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クサリヘビ殺人事件 越尾圭

猛毒ヘビを使って幼馴染を失った獣医さんの主人公が、事件の真相とその背後にある大きな闇に迫っていくミステリー。後半部分はサスペンス要素が強いが、前半のミステリー部分では幼馴染が残したあるメッセージの謎がとても秀逸。このアイデアだけで第一級の証しだと思う。物語後半の核となる「大きな闇」に関しては、さらりとしか書かれていないので少し説得力が足りない気もするが、そうした話は海外ミステリーなどにありそうな話なのでそこを簡略化するというのもありかなと感じた。このミス大賞の隠し玉とのこと、これからの作品が楽しみだ。(「クサリヘビ殺人事件」 越尾圭、宝島社文庫)
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ひかりの魔女 にゅうめんの巻 山本甲士

本書はシリーズものの第2作目なのだが、第1作目がネット書店でも在庫なしだったので止むを得ず本書から読むことにした。シャッター商店街で喫茶店を営む女性、不本意な経緯で経営していた会社を退いた老紳士、経営難に陥った町工場の夫婦、ラーメン屋を開業して失敗した男性、様々な立場でやや辛い状況にある彼らが偶然出会った主人公の老婦人とその仲間に助けられながら前向きに心機一転を図っていく。仕事にしても日常生活にしても結局は人と人との繋がりだな、人が人に優しくしていく連鎖ほどかけがえのないものはないな、ということがこの少し不思議な話を読んで切実に感じられる。本書では詳しく語られていないが、第1作目は主人公の家族に関わるストーリーも語られているらしい。順番は逆になってしまったが、これから読むのが楽しみだ。それからこのシリーズ、実にテレビドラマ向きだと思う。近いうちにドラマ化されてそれを見るのも楽しみだ。(「ひかりの魔女」 山本甲士、双葉文庫)
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世界史の新常識 文藝春秋編

歴史に関する啓蒙書が売れているという話をよく聞くが、本書を読んでその背景が少し分かったような気がした。日本史や世界史は小中高で色々学習するが、それ以降はまとまって学ぶ機会がほとんどなくなる。歴史というのは過去のことだからあまり変わらないと思っているが、歴史そのものあるいは歴史学というものも他の科学と同様に日進月歩なんだと気付かされるのだ。そもそも学校で習う歴史は事実の羅列でその背景や人の心の動きなどには敢えて踏み込まない。その背景や歴史上の人物の内面を考えた時、違う景色が見えてくるという側面もあるだろう。戦争は負けた方が弱かったということでもないらしい。また歴史的事実を社会的背景から見るか、それに関わった個々人の内面から見つめるかで見えるものが違うということもありうる。昔「時代精神」という言葉を習ったがそれも1つの見方に過ぎない。本書にはそうした事例が満載だ。最も心に残ったのは、住み良い国とは何かについて、「交流」というキーワードと「住み良さ」の関係が語られた章。この指摘は目からウロコの気がした。(「世界史の新常識」 文藝春秋編、文春新書)
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金雀枝荘の殺人 今邑彩

過去に2度も大量殺人の現場になった「金雀枝荘」にその関係者が謎解きのために再度集まる。台風で外部との連絡が遮断された時再び不穏な動きが‥‥‥。本格ミステリー要素たっぷりの内容だが、著者らしい謎解き一辺倒とは違う世界が展開される。このブログでこれまでに読んだ著者の本を検索してみたら9冊ヒットした。多分それ以前に読んだことはなかったと思うので、本書が10冊目の著者の本ということになる。ブログを見ながら思い出してみても、もちろん面白くなかったという作品はなかったし、毎回次の作品を楽しみにさせる作品ばかりだったという感じがする。本書もものすごく衝撃的な作品ではないかもしれないが、期待を裏切らない緻密な構成が冴えわたる著者ならではの一冊だ。(「金雀枝荘の殺人」 今邑彩、中公文庫)
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絵を描く悦び 千住博

