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MONEY 清水義範

今年になって読み始めた著者の本はこれで4冊目。本書は今のところその中でも最高傑作ではないかと思えるほど面白かった。お金にまつわる犯罪を扱った短編が8つ収められているがいずれも意表をつく内容。それぞれの短編には「東隆文の窃盗8600000」という具合に「犯罪者の名前+犯罪名+被害金額」という題名が付いているが、これにも色々な仕掛けがある。「森本鉄太のおれおれ詐欺10000」はどうして被害金額がこんなに小さいのか? 「ミスターXの誘拐2800000」はどうして金額が中途半端な金額なのか?読む前から謎があって、最後にそういうことだったかとわかるのも楽しい。本書は著者の代表作にはあげられていないようだが、それこそこの作家の作品が粒ぞろいであることを証明しているようだ。(「MONEY 」 清水義範、徳間文庫)
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彼女が最後に見たものは まさきとしか

著者の作品は2冊目。2冊とも現代社会の歪みのようなものが生み出してしまう事件を扱っているという意味で類書の多い内容だが、著者の作品には著者ならではの独特の雰囲気がある。それが著者自身の個性や独創性なのだろうと強く感じる作品だ。物語はあるホームレス殺害事件から始まり、そこから過去の殺人や交通事故などの事件が複雑に絡み合って予想もしなかった展開が続く。そうした流れの中で、過去の事件の関係者がその事件に人生を狂わせられながら新たな事件へとつながっていく負の連鎖の怖さが浮き彫りになる。主人公である悲劇的な過去を抱えた刑事の冷静で理詰めな推理も特徴的だ。(「彼女が最後に見たものは」 まさきとしか、小学館文庫)
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私が見た未来(完全版) たつき諒

近くの本屋さんに行ったがあまり買いたい本がなく、「どうしよう、何も買わずに店を出るのも申し訳ないし」と思っていたら、ふと帯に「50万部突破」と書かれた平積みの本を発見。全く知らない本だったがどういう本か知りたくて買って読んでみた。読んでみると、この本の著者が1998年に出版した本の表紙に「大災害は2011年3月」と書かれていて、それが東日本大震災を予言していたのではないかとTVで話題になったらしい。本書の構成は、前半がその予言めいたことを書いた経緯のようなもので、後半はそれとは関係ない作者の短編集になっている。全体的に内容はスピリチュアルものに終始しているが、この本が予言する「次の大災難は2025年7月5日」という日付はちゃんと記憶しておこうと思った。(「私が見た未来(完全版)」 たつき諒、飛鳥新社)
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かがやき荘西荻窪探偵局2 東川篤哉

シリーズ2作目。三人組探偵団のキャラクターありきの軽いミステリー短編集。謎解き部分はよくあるトリックに少しひねりを効かせたものといった感じで意外性は小さいのだが、話の終盤で新しい死体が発見されたりするストーリーの意外性が楽しい。色々な意味で著者ならではの作品という感じがした。(「かがやき荘西荻窪探偵局2」 東川篤哉、新潮文庫)
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オオルリ流星群 伊与原新

著者独特の理科系テイストの一冊。物語は、高校時代に文化祭で力を合わせた旧友たちが卒業から20年以上を経て仲間の1人の「私設天文台」を作りたいという夢を叶えるために再び力を合わせて奔走するという内容。高校時代の夢を追いかけ続けているもの、人生の転機を迎えているもの、少し閉塞感を感じているもの、引きこもりになってしまったもの、20年の歳月の重さをそれぞれが感じながら、1つの目標に夢中になることで新たな一歩を踏み出していく。仲間の1人が卒業後に謎の死を遂げていてその真相も次第に明らかになっていく。まさに著者らしい一冊だと感じた。(「オオルリ流星群」 伊与原新、角川書店)
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サクランボの丸かじり 東海林さだお

