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探偵倶楽部 東野圭吾

20年以上前、即ち作者が「容疑者x…」でブレイクする前の作品である。著者のこの頃の作品にを読む時は、いつも「もしかしたら読んだことがあるかもしれない」と思いながら読むことになる。私自身30年以上読書ノートを続けているので、それを全部確かめれば、読んだことがあるかどうかは調べられるのだが、そこまでするのも大変だし、なんとなくまだ読んでいないだろうという感覚だけで入手するのだ。幸いなことに読み終えても既読感は全くないので、おそらく読んでいないだろうということで落ち着いた。本の内容の方は、良くも悪くも器用貧乏と言われた当時の著者らしい短編集だ。今から思えば、当時の作風は「東川篤哉の作品からユーモア部分を除いた作品」ということになるだろう。流れるような記述もさることながら、最も似ているのは、かなり凝ったトリックを短編に惜しげもなく使うというところだろう。(「探偵倶楽部」 東野圭吾、角川文庫)

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理系あるある 小谷太郎

「4ケタの数字をみると10を作りたくなる」「素数を見るとうれしくなる」等、理系の人の「あるある集」だ。一口に「理系」といっても、数学とか物理とかと、生物などでは随分そのひとの思考回路や習ってきた基礎知識は違うはずだが、そのあたりはうまくバランスをとって書かれているような気がする。あるいは、基礎的素養というのは周りの人が思っているよりも共通しているのかもしれない。私自身、「自分も以外と理系の要素があるなぁ」と思ったり、「やはり理系のセンスはないなぁ」と思ったりで一喜一憂、この本は読者の理系センス度合いのチェックに使えることは間違いない。着眼点の面白い異色の1冊だ。(「理系あるある」 小谷太郎、幻冬舎新書)

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ゆで卵の丸かじり 東海林さだお

このシリーズは、ひたすら惰性で読んでいるだけなのだが、よく考えてみると非常に重宝な有難い存在だ。読む時間が数分しかなくても問題なく手に取れるし、前に書いてあったことを思い出す必要もない。何か記憶に残そうという努力も必要ないし、立ち止まって自分で考えてみようということもめったにない。少しつまらないテーマだなと思ったら、2,3ページ読み飛ばしてしまっても全然困らない。それでいて妙に面白いし、深く納得させられることもしばしばで、次に何が出てくるかが楽しみになる。いつごろかまでは単行本で新作を追いかけていたが、今は文庫本で読むようになった。どのくらいのペースで新しい文庫がでているのかも気にならないし、ただ本屋さんで平積みになっているのを見つけたら入手するだけ。シリーズ物は読んだかどうか一瞬迷ったりするのだが、その点でも負担感ゼロだ。あらゆる面で負担感のない有難い存在だ。(「ゆで卵の丸かじり」 東海林さだお、文春文庫)

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スペードの3 朝井リョウ

本書を読んで思い出すのが「教室内カースト」という言葉だ。著者がそうしたことを意識して書いた本なのかどうかは判らないが、登場する大人は全て「子ども時代」を引きずっている大人ばかりだ。「教室の後ろの方で大声で騒いで授業を茶化す男子」について、登場人物がそれは「個性」ではなく「役割」なのだと気づくあたりは、まさにそうした風潮をうまく捉えている。また、小学校から中学校に進学する前に「同じ部活に入ることを約束した友人がいる」ことを「無敵の武器」というあたりも、同じ文脈で理解することができるだろう。小説に対して、現実的な効用を期待するのは変かもしれないが、色々な教育現場のレポート等を読むよりも、本書を読むほうが、今の「学校」というものへの理解、あるいはそこで生活する子ども達の辛い心情への理解には役立つような気がする。学校の先生の勉強会での教材にしても良いだろう。個人的には、こうした今の学校の現状について、こんなことになっているのかと驚かされる部分がある一方で、これは今も昔も変わらないよなぁと感じる部分も多い。教育現場の問題というのは今と昔でさほど変わっていないのかもしれない。変わったのは、子ども達の感性、取り巻く親達の感性、先生達の感性で、そのためにこの小説は読者ひとりひとりの感性に不協和音という形で響くのだろう。(「スペードの3」 朝井リョウ、講談社)

