夏草の しげみに蛇の 目の光り 北村 透谷
抜いても取っても次々に生い茂る夏草。この季節の畑は、まさに草との闘いであり、滴るほどの汗を流す。そんな折々、湿った光沢を放つ長い生き物と予期せぬ遭遇をすることがある。向こうは逃げるのに必死。こちらは何の害もないと分かっていながら、その瞬間身も心も固まって動けなくなる。大抵の場合アオダイショウで、事なきを得る。
たまには、「隣の空き家の草むらからマムシが出てきて怖かったですよ。目をつぶって殺しましたがね。」などという話もある。暗に、市役所かどこかに相談して、対策を取ってもらえないか、というお願いである。安請け合いは出来ないが、「それは大変でしたね。何はともあれ自己防衛をなさいませ。」などという話に、先ずは落ち着かせる。
市役所のしかるべき部署に相談すると、基本的にはこうこうしかじか。個人の財産に絡む話は、行政も介入が困難で、解決出来ないケースが多い。という建前論。「こと人の命に関わる問題ですよね~」と食い下がると、「プライバシー侵害にならない範囲で、空き家の持ち主を調査しましょう。その上で改めてご相談しましょう」という継続審議となった。
自己防衛を迫られる隣家は大変ではあるが、マムシの出没は放ってはおけない。「隣接約1mの草刈りをしました。ネットでヘビの嫌がる薬剤も当たってみます」と、こちらのアドバイスを全て受け入れてはもらったが、全面解決には至ったわけではない。
隣家とのお付き合いの難しさは、現実として住んでいてもいなくても、大なり小なり関わりを持ち続けることになる。ということか。出来ることなら隣人に迷惑を掛けたくないと思ってはいるのだが。
他人事ではない。我が家だって家主亡き後、長男夫婦がしっかり管理してくれないと、こういったトラブルは起き得る現実問題である。早いとこ、孫の一人を我が家の跡取り、後見人として育て上げておくべきかな。笑うに笑えない、夏草のしげみに蛇の目の光り ではある。