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日本人のための「集団的自衛権」入門 石破茂

国会で「集団的自衛権」に関する法案が成立の見込みとなったが、今更ながらと思いながら、解説本を1冊読んでみることにした。きっかけは、自分自身が、どうしても、「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の違いをまだ本当に理解していないと感じたからだ。結論から言うと、残念ながら、本書を読んでも、本当にすっきり理解できたという感覚は得られなかった。それは本書の解説の仕方が悪いとか、説明が難しすぎるとかということではなく、純粋に「自分自身に納得がいかない」ということだ。説明するのは難しいが、根本には「なぜこの両者を峻別しなければいけないのか」という問いかけが、頭の片隅にいつも引っかかっている。本書では。なぜこうした措置が必要なのか、著者の考えがよく判るようにまとめられている。この問題が「憲法の解釈の変更で済む話なのか、それともちゃんと国民投票などを経て憲法を改正してから行うべきなのか、そのあたりは本書では必要性の議論と峻別して、あえて踏み込まないという立場をとっているようだ。憲法を改正するかどうかという手続論の前に、自分自身のもやもやを何とかして解消させなければ、自分の意見というものも持てない気がする。法案成立までにそれができるかどうか、もう1,2、冊関連本を読むことにしたいと思った。(「日本人のための「集団的自衛権」入門」 石破茂、新潮新書)

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ライオンの歌が聞こえる 東山篤哉

著者には色々なシリーズがあって、このシリーズはここまで読んでいるとか、このシリーズの主人公やシチュエーションはどんなだったかとかを、一つ一つ覚えていられないような気がする。本書を本屋さんで見かけた時も、題名にシリーズ2作目という表示があるのだが、その1作目がどんな話だったか記憶がなくて困った。結局、1作目の題名を見て見覚えがあったのでたぶん読んだだろうということで入手した。こうなってくると、読んだか読んでいないかの判断は紙一重で、対策としては著者の本を新刊でみつけたら必ず入手するというルールを徹底させることくらいしかないかもしれない。いずれにしても、ファンとしては、覚えきれないくらい新刊が出るのはありがたいことだ。内容は、いつものユーモアミステリーで、とにかく楽しく安心して読めるのが良い。多作になるにつれて、ミステリー要素が少しずつ軽くなっているのは確かだが、著者独特のノリツッコミのような地の文の面白さが健在なので不満はない。あっという間に読み終えてしまうと、次に新作が出るのはいつだろうなぁ、また少し待たないといけないなぁ、と考えている自分がいる。(「ライオンの歌が聞こえる」 東山篤哉、祥伝社)

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夏の沈黙 ルネ・ナイト

書評誌で高く評価されていたので読んでみた。話は、2つの家族6名に関する十数年前の事件と現在の出来事が、時間を行ったり来たりしながら進んでいく。一つ目の家族の話は、3人称の形式で3名の人物の視点が交錯しながら進み、もう一つの家族の話はある人物の1人称の形で進むという、かなり凝った構成になっている。通常であれば読者は1人称の語りの部分に共鳴して読んでいくのだろうが、本書の場合は、その人物が異常な行動をとるので、そうした肩入れのようなことにもなりにくい。ミステリーとしてはかなり早い時点でだいたい予想がついてしまうが、それでも、最終的な2家族の崩壊に行きつくまでのサスペンスはさすがに評判になるだけのことはあると感心する。版権や映画化を巡って既に色々なバトルが展開されているとのことだが、この作品の少しずつ謎が解明されていく緊張感を映像化するのはかなり難しいような気がする。(「夏の沈黙」 ルネ・ナイト、東京創元社)

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ブルーマーダー 誉田哲也

姫川シリーズの第6弾とのこと。全部読んでいるかどうか定かではないが、本書はシリーズ最高傑作との評判もあるらしい。読んでみると、確かに最初の作品「ストロベリーナイト」を読んだ時のわくわく感がよみがえってきた。このシリーズの特徴は、残虐な犯罪とその詳細な描写、過去に大きな傷を持ち精神的に犯罪者にシンクロしてしまう主人公、それと主人公をとりまく脇役たちのややコミカルな活躍といったところだが、それらが本編でも存分に味わえる。警察内部の組織の矛盾などが事件と大きく関わり、警察小説としての質もこれまでの作品よりも高まっているようだ。巻末の解説を読むと、まだ読んでいない短編集がでているらしく、また今年の暮れには新作も予定されているらしい。本シリーズ、自分の中では十分楽しませてもらったという意味でもう過去のものと感じていたが、本作を読んで、まだまだ楽しめそうな気がしてきた。(「ブルーマーダー」 誉田哲也、光文社文庫)

(海外出張などで10日ほど更新を休みます)