海外出張のため、10日間ほど、更新をお休みします。

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小さな異邦人 連城三紀彦

著者の遺作集ということだが、発表された時期は10年くらい前から数年前のものだ。相変わらず、アクロバティックなトリックと抒情的な文章が融合した独特の世界が繰り広げられている。アクロバティックな部分が、仰々しくなく、さらりと述べられているので、最初から最後まで同じペースで読むと「あれっ?」ということになってしまい、最後の2ページくらいをもう一度読みなおさなければならなくなる。その段階で嘘のようなトリックに気づかされて、「ああまたやられた」とうことになる。この、トリックの種明かし部分を意識的にさらりと提示するというのも著者の特徴かもしれないが、ファンにはそれが嬉しいのだ。遺作集といってもかなり昔の作品なので、まだまだ別の作品集が刊行される可能性もあるのではないか。それに是非期待したい。(「小さな異邦人」 連城三紀彦、文芸春秋)

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奇妙なアメリカ 矢口祐人

アメリカに2万近くも存在するという「ミュージアム」のなかから、アメリカを知るために色々な意味で参考になる11を選んで、解説してくれる本書。「ダーウィンの進化論を否定する創造論についてのミュージアム」「日系アメリカ人の歴史を展示するミュージアム」「ハリケーン・カトリーナの被害を展示する展示コーナー」「核兵器開発に関するミュージアム」等、どれもその概要をみるだけで、アメリカと言う社会がどのような問題を抱えているのかが判るという感じで面白いまた、1つだけ毛色の違うのが「ウォルマートの創業者一族が莫大な財産を使ってアメリカの田舎に作った大美術館」で、これなどは、美術館とはどうあるべきかということに関して、いくつもの面白い問題提起をしている。「ミュージアム」を通じてその社会の深層、あるいは闇の部分を垣間見せてくれる、とにかく、そんな「アイデアの勝利」のような1冊だ。(「奇妙なアメリカ」 矢口祐人、新潮選書)

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考える読書 養老孟司

推理小説系の文芸雑誌の連載コラムをまとめた1冊。著者の読書の傾向がよく判る以外は、著者のいつものエッセイと変わらない内容だ。変な気遣いとか思惑もなく、思いのままに書かれた文章というのは、それだけで読んでいて楽しい。そう思わせてくれる。「変な気遣いなく」という点に関しては、「推理小説系」の雑誌なのに、「推理小説は何の役にも立たない」とか「最近全く推理小説を読んでいない」などという表現が随所にみられ、読んでいる方が少しハラハラさせられるが、よく読んでみるとそれが全然悪口になっていないのが不思議だ。なお、著者が書いたファンタジー小説のあとがきを読んだことがあったので、そういう傾向の本が好きなのは知っていたが、ここまでディープな読者だとは知らなかった。また、出張の時に持っていく本の話などは、色々参考になることが多かった。(「考える読書」 養老孟司、双葉新書)

 

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薔薇を拒む 近藤史恵

大きな謎の真相が少しずつ見えてくるので、最後まで緊張感をもって読むことができた。そうした手法なので、最後の結末に大きな意外性はないが、後からよくよく考えると、随分異様な世界だったんだなぁと思ってしまう。読者を物語の世界に引っ張り込む力がないと成立しない手法だろう。読むたびに色々な世界を見せてくれる魅力とこうしたアクロバティックな手法は著者ならではのものと思う。「最後の1行がこ胸を打つ」と裏表紙にある。確かに結末は感動的だが、やや作りすぎ、ご都合主義なところは否めないだろう。(「薔薇を拒む」 近藤史恵。講談社文庫)

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お文の影 宮部みゆき

江戸時代の怪奇現象を扱った短編集。改めて著者の「稀代のストーリーテラー」振りに感心してしまう1冊だ。細かいリーテイルの鮮やかさ、よどみないストーリー展開、徐々に解明されていく謎の面白さに加え、本書では全てがある意味で「ハッピーエンド」になっているのも読んでいて心地よかった。読者が思い入れしていた登場人物があっさり死んでしまうといった著者独特の「厳しい現実」感も、本書ではやや影を潜め、明るいコミカルなトーンに終始しているのが本書の大きな特徴だ。本書をよんでいると、本書中の「偽坊主」の話等を読んでいると、江戸時代の市井の人々が、「自然に対する恐れ」と「現実的・合理的な考え」をどのように同居させていたのか、何故その同居が可能だったのかが良く判るような気がして面白かった。(「お文の影」 宮部みゆき、角川文庫)

