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極夜行 角幡唯介

第一回本屋大賞ノンフィクション部門の受賞作とういことで、早速読んでみた。結論から言うと、これまで読んだノンフィクションの中でも最高に面白かった。読み始めたところでは、約4か月の極夜体験といっても、そういうところに住んでいる人もいるのだから、それでどのくらいの冒険になるのかなぁ、結構地味だなぁなどと思ったりしたのだが、次第に予想をはるかに超えるものすごい冒険だったことが明らかになる。氷河超えで遭遇するブリザード、暗闇の中での氷原、ツンドラ地帯超え、事前に食料を備蓄しておいたデポへの白熊の襲撃など、自然の猛威が著者を襲いかかる。そんな中で著者が考え、感じたものはまさに前人未踏の冒険だ。著者の脱システム化という冒険の本質が読者に痛いほど伝わる。人間が極限状態で何を思うのか、昼、夜、太陽、月、星、光、闇の本当の意味とは何か、冒険の最後に著者が思ったことは何か、最後の最後まで感動的な一冊だった。(「極夜行」 角幡唯介、文藝春秋)

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映画 台北ストーリー

台湾の日常をアンニュイに描いた作品。娯楽作品ではないが、どこの国のどの時代にもある閉塞感がひしひしと伝わってくる。そういう意味ではとても普遍的な作品だと感じた。

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映画 えちてつ物語

ベタなご当地応援作品で、お決まりの人物造形、お決まりの展開だが、その分気楽にのんびり楽しい時間を過ごすことができた。見終わった後の満足感も、堅苦しい芸術作品や実験的作品にはないものだ。

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トリノトリビア 川上和人

著者の本は3冊目。前の2冊ですっかりファンになってしまった。題名通り鳥に関する色々な豆知識を教えてくれる。これまでの2冊とちがって体系的な一貫した読み物ではないが、しっかりした科学的な裏付けのある話のようだし、何よりもユーモアが著者ならではのもの。トピック毎の四コママンガも滅法面白い。これで、ネットで検索できる著者の本は、図鑑のようなものを除いて全部読んでしまった。著者の次作を待つと同時に、似たようなユーモアのある科学本を探さなければいけなくなってしまった。(「トリノトリビア」  川上和人、西東社)

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歴史の普通ってなんですか? パオロ・マッツァリーノ

日本において昔から存在する保育園に対する批判的な意見、かつての学校での長髪禁止などを題材にして、日本の世論や伝統と呼ばれるものについて考察した本書。一言で言えば、日本の伝統と言われるものの多くは、根拠のない情緒的な勘違いで、どちらかというと少し長めの流行に過ぎないという。著者はこれらの主張を明治大正期の新聞雑誌の記事や投書を使って丹念に論証していく。確かに、本書で紹介されている「28年も続く伝統行事」といった変な表現を、普段あまり意識せずに読み過ごしてしまっている。伝統という言葉の安売りに対して最も厳しくあるべき年配者が、そうした言葉のレトリックに加担しているなぁと。大いに反省させられた。(「歴史の普通ってなんですか?」 パオロ・マッツァリーノ、ベスト新書)

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辺境メシ 高野秀行

大好きな冒険家の著者による、世界中のトンデモ食の食レポ集。テーマからして面白くないはずはないのだが、案の定大変面白かった。ゲテモノ食といえば、まずとんでもない食材というジャンルが思い起こされる。本書でも、ゴリラ、蟻、イモムシ、ラクダ、ムカデなどの食材が紹介されていて驚かされるが、本書の真骨頂はそれから先の話だ。本当のトンデモ食というのは、食材だけに限らず、その食材のどの部位を食するかという点やどういう料理方法を用いるかということで、驚き度が倍増するのだ。何でそんなところを食べるのか、何でそんな料理方法で食べるのか、そこまで考えないと、本当のトンデモ食というものが理解できないことを本書は教えてくれる。本書の中で自分が心底度肝を抜かれたのが、アフリカのカートという食材と、中国のある動物のある部位を使った餃子の話。いずれも、こんな話を書いて良いのかとても心配になった。特に後者は人道的に許されるのかしらと恐怖すら感じてしまった。(「辺境メシ」 高野秀行、文藝春秋)

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掟上今日子の乗車券 西尾維新

シリーズ最新作。10作目くらいではないかと思うが、正確には覚えていない。毎回新しい趣向に驚かされるが、今回は忘却探偵がワトソン役を連れて旅に出て、旅先で次から次へと事件を解決していくというストーリー。1つ1つの事件に対しては、旅人らしく深入りせず、犯人を指摘するだけだったり、犯行方法を解明するだけだったりと、駆け足で通り過ぎていくのが新しい。最後に次作のプロローグが付いていて、読者をしっかり離さない工夫も万全。どんなに趣向を凝らしてもマンネリ感が強まっていくことは避けられないだろうが、刊行されたら次も読むだろうなぁと思った。(「掟上今日子の乗車券」  西尾維新、講談社)

