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自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言 鈴木エイト

新聞広告に「著者は事件の9日前に山上からメールを受け取っていた」という趣旨のことが書かれていて、さっそく本屋さんに行って入手した。前作では、自民党を中心とする様々な政治家たちの統一教会の反社会性に関する無知または軽視による教会との癒着を一貫して追い続けてきた著者ならではの記述に心底驚かされたが、本作では事件勃発後の世論、政治の動きを著者ならではの視点で克明に伝えてくれる。また、旧統一教会問題が、宗教問題ではなく反社会性にあるとの論点をさらに進めて、今後考えるべき問題の核心が再発防止と被害者の救済にあることが述べられている。全体を通して、著者のブレない正義感、リスクを恐れない毅然とした主張などの凄さが際立つ一冊だった。(「自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言」 鈴木エイト、小学館)
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天路の旅人 沢木耕太郎

知人に勧められて読んだ一冊。西川一三という太平洋戦争中にスパイとして中国周辺部の情報収集のため内蒙古から中国奥地に潜入、終戦後もラマ僧を装って彼の地に留まり中国奥地,インド,ネパール等を旅したという人物の半生を追ったノンフィクション。わずか8年間の間にこんなすごい波乱万丈の旅があるのかと信じられないような冒険譚だ。彼は内蒙古から、寧夏省、甘粛省、青海省を経てチベット、インド、ネパールと果てしない旅を続ける。旅を困難にするのは、過酷な自然、凶悪な匪賊、悪徳商人など。一方、彼の味方になるのは、旅で出会う人々の好意、本人の行動力や情報収集能力などのみ。当初はどうして彼がここまで過酷な道を選ぶのか不思議に思われるが、読み進めていくと、まだ経験したことのない地に足を踏み入れたい、ラマ教や仏教の聖地を実際に見てみたいという純粋な好奇心、冒険心であることが次第にわかってくる。旅の終盤では、西川と同様にスパイとして中国に潜入し同じような旅を続けていた木村肥佐生という人物と合流し、ついに日本への帰国を果たす。本書で紹介されるこうした西川一三の冒険の中身もすごいが、それと同時に著者がこの本を書くに至った経緯も驚くべきもの。実は西川一三は自分の冒険を詳細に記した本を著していて、本来であればそれを超えるノンフィクションは書けるはずがない。それでも彼の半生に強い興味を持った著者は2年間にわたって西川本人と面談を繰り返しその会話を録音して保存、更に著者は執念で西川本人の書いた推敲や校正の書き込まれた原稿を見つけ出す。本書は、西川本人によって出版された本、西川が著者と面談した際の録音記録、校正跡のある原稿、旅の終盤に行動を共にした木村の手記、これら4つを著者が再構築したもので、この4つが揃わなければ本書は書かれなかっただろう。この経緯を読みながら、改めてプロのジャーナリスト、ルポライター、ノンフィクション作家というものの執念のすごさを感じた。(「天路の旅人」 沢木耕太郎、新潮社)
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落語 三遊亭白鳥独演会

三遊亭白鳥師匠の創作落語「落語の仮面(全10話)」の第2話、第3話を鑑賞。これまでに弁財天和泉師匠の演じる第6話、第9話、最終話の3話を聴いたことがあったが、作者本人が演じるのを聞くのは初めて。会場はほぼ満席で男女比率は半々くらい、落語界のしきたりや古典落語のアレンジを織り込んだ話が大受け、さすが作者本人という感じで満足の2時間だった。本作の元となった漫画「ガラスの仮面」は読んだことがないが、噺を聴いていて何となくこの設定や台詞は漫画に寄せているんだろうなぁと想像したりしできて楽しかった。今回聴いた横浜にぎわい座で今後全10話をやる予定との告知があり、いい席が取れれば次も行きたいと思った。

①落語の仮面第2話 嵐の初天神
②落語の仮面第3話 時そば危機一髪
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宇宙検閲官仮説 真貝寿明