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母性 湊かなえ

大変面白くて、一気に読み切ってしまったが、読み終わってもどうもうまく自分の中で感想をまとめきれない感じがする。母親・娘・孫娘という親子三代のそれぞれの関係が、娘と孫娘の手記という形で述べられているのだが、その述べている2人がどうも尋常でない雰囲気で、語り手としてのバランスを欠いているというのがもやもやの最大の原因だと思われる。手記の間に少しだけ登場する「母性について」という部分も客観的なようでいて、そこに登場する人物が主人公たちの関係者であるような感じで、その部分もどうも何か謎を秘めているようで油断がならない。本当にすべてがバランスを失ったようにゆらゆら揺れながらも、全体として形をなしている、そんな不思議な感覚にとらわれる1冊。最近読んだ本の中で一番の問題作かもしれないなぁと感じた。(「母性」 湊かなえ、新潮文庫)

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美術の誘惑 宮下規久朗

普通の美術解説書のつもりで読み始めたのだが、本文の冒頭の数行で「著者」にまつわるある出来事が開示され、そのために全く違う読み物になってしまった。色々な美術の鑑賞の仕方を提示してくれる軽い読み物のはずが、その明かされた事実により、この本全体が、人生にとって美術とは何か、何をもたらしてくれるのか、というテーマで書かれた著者渾身の1冊になっていると感じた。著者の造詣が西洋美術から東洋美術まで実に幅広いこと、言及された美術作品のほとんどがカラー図版で紹介されていることなど、美術解説書として非常に親切で優れているということが二の次になってしまうくらい、この本が突きつけてくるテーマは重い。美術解説書を読みながら涙してしまったことも最初なら、こうした観点で美術を鑑賞することを教えてくれた本に出会ったのも最初の経験だった。これまでに読んだ美術書の中で最も心を打たれた1冊だったことは間違いない。(「美術の誘惑」 宮下規久朗、光文社新書)

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ニューヨークの魔法を探して 岡田光世

シリーズの6冊目ということだが、自分が読んだのはたぶん2冊目か3冊目だろう。ニューヨークを舞台にした軽いエッセイだが、すべての作品に、多くの無関係な人々の集まりのなかで自然発生的に生じるほのかな人間関係が描かれている。同じテーマで同じような話が並んでいるのだが、不思議と飽きることもないし、どれもが新鮮な感じがするのはなぜだろうか。カバーに書かれた著者の略歴を見ていて、「ニューヨーク日本人教育事情」の著者であることを知ってびっくりした。20年前に小学生と幼稚園児の娘2人を連れてNYに赴任した際、子どもの教育に不安いっぱいのなか、この本をすがるような気持ちで読んだことを思い出した。あれから20年、著者がずっとニューヨークを見続けてきたかと思うと感慨もひとしおだ。(「ニューヨークの魔法を探して」 岡田光世、文春文庫)

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ドイツ帝国が世界を破滅させる エマニュエル・トッド

本屋さんで見かけて面白そうな題名だったので入手したが、そのあとでベストセラーランキングにも登場しているのを見かけた。同じように考えて手にする人が多いのかもしれない。よく売れているらしい。最初の数ページで、「ロシアは基本的には守りの国」「ロシアの悪玉イメージは欧州の戦略」という話が出てきて、そうした見方が可能であるなぁと感じた。現在のロシアの人口は1.5億人で日本とあまり変わらない。その人口で日本よりもはるかに広大な国土を守るということの大変さを考えると、著者の言っていることも絵空事ではないような気がする。もしかしたらこの本は掘り出し物かもと感じてうれしくなった。(「ドイツ帝国が世界を破滅させる」 エマニュエル・トッド、文春文庫)

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明治横浜れとろ奇譚 相川真

明治時代後期の横浜を舞台にした物語。特にメッセージとか社会への問いかけといった高尚な内容があるわけではなく、一風変わった登場人物たちが繰り広げるドタバタ劇に近い内容だが、なんとなく昔の横浜の活気のようなものが感じられて面白かった。たまにはこうした軽い小説も良いと思える。続編が出ているかどうかは調べていないが、また読むかどうか、またこうした話を読みたくなる気分になる時が来るような気はする。(「明治横浜れとろ奇譚」 相川真、集英社オレンジ文庫)

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マノロブラニクには早すぎる 永井するみ

ファッション雑誌の編集者がたまたま知り合った中学生の父親の謎を探るというお仕事ミステリー。謎解きの中にうまくファッションアイテムが織り込まれていたり、事件の発生や展開にファッション界の事情なども関わっていたりで、薀蓄中心の単なるお仕事小説とは明らかに一線を画す重厚な空気のようなものを感じる作品だ。謎そのものは途中ではっきりと判ってしまうが、それでもこの小説の面白さは損なわれることがないし、それを作者自身があいまいにしようともしていないところも好感が持てる。上質のお仕事小説というよりは上質のミステリーに近い内容だ。実際に存在するブランドが小道具として使われているが、そのあたりも全体をしっかりしたイメージに導いているようでうまいなぁと思わせられた。(「マノロブラニクには早すぎる」 永井するみ、ポプラ文庫)

