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オオグソクムシの謎 森山徹

ダンゴムシを大きくしたような不思議な節足動物「オオグソクムシ」の生態ばかりでなく、その心の内面に迫ろうとする科学エッセイ。著者の定義によれば「全く未知の環境で予想外の行動をとることが心の存在証明」ということになるらしい。未知の環境でどういう行動をとるか、あらかじめその順位づけが組みこまれていれば心の介在は不要という見方もできるのかもしれないが、そうした定義に基づいて、色々な制約のなかで徹底的に実験を繰り返す科学者の姿に感銘を受ける。子供の頃に憧れた科学の世界から遠く離れてしまった大人にとって、本来の科学者の姿というものがここにあるような気がして、えも言われない感動を呼び起こしてくれる。「何のために?と問われると辛い」と言いながらも、立派に研究を続けている、こうした科学者の存在を認める日本という国の素晴らしさもさることながら、こうした科学者が日本の最先端の科学を支えているということがよく判る1冊だ。(「オオグソクムシの謎」 森山徹、PHP研究所)

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ちょっと今から仕事やめてくる 北川恵海

電子書籍がもとになった小説とのことで、どういう感じなのか気になって読んでみた。ブラック企業で辛い目に合っている主人公がある日、子供時代の友達と思われる人物と出会い、心を通わせるうちに、人生にとって何が大切なのかを学んでいくという小説だ。テーマ自体は重たいのだが、ほんの1時間ほどで読み終わってしまう内容で、こうした文体の軽さと話の流れのストレートさが、電子書籍のt利点なんだろうなぁと素直に感じられる内容だった。(「ちょっと今から仕事やめてくる」 北川恵海、メディアワークス文庫)

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不良妻権 土屋賢二

著者の本は、いつもほとんど惰性で読んでいるような感じだが、相変わらず面白い。「妻」に対する畏敬の念は相変わらずだし、時々登場する「ツチヤ師」の登場ぶりも程よい感じで好ましい。読んだ後に何が残るかといわれると、何も残らないのは相変わらずだが、面白い文章とは何か、これだけこのシリーズを読み続けていれば、その秘訣のかけらでも心に残るかもしれない。そんな期待を満ちながら、読み続けていくんだろうなぁと思いなkがら読み終えた。(「不良妻権」 土屋賢二、文春文庫)

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7人目の子(上・下) エーリク・ヴァレア

何か日本のある作品を彷彿とさせる題名と寸評を読んで面白そうだったのと、読み応えがありそうなので、読んでみることにした。なお、本書のように上下巻に別れている作品は、読み始めるタイミングが難しい。出先で上巻を読み終えた時のために下巻を持っていく必要があるのだが、もし上巻を読み終えられなかったら持っていくのが無駄になるので、どうしようか迷ってしまう。読むスピードは本の面白さや内容にも影響されるので、事前に読み終えられるかどうか予想がつかないこともある。上下巻に分けてくれるのは、持ち運びに便利で、有難いと思うことの方が多いのだが、本書はなかなかそういう感じで読みだすタイミングが難しかった。ということで結局読んだのはこの5連休の後半ということになってしまった。「7人目の子」とは誰なのか?、そもそも舞台となった養護院に隠された秘密とは何なのか?ある時期に養護院の同じ部屋に暮らしていた7人の子どもたちの半生が次から次へと暴かれていくのだが、モザイクのように錯綜としていて全体像が中々つかめない。そうしている間にも次から次へと関係者が死んでいく。真相究明はほとんど不可能かと思いながらも、細い糸を手繰って真相らしきものにたどり着く。その糸の細さがこの小説のもっとも大きな特徴だとさえ思えてくる。作品を読み終えて解説を読んでいたら「まえがきとエピローグを読むとある秘密が判る」と書いてあるのだが、それが何だか判らず、後味の悪い読後となってしまったのが残念。(「7人目の子(上・下)」 エーリク・ヴァレア、ハヤカワ文庫)

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大絵画展 望月/諒子

いわゆる「コンゲーム」小説。絵画を巡る歴史的事件や日本での騒動などをうまく取り入れて、現実・非現実が渾然一体としたストーリーになっていることにまず感心させられてしまった。話の内容は、ただ一直線に突き進む詐欺事件の経緯を追っているだけなのだが、随所にちりばめられた絵画に関する薀蓄がアクセントになっていて面白い。絵画に関する薀蓄も、私の知識と照らし合わせても、間違いや破綻はなく、よく調べられているなぁという印象だ。難点を言えば、登場人物に対して共感できない部分が多少ある点だが、これは物語の性格上、話の最初の方で人物描写をあまり細かくできない人物がいる、という事情もあるだろう。駅の本屋さんで見つけた本だが、電車の中や待ち時間に読むにはうってつけの1冊だと思った。(「大絵画展」 望月/諒子、光文社文庫)

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シンデレラたちの罪 クリスティーナ・オルソン

第一章はタイトルが「迷走」となっているが、そのタイトル通り、読者も、事件の捜査する警察の迷走ぶりに右往左往させられる。すでに登場した人物の中に真犯人はいるのか、克明に描かれる捜査陣たちの私生活はこの事件とどのような関係を持っているのか、それらがもやもやとしたまま第一章が終わり、第二章第三章と話が進むうちに読むスピードもぐんとアップしてくる感じがする。事件を追いかける捜査陣たちの心情に強く共鳴しながら事件を追いかけていくスリルは久しぶりという気がした。変に奇をてらった終わり方でないのも良いし、主人公たちの今後の活躍も大いに期待させる終わり方も良い。次の作品に期待を抱かせる1冊だった。(「シンデレラたちの罪」 クリスティーナ・オルソン、創元推理文庫)