本屋さんで本書を見つけてパラパラとめくってみると最初から最後まで難解そうな数式の羅列。どうみても自分には理解できなさそうだったが、題名がものすごく面白そうなので、つい買ってしまった。読んでみて、案の定理解したと言える数式や図解はほとんどなかったが、それでも何故か論理の展開がスリリングで最後まで読み切ることができた。解説はアインシュタインが特殊相対性理論と一般相対性理論を提唱したところから始まり、それを検証するための理論研究の過程で重力波、重力崩壊、ブラックホールなどの研究が進んでいったことが紹介される。その後、宇宙観測精度の向上などにより一般相対論の正しさが揺るぎないものとなる一方、ブラックホール内に一般相対論が通用しない、言い換えれば因果律が成立しない「特異点」の存在が謎として残るという。その特異点の謎の解明のために一般相対論と量子論を融合させる理論の確立を目指す正統派の研究が進んでいるらしいが、それと同時に「特異点」がブラックホールの外部に何らかの影響を与えるのか、観測可能なのかという観点からペンローズが「宇宙検閲官仮説」を提唱し、その研究も合わせて進められていく。この仮説については、様々な前提を置いたモデルが提示されているものの、まだ確立した回答は得られていないとのこと。そして、こうした「宇宙検閲官仮説」に関する研究などの中から、時間や空間も連続的ではなく粒子的性格を持つという仮説、重力は通常の時空だけでなく多次元世界の別の次元にも影響を与えるという仮説、超弦理論、熱力学とブラックホールの振る舞いの相似性に着目した研究など、様々な方向に研究が展開しているらしい。読んでいて、そうした仮説を巡る副産物的な研究の面白さが際立っていた。(「宇宙検閲官仮説」 真貝寿明、ブルーバックス)
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地形の思想史 原武史

日本の風土と思想の関係を考察する教養書。表紙に「なぜ上皇一家はある岬を訪ね続けたのか?」というキャッチーな文言があり、それに惹かれて読んでみることにした。本書は、著者の思想史の知見をもとに、岬とファミリー、峠と革命、島と隔離、麓と宗教、湾と伝説、台と軍隊、半島と政治という7つの章立てで、地形を表す言葉をキーワードとしてその地形とそこで起きた歴史的な出来事やその背景にある思想のようなものを関連づけて考察するという内容。例えば「岬」の章では、近代日本史150年でめまぐるしく変わる天皇観に翻弄される天皇家の人達が個人を取り戻すために訪れた浜名湖畔を眺められるホテルについて語られる。また「峠」の章では自由民権運動や赤軍派等の革命思想の拠点とその地理的特性、「島」の章では戦前瀬戸内海の島に検疫所やハンセン氏病棟が作られた背景、「麓」の章では富士山麓に拠点を構えた仏教、新興宗教、オウム等のカルト教団と富士山との関わりが考察される。あくまで学術論文ではなく著者の直感や感想重視の記述中心で、素人としてはかえって気楽に読めて、こういう本も良いなぁと思った。(「地形の思想史」 原武史、角川新書)
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本売る日々 青山文平

好きな作家の最新作。著者の作品ではいつも、江戸時代の様々な人々の生き様を描きながら彼らが何を大切にしてきたのかを教えてくれる内容に惹かれる。本作は学術書を扱う本屋が主人公が店先や行商先で出会った人々との交流をテーマにした連作短編集。主人公は、急に若い後添えをもらった名主、急に名医との評判が立った医師などが抱える思いを、本の売買を通じたやり取りの中から解き明かしていく。江戸時代にこういう商売があったというのも初めて知ったし、それぞれの立場の人々が抱えていた矜持や苦労など考えたこともなかったのでとても面白かった。時代小説については、様々な時代考証が必要で苦労が多いはずなのに何故わざわざ江戸時代を舞台にして小説を書くのか今ひとつ理解できないところがあるし、「昔はこうだったかも」と言われると「そうかもしれない」と言わざるを得ないところにモヤモヤを感じてしまう。でも何故か著者の作品だけはその辺りを気にしないで素直に読めるのは、彼の文章の背景に膨大な時代考証が感じられるからだと思う。(「本売る日々」 青山文平、文藝春秋)
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ウサギの天使が呼んでいる 青柳碧人

