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化石少女と七つの冒険 麻耶雄嵩

2025年05月27日 | 読んだ本
10年近く前に読んだ「化石少女」という作品の続編。化石マニアの高校生女子とそのワトソン役である後輩男子のコンビが高校内で勃発する悲惨な事件の真相を解き明かしていく連作ミステリー。前作の詳しいストーリーは覚えていないが、奇妙な登場人物たち、現実にはあり得ないような一つの高校での殺人事件の頻発、解決したのかしなかったのか最後までよく分からない曖昧な結末などは前作同様だ。しかも、収められた7つの短編を読み進めていくと、登場人物たちのキャラクターが少しずつ奇妙な方向に変化し、それぞれが探偵なのか、容疑者なのか、語り手なのかさえも混然としてきてしまう。そんな奇妙な内容にも関わらず読んでいて何となく面白く読み終えた。(「化石少女と七つの冒険」 麻耶雄嵩、徳間文庫)

名探偵の顔が良い 森晶麿

2025年05月19日 | 読んだ本
近くの本屋さんで見つけた本書、ライトノベル風の表紙の軽いミステリー短編集だが何となく面白そうなので読んでみることにした。人気実力とも絶大で類い稀な推理力を持つアイドル俳優と、彼を推す職業不詳の語り手のワトソン役女性のコンビが連続して起こる不可思議な事件を次々に解決していく連作短編集だ。この2人が大のジャンクフード好きなのに加えて、出くわす事件も密室、ミッシングリング、怪しい探偵役、双子トリックといったミステリー小説の定番要素がジャンクフードのようにてんこ盛りという設定。まさに「ジャンク」がキーワードのミステリーだが、ミステリーとしても、語り手の正体、酷評を売りにするグルメ批評家の正体など、幾つもの謎が最後に明かされる構成がとても面白かった。(「名探偵の顔が良い」 森晶麿、新潮文庫)

それいけ!平安部 宮島未奈

2025年05月16日 | 読んだ本
「成瀬」シリーズで大人気の著者の最新刊。5人の高校生が「平安時代の心を学ぶ」ことをスローガンにした「平安部」を立ち上げてから、その半年後の文化祭までの奮闘を描いた作品。テイストは、著者の「成瀬」シリーズと同様、やりたいと思ったことに打ち込み、仲間と一緒に頑張れば何とかなるし楽しいよ、という感じ。具体的なヴィジョンなしに始まった部活動だが、それぞれの得意なことや好きなことを頼りに、平安時代の蹴鞠、編つぎ、貝合わせなどの遊び、ファッション、歌詠みと筆書といったエンタメ系の文化祭アトラクションを考案していき、それを通じて蹴鞠の全国大会に出場したり、他の高校や卒業生との交流が生まれたり、他の部との連携が生じたりする。暗い小説が多い中、ホッとするような爽快な一冊だった。(「それいけ!平安部」 宮島未奈、小学館)

Y字路はなぜ生まれるのか 重永瞬

2025年05月11日 | 読んだ本
近くの本屋さんで見つけた一冊だが、これが大変面白かった。Y字路について語った本があること自体何だか不思議な感じだし、本書の最初に「Y字路は好きですか?」と書かれていてどう答えて良いか戸惑うばかりだが、読み進めていくと何だか好きになってきている自分がいるように思えてきてしまった。また読んでいて、Y字路マニアが著者以外にも結構沢山いるらしいことが分かってきてびっくりした。本書の内容は、Y字路の定義と分類の説明があった後、Y字路の見た目の多様さ、Y字路が生まれた歴史的背景の考察などが200枚近い写真と地図によって解説される。特にY字路が多いところとして、京都の吉田地区(京大キャンパス付近)、東京渋谷駅周辺、宮崎県宮崎県庁周辺、これら3か所の事情が詳しく書かれている。宮崎県の県庁は日本でも珍しく全く何もないところを開拓して県庁が建てられたという事情があったとのこと。「わい、ジロー」という自己紹介で登場するジローという猫が写真や地図にコメントする一言が面白いし、「Y字路が生まれる時」と題された広い参道や雪道にできたY字型の轍の写真も秀逸。楽しさ満載の一冊だった。(「Y字路はなぜ生まれるのか」 重永瞬、晶文社)

(Y字路の定義) 鋭角、三叉路、アイストップあり
(考察方法)
 路上の目:角地のオブジェ(ポスト,標識,祠,木,看板,自販機など)に注目
 地図の目:地図からY字路が生まれた背景を考察
 表象の目:Y字路のイメージ(分岐点,別れ,合流,単なるフォルムなど)
(分類)
地形トレース型:川などに沿って分岐
 土木構築物トレース型:鉄道などに沿って分岐
 勾配緩和型:斜角を緩くするための斜めの道
 旧道切断型:網目+斜めの旧道
 アプローチ型:参道,バス停,目的地への最短ルート

