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万能鑑定士Qの事件簿Ⅳ 松岡圭祐

シリーズ4冊目だが、お話としては第3話目。主人公の超人的な推理にも大分慣れてきたし、なかなか読み進まなかった本やがっちりした長編小説の後に軽く読むのに最適なので、最近のお気に入りの1つという感じになってしまった。東川篤哉もそうだが、いろいろな本を取り交ぜて読むのに使わせてもらっている。どんなに続編があっても、いつでも「ここまででいいや」と区切りをつけられるような軽さが有難い。本シリーズを読んでいると、ちょっとびっくりするようなことが必ず1つ2つある。1つは話のなかで「ツイッター」が使われていること。話の中に携帯メールなどがでてくることは別に珍しくないが、「ツイッター」が犯罪に使われているのを読むのは本書が初めてだ。もう1つは映画ポスターに関する薀蓄。ある映画にまつわるエピソードがミステリーの重要な要素になっていて、目くらましにもなっているのだが、ネットで調べるとどうやら本当の話らしい。lこうした実際の話をフィクションに織り込む技は大したものだと感心してしまった。(万能鑑定士Qの事件簿Ⅳ」 松岡圭祐、角川文庫)

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ここに死体を捨てないでください 東川篤哉

最初の100ページくらいまではミステリー要素の薄いユーモアドタバタ劇かと思ったが、2つめの殺人が起こるあたりで、作者のおなじみの世界であることが判明、そこからは無条件に楽しく読めた。湖のトリックなどは、4つも必要か?2つでいいじゃないかと思うのだが、これは明らかに著者の読者へのサービスだ。そう考えると、多少無理のある展開やトリックも、許してしまえる。そうした温かい目で読んでもらえる作家というのは、そんなには多くないはずだ。これも才能なんだろうなと思う。(「ここに死体を捨てないでください」 東川篤哉、光文社)

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八朔の雪 高田都

書評本で「時代小説特集」をやっていて、何冊か最近の時代小説で面白そうな本をピックアップすることができた。これから少しずつ読んでいきたいと思うが、本書は、その書評本で推薦されていた1冊である。人気シリーズということで、面白ければ似たような本を何冊も読めることになる。そうした期待もあってまず読んでみることにした。舞台は江戸時代、大阪から江戸の町にやってきた女料理人が、江戸っ子と上方の人々との気風の違いや味に対する好みの違い、主人公の料理のセンスをやっかむ人々の嫌がらせ、災害など、これでもかこれでもかという様々な苦労を乗り越えていく姿を描いた人情話だ。物語のなかで、主人公がありきたりの材料に工夫を凝らして作る料理のイメージが、ストーリー展開に見事にマッチして、ほのぼのとした情緒を醸し出している。読んでいて楽しいし、主人公のこれからが大変気になるので、これから少しずつシリーズを読んで行こうと決めた。(「八朔の雪」 高田都、ハルキ文庫)

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名古屋~地名の由来を歩く 谷川彰英

横浜の良く行く本屋さんで見つけた本書。昨年まで名古屋にいて、今でも月に2,3回名古屋に行く仕事をしているので、読んでみることにした。本書は、地名の由来や変わった地名を紹介しただけの単純な薀蓄本ではなく、「紀行文」の要素もあり、地名とは関係ない歴史の記述もありで、読んでいて面白い本だ。地名を「調べてみよう」「訪ねてみよう」ということを手がかりの1つにはしているが、あまり地名そのものには拘っていない感じがするし、地名の由来もそれほど突っ込んで調べるのではなく、「だいたいこんな感じです」とあっさりしているのが良い。資料を漁り、緻密な実証を積み重ねる「郷土歴史研究家」とは明らかに一線を画す視線が、普通の読者にはちょうどよいし、名古屋の人が読むと物足りないかもしれないが、外部の人間にはこれくらいが本当にちょうど良い感じだ。本書を読んでいくつか日ごろの疑問が解消したのも嬉しい。「愛知県」の名前の由来は「フィロ・ソフィー」ではなかった。地下鉄東山線の中村公園にある「巨大な鳥居」の正体が判った。熱田神宮と一宮市の関係が良く判った。薀蓄というほどではないが、知っていて損のない知識だと思う。名古屋の人は郷土愛が強い(私が今住んでいる横浜もなかなかのものだが名古屋の人には及ばないかも)。本書は、名古屋のことをべたべたに褒めてあるので、名古屋の人は、これを読んでますます名古屋が好きになるんだろうな、と思う。(「名古屋~地名の由来を歩く」 谷川彰英、ベスト新書)

