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養鶏場の殺人/火口箱 ミネット・ウォルターズ

作者の短編というのは珍しいと思ったが、作者自身のまえがきを読んで納得した。本書に収められた2作品はいずれも、商業的な目的で書かれたものではなく、世の中の本を読まない人に読書の習慣を身につけてもらうという意図で書かれた啓蒙のための作品なのだという。普段本を読まない人のためのものなのだから「短編」なのだということだろう。しかも、また、そういう目的なのであれば、「短い文章に濃い内容が凝縮されている」だけではなく、おそらく「判りやすい内容」で、しかも「面白い」はず。まえがきだけを読んでこれだけハードルが高くなる本というのも珍しいかもしれない。実際に読んでみた感想は、期待を裏切らない内容だった。特に火口箱は、意外な結末と巧みな構成が読者を魅了する、まさに著者独特の面白さが凝縮された作品だと感じた。(「養鶏場の殺人/火口箱」 ミネット・ウォルターズ、創元推理文庫)

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虹ケ原ホログラフ 浅野いにお

NHKの「戦後サブカルチャー史」で大きく取り上げられていたので読んでみたのだが、ストーリーは分かりにくいし、絵が綺麗という訳でもなく、特に面白い作品でも魅力のある作品でもないというのが正直な感想だ。刊行されたときに熱狂的に迎えられた作品ということなので、ある意味その時の時代精神をとらえていた作品なのだろう。時代の空気を伝える代表作と呼ばれる作品が必ずしも普遍的な作品とは限らないということかもしれない。(「虹ケ原ホログラフ」 浅野いにお、大田出版)

 

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俺は絶対探偵に向いてない ,さくら剛

少し前の書評でかなり評判になっていたのだが、なかなか本屋さんで見つけることができず、ネットで入手して読んでみた。ルポライター出身の著者による初めての小説ということで、最近流行りの異業種参入作家だ。異業種作家の作品は、読者の気持ちを引きつけるのに長けているものが多いので要注意だと思いながら読んだのだが、これが何となくつぼにはまってしまったというか、妙に面白く感じてしまった。本筋は1年間ニートだったダメな主人公がひょんなことから探偵社に入社し、ドタバタしながらも事件を解決していくというよくあるパターンなのだが、何か普通のユーモアミステリーとは違うものを感じる。その他の登場人物もかなり類型化されていて、ライトノベルのテイストに近い。本の帯に「新しいジャンル」というようなことが書かれているが、「他と違うものを感じた」というのは、ある意味それに近いことを読んだ人の多くが感じているということかもしれない。もうすでに続編がでているので、それを読むのが楽しみだ。(「俺は絶対探偵に向いてない」 ,さくら剛、ワニブックス)

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いとみち~二の糸 越谷オサム

シリーズ第2作目。私が読んだ著者の作品としては4冊目になる。前作は、「青春小説の王道」のような感じだったが、本書では、主人公の成長だけではなく、お馴染みになった他の登場人物の動静が丁寧に語られており、まだまだ話は続きます、という感じだ。本シリーズでは、登場人物の会話のほとんどが津軽弁で書かれていてよく意味が判らないので、なんとなくで済ませるということになる。前作ではあまり気にならなかったのだが、本書では津軽弁の部分が多くて全部読み翔ばす訳にもいかず少し困ってしまった。(「いとみち~二の糸」 越谷オサム、新潮文庫)

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嘘みたいな本当の話 内田樹・高橋源一郎

一般の人から「嘘のような本当の話」を募集して1冊の本にした本書。アメリカに同じような手法の本があって、それを参考にした企画とのことだ。こうした一般の人が書いた「非日常」の話を沢山集めて読むことで、日本の日常生活が浮かび上がってくるという趣旨らしい。また、そうして集められた文章を通読し、アメリカのものと比較すると、それぞれのお国柄が浮かび上がってくるという。巻末に掲載された選者の解説文も多くの示唆に富んでいて、なるほどなぁと感心した。こうした本は、選者の感性の違いが大きく反映するので、選者によって内容が大きく変わるのではないか。そういうことであれば、選者を色々変えてシリーズ化したら、選者の好みが浮かび上がってきて、更に面白いことになるような気がする。(「嘘みたいな本当の話」 内田樹・高橋源一郎、文春文庫)