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呪いの時代 内田樹

どのような内容の本でも「著者の本は面白い」という先入観が自分にはあるような気がする。この間読んだ本は、「安倍政権の右傾化」に警鐘を鳴らす著者の政治的立場を明確にするような内容だったが、自分としては、政治的な立場とは関係なく、普遍的論理的な記述に惹かれたし、その言わんとするところに強い共感を持った。違う立場の人にとっては困る事態かも知れないが、それこそが論客としての著者の真骨頂なのだと思う。本書についても、現在の日本の状況について、自分自身がなんとなく感じている「不寛容さ」であるとか、「正論」とされていることへの違和感のようなものを、的確に言葉にして示してくれていて、まさに自分の言いたいことの代弁者という気がする。あまりのめりこみすぎて無批判に100%同調してはいけないと自分に釘をささなければいけないと感じるほどだ。「自己責任」「自分探し」という風潮に潜む日本の危機、東日本大震災後の日本への警鐘、間違っていても良いから何かを言うべきだ、将来について語るべきだという言葉を、自省をこめて自分に問いたい。(「呪いの時代」 内田樹、新潮文庫)

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タルトタタンの夢 近藤史恵

べたなグルメ系お仕事ミステリー。登場人物の料理人が深い専門分野の知識と鋭い人間観察で小さな謎を解いていくというお決まりのパターンに終始している。ストーリーが一本道なので安心して読めるのと、ちょっとした薀蓄が得られるのと、事件そのものがあまりシリアスでないこと、この3つが、お仕事系ミステリーがよく読まれる理由と限界ということになるだろう。本書についても、面白いし、安心して読めるし、ミステリーの質もかなり高いと思う一方、最後の1編を除いて、他のこうした作品との大きな違いが感じらず、既読感すら感じてしまった。但し、最後の1編は、思わず涙ぐんでしまうほど心をうたれる作品で、こうした短編のなかでも屈指の傑作だと思う。(「タルトタタンの夢」近藤史恵、創元推理文庫)


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異人館画廊 谷瑞恵

最初の出だしは、主人公が図像学の専門家だったり、祖父の影響を大きく受けていたりで、何となく「ダビンチコード」の影響を受けている作品という感じがしたが、読み進めていくうちに全く違うということが判ってきた。日本の小説は、別に悪い意味ではなく「世界が小さい」と言われるが、この作品もまさにその典型だろう。いくら主人公が世界を飛び回って活躍するという話であっても、この『世界が小さい」という感覚はいかんともしがたいものだし、いくら扱うテーマが今日的で普遍的であってもそれは変わらない。また本書では、登場人物の色々な行動の必然性というものを重視するというのが著者の特徴なのかもしれないが、どうもその行動の背景として語られるエピソードが大げさに感じられた。例えば、親に対する不信感を持つ若者がいるとして、その不信感の原因が、「誘拐された時に身代金を払おうとしなかった」からだというエピソードはやや大げさすぎないか。親に不信感を持つ若者はいくらでもいるし、何もそこまで話を作らなくてもという感じだ。そうした様々なエピソードが、この小説の面白さに一役買っているので、難癖つけてもしかたないのだが、そこまでサービス精神旺盛にしていただかなくても十分面白いのにと感じた。(「異人館画廊」 谷瑞恵、集英社文庫)

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まんぷく横浜 山本あり

横浜の地元グルメ、発祥グルメなどをまんがで紹介してくれる1冊。とにかく近くの商店街の店が4軒、紹介された店の支店まで含めると5軒が歩いて7-8分ということで嬉しくなる。中には、「あの無愛想なおばさんのあの店が名店?」とか「あjの店はどうした?」という不満はいくつかあるものの、これだけ地元に密着してくれていているのがとにかく有難い。色々なシリーズがでているようで、思わず中の読者カードに「次はぜひ名古屋を取り上げてほしい」「できれば東京で味わえる名古屋メシという付録をつけて」と書いて投函してしまった。実現すると嬉しいのだが。(「まんぷく横浜」 山本あり、メディアファクトリー)

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