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おまえさん(上・下) 宮部みゆき

シリーズ最新作。前の2作と同じ上下2冊巻だが、第1作、第2作と段々本の厚さが増していき、本作では第1作の倍くらいの厚さになっている。巻を重ねるごとに登場人物に対する愛着が増して、お馴染みの登場人物の新しい活躍が楽しめるのは良いが、少し語り口がくどくなってきているような気もする。この第3作目では、前2作のように短編がいくつかあってその後に本編が登場するという形式とは逆に、本編があってその後にいくつかの短編が続くという形式になっている。全体を1つの長編ストーリーと考えれば両者に大きな違いはないのだが、本編でミステリーの部分が大方解決して、短編部分がその後の後日談という形式は、本書の内容にピタリと合致する構成になっているのですごいと思うし、全体の構成から細部の語りまでが計算されつくされているようで驚かされる。主人公の少年を始めとする主要な登場人物の行く末も気になるし、本書で新たなスタートを切った登場人物のそれからも気になる。一気に最新作までの3作品を読んでしまったので、次の作品が出るまでには数年かかりそうな気がするが、これからどのような展開が待ち受けているのかじっくり待ちたい気分だ。(「おまえさん(上・下)」 宮部みゆき、講談社文庫)

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鼓笛隊の襲来 三崎亜記

著者の本は、大半は読んでいるが、本書は読みたいと思いながら読んでいなかったので気になっていた本だ。200ページそこそこの短編集なのであっという間に読めてしまったが、それぞれの短編のアイデアの面白さには脱帽だ。普通の日常生活の中に、ちょっとした不条理を紛れ込ませて、逆に日常生活の不条理さとか危うさを浮き彫りにする話が並んでいるが、その不条理さが大変面白い。それぞれの短編が、長編にしてもおかしくないようなアイデアで、しかも短編でも物足りなさを感じさせないというのが著者の本領のような気がする。裏表紙に「驚異の傑作!」と書かれているが、それが誇張でないように思えるほど、く著者の本領が詰まった1冊だ。(「鼓笛隊の襲来」 三崎亜記、集英社文庫)

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もう誘拐なんてしない 東川篤哉

作者の本は、シリーズものを中心に読み進み、後はシリーズの最新刊とシリーズものでない何冊かを読み終えれば、一段落ということになる。本書はシリーズものでない既刊本の1つだ。こうしたシリーズものでない作品の良し悪しは、作家としての可能性を推し量るのに適しているし、作家としての平均値のようなものを把握するのにも適しているように思われる。ということで読んでみた本書、最初はミステリーの要素の薄いユーモア小説のような体裁で、このままユーモアだけで終わってしまうのかとやや心配したが、最後のところでしっかりと面白いアリバイ・トリックが用意されていて、それも嬉しい誤解と判明した。平均点ということでは、やはりこの作者の持ち味は本格的なミステリー要素なんだということが良く判った。それと作者のもう1つの持ち味のユーモアについては、ストーリーや扱われている犯罪とユーモアとのギャップあってこそのもので、本書のように犯罪自体にあまり深刻さがないと、どうもユーモアが空回りしてしまっているように感じられた。(「もう誘拐なんてしない」 東川篤哉、文春文庫)