マニアックなお宝をネット販売する主人公とその妹が、お宝の仕入れ先で遭遇する事件を解決していく連作ミステリー短編集。最近軽いポップなノリの文章だが事件はすごく凶悪という感じのミステリーに出くわすことが多いが、本作もまさにその傾向の一冊。軽い文章をどんどん追いかけていると、テンポよく事件の謎や解決の糸口が提示されていき、立ち止まって色々検討する間も無く解決に至る。著者と読者の知恵比べというよりも全体の流れ自体がエンターテイメントで、時間に追われてゆっくり読書する暇がない時代に適応したミステリーという感じだ。短編の中では、被害者が持っていたSuicaが重要なヒントになる表題作と、老人ホーム内で起こったぬいぐるみ破損事件のちょっとしたどんでん返しが面白かった。(「ウサギの天使が呼んでいる」 青柳碧人、創元推理文庫)
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横浜もののはじめ物語 斎藤多喜夫

在野の郷土史研究家による幕末から明治初期にかけての横浜の歴史に関する啓蒙書。6月2日の横浜開港記念日に、地元の本屋さんで面白そうな本を物色中、ふと「どうして6月2日が開港記念日なんだろう」と思い、答えの載っていそうな本書を購入した。こちらの横浜に関する知識が乏しいので、知らないことも多くためになった。ただ、「横浜が発祥の地」とか「日本で最初」とかに拘った郷土自慢的な記述の羅列には、「そんなこと自慢になるのかなぁ」と横浜市民としてはやや複雑な気持ち。そうした記述を横浜に拘らずに日本が西洋文化をどのように受け止めて吸収していったかという風に読めば、とてもためになってかつ面白かった。(「横浜もののはじめ物語」 斎藤多喜夫、有隣新書)
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統一協会問題の闇 小林よしのり、有田芳生

漫画家小林よしのり氏とジャーナリスト有田芳生氏が「統一協会問題」について語りあった対談集。自分は事情を知らなかったので奇妙な組み合わせのような気がしたが、小林氏はオウム真理教事件に関する教団を告発する作品を発表したために教団の暗殺計画のターゲットにされ、統一協会問題では親族の家庭崩壊を目の当たりにしたというまさに当事者、有田氏の方も長年カルト教団の闇を追い続けてきたジャーナリストとのこと。2人によって語られる内容は、マインドコントロールによる過酷な献金の強制、合同結婚式の悲惨な実態、名称変更の問題、保守系政治家との癒着などすでにTVなどで報道されているものだけでなく、協会による銃器輸入事件、政治家の側近に信者を送り込むための女性信者に対する秘書セミナーなど、全く初耳なショッキングな内容が満載だ。協会の霊感商法が問題になった時から現在まで、ほとんど対策がなされぬままだった30年間を「空白の30年」として、政治の不作為の罪を糾弾する2人のぶれない姿勢は、全ページを通じて鬼気迫るものだった。(「統一協会問題の闇」 小林よしのり、有田芳生、扶桑社新書)
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禁断の進化史