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ボランティアバスで行こう 友井羊

1台の東日本大震災被害地へのボランティアバスに参加した人たちの色々な人生模様が描かれた連作集。様々な参加の動機、現地での被災者との様々な交流が丁寧に語られている。内容は、題名から想像できる範囲のものだが、却って奇をてらったところがなくて好感が持てる。それぞれの話のなかに小さな謎解きの要素があったり、最後の章にあっと驚く大どんでん返しがあったりで、ミステリーの要素も楽しめる。こんなどんでん返しが必要なのかと思わずにはいられないが、第1話と第2話を結ぶためにどうしても必要だったと考えれば納得がいく。本書はこうしたミステリー色がなくても良い気がするし、震災を真正面から扱った小説としても出色の一冊だと思う。震災を経験し、それぞれが「自分に何ができるだろうか」と痛切に自問自答してから四年たった今、改めてもう一度おなじ問い合わせを自分にしなければいけないなぁと感じた。(「ボランティアバスで行こう」 友井羊、宝島社文庫)

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サランラップのサランって何?  金澤信幸

題名に惹かれて読んでみることにした。題名になっている「サランラップのサランが何か」という謎だが、読んでみてびっくりしたのと同時に、思った以上に心温まるエピソードが大変面白かった。本書には色々な名前の由来のエピソードが200以上紹介されているが、どれもなるほどというエピソードばかりだ。これらのエピソード、名前の由来を全て覚えるのは無理にしても、「○○のネーミングには面白いエピソードがある」ということだけでも頭に残れば、それで十分という気がする。それにしても、掲載されたエピソードのなかで、題名になったエピソードが文句なく1番面白かった。200のなかからこの「サラン」を選んだ編集者の感性、題名の付け方の絶妙さに最も感心してしまった。(「サランラップのサランって何?」  金澤信幸、講談社文庫)

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北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 オーサ・イェークストロム

日本に住んでいる若いスウェーデン女性が日常生活のなかで気付いたことを描いた四コママンガ集。ネットで注文したので、コミックだとは知らなかったのだが、読んでみたら面白かった。仕事の関係で若い外国人と接する機会が多いので、何かと参考になるような気がする。カップラーメンを食べたことがあまりないので仕方がないのだが、カップラーメンに3分間待つ間ふたを押さえておくシールがついているというのを、本書で初めて知った。確かに、日本商品のこうしたきめ細かいサービスには、外国人でなくても感心してしまう。(「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議」 オーサ・イェークストロム、KADOKAWAメディアファクトリー)

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裏国境突破・東南アジア一周大作戦 下川裕治

陸路で国境を超えることに楽しみを見出す「国境マニア」という人が存在するらしい。そう言われると、まあ世の中には色々な人がいるから、そういう人がいても不思議ではないと思う一方、陸路で国境を超えるということが実際にどういうことなのか、あるいは国境を超えることの何が楽しいのか、彼らが何を楽しみにそんなことをするのか、そのあたり良く判らないまま本書を読み始めた。読んでいて判ったことは、要するに彼等は、国境を越えられるかどうか行ってみないと判らない、その不確実さを楽しみ、イミグレーションで無事スタンプを押してもらえた時のポンという音が堪らないらしい、ということだ。ちょうど登山の醍醐味が「山頂に行くまでの様々なリスクや障害を乗り越えた後の山頂での絶景というご褒美」というのによく似ている気がする。一方、日本に住んでいると、歩いて国境を超えるということはないので、それは旅の原点である「非日常を楽しむ」ことであるという言い方もできるだろう。それにしても、飛行機で国境を越えることを潔しとせず、苦労しながら旅をすることで、現地のことをより深く理解しようとする著者のスタンスには、何故か頭が下がる思いだ。本書で紹介されている多くのエピソードは、飛行機で移動していては経験できないものばかりだ。ラオスの船旅のくだりや、ミャンマーでのバス横転事故の顛末などは、面白すぎて笑ってしまった。個人的には、絶対にこんな旅はしたくないし、またできないと思うが、読んで楽しむ分には、いくらでもいいなぁとつくづく感じた。(「裏国境突破・東南アジア一周大作戦」 下川裕治、新潮文庫)

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謡う指先 太田紫織

シリーズ何作目かはもう判らないが、少しずつミステリーの要素よりも、主人公の少年の内省を中心にした青春小説の趣が強くなってきているような気がする。シリーズが進んでいくと、登場人物たちへの愛着も強まり、事件やストーリーそのものよりも登場人物の動静が気にかかるのはファン心理として当然のことだが、あまりそれが強くなりすぎると、ミステリーとしての面白さや醍醐味がないがしろにされているようにも感じてしまう。本書はそうしたファンへの期待に応えることと、ミステリーとしての面白さを保つことのちょうど境目にあるように思われる。個人的には、読者を飽きさせないように留意しながら、もう一度ミステリーの方に少し戻ってきて欲しい気がする。本書では、最後のところで、主人公2人の関係が、ある意味明確に規定されるような流れになった。今後それを前提としてどのように話が進むのか、そのあたりが引き続き気になるところだ。(「謡う指先」 太田紫織、角川文庫)