先日見に行った「千住博展」のギフトショップで購入した一冊。現代日本画の千住博が、芸術系大学への進学を希望する専門学校生向けに行った講義を記録した内容。「ここはこういう風に描くべき」とか「画家にはこういう心構えが大切」といった感じのまさに画家の卵に向けたメッセージが続くので最初はやや戸惑ったが、次第に
これは画家は作品から何を感じて欲しいのか、あるいは鑑賞者は作品をどう見れば良いのかということの解説書でもあると気づいた。読んでいて自分も絵が描きたくなってしまった。こういう授業を聞いて励まされた学生も多いだろうなぁと思う。ありそうでなかった良い本だと思う。(「絵を描く悦び」 千住博、光文社新書)
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希望の糸 東野圭吾

冒頭、地震で子供を失った夫婦の話で始まる本書。続いて金沢で老舗旅館を切り盛りする女将の話になり、そして都内で起きた殺人事件の話と続く。最初はこれら3つの話がどう繋がるのか見当がつかないが、読み進めていくうちに徐々に繋がりを見せ、最後に見事に融合する。全体の鍵となる事件はとてもありそうにない出来事だが、全くあり得ないとは言えないし、もしあったとしたらどういうことになるのか、それを知った当事者がとるべき道は何か、と色々考えさせる。途中、前作で自身の謎がほぼ明らかになった加賀恭一郎が登場、本書では大きな役割を担うことはないと分かっていながら、不思議なことに彼が登場するだけで物語への興味や作品に対する信頼感のようなものがグッと高まる気がした。(「希望の糸」 東野圭吾、新潮社)
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展覧会 スヌーピーミュージアム展

コミック「ピーナッツ」の原画、アニメ用のセル画、ビンテージもののコレクティブルなどが多数展示された展覧会。平日の昼間だったが大勢の観客がいて、その大半が女性客だった。20世紀後半のアメリカ文化に触れるという謳い文句だが、実際にオンタイムで読んできた人間にとっては、これがアメリカ文化だと言われてもあまりピンとこないし、展示品はそれなりに貴重なものなのだろうが現物をただ並べてあってそれをジッと見つめるだけの繰り返し。これではカタログを見ているのとさほど変わらない。展示場という場を意識して、もっともっと遊び心が欲しかったと思う。
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音楽会 堀内孝雄 LIVE

アリスの一員堀内孝雄の単独ライブ。こちらのイメージとしてはナツメロを聞きに行く感覚。お客さんもほとんどが年配の方で曲間のトークも年配者向け。知っている曲は一曲だけだったが渋い歌声を満喫した。
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七十歳死亡法案可決 垣谷美雨

日本で少子高齢化による財政や福祉の破綻を打開するために「国民全員が70歳になったら全員安楽死」という過激な法案が成立したらという近未来小説。題名や設定は非現実的だが、ストーリー展開はいたってまとも。法律の施行と同時に安楽死させられる義母を介護してきた主人公の主婦、その夫、義母、子どもたちが法案の成立後どのように変わっていくかが克明に描かれている。70歳を既に超えている義母は余命が法律施行までとなり今まで以上にワガママになってしまうし、夫は自分の余命があと10数年となって早期退職して自分探しの旅に出てしまう。そうしたそれぞれの変化のしわ寄せが全て主人公にのしかかるという展開だ。著者が書きたかったのは、法案成立そのものではなく、それによって浮かび上がる負担の偏在だ。着想の面白さ、取り上げられたテーマへの問題提起、いずれもこれまでに読んだ著者の本の中で最も読み応えのある一冊だった。(「七十歳死亡法案可決」 垣谷美雨、幻冬舎)
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落語 三遊亭白鳥独演会

三遊亭白鳥の創作落語「豚次伝」の第5、6、7話を一気に楽しむ公演。第5、7話は本人の落語、第6話は本人ではなく浪曲師による浪曲で聞くという趣向。大きな会場がほぼ満員で、舞台からの「豚次伝初めての人は?」という問いかけに手を挙げた人はほんのわずか。この題目の人気の高さを感じた。
天王寺代官切り
男旅牛太郎(玉川太福による浪曲)
悲恋かみなり山
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思い出のアメリカテレビ映画 瀬戸川宗太