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日暮らし(上・下) 宮部みゆき

シリーズの第2作目。第3作目の刊行に合わせて、こちらも平積みになっていたもの。第1作目と同じく上下2冊巻で、上巻の前半が独立した感じの短編、上巻の後半と下巻が長編という構成も第1作と同じ。しかも最初方の短編と最後の長編が次第に1つの話に融合して全体で大きなミステリーになっていくという凝った作りも第1作と一緒だ。こういう複雑な構成の物語を破綻なく、同じ舞台・登場人物で2つも考えるというのは本当にすごいと思う。ミステリーの要素は、第1作目の方が面白かったように思うが、第1作で慣れ親しんだ登場人物がでてきて活躍するのが楽しいので、読んでいて気分が良いのはむしろ本作の方だった。著者の作品では、「孤宿の人」もそうだったが、えっと思うような人物が途中で死んでしまったり、殺されてしまったりする。本作もそうなのだが、どうもそのせいか殺された人物が「本当は生きているのではないか」という思いがしてしまい、それが謎解きを考えることの妨げになってしまった。(「日暮らし(上・下)」 宮部みゆき、講談社文庫)

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パノラマニア十蘭 久生十蘭

著者については、戦前の探偵小説家ということと、名前が「久しく食うとらん」という駄洒落になっているということくらいしか知らなかった。本屋さんで手頃な感じの短編集を見つけたので何となく読んでみた。本書は、探偵小説というよりは伝奇小説風で、昔の小説家らしく博学であることがすぐ判るようなペダンチックな文体の短編が収録されている。時代小説あり、冒険談ありで、ジャンルを特定することもできないし、とにかくその文体にしか共通点がないような作品群だ。戦争に関わる話の悲惨さは、これまでに読んだどんな本よりも心に響く。そうした悲惨さがさらりと書かれているのがとにかく恐ろしい。これらの話では、戦中戦後という書かれた時代の香りが強く感じられるが、全体を通してみるとそればかりではない。不思議な話もあれば、ちょっとした日常風景といった趣の話もある。とにかく捉えどころがない。少なくとも本書だけでどういう作家なのか判る様な一筋縄ではいかない作家であることが判ったという気がする。(「パノラマニア十蘭」 久生十蘭、河出文庫)

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ぼんくら(上・下) 宮部みゆき

作者の時代小説は、「孤宿の人」と短編集を2,3冊読んだことがあったが、このシリーズはまだ未読だった。本シリーズの第3作目が最近刊行され、それに合わせて第1作目と第2作目が平積みになっていたのと、先日読んだ「孤宿の人」が大変面白かったので、このシリーズを読んでみることにした。まず、この第1作目だが、最初は、ある長屋で起きた殺人事件から始まる。この事件は、なんだかもやもやとしたまま、いったん「人情味」ある解決となるのだが、その後、次々に不幸な事件がその長屋を襲い、長屋の住人が1家族1家族と少しずつ減っていく。いったいこの長屋に何が起きているのか。この謎に本シリーズの主人公と思しき人物が立ち向かい、見事にその謎を解き明かす。話の流れといい、1つ1つのエピソードの面白さといい、登場人物の魅力といい、全てが大変見事なミステリーになっている。人気シリーズとのことだが、第1作目で十分その魅力が伝わってきた。(「ぼんくら(上・下)」 宮部みゆき、講談社文庫)

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池上彰の宗教がわかれば世界が見える 池上彰

前に読んだ大ベストセラーになった池上彰の本があまりにもひどい本だったので、もう著者の本はどんなに評判になっていても読まないと決めていたのだが、本屋さんに行くたびに平積みになっているのをみていると、どうしても気になってしまい、つい買ってしまった。結論から言えば、前に読んだ本に比べれば、そこそこ面白い部分もあったように思う。そのあたりは、著者自身もよく判っているようで、対談の後の著者による「まとめ」の文章でも、その部分が強調して取り上げられていた。要するに本書は、著者自身が一般的な質問を対談相手に投げかけ、それに対する回答を得るという形で入門書の体裁を整え、そこから出てきたちょっと面白い話を「まとめ」の部分で読ませるということなのだろう。そうした本のあり方に異議を言うつもりはないが、やはり安直な本という印象は否めない。ただし、最後の養老孟司との対談は本書の総まとめとしても、独立した読み物としても大変面白く良く出来ていると感じた。(「池上彰の宗教がわかれば世界が見える」 池上彰、文春新書)