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ブラック企業2 「虐待型管理」の真相 今野晴貴

前作の「1」が大変充実した内容だったので、続編である本書は「2匹目のドジョウ」かもしれないとやや期待のハードルを下げて読んだのだが、予想に反して前作以上に充実した内容で、また深く考えさせられてしまった。前作よりも、より具体的で、かつ段階を追っての判りやすい解説は、前作の刊行後に、色々なところ講演などの依頼を受けてきた著者が、さらにこの問題の所在と問題点をクリアにしていったことを示しているように思われる。前作ではほとんど出てこなかった「ブラック企業」の固有名詞も、今回はかなり書かれていて、より具体的で、この問題にかける著者の覚悟のようなものが伝わってくる。(「ブラック企業2 「虐待型管理」の真相」 今野晴貴、文春新書)

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邪悪な少女たち アレックス・マーウッド

題名もそうだし、書評などを読んでもまさに典型的な「いやミス」という感じだが、読んでみると、そうでもない。結末はハッピーエンドではないが、何よりも世間とかマスコミに翻弄される主人公達をみていると恐ろしいのは「正体不明」のものではないことが歴然としているし、最後にはほのかな希望のようなものの見える気がする。邪悪なのは、少女たちではなく、その周りの人たちや社会の構造のようなものであることは明らかだ。それにしても、本書はサスペンスとして見ても超一級の作品だと思う。昔と今の話を交互に語る構成はありふれた手法だが、それと語り手の視点をうまく交代させながらの切り替えの妙に、ストーリー以上にはらはらどきどきさせられた。(「邪悪な少女たち」  アレックス・マーウッド、ハヤカワ文庫)

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さよなら神様 麻耶雄嵩

作者の作品は本当に一筋縄ではいかないものばかりだ。「プレゼンが下手で周りに話を聞いてもらえない名探偵」とか「見習い中の探偵」など不思議なキャラクターをいくつも生んでいる作者だが、今回は「犯人の名前だけを教えてくれる神様」というとんでもないキャラクターが登場する。真相をすぐに言われてしまってはミステリーにならないような気もするし、考えようによっては単なる刑事コロンボのような「倒叙形式」の変化形という見方もできるが、そこはちゃんと面白いストーリーを用意してくれている。但し、オーソドックスな倒叙形式と言えるのは最初の章だけで、第2章、第3章の事件になると、倒叙でも本格でもない作者独特の不思議な世界に入り込んでしまう。さらに極め付けが第4章で、ミステリーとしての結末の意外さに驚かされると同時に、こんな仕掛けが必要だったのかと思いたくなるような意外な事実に、心底びっくりさせられる。この意外な事実が最後の章でさらに意外な形で読者の前に提示されるに至って、これはもう倒叙とか本格といったジャンルを超えた小説なのだと気づかされる。(「さよなら神様」 麻耶雄嵩、文藝春秋社)

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韓国人が暴く黒韓史 シンシアリー

シリーズの3冊目。本書は、タイトルに黒韓史とあるように、これまでの2冊に比べて歴史的な記述が多い。本書に限らず著者の本を読むといつも思うのは、日本人が韓国の歴史をほとんど知らないということだ。特に戦後から朝鮮戦争にかけて韓国で何が起きていたのか、著者の本を読むと、日本ではほとんど知られていないような厳しい歴史が多く語られている。これらはどこまで正確なのか、またこれらは韓国の人にとってよく知られたことなのか。もしこれらが正確で韓国でよく知られたことなのであれば、両国に必要なのは、日本人/・韓国人双方の相手を知る努力、相手に知らせる努力のような気がする。(「韓国人が暴く黒韓史」 シンシアリー、扶養社新書)

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書店ガール3 碧野圭

本書はシリーズの3作目だが、これまでで一番面白かったように思う。今回の話は、主人公達を巡る事件よりも、東日本大震災の時の本屋さんの話が中心になっているが、それが色々考えさせられる内容で面白かった。東北の本屋さんで、あるいは東京の本屋さんで「こんなことがあったのか」とびっくりする一方、人それぞれが「ああ、あの時はそうだったなぁ」と強く共感する部分もある。中心的なストーリーに絡めて、登場人物たちの活躍ぶりを通じた薀蓄も、程良くちりばめられていて、「お仕事小説はこうあるべし」というお手本のような印象を持った。(「書店ガール3」碧野圭、創元推理文庫)

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