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股旅探偵上州呪い村 幡大介

以前読んだ著者の作品「猫間地獄の…」が大変面白かったという記憶があり、本書がその続編あるいは系列本ということなので、期待して読んでみた。前作の時もそうだったが、本書を読んでいてすぐに気がつくことは、ストーリーの展開において「リアリティ」というものが二の次になっているということだ。最近読んだ「化石少女」もそうだが、最近のミステリーの流れ、高評価を受けているミステリーの特徴は、「リアリティに拘らない」ということになるのだと思う。それは、リアリティを追及して行き着くところまでいってしまったという閉塞状況のゆえなのか、あるいは「ダダイズム」のような「とにかく常識の殻を破壊してしまおう」という意図によるものか、いずれにしても自分自身としてはそうした方向性は大歓迎だ。「事実は小説よりも奇なり」とか「どこにでもありそうだが怖い話」よりも、「全て作り話だが面白い」方が好みに合っている。ミステリーの要素については、色々な謎が錯綜して、これで本当に全ての謎がちゃんと解明されるのか、もしかしたら謎が解明されないままのホラー小説で終わってしまうのではないかと心配したが、最後に全ての謎がちゃんと解明されていた。1つの思いつきから生まれた作品かもしれないが、それでも謎の答えを隠しつつも矛盾がないように話を構築するのは大変なことだと思う。その苦労を考えれば、多少の瑕疵には目をつむりたくなる。満足のいく一冊だった。(「股旅探偵上州呪い村」 幡大介、講談社文庫)

都合により1週間ほど投稿をお休みします。

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やなりいなり 畠中恵

ずっと文庫で読み続けている本シリーズ。本屋さんで見つけて入手したのは随分前のことで、それからなかなか読む気分にならなかったのは、やはりシリーズとしてマンネリ化していると感じているせいかもしれない。内容としては、主人公の成長と大きな柱があって、読者を飽きさせない工夫が随所に見られるのだが、それでもそう感じるのは、この「世界観」そのものに自分が飽き始めているのではないかと思う。そう思って、読まないままにしていたら、本屋さんで次の作品が文庫化されているのを発見。これはいけないと思い、ようやく読むことにした。また、1つの作品から次の作品までの間隔が、このシリーズは少し長すぎるような気がする。あまり長く待たされると、思い出すのも億劫、読み始めるのも億劫ということになってしまいがちだ。先日読んだばかりの本の感想のところでも書いたが、読んでも読まなくても大きな違いがなかったりするような作品の場合は特にそのあたりが大切だと思う。内容は、永年の読者を飽きさせない工夫なのだろうが、個別の話をつなぐ横糸として全ての話が「料理」を題材にしたものになっている。この工夫がうまくいっているかどうかについてだが、自分としては、江戸時代の料理にわくわくしないせいかもしれないが、さほどその部分に魅力を感じなかった。(「やなりいなり」 畠中恵、新潮文庫)

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人生を変える大人ひとり旅アジア 荒木左地男

いわゆる若者の「自分探しの旅」とは一味違う「大人の旅」を提案する本書。こうした旅ももちろん面白いだろうが、実際に実行に移すのはなかなか難しい。現実的には、リスクを最小限にした旅にせざるをえないが、本書はそうした旅の参考にもなる部分があると思う。難点をあげるとすれば、本書の一つ一つの話は面白いのだが、色々な国に話が及び過ぎていて、個人的な好みとしては「もう少し対象国を絞って深堀した方が良かったのではないか」と思う。(「人生を変える大人ひとり旅アジア」 荒木左地男、双葉文庫)

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未来予測を嗤え 神永正博

有名人二人の対談集というのは、大変面白いか全く面白くないか、どちらかということが多い。本書は、明らかに自分にとっては前者で、大変面白かった。対談集が面白くないケースは、何の準備もなく単なる思い付きがだらだらと語られるだけだったり、対談する二人がお互いを誉めあうばかりだったり、というケースが多い。対談する人が有名であればある程、読者の方も「忙しい人だから準備不足は仕方ないなぁ」とどこか許してしまうところがあり、そうしたことへの甘えのようなものが言葉の端々からにじみ出てしまうのではないかと思う。本書の場合は、そうしたこともないし、一番読んでいていやなお互いが相手を持ち上げるということもなく、同じ意見かどうかにかかわりなく、それぞれが持論を述べあっているようで、それが却って気持ちよく読めた理由のようなきがした。これは、対談ということにあまりこだわらない編集方針と、2人の意見を引き出す司会者役が良かったからではないかと思う。内容的には、対談者の思考回路や感性の自分との違いに驚かされたり、なるほどと思うようなことも多く、大変面白く読むことができた。(「未来予測を嗤え」 神永正博、角川oneテーマ21)