移民リスク 三好範英

2025年05月08日 | 読んだ本
元新聞記者の著者による、世界各国で深刻化する移民問題についての解説本。内容は、川口市のクルド人問題、日本の移民政策の問題点、移民問題に関するドイツの事例、今後の展望という4つの視点で、移民問題を放置することの危うさと、人道主義と安全な暮らしを守ることの折り合いの付け方の難しさについて教えてくれるもの。クルド人問題については、難民申請を利用した出稼ぎ、クルド人集団による周辺住民への威嚇、親に連れてこられた難民2世たちの非行問題、クルド人組織内での格差と搾取、クルドの生活様式と日本の習慣の折り合いがつかず騒音や性犯罪を引き起こす事例、それらの騒動解決や困窮するクルド人支援などに起因する地方財政圧迫の現状などが克明に語られ、「国際化」「多文化共生」という考えが安直に受け入れられ過ぎている現状が指摘されている。ドイツの事例紹介では、著者のドイツ駐在経験と最近の取材をもとに、移民受け入れ先進国というイメージの強いドイツが直面している、宗教テロ多発、治安悪化、異文化摩擦、社会の分断の凄まじさが紹介させていて、まさに今社会破綻の危機にあることが示される。よくドイツなどのEU諸国と比べた日本の難民受入の消極さが指摘されるが、各国の難民審査の内容を詳しく見るとそのスタンスに大きな違いはないということがわかるし、日本の難民認定率の低さは、そもそも迫害を受けていないし着の身着のままでもない人が航空機代を払って堂々とパスポートで入国して難民申請、却下されても何度も申請を繰り返してそのまま行方不明になるというパターンが多いということらしい。ドイツの経験に照らせば、移民増加の問題はゴミ出し、騒音、給食、埋葬といった比較的軽微な問題から、やがて強盗、性犯罪、テロなどにエスカレートしていくとのこと。先日NHKの川口市のクルド人問題を扱った番組が余りにも問題を歪曲しているとの批判を浴びて再放送が見送られたという。この問題、多文化共生、人道主義中心の考え方から大きな転換点に来ている気がする。(「移民リスク」 三好範英、新潮新書)

僕には鳥の言葉がわかる 鈴木俊貴

2025年05月04日 | 読んだ本
シジュウカラを主として鳥の生態に関するフィールド調査を行なっている研究者がこれまでの研究成果を綴った一冊。著者自身初の単著とのことで、今世界的に注目されている研究者の大学生時代から現在に至るまでの研究成果を楽しく知ることができる内容だ。学部生時代から修士課程にかけてのテーマである「鳥が見つけた時の鳴き声の法則性」を調べているうちに、それぞれ違った鳴き声には違った意味があり、その鳴き声は単純な「感情表現」ではなくある対象物と一対一の関係にある言葉であること、さらに鳴き声(=言葉)の組み合わせに簡単な文法が存在することなどを次々と突き止めていく。最初の世界的発見の経緯がとても衝撃的で、ヒナのいる巣にカラスが近づくと親鳥は「ピィーッピ」と鳴き、ヘビが近づくと「ジャージャー」と鳴く。その声を聞いたヒナは「ピィーッピ」ならば巣の中で息をひそめ、「ジャージャー」だと渾身の力で巣を飛び出すという。カラスには巣の奥まで嘴が届かないことを知っていて存在を気づかれないようにしてやり過ごすが、ヘビに見つかると確実に食べられるので巣立ち前でも無理をして巣を飛び出すということらしい。さらに一番驚いたのは、別の種の鳥同士(例えばシジュウカラとコガラ)でお互いに鳴き声の意味を理解し合っているという話。これをルー語(藪からスティック、寝耳にウォーター)に例えて改札していてめちゃくちゃ面白かった。その他にも、自宅の巣箱の話、船の中のヒナの救出作戦、動物研究者の顔つきや仕草がその研究対象に似てくる話、など楽しい話が満載。鳥類研究者の本は、研究が忍耐を必要とするので研究対象である鳥を擬人化したりしていて読んでいて楽しいことが多いと以前書いたことがあった。本書でも何気なく「10分ほどで」とか「2週間観察を続けると」とか書いてあって、その忍耐強さに驚かされるが、本書の面白さはそれに加えて発見される事実そのものが面白い。本書はこれまでに読んだ科学分野のノンフィクションの中でもピカイチに面白かった。(「僕には鳥の言葉がわかる」 鈴木俊貴、小学館)

