脈)、脳につながる太い動脈、脳のさまざまな部分に血液を送る細い血管まで、詰まる場所はさまざまで、どこが詰まるかによって症状は変わります。頸動脈が詰まると、広い範囲に影響を与える致命的な脳梗塞となります。日本人は、以前は細い血管が詰まるタイプが多かったですが、生活習慣の変化により、最近は欧米型の太い血管が詰まる例が増えています。
――どのような症状が出ますか。
手や足が動かなくなったり、しびれたり、ろれつが回らなくなったり、片目が見えなくなったり、視界の片側だけ見えなくなったりといった症状が出ます。詰まる場所によっては症状がほとんど出ないこともあります。
――なぜ血管が詰まるのですか。
いくつかの原因がありますが、血管の壁が硬くなり徐々に血管が細くなっていく「動脈硬化」が大きな原因のひとつです。高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などが動脈硬化を進行させます。心臓にできた血栓が脳に飛んで、血流を止めてしまう場合もあります。
――どのような治療をするのですか。
血栓を薬で溶かしたり(投与の目安は発症後4時間半以内)、カテーテルで取り除く治療をしたりします。脳細胞はほとんど増えず、一度死んでしまった細胞を元に戻すこともできません。そのため早く血流を戻し、影響を受ける部分を少なくすることが大切です。脳梗塞が疑われる症状が出たら、急いで医療機関を受診してください。
要介護の大きな原因に
――脳梗塞が起きる予兆はありますか。
手足に力が入らなかったり、言葉が出にくくなったりする症状が出て、数分から数時間で治まる「一過性脳虚血発作」が起きることがあります。一時的に血管が詰まるものの、また通ることで症状がなくなります。これが起きると、90日以内に15~20%の方が脳梗塞を発症します。特に発作から48時間以内が危険とされており、予兆と捉えることもできます。ただ、こうした症状がなく、いきなり脳梗塞が起きる人もいます。
――なりやすい人や起きやすい季節はありますか。
動脈硬化は老化によって進むので60~70代以上の方が多いですが、近年は50代以下の発症も増えています。血圧が上がりやすい寒い時期、脱水が起きやすい暑い時期は要注意です。
――予防法はありますか。
毎日血圧を測り、高血圧にならない生活を心がけてください。血栓を起こしやすくするといわれている喫煙は避けましょう。また、水分を多めにとって脱水を避けること。お酒は、つまみで塩分が増えて血圧が上がりやすく、また、脱水にもなりやすいので、控えめにしましょう。
高齢化により脳梗塞は増えていますが、治療の進歩で死亡率は下がっています。ただ、命は助かっても要介護になることが多く、健康寿命を損なう大きな原因となっています。早期にリハビリを開始して残った神経細胞が機能を最大限に発揮できるよう促し、筋力をつけて身体の機能を回復させることが重要です。長嶋さんが一心にリハビリに取り組んでいた姿は、患者さんにとって大きな励みになっていたと思います。
こばやし・まさひと
1990年慶応大学医学部卒。米ハーバード大学研究留学、美原記念病院、慶応大学病院脳神経外科などを経て現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本定位・機能神経外科学会認定医。
プロ野球・読売巨人軍の選手、監督として活躍した長嶋茂雄さんが89歳で亡くなりました。2004年3月には脳 梗塞こうそく を発症しましたが、懸命にリハビリを続けていました。脳梗塞とは、どのような病気なのでしょうか。埼玉医科大病院脳神経外科教授の小林正人さんに聞きました。(聞き手・道丸摩耶)
欧米型の重いタイプが増えている
長嶋茂雄さんも患った「脳梗塞」 暑くなる時期は要注意 予兆の発作が出ることも
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――脳梗塞はどのような病気ですか。
脳の血管が血のかたまりで詰まり、血流が止まって脳細胞が死んでしまう病気です。血のかたまりには、その場で作られる血栓と、他の場所から流れてくる 塞栓そくせん があります。首の太い動脈( 頸けい 動脈)、脳につながる太い動脈、脳のさまざまな部分に血液を送る細い血管まで、詰まる場所はさまざまで、どこが詰まるかによって症状は変わります。頸動脈が詰まると、広い範囲に影響を与える致命的な脳梗塞となります。日本人は、以前は細い血管が詰まるタイプが多かったですが、生活習慣の変化により、最近は欧米型の太い血管が詰まる例が増えています。
――どのような症状が出ますか。
手や足が動かなくなったり、しびれたり、ろれつが回らなくなったり、片目が見えなくなったり、視界の片側だけ見えなくなったりといった症状が出ます。詰まる場所によっては症状がほとんど出ないこともあります。
――なぜ血管が詰まるのですか。
いくつかの原因がありますが、血管の壁が硬くなり徐々に血管が細くなっていく「動脈硬化」が大きな原因のひとつです。高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などが動脈硬化を進行させます。心臓にできた血栓が脳に飛んで、血流を止めてしまう場合もあります。
――どのような治療をするのですか。
血栓を薬で溶かしたり(投与の目安は発症後4時間半以内)、カテーテルで取り除く治療をしたりします。脳細胞はほとんど増えず、一度死んでしまった細胞を元に戻すこともできません。そのため早く血流を戻し、影響を受ける部分を少なくすることが大切です。脳梗塞が疑われる症状が出たら、急いで医療機関を受診してください。
要介護の大きな原因に
――脳梗塞が起きる予兆はありますか。
手足に力が入らなかったり、言葉が出にくくなったりする症状が出て、数分から数時間で治まる「一過性脳虚血発作」が起きることがあります。一時的に血管が詰まるものの、また通ることで症状がなくなります。これが起きると、90日以内に15~20%の方が脳梗塞を発症します。特に発作から48時間以内が危険とされており、予兆と捉えることもできます。ただ、こうした症状がなく、いきなり脳梗塞が起きる人もいます。
――なりやすい人や起きやすい季節はありますか。
動脈硬化は老化によって進むので60~70代以上の方が多いですが、近年は50代以下の発症も増えています。血圧が上がりやすい寒い時期、脱水が起きやすい暑い時期は要注意です。
――予防法はありますか。
毎日血圧を測り、高血圧にならない生活を心がけてください。血栓を起こしやすくするといわれている喫煙は避けましょう。また、水分を多めにとって脱水を避けること。お酒は、つまみで塩分が増えて血圧が上がりやすく、また、脱水にもなりやすいので、控えめにしましょう。
高齢化により脳梗塞は増えていますが、治療の進歩で死亡率は下がっています。ただ、命は助かっても要介護になることが多く、健康寿命を損なう大きな原因となっています。早期にリハビリを開始して残った神経細胞が機能を最大限に発揮できるよう促し、筋力をつけて身体の機能を回復させることが重要です。長嶋さんが一心にリハビリに取り組んでいた姿は、患者さんにとって大きな励みになっていたと思います。
こばやし・まさひと
1990年慶応大学医学部卒。米ハーバード大学研究留学、美原記念病院、慶応大学病院脳神経外科などを経て現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本定位・機能神経外科学会認定医。