題名はかなりどぎついが内容はごく真っ当な人類の進化に関する教養書。内容は2章立てで、第一章は脳の発達を中心とした人類の進化の歴史、第二章は人間の知性と密接な関係にある「意識」の進化という視点からの考察という構成だ。第一章では、人間が果実食、樹上生活、直立二足歩行という進化の過程を辿る中で、地球の気候変化、他の動物や植物の進化などに大きな影響を受けたことが分かりやすく説明されている。この辺りは、脳の巨大化と直立二足歩行の関係くらいしか聞いたことがなかったので、なるほどなぁという箇所が大変多かった。そうした第一章で著者が強調しているのが、人間を頂点として高等生物、下等生物と何となくイメージしてしまっている生物のヒエラルヒーのような考え方の間違い。生物の眼の進化の過程についての解説を読むと、古代生物の方が人間の眼よりも複雑な情報処理を行っていたとのことで、びっくりした。第二章は「意識」というものの進化論的な考察。サル、犬、猫に「意識」があるというのは理解できる気がするが、イカとかタコとか昆虫とかはどうなのだろうかという疑問に答える考察だ。生物が「意識を持つ」ことは、生存競争の上でメリットもあればデメリットもあるという視点で様々な研究成果が示されていて、結局は「意識の獲得は進化の結果」という結論を導き出している。更に人間の意識の獲得については、現時点では「意識は極めて多い情報と有機的に繋がった処理システムの産物」という「統合情報理論」が最も有力な考え方で、それによれば人間と全く同じ物理的な構造を持った個体があれば意識は必然的に発生し、個体は人間だが意識を持たない「哲学的ゾンビ」といものはあり得ないとのこと。こうした研究がずっと続いているということさえ知らなかったのでとても面白かった。(「禁断の進化史」 更科功、NHK出版新書)
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掃除機探偵の推理と冒険 そえだ信

警察官の主人公が交通事故に巻き込まれ、気がついたら自動掃除機ロボットの体になってしまっていたというとんでも設定のお話。そこで自分の姪が事件に巻き込まれそうだったことを思い出し、様々な事件を解決したり未然に防いだりという警察官としての使命を全うしながら、知略を駆使してロボット掃除機の体のまま札幌から姪のいる小樽まで旅をするロードノベルだ。よくこんな突拍子もない話を思いつくなぁと思う一方、何となくAIが人間のように振る舞い始めたらといったハードSF的な要素もあるし、それ以上にハラハラドキドキ、最後の大団円を楽しむことができた一冊だった。(「掃除機探偵の推理と冒険」 添田信、ハヤカワ文庫)
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名探偵のままでいて 小西マサテル

元小学校の校長先生という認知症のお爺さんが孫娘の持ち込む謎を解き明かすという安楽椅子探偵型ミステリーの連作短編集。設定だけみると日常の小さな謎を解いていくのかと思ってしまうが、読み始めていくととんでもなく凶悪な事件の連続でびっくりだ。お爺さんの認知症の種類は「レピー小体型」で、覚醒時と幻視時が交互に繰り返され、自分で幻視かどうかを判断できるケースがあるということで、それを上手くストーリーに織り込んだ内容になっている。また、そのお爺さんが大変な読書家だったという設定で、それも物語の重要な要素になっている。孫娘に関する最終話の謎も有名なミステリーのオマージュのようで上手い結末だなぁと感心した。(「名探偵のままでいて」 小西マサテル、宝島社)
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中野京子の西洋奇譚 中野京子

ハーメルンの笛吹き男、ジェヴォーダンの魔獣、蛙の雨、ドラキュラ伯爵といった西洋を舞台にした有名かつ不思議な出来事や事物を、歴史、文学、美術の知見を持って解説してくれるエッセイ集。ハーメルンの話はペスト流行の暗喩、ジェヴォーダンの話はすごく大きな狼だった、蛙の雨は近くで起きた竜巻の仕業ということで決着がついていたのかと思っていたが、そう簡単な話ではなかった。日本に置き換えて、カッパはカワウソ、ツチノコはヘビを見間違えただけ言われても釈然としないし、既知のものの誤認とか年月を経て話が盛られていったでは説明できないものがある気がするのと同じだろう。ジェヴォーダンの獣の話ではこの出来事とフランス革命のつながりという記述があり、著者の考えの面白さと奥深さを感じた。なお、題名に著者名が入っているのはそれだけこの著者が「西洋美術」の啓蒙書の著者として有名だということで、自分もその題名に惹かれた1人だが、本書の表紙裏の著者紹介欄に「美術史家」とかではなく「作家、ドイツ文学者」と書かれていてびっくりした。(「中野京子の西洋奇譚」 中野京子、中公新書ラクレ)
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