すべて忘れてしまうから 燃え殻

2025年05月01日 | 読んだ本
著者の本は初めて。書評誌で「令和のエッセイ」特集というのをやっていて、何かそうしたのを読んでみようと思って立ち寄った書店でネット小説家のようなペンネームのこの本を発見。試しに読んでみることにした。内容は、ふとしたことから思い出した昔のことについて色々語る5ページ弱の短い短文が収められたエッセイ集。昔の思い出のほとんどは、TV制作の下請け企業で働いていた頃の苦い経験や個人的な恋愛だったりするが、総じて記憶は曖昧でその時の感情だけが漠然と語られる。要は昔の辛い思いが、時間の経過とともに緩和されたり少し美化されたり改変されたりするところに救いを感じるという内容。正に生きにくさを抱えながら生きる現代社会そのものを切り取ったようなエッセイ、令和のエッセイだなと感じた。(「すべて忘れてしまうから」 燃え殻、新潮文庫)

ブラック郵便局 宮崎拓朗

2025年04月28日 | 読んだ本
2018年頃から日本郵政各社とその社員で構成されている局長会のブラックぶりを記事にしてきた著者が、その内容の詳細と記事が出た後に改善がみられたかを厳しく検証する内容の一冊。関連企業各社に蔓延るパワハラ、会社の経費を政治活動や私的に流用する不祥事の多発、郵便事業で得た個人情報の広範囲な不正流用など、その実態のあまりにも悪質かつ杜撰なことに驚かされる。営業職に課せられた根性主義的なノルマの強要、顧客を騙す「ダブル契約」「乗り換え潜脱」などの不法営業、会社経費で作成したカレンダーの政治利用、局長会の露骨な不法な政治活動などの背景にあるのは、ユニバーサルサービス、地域密着という美句を隠れ蓑にした一部の幹部の私利私欲で、それを可能にしているのが、局長職の世襲、転勤なし、自営局舎という前時代的な組織のあり方だと指摘する。読んでいてあまりにもモラルが低い実態に慄然とさせられる。個人的には、2年前くらいから年末の年賀はがきの訪問販売やしつこい保険勧誘などがなくなったという印象を持っているが、実態は何も変わっていないらしい。とにかく働く職員が不憫で気持ちが落ち込む一冊だった。(「ブラック郵便局」 宮崎拓朗、新潮社)

目には目を 新川帆立

2025年04月23日 | 読んだ本
好きな作家の最新作。著者の本はエッセイを含めて7冊目だが、読むたびに違う世界が描かれていてその幅の広さに驚かされる。本書は、殺人を犯した少年Aが少年院退所後に被害者の母親に殺されるという事件を描いたもの。少年犯罪ということで少年Aについては氏名や退所後の住所などが公表されていないことから、同時期に少年院にいた少年Bが密告したとされる。物語は密告して復讐事件を幇助した少年Bが誰なのかという謎を追うジャーナリストの目線で進むが、その過程で、懲罰よりも更生に重きをおいた少年犯罪に関する法律と被害者家族の心情の折り合いの付け方の難しさ、罪を犯した少年たちの様々な事情、復讐感情の連鎖を断ち切るような司法のあり方など、幾つもの問題提起が描かれる。最後の結末はかなり早い段階で気づいてしまったので驚きはなかったが、重厚な内容で大変読み応えのある一冊だった。(「目には目を」 新川帆立、角川書店)

関西人の正体 井上章一

2025年04月20日 | 読んだ本
著者の本は本書が5冊目だが、これまでに読んだ4冊がどれも大変面白かったので本書が出たことを知って早速読むことにした。読み始めて驚いたのは、本書が最初に単行本として刊行されたのは今から30年も前のことで、その後文庫化、再文庫化を経て今回の新書版刊行ということだ。言い換えれば刊行されてから30年ずっと読み継がれてきた名著ということになるが、実際に読んでみて本当に面白い内容だった。著者は、多くの人が抱いていて自分自身もそうだと感じている関西に対するイメージを「安易で安直でゴミのようなもの」と言い切り、「もしそれが本当だとしたら?」「そもそも本当か?」と問いかけることでそれを茶化したり打ち壊したりしていく。端的に言えば、そもそもそうしたステレオタイプのイメージは、関西以外の人々が面白おかしく感じるようにごく一部の特徴が切り取られ、それをマスコミが強調して伝えているにすぎないということだ。関西、大阪と聞いて普通に思い浮かべる「カニ道楽」「くいだおれ人形」といった景色は外国人向けの「フジヤマ、ゲイシャ、キモノ」レベルのものだし、「関西人は納豆が苦手」というのもそれらと同類の安直なイメージだという。著者の矛先は、京都の歴史的風土保存区域、風致地区に建てられた「宝ヶ池プリンスホテル」の話、大阪万博の跡地にIRが建設されるかも知れないという話など、大阪や京都の凋落した現状にも向けられる。著者自身、これらの話の裏側の事情を「妄想」と言いつつもありうる話として断罪し、「京都の景観などどうでもいい」「関西の復権などあり得ない」と言い切る。万博の開催に合わせたような本書の新書での再刊行の理由がわかった気がした。(「関西人の正体」 井上章一、朝日新書)