シリーズ文庫化の最新刊。いつも通りの食に関するエッセイ集だが、少しだけいつもと違う雰囲気を感じた。それは、文章の中に歌の歌詞とか短歌詩歌の一節などが比較的頻繁に登場することだ。今まで気にしたことがなかったので、これまでの作品にも同じくらい頻繁にそうした文学作品の引用が登場していたのかもしれないが、本書では物語の掴みにそうした文学作品のフレーズが重要な役割を果たしていることが多いと感じた。逆にいつも通りの面白さという点では、「秋刀魚2尾定食」「ギョーマイ」「理想のランチ」などいわゆるチャレンジものが本書でも面白かった。このシリーズ、いいところは継承しつつ、微妙に変化もしていると感じた。(「サクランボの丸かじり」 東海林さだお、文春文庫)
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アキレスと亀 清水義範

著者の本は3冊目。これまでに読んだ2冊もそうだったが、著者の本は結末の意外性とかが際立っているわけではないし、特に統一的なテーマがあるわけではないが、読んでいて単純に面白い短編が並んでいる。本書の特徴を強いてあげると、短編の大半が動物園職員の新年会、シャッター街になりつつある商店街の会合、飲み屋で隣席から聞こえてきた会話など、会議や対談、人と人との会話を文字におこしたような内容であることだ。いずれも「会議でこんなことを言い出す人って確かにいるなぁ」と思わず笑ってしまう話ばかりだ。まだまだ著者の未読の本が多いので嬉しい。(「アキレスと亀」 清水義範、廣済堂文庫)
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世界は「関係」でできている カルロ・ロヴェッリ

量子論の最先端の考え方を解説してくれる一冊だが、その辺りの素養がない自分には正直言って難解すぎて途中から字面を追うだけになってしまった気がする。「ハイゼンベルグの不確定性原理」や「シュレジンジャーの猫」といった言葉は学生の時に読んだブルーバックス以来だし、数学の「行列」の考え方が量子論の謎解明に一役買ったという話は初耳で高校生の数学でやったのをうっすらと思い出す程度。行列を教わりながら何の役に立つのか不審に思った記憶があるが、今回本書を読んで物理学の基礎を理解するのに必要だったんだと知ってびっくりした。数時間の読書だったが、科学の世界ではどうしても解明できない謎に直面した時これまでの常識を破る考え方でそれを打破する科学者が現れてきた、科学の歴史はその積み重ねで進歩してきた、それだけは心に残った。(「世界は『関係』でできている」 カルロ・ロヴェッリ、NHK出版)
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ヒトの壁 養老孟司

ベストセラーシリーズの最新刊。これまでと同じく著者自身のこれまでの身の振り方や考え方が色濃く反映された独特の文章で綴られたエッセイ集。自身の人生を振り返りつつも自己弁護に陥ることなく、知識や難解な語彙をひけらすことなく、時々脱線したりしながらも世の中の様々な風潮への違和感を吐露、そんな文章から何となく言いたいことが伝わってくる。無害だけど少しだけ後輩たちに何かを残そうというバランスの良さ、自分もそうした存在になりたいと思う。なお本書では、コロナ禍に対する考え方、愛猫まるとの別れがサラッと書かれているが、この2つについて言いたいことを言い切ったという感じがなく、もっとじっくり読ませてもらいたいと思った。(「ヒトの壁」 養老孟司、新潮新書)
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蕎麦ときしめん 清水義範

著者の本は2冊目。前作同様ノンフィクションを装ったフィクションという形式の短編小説集で、本書のカバーの解説によるとこういう作品をパスティーシュ小説というそうだ。表題作は東京から転勤で名古屋にやってきた会社員が書いたという体裁の名古屋文化論で、小学校2年の時に東京から名古屋に転校したことのある自分としては、本書に書かれた「転校生あるある」は誇張ではなく100%実際にあったことと断言できるし、タクシーでのエピソードも何度も経験したことがある事実だ。また「序文」という作品は「英語語源日本語説」という本の序文、改訂版の序文、文庫版の序文などからなる小説。最後の文庫版序文でさりげなく書かれた内容の意外さはかなり衝撃的だった。(「蕎麦ときしめん」 清水義範、講談社文庫)
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現代生活独習ノート 津村記久子

著者の短編集だが、ちょっと不思議な近未来の設定、ありがちな日常生活の一断面など、色々なバリエーションで著者の文章を楽しめる贅沢な内容の一冊。不思議な近未来設定の話では、「現代生活手帖」のロバの配達員とか「牢名主」のA群B群とかにびっくり。日常生活ものでは、「レコーダー定置網漁」「台所の停戦」「メダカと猫と密室」がとにかく面白かった。(「現代生活独習ノート」 津村記久子、講談社)
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本屋大賞2022 決定