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化石少女 麻耶雄嵩

いつものことだが、著者の本を読むと変な感じにとらわれる。辻褄が合っていないわけではないのだが、読んでいると、何となく奇妙な違和感を感じる。その違和感が、「今度はどんな違和感を感じるのか」ということで、作品の魅力になっているようにさえ思える。本書でも、リアリティが欠如しているというか、初めからそんなものはどうでもよいという感じで話が進むし、連作短編集のような体裁になっているのだが、1つの事件が解決したのか、していないのか良く判らないまま、「あれあれ?」という感じで、次の事件に話が進んでしまう。どう考えてもおかしいだろうと思うのだが、短編集だと思ったのは自分の勘違いだったのか、後から全ての謎が解けるのか、と思いながら読むしかない。登場人物たちも、まともなようで全然まともではないし、どうなっているのかしらと思うのだが、読んでいて馬鹿らしくならないから不思議だ。自分には良く判らないが、これは作者による「リアリティ偏重」のミステリー界に対する挑戦なんだろうなぁと思いながら、楽しく読み終えた。(「化石少女」麻耶雄嵩、徳間書店)

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流れ星と遊んだころ 蓮城三紀彦

最近になって昨年死去した著者の新たに刊行された本を何冊か読んだが、本書も晩年の代表作ということで書評に紹介されていたので読んでみた。読み始めると、まず一人称になったり三人称になったりという奇妙な文章に驚かされる。書かれている内容も過去や現在を行ったり来たりで何となく変だ。そこに何らかの作者の意図があるはずなのだが、それがよく判らないまま読んでいくと、かなり終盤で「そういうことだったのか」と、合点がいく。文章にこういう仕掛けをすることを考えつく作者の頭のなかはやはり尋常ではないと思う。その他にも小さなどんでん返しがいくつも潜んでいて、そのたびに、あれれ?となる。好き嫌いはあるだろうが、内容が傑出した「傑作」というよりも作者の特徴がよくでているという意味での「代表作」という言い方がふさわしい一冊だろう。(「流れ星と遊んだころ」 蓮城三紀彦、双葉文庫)

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英会話不要論 行方昭夫

社会人として、読むのも買うのも少し気恥ずかしい題名の本だが、何かのヒントになればと思って、読んでみることにした。私自身は自分が受けた英語教育に不満はないし、むしろ有り難いと思うことも多々あるくらいだが、もう少し読み書き会話のバランスに工夫があっても良かったとは思う。ところが本書を読むと、最近の英語教育は、昔と逆の方向にバランスを欠いたものになっているらしい。教育の現場でも、行き過ぎてしまうという現象があるようだ。全篇を通じて「不満を言っていないで精進しなさい」と言われているようで耳が痛い。(「英会話不要論」 行方昭夫、文春文庫)

 

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日本を捨てた男たち 水谷竹秀

フィリピン在住のジャーナリストによる「フィリピンの日本人ホームレス」のルポ。フィリピンには、ホームレスのような暮らしをしている、あるいは本当にホームレスになってしまった日本人が非常に多くいるという。アジア随一の豊かな国であるはずの日本から来た日本人がフィリピンでホームレスになるというのはどういうことなのか、そこには、いくつものパターンがあって、一概には言えないが、本当にこういう境遇の日本人がいるんだということにまずは驚かされる。さらに、そこに行きつくまでの経緯を読むと、一歩間違えるとこんなことになってしまう人生もあるのだと正直怖くなる。自分とはまったくかけ離れた世界、かけ離れた話であることは間違いないのだが、そことの距離は意外と近いということに慄然とさせられる。(「日本を捨てた男たち」 水谷竹秀、集英社文庫)