うどん陣営の受難 津村記久子

2025年04月16日 | 読んだ本
大好きな作家の作品。4年に一度代表者を社員の選挙で決めるという会社の選挙前後のバタバタを描いていて、著者らしい楽しい内容。選挙で3位になり、上位2人の決戦投票のキャスティングボードを握ることになった「うどん好き」の集まりのような一派が選挙の泥試合に巻き込まれていく。上位2派閥の中傷合戦やら、うどん派閥の歓心を買おうと社員食堂のうどんメニューを豪華にしたりと、とにかく面白い。最近の著者の悲壮感の薄れた感じが明白な一編だ。なお本書、新書版の大きさに中編一つ収められているという新しい形態の出版物で、内容的には全く問題ないし、移動中に読むために持って行ったりするのには良いかも知れないが、自宅読みが中心の自分にはやはり何編か収められた短編集のほうが合っていると思った。(「うどん陣営の受難」 津村記久子、U-NEXT)

酒を主食にする人々 高野秀行

2025年04月12日 | 読んだ本
「エチオピア南部に酒を主食としている人々がいる」という日本人研究者のレポートを頼りに、冒険家の著者がTV番組「クレージージャーニー」のスタッフと共に現地に赴き、その存在と彼らの実際の生活ぶりを確かめにいくという内容の一冊。日本を出国する前からハプニングやアクシデントの連続だが、本題に関しては、元々情報がほとんどないので、「予想外」というより「予想以上」の驚きが続く。著者らが実際に訪れた3つの村はそれぞれびっくりするような暮らしぶりだが、その根底にあるのは、高地なので土地が狭く、その中に様々な氏族や集団が暮らしている、その土地では水と食料が貴重といった特徴から、普通では考えられない食生活が行われている。さらに、他のアフリカの国や地方と違って植民地化されていないことにより欧米文化の影響を受けつつも合理的な理由で独自性を保っている。これらの条件の微妙な違いからそれぞれの集団にかなりのバリエーションがある。読んでいて最大の疑問は幼児や妊婦さんなどを含めてお酒ばかり飲んでいて大丈夫なのかということだが、何故か全く問題ないとのこと。楽しくも、普通とは何か常識とは何かを否応なく考えさせられる一冊だった。(「酒を主食とする人々」 高野秀行、本の雑誌社)

2025年本屋大賞決定

2025年04月10日 | 読んだ本
今年の本屋大賞が「カフネ」に決定。自分の予想した作品は上位にも入らなかった。ここ最近のノミネート作品は、現代社会の生きにくさを前面に出したものが多く、昨年明るい作品が受賞したので良かったと思ったが、また今年はそうした作品に後戻りした感じだ。それでも受賞作は、ほっとするような読後感のある内容で、ただ暗いだけでないのが良かった。暗い小説ばかりなので最近読書傾向がノンフィクションにシフトしているが、そうした中、自分にとっては、本屋大賞絡みで色々良い本を見つけられる意義がむしろ高まっている気がする。

2025年本屋大賞の予想

2025年04月07日 | 読んだ本
毎年やっているので、今年も自分なりの本書大賞の予想をしてみたい。

例年はノミネート10作品発表の時点で5~6冊既読で発表されてから5冊くらいを購入して極力全作品を読むという感じだったが、今年は発表時点での既読が2冊しかなかった。最近、読書量が減っていることに加えて、現代の生きにくさをテーマにした暗い似たような小説が多くなっている気がすることやノンフィクションで面白そうな本が多かったからだと思われる。発表時点で未読の8冊のうち2冊は読もうと思えなかったので残り6冊を購入、その後色々読みたい本があって一冊未読のまま、結局7冊しか読んでいない。それで予想というのも少し変だが、一応いいなと思った作品を書いておきたい。まず一番面白かったのは昨年の大賞作の続編「成瀬は信じた道をいく」。相変わらず主人公が魅力的だしストーリー展開もちょっと予想を超えていてとにかく楽しい作品だった。続いて「死んだ山田と教室」もこれまでにない楽しさで、続編、続々編と1年間に3冊出たがどれも大変面白かった。「アルプス席の母」も自分の知らない高校野球の闇が描かれていて面白かった。

本命 成瀬は信じた道をいく
対抗 死んだ山田と教室
   アルプス席の母