1950年代と60年代の日本のテレビで放映されたアメリカテレビ映画の歴史を概観する一冊。最初に登場するのが1956年の作品ということで、ちょうど私の生まれた年に該当する。それから60年代の終わりまでが記述されているので、自分にとってはちょうど小学校を卒業するまでの期間ということになる。最初に驚いたのは、子どもの頃アメリカテレビドラマを色々見ていたような気がするのだが、意外と知っている作品が少ないということだ。本書には何十もの作品が紹介されているが、その中でしっかりみたことを覚えているのは、コンバット、ナポレオンソロ、タイムトンネルの3つくらいしかない。その他、名犬ラッシーやローハイドなどは見たという記憶はあるのだが内容や登場人物の顔に全く記憶がない。年齢的に小さかったということももちろんあるが、当時は一家に一台しかテレビはなかったし、子どもが見ても良い番組は親によって厳しく管理されていたので、見たくても見れない番組がたくさんあったのだと思う。その点、内容は面白かったものの「思い出の」とか「懐かしの」という気分にあまりなれなかったのはちょっと残念だった。(「思い出のアメリカテレビ映画」 瀬戸川宗太)
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続・横道世之介 吉田修一

前作を読んだのが2010年なので約9年振りに読む続編ということになる。若い主人公世之介の一年を追いながら、途中でかなり時間が経った後の話を織り込んで話が進むという全体構成は前作と同じ。前作の終盤で明かされる衝撃的な内容については、今回もただ数行だけ言及されている。もちろんその事実について前作のような衝撃はないが、それでもその数行が実に効果的だ。バブル崩壊など自分ではどうしようもない状況下、不運な出来事に苦労しながらもそれに自然体で向き合っていく主人公と、それによって何故か救われていく周りの仲間達。人の善意とは何かを問いながら、人にとって無駄な時間などないのだという明るい気持ちにさせてくれる。どれだけ待っても良いのでいつまでも続編を読み続けたいと思う。(「続・横道世之介」 吉田修一、中央公論新社)
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落語 横浜落語会

「実力派二つ目の会」という若手5人の共演。それぞれの力量は十分に感じられたが、新作はそのうちの1人だけだったのが、自分としては残念。若手らしい、実験的な新作をもっと聞きたかった。
立川こはる お見立て
春風亭一花 締め込み
春風亭ぴっかり☆ ナースコール
桂宮治 道灌
春風亭きいち 不動坊
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落語 白鳥彦いちの新作ハイカラ通り

ベテラン2人若手3人による新作落語5席。白鳥、彦いちのオープニングトークもそれぞれの落語もさすがの面白さだし、若手の3人もかなりハチャメチャで笑えた。どちらかというと古典落語が苦手な自分にぴったりの内容で大満足だった。特に、三遊亭粹花の夏の顔色は大笑いではなくずっとニヤニヤしてしまうような内容と秀逸な語りが圧巻。
三遊亭白鳥 老人前座じじ太郎
三遊亭青森 さいごうどんとソバヒコ
瀧川鯉八 にきび
三遊亭粋花 夏の顔色
林家彦一 という
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魔眼の匣の殺人 今村昌弘

デビュー作があまりにも強烈だった著者の待望の第2作目。前作が凄かったので期待のハードルはかなり高かったが本作は見事クリアという感じだ。前作同様、非常に精緻な推理劇と意表をつくようなオカルト要素の合体は読者の度肝を抜くし、推理劇の方のリアリティは本格ミステリーのそれを上回る。最後に次の作品の予告まできっちりと書かれていて、当初から三部作として構想されていたのではないかと思われる。次にどんなオカルト要素が待っているのか非常に楽しみだ。(「魔眼の匣の殺人」 今村昌弘、東京創元社)
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