今年の本屋大賞が「同志少女よ、敵を撃て」に決定。著者のデビュー作というのが信じられないくらい圧倒的な描写とスリリングなストーリーで、私自身もノミネート作品中最も魅了された一冊だった。書評誌にはかなり前から書店員の本書に対する支持が刊行当初から熱烈だったと伝えられていて、今年は本屋大賞の趣旨に合致した受賞だったんだなぁと感じた。ロシアのウクライナ侵攻の真っ只中、自分は「ロシア兵の活躍」という本書の表層が選考において逆風になるかと思ったが、むしろ本書の反戦厭戦のメッセージを評価し、本書の「本当の敵とは何なのか」という問いかけに焦点を当てた選考、変な邪推をしてしまったと反省した。
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真夜中のマリオネット 知念実希人

医療ミステリーの第一人者の最新作。1つ前に読んだ作品が医療ミステリーでなくてびっくりしたが本作はいつも通りの医療ミステリー。内容は大怪我をして搬送されてきた少年を助けた医師が、その少年が連続殺人事件の容疑者だと知り、真相の究明に奔走するというもの。当初は主人公の行動や容疑者のキャラクターが極端すぎて現実味がなくて「何だこれは?」という感じだったが、次第にストーリーの面白さに引き込まれたせいか、当初の違和感も忘れてしまった。事件の真相についてはかなり最初の方で分かってしまったような気がしたが、最後の予想外のもう一捻りはかなり衝撃的だった。(「真夜中のマリオネット」 知念実希人、集英社)
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皆様、関係者の皆様 能町みね子

一冊ごとに題名が違うのでこれまでに何冊読んでいるのかよく分からないが、有名人の記者会見やネットでの発言を深読みするエッセイ集。「言葉尻を捉える」というと聞こえは悪いが、発言の裏にある発言者の深層心理の分析は非常に説得力がある。初出が週刊誌のコラムのため文庫化されるのが早いようで、ごく最近の話題まで載っているが、取り上げられているのが主にネットでの発言なので、その発言自体こちらは初耳というケースも多い。そういう意味でも読んでいて色々見聞が広まる感じがするのも有り難い。それにしてもこのクオリティのエッセイを毎週書くというのはすごいことだと思う。(「皆様、関係者の皆様」 能町みね子、文春文庫)
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2022年の本屋大賞予想

毎年恒例にしている本屋大賞の予想。昨年はピタリと当たってしまったが、今年のノミネート作品10冊は例年に比べてすごい作品揃いで、とても当てられる気がしないというのが本音だ。まず、個人的にすごいと思ったのは、「同志少女よ、敵を撃て」と「黒牢城」の2作。いずれも時代や場所を超えたリアリティと物語の面白さを最初から最後まで堪能できる内容で、どちらが大賞でもこれまでの受賞作を超えていると思うし、もし2作同時受賞ということが可能ならばそれがベストではないかと思えるほど甲乙つけがたい。但し「同志少女よ、、」はロシアの女性兵士の活躍を描いた作品で、本作自体はスターリンのソ連とヒットラーのドイツという独裁国家同士の戦争に対して主人公がその虚しさを持ち続けるという反戦厭戦の精神を土台にした物語なのだが、ロシアのウクライナ侵攻が世界を揺るがす現状を考えると受賞するにはどうもタイミングが悪いような気もする。この2作品以外の作品は現代日本の生きづらさをテーマにした力作が並んでいるという印象で、その中でも「夜が明ける」と「星を掬う」のメッセージ性はすごいなぁと思った。但し「星を掬う」だと同一作者の2年連続受賞ということになってしまうので難しいかも。個人的に好きだったのは「六人の嘘つきな大学生」。前述の2作品に比べると軽めの作品だが、読んでいてとにかく面白かった。ということで、今年の予想は以下の通り。
[本命]
「黒牢城」
「同志少女よ、敵を撃て」
[次点]
「六人の嘘つきな大学生」
「夜が明ける」
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