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完全犯罪に猫は何匹必要か? 東川篤哉

著者の作品の7冊目。読む順番がごちゃごちゃになってしまったが、「烏賊川市」シリーズの3作目になる。第1作目がユーモア控え目のミステリー重視、2作目がユーモア重視のミステリー控え目ときて、本作はどちらかといえばユーモア控えめの方に近いような感じだ。ミステリー要素は、アリバイトリックと密室が一緒になったような内容で、読んでいて面白いが、やや説得力に難があるような気がする。作者の本を随分読んだ後なので、登場人物への思い入れもあるし、こうした趣向もありかと納得できるが、本作を最初に読んだとしたら、「なんだこれは?」で終わってしまうかもしれない。(「完全犯罪に猫は何匹必要か?」 東川篤哉、光文社文庫)

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果つる底なき 池井戸潤

先日読んだ「下町ロケット」が面白かったので、著者の他の本も読んでみようと思い、まずはデビュー作ということで本書を選んだ。江戸川乱歩賞を受賞した作品とのこと。著者の略歴を見ると、元銀行員とある。本書の内容も、銀行員が主人公で、自分の銀行での仕事を遂行しながら、事件を追っていくというものだ。謎の解明とか意外性といったミステリー的な要素は少ないが、背後に迫る身の危険を感じながら真相に迫っていくサスペンス的な要素が強い。この作品がデビュー作で、現在が「下町…」。これから2つの作品の間の作品を読むことによって、著者の作風とかジャンルとか、いわゆる作品の変遷のようなものが少し見えるかも知れない。それもこれからの楽しみの1つになりそうだ。(「果つる底なき」 池井戸潤、講談社文庫)

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怖い絵 泣く女編 中野京子

「怖い絵」シリーズは、単行本3冊、新書1冊で完結しているのかと思っていたら本屋さんで本書を見つけ、慌てて読んでみたのだが、内容の半分以上は既読のもの。それでも、再読の部分も含めて、その面白さは全く変わらず、特に不満も感じなかったのは、このシリーズに心酔しているからかもしれない。1つでも2つでも「新しい」ものを読むことが出来るのならば満足だということだ。相変わらずの、カッコの中の文章の面白さ、知らなかった歴史の一部を垣間見させてくれる解説を堪能した。しかし文庫サイズになると肝心の「絵」の大きさがあまりにも小さくなってしまっているのは致命的だ。解説を読みながら「絵」を確認しようと思ってもほとんど判らないほど小さいのには、本当にいらいらさせられた。このシリーズを文庫にしてしまってはその良さの半分以上が損なわれてしまうと思う。(「怖い絵~泣く女編」 中野京子、角川文庫)

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ジウ Ⅰ~Ⅲ 誉田哲也

文庫で3巻の作品なので、少し時間がある時にまとめて一気に読もうと思って少し前から準備していたのだが、TVでドラマ化されてしまった。ドラマを見てしまうと読む気がなくなると思い、ドラマの方は見ずに、ドラマの放映が終わってから読むことにして、ようやく読むことになった。最近、読書に関して、「読もう読もうと思っていたら‥」というようなことが多いような気がする。本シリーズは、性格や行動原理が「剛」と「柔」という正反対の2人の女性が主人公になっている点は、同じ作者の「武士道シリーズ」と似ている。一方、かなりどぎついバイオレンスの描写がある点は著者の「姫川玲子シリーズ」と似ている。本書では、まず第1巻で「剛」の方が、事件解決にあたって存分に持ち味を発揮するが、同時に大きな代償も払う。「武士道‥」では、両主人公のそれぞれの良さを平等に認めつつも、一見弱そうに見える方も物事への対応なども柔軟で、結局は強さでは両者とも変わらない、というスタンスだった。本シリーズもそういう展開になるのかなとと思いながら1冊目を読了した。2冊目に入り、「剛」の方の主人公が2人の主人公の良し悪しなどという次元を超えたとんでもなことになってしまい、後はこの事態がどのように収束するのかが最大の関心事となってしまった。そのまま一気に話は進み、とんでもない事件の割には犯人側の要求が陳腐だったりで、すごい作品なのかそうでもないのか良く分からないまま読了してしてしまった。(「ジウ Ⅰ~Ⅲ」 誉田哲也、中公文庫)

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