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フェルメール最後の真実 秦新二

先日上野の森美術館にフェルメール展を見にいってから、関連本として本書を読んだ。本書には、フェルメールの人物像、彼の絵画の履歴などがコンパクトにまとめられているが、その本領は、日本で開催される展覧会にフェルメールの絵を呼ぶための裏話だ。フェルメールの絵は、それぞれの作品が所蔵する美術館や国の至宝であり、お金を積めば呼んでこれるという簡単な話ではないらしい。呼ぶためには修復中でないといったタイミングも重要だし、美術館同士や関係者同士の面子も大切な要素になる。さらには、その絵の保存状態や、輸送上の問題、ひいては所蔵する美術館の経済状態なども呼べるかどうかの重要なファクターになるらしい。今回の日本でのフェルメール展では、彼の全作品35点のうち8点を鑑賞したが、本書を読んで、それらを同じ時期に日本に呼ぶことがどれほど大変だったかがよく分かった。ちなみに、今回の展覧会で見た8点のうち個人的には6点が初めて見る作品で、これまでに見た作品数は記憶にあるだけで22になった。全点制覇するつもりはないが、これからいくつ見られるのか楽しみだなと思っていたが、これまで日本にフェルメールを呼ぶのに絶大な影響力を持っていた著者が引退すると、その後継者がおらず、日本にフェルメールの作品を呼ぶことが困難になる恐れがあるらしい。ご本人が言っているので間違いないと考えると、今回の展覧会がより貴重なものに思えてきた。(「フェルメール最後の真実」 秦新二、文春文庫)

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世界でバカにされる日本人 谷本真由美

外国から見た日本や日本人の負の部分、全体的にそういうこともあるかなぁという感じのエピソードが多いが、それらを知っておくことにも意味はあるだろう。特に性差別や過剰サービスの問題については、過剰な期待ばかりが先行しがちな2020年の東京オリンピックを控えて知っておいて損はないと思う。最後の他国同士のからかいあいのエピソード集は、日本への悪口も色々ある中の1つということで、それまでのやや偏った見方に対する反感を中和させるために書かれたような気がして、そういうところに気を使わなければ行けないところが日本の問題の1つなのかもしれないと感じた。(「世界でバカにされる日本人」 谷本真由美、PLUS新書)

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映画 祈り

幻の名作ということで見に行った。映像美という部分は十分に伝わってきたが、それ以外ではどう理解したら良いのか全く自信が持てないまま終了。宗教というものの成立理由、全く違う宗教の集団との共生について大いに考えさせられたのが救いといえば救いかも。確固たる宗教心を持っている人はこの映画をどのように見るのだろうか。

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シャーロックホームズたちの新冒険 田中啓文

歴史改変SFとミステリーが融合した独特な世界の短編集。史上の実在の人物、小説に登場する架空の人物が入り乱れるところもユニークだ。時代や分野も幅広く、ミステリーの質も高くて、色々な意味で楽しめる。同様の設定の短編集の2作目とのことなので、読む順番は逆になってしまったが、既刊の第1作目を読むのが楽しみだ。(「シャーロックホームズたちの新冒険」田中啓文、東京創元社)

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展覧会 フェルメール展、マルセル・デュシャン展

日本でフェルメール9作品を見られるという、一生に一度のチャンスであることは間違いないので、とにかく行ってみた。全9作品を目に焼き付けることができたので大満足。ついでと言っては何だが、同じ上野でやっているマルセル・デュシャン展にも。こちらも、大昔に熱狂的に好きだった「泉」「大ガラス」「遺作」の本物を鑑賞。個人的には、こちらの方が収穫が多かった気がした。

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空耳の森 七河迦南

前2作がとても面白かった七海学園シリーズの3作目。途中までは前2作の続編ということに気づかず読んでいたが、途中でそうであることに気づいてびっくりした。それぞれの短編も、途中までは独立した物語として楽しめ、続編だと気づいてからは登場人物と物語の時系列のトリック、著者による叙述トリックなどの要素も加わって面白さが深まる構造になっているようだ。読み終わっても、著者の用意してくれた話全体の流れが完全に理解できたような気がしないので、何だかんだ著者に申し訳ない気持ちに。このシリーズの良さは、それぞれが面白いことに加えて、それぞれが違う味を出していること、全体に仕掛けられたトリックなど、何だかまだまだ色々あるのではないかと感じた。著者の他の作品、新たなシリーズにも期待が高まる。(「空耳の森」 七河迦南、東京創元社)

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書店ガール7 碧野圭

シリーズ第7作目の完結編。これまでの作品に登場した主役、準主役4人の今が描かれている。本シリーズには、出版業界のことや本屋さんの経営事情、書店員の仕事内容など、色々なことを教えてもらった。また、そこで実際に起きている変化や事件なども、知ることができた。本シリーズが終了してしまうと、楽しい読み物が1つ減ってしまって寂しいのと同時に、ネット書店とリアルな本屋さんとの棲み分けが今後どうなっていくのか、出版業界の人がそれをどう考えているのか、今後そうした諸々を知るために別の手段や媒体を探さなければいけないのが辛い気がする。(「書店ガール7」 碧野圭、PHP文芸文庫)

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誰も書かなかった老人ホーム 小嶋勝利

認知症の親が老人ホームにお世話になっている身として時々考えてしまうのは、親は今の境遇をどう感じているのか、今の状況が最善なのだろうかという不安だ。幸い本人は穏やかだし本当に良くしてもらっているようなので、次に考えるのは、親がホームの職員の方に迷惑をかけていないだろうか、ホームの職員さんに感謝の気持ちを伝えるにはどうしたら良いかといったことだ。これらのことを考えるヒントになるかもしれないと思って本書を読んでみた。本書を読んで強く思ったのは、介護をする方もしてもらう方も、介護というものが非常に個別性が強いということ。また本書で気付かされたのは、介護付き老人ホームというものが自宅介護の延長にあるということ。この二つを含めて、色々参考になることの多い一冊だった。(「誰も書かなかった老人ホーム」 小嶋勝利、祥伝社新書)

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