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化学探偵Mr.キュリー3 喜多喜久

シリーズ3作目だが、相変わらず面白い。ミステリーとしてはそれほど斬新なアイデアが用いられている訳ではないが、話の構成がうまいのと、ちょっとしたサブストーリーが後から本筋とうまく絡まってきて、なるほどなぁと思わせるところが絶妙だ。謎そのものの解明も、「化学者」探偵らしさが全編に漂っていていい感じだ。今流行のお仕事ミステリーの典型のような作品だが、その良さが十分に伝わる内容になっている。残された課題は、シリーズ3作目、4作目あたりになり、そろそろ飽きられない工夫が必要になることだろう。安易な方法として、長編にして大きな事件を扱うとか、主人公2人の関係に変化をつけるといった手法がよく使われるが、そうした変化はがっかりさせられることが多い。今のままのスタイルで、何かミステリーの中身で勝負するような続編を期待したい。(「化学探偵Mr.キュリー3」 喜多喜久、中公文庫)

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風が丘50円玉祭の謎 青崎有吾

このシリーズが3作目まで出ていることは知っていたが、本書が2作目だと勘違いしていて、読んでいる途中でそのことに気が付かされた。幸い、2作目と3作目は全く独立した話なので、本書を先に読んでも2作目を読むときの興味がそがれるような心配はなさそうだが、主人公の少年の妹が突然出てきたり、登場人物たちの人間関係が色々進んでいたりで、少し戸惑ってしまった。1作目と3作目の本書の間の違いで一番驚いたのは、1作目では脇役だったり単なる事件の証人だったような登場人物それぞれが、色々なキャラクターを持っていて、それぞれにドラマがあるということだ。本書は、色々な登場人物からの視点で描かれた短編集なので当たり前といえば当たり前なのだが、なぜかその辺りに本シリーズの新鮮さを感じてしまった。内容は、学校生活の中の「日常の小さな謎」に対する探偵役の少年の緻密な推理を楽しむという至って普通の学園ものミステリーものだが、現代の高校生あたりの生態をふんだんに取り入れて、それをミステリーの中にうまく織り込んでいる点、かならず最後にもう一ひねりある点など、他のものとは少しだけ違う香りを放っているのが本書の大きな魅力だ。(「風が丘50円玉祭の謎」 青崎有吾、東京創元社)

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ぐるぐる猿と歌う鳥 加納朋子

本書も行き付けの本屋さんでポップを見て読んでみた一冊。期待以上に面白く、ポップを見て買うという本の選び方がますます気に入ってきた。内容は、軽いミステリーテイストの少年冒険小説だが、その謎と冒険のバランスが絶妙で、しかも、その真相がずしりと重たい。子どもの自由さや純粋さでは越えることのできない現実というものに、大人としてどう対峙するべきかを深く考えさせられる。その一方で、謎の少年が語り手の少年の家に行った時の話などは面白くて、思わず笑ってしまった。解説を読むと、続編はまだ出ていないとのこと。私としては、この話、ここで終わるのもありかなと思う一方、なんとか続編を読みたいと思う気持ちもあり、少し複雑な心境だ。本書を読んだほとんどの人が、良い終わり方だけどもっと読みたいと思っているのだろう。(「ぐるぐる猿と歌う鳥」 加納朋子、講談社文庫)

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人の砂漠 沢木耕太郎

著者の若い時の著書で、かなり昔の本なのだが、新横浜の書店で、「自分の人生を変えた本」としてPOPで紹介されていたので、読んでみた。最近は、ずっと読んでいる「書評誌」も何だかマンネリで、新しい発見をサポートしてくれる頻度が落ちているように思われ、新しい本の選び方として、本屋さんの「手書きのPOP」を無条件で信じて読んでみるということをしばしばするようになった。本書もそうした1冊だ。読んでみて、久しぶりに本当のドキュメンタリーを読んでいるなぁという実感がこみ上げてきた。最初の「老女の孤独史」の話では、日本の歯医者さんに関するある記述に仰天した。私が小学校の頃まで、こんな事実があったとは、まさに驚きだし、私の通っていた歯医者さんというのは何だったのだろうかという疑問も湧いてきた。そういえば、歳をとってくると、自分の子供のころの記述が、今からは想像できないほど昔のように感じる、というようなことが良くある。これもその1つだろうなぁと考えた。また沖縄与那国島の話等は、今はどうなっているのか知りたくなった。その当時あまり知られていなかった事実を述べた文章を、ずっと後になって、自分の記憶や体験と照らし合わせて読んでいくという作業の面白さを発見させてくれた1冊だった。(「人の砂漠」 沢木耕太郎、新潮文庫)

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