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法医学者が見た再審無罪の真相 押田茂実

こうした新書としては異例な感じだが、本の冒頭、著者の略歴が延々と数ページに亘って書かれており、少し戸惑ってしまった。もしかすると、自分が読みたいと思った過去の再審裁判についての解説書・啓蒙書ではなく、現役を引退した学者さんの思い出話集の類ではないか?本の選択を誤ったかも?と思ったのだが、本文にまで読み進めていくと、日本の再審裁判の歴史やパターンを丁寧かつドラマチックに解説してくれるちゃんとした解説書・啓蒙書であることが判ってホッとした。さらに読み進めていくと、本書の著者は本書に掲載されたいくつもの裁判に直接関与した人であることが判り、しかもその本文の記述が、冒頭の著者の略歴のなかのある時期の記述と呼応して、解説に深みを与えているということが判ってびっくりした。再審裁判の歴史に深く関わった人でないと成立しない構成で、この人でなければ書けない本ということは間違いないだろう。しかも、裁判の過程で、著者と見解を異にした学者、あるいは著者の意見を証拠として採用しなかった裁判官に対する舌鋒の鋭さは相当のもので、解説書ながら読んでいて大変面白い。流石に、著者が「経歴詐称に等しい」となじる研究者の実名は伏せられているが、各裁判の担当裁判官の名前は実名で書かれており、本書の刊行で随分敵を作っただろうなぁと思った。著者がそれだけのリスクを承知で書いた本だけに面白さは折り紙つきだ。(「法医学者が見た再審無罪の真相」押田茂実、祥伝社新書)

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ビブリア古書堂の事件手帖6 三上 延

このシリーズは、最初の頃の、蘊蓄小説&お仕事ミステリーのような作風から、少しずつ重苦しいストーリーに変化しているように思われる。本書も最初から最後まで、なんだか重たい空気が立ち込めていて、読んでいてだんだん暗い気持ちになってきてしまった。登場する人物も善人ばかりではないし、主人公二人の関係もすっきりしないし、この話はどこに行ってしまうのだろうかと心配になってしまう。でも作者が書きたかったのは、本当はこういう話だったのだろう。作者自身があとがきで、あと少しで完結するとコメントしている。読者としては、最後まで付き合うつもりだ。(「ビブリア古書堂の事件手帖6」 三上 延 、メディアワークス文庫)

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イスラム国の正体 黒井文太郎

昨年の夏ころから急速に世界の脅威になっってきた「イスラム国」についての親切な解説書。本書によれば、その本質は、カリフ制を基盤とするイスラム共同体であること、イラクでシーア派に虐待されたスンニ派の組織を母体とした組織であること、残虐なシリアのアサド独裁政権に対する反政府組織であること、の3つであるという。その上で、その残虐性の理由やトルコ・アメリカとの対立の構図を判りやすく教えてくれ、さらにその今後の見通しにも言及してくれる。解説書として過不足のないありがたい一冊だ。(「イスラム国の正体」黒井文太郎、ベスト新書)

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木暮荘物語 三浦しをん

東京都世田谷区のある古いアパートの住人達、どこにでもいそうだがどこかが少し変な住人達が織り成す、少し悲しくて少し滑稽な連作集。同じアパートに住むという繋がりから、話が動きだし、それぞれの住人が読者の様々な固定概念をゆっくりと壊していく。同じ場所にいたということがそれぞれの住人の人生にどんな意味を与えるのだろうか、人生を後で振り返った時に人にはそれが判るのだろうか、そんなことを考えてしまう一冊だ。(「木暮荘物語」 三浦しをん、祥伝社文庫)



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特捜部Q-カルテ番号64 ユッシ・エズラ・オールソン

シリーズ第4作目だが、本作では、主人公が過去に巻き込まれた事件に新たな証拠がでてきたり、2人の部下の謎がますます深まったり、主人公の若かった頃の事件が明らかになったりで、とにかく主人公も忙しいし、読んでいる読者も忙しい。どんどん話が進んで、最後の真相に、主人公と読者が一緒にあっと驚かされる。このシリーズは、どんどん面白くなっていく気がする。(「特捜部Q-カルテ番号64」 ユッシ・エズラ・オールソン、ハヤカワ文庫)


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