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青き犠牲 連城三紀彦

「連城ワールド全開」という謳い文句通り、他の作者の作品では絶対味わえないようなアクロバティックなミステリー。本編の3分の1ほど読むと、事件の概要や犯人が、全く疑問の余地のない形で全て明らかにされる。これからの3分の2が何故必要なのか判らないまま、読み進めると、その先その先につぎつぎとびっくりする展開が待っている。ここまでトリッキーでアクロバティックにしなくても良いのではないか、抒情的な内容のまま終わらせても良いのではないかと感じてしまう、私のような軟弱な読者を尻目に、事件は当初と全く違う様相を見せて終わる。やりすぎのような気もするし、登場人物の心情についていけないような部分もあるが、これらすべてが「連城ワールド」なのだろう。作者が、「自分の作品の読者が何を期待しているのか」について全くゆるぎない信念を持っていたことをうかがわせる1冊だ。(「青き犠牲」 連城三紀彦、光文社文庫)

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ヨハネスブルグの天使たち 宮内悠介

作者のデビュー作を読んでかなり衝撃的だったので、デビュー第2作目の本署を早速読むことにした。結論から言うと、本作は前作と違って、自分には全くついていけなかったというか、正直な言い方をするとほとんど理解不能だった。短編集に共通する「高い建物から落下を続ける日本製の人型ロボット」というイメージは何となく面白いとは思うものの、それに深く感銘を受けるという感性は自分にはない。盤上ゲームという媒体を介した人間とテクノロジーの境界を考えさせられる前作とは違って、その世界に面白さを感じることができなかった。本書を読んでいて、自分にはSFは向いていないのかなぁと自信を無くしてしまった。(「ヨハネスブルグの天使たち」 宮内悠介、ハヤカワ文庫)

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掟上今日子の挑戦状 西尾維新

忘却探偵シリーズの第3作目。今回の作品は、第2作目に比べて、「翌日になると前日のことを全て忘れてしまう」という主人公の特徴を上手く使ったストーリーになっているような気がした。特に、犯人がアリバイ作りに彼女を利用しようとする作品などは、その特徴が特にうまく使われているし、最後のひねりも普通の終わり方でないところが面白かった。巻末を見ると、素手の続編、続々編の予告のページまであって、楽しみになる。こうれだけ先の予告まで出せるということは、作者の多作振りを示しているようで少しびっくりした。(「掟上今日子の挑戦状」 西尾維新、講談社)

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チェインドッグ 櫛木理宇

本屋さんで偶々見かけて面白そうなので読んでみた。主人公の少年が、未決囚のあるシリアルキラーから奇妙な依頼を受けて、未決囚の過去を探るうちに自分に関する様々なことを発見していくというストーリーだ。読んでいると、「人の善悪というものの相対性」とか「人の行動と環境や生い立ちとの関係」といったなかなかこれが正解ということのない問題提起のようなものが次々に想起され、一気に最後まで読んでしまった。謎解きとか意外な結末をメインにした本格ミステリーではないが、最期の1ページには文句なくぞわぞわとした恐ろしさを感じた。(「チェインドッグ」 櫛木理宇,早川書房)

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盤上の夜 宮内 悠介

自分自身は、名前を聞いたことしかなかったのだが、本書の著者略歴をみて驚いた。作者は、デビュー作の本書で、日本SF大賞受賞、直木賞候補作という華々しい登場ぶりを見せ、さらに第2作目も直木賞候補、日本SF大賞特別賞受賞という、何だかすごい経歴のた作家だという。読み始めて、評判になるだけのことはあるなぁと感心してしまった。チェス・将棋・囲碁といった盤上のゲームを題材に、SF小説とも幻想小説ともいえるような不思議な世界が、次々に展開される。6つの短編が収録されているが、どれ1つとっても、新しいアイデア、違う世界観で満ち溢れている。しかも、最初と最後の短編に同じ登場人物が登場し、全ての短編の背後にあるものを感じさせるというウルトラ級の構成にも驚かされた。こうした作者について名前しか知らず、こうした名作を文庫になるまで知らなかったというのには、我ながら少し落ち込んでしまった。第2作目以降も読み続けていきたいと思うが、1つ心配なのは、乞われるままにあまりたくさん作品を書くと、そのうちにアイデアが追い付かず、難解な作品に逃げ込んでしまうということがないようにしてほしいと思う。(「盤上の夜」 宮内 悠介、創元SF文庫)

(出張などにより10日ほど更新をお休みします)

 

 

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謎解き広報課 天祢涼

題名を見る限りは最近はやりの「お仕事小説」だし、書評に「ある地方自治体の広報課」が舞台、とあるので明らかに最近はやりの「地方活性化本」だろう。そう思いつつも書評本でかなり絶賛されているので、読んでみることにした。当初の考え通り、「若くて血気盛んな主人公」「寡黙で一見頼りないがいざという時にスーパーマンぶりを発揮する上司」「若干の憎まれ役」というまさに「お仕事小説」のお決まりパターンの内容だ。また、過疎・高齢化に直面し、その他の地域との差別化に悩む、田舎の小さな市町村という舞台もまさに「地方活性化本」のそれだ。しかし読んでいると書評の言うとおり何だかよく判らないがとにかく面白い。こうしたよくある本に、面白いミステリーを入れるとこうも面白くなるのかと思うほど、何だか新鮮に思えてくる。こういう発見は、読書ならではのもので、現実にも生かせたら毎日楽しいだろうなぁと思ってしまった。(「謎解き広報課」 天祢涼、幻冬舎)

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