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赤い博物館 大山誠一郎

著者の本は2冊目。前作はかなりマニアックなミステリーだったような記憶があるが、本書も軽そうな装丁や物語の舞台設定とは裏腹に謎解きに重点を置いた本格ミステリーだった。二重三重に読者への罠が仕掛けられていて、それを見破れた時の爽快感を久し振りに味わった気がする。著者の作品はまだあまり出ていないようだが、これだけの濃度の作品であれば寡作なのもやむを得ない気がする。それでもあと2、3冊は未読の単独作品があるようなので、これからじっくり味わいたいと思った。(「赤い博物館」 大山誠一郎、宝島社文庫)

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農ガール、農ライフ 垣谷美雨

同じ日に派遣切りによる失業と同棲の解消という2つの大事件に逢い切羽詰まった主人公が農業による自立を目指して奮闘する物語。ひとりの女性が様々な困難に遭遇しながらも色々な人に助けられながら自分の道を探していく過程で、農家の後継者難、食料自給率の低下、放棄された農地の増加、環境問題といった社会問題の存在と解決の難しさを認識していく。ひとりの女性の物語でありながら、これまでに読んだ著者の作品同様、色々なことを考えさせられる一冊だった。(「農ガール、農ライフ」  垣谷美雨、祥伝社文庫)

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毒薬の輪舞 泡坂妻夫

著者の本には毎回驚かされるが、今回も完全にやられたという感じだ。警視庁の刑事コンビがある病院の精神科病棟に病気を偽って入院するのだが、どうやら通常の潜入捜査ではないらしい。では何なのかと言うと、かなり読み進めてもそれがよくわからない。よくわからないまま、大きな事件もなく話は終盤になってしまう。登場人物は全て不審者ばかりでその行動も変だし、色々気になることはあるのだが、それが何を意味しているのかが判然としない。最後に全ての謎が明かされた段階で、本書がミステリーの常識である事件発生、推理、謎の解明という手順に挑戦した作品だと分かり、著者の意図の奔放さ、物語の構築力の凄まじさに驚いた。(「毒薬の輪舞」 泡坂妻夫、河出文庫)
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言葉尻とらえ隊 能町みね子

本書は、何気ないネットでの呟きや広告のキャッチコピーから見えてくる発信者の意図や深層心理を巧みにあぶり出すエッセイ集。コンセプトがドンピャリなので、これまでに読んだ著者の本の中でも特に著者の言葉に対する感覚の鋭さが際立つ一冊だと思う。ここまで鮮やかにあぶり出されてしまうと、発信者側としては当たり障りのない表現しか出来なくなってしまうところだが、それでも著者は新しい標的を見つけてくる。標的を見つける感覚、それに対する的確な分析、それを分かりやすく説明する文章力、三拍子揃っているからこその傑作だ。(「言葉尻とらえ隊」 能町みね子、文春文庫)

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展示会 カメラが撮らえた横浜

横浜開港資料館の企画展示。横浜も昔はこんなに田舎だったんだという写真の数々。横浜を一変させた関東大震災の凄まじさが伝わってきた。写真好きと思われる年配者で結構混んでいた。中庭にある有名な「たまくすの木」も一緒に見学。
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レゾンデートル 知念実希夫

著者のデビュー作が復刻とのことなので読んでみることにした。ふんだんな医療知識を使った巧みなサスペンス、同時進行する2つの事件が見事な融合を見せる緻密な構成、最後に明らかになる意外な犯人、どれもその後の作品の芽となるようなものばかりだが、デビュー作だけに力のこもった文章、これでもかと色々盛り込まれたエピソードが際立つ。流石にこうした重たい作品ばかりでは読者も疲れてしまう。ここから少しライトノベルの方に向かってくれたのはありがたかったと勝手に感じてしまった。(「レゾンデートル  」 知念実希夫、実業之日本社文庫)

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絵画の迷宮 北川健次

副題に「ダヴィンチ、フェルメール、ピカソ、ダリ、デュシャン」とあり、画家である著者がこれらの芸術家の有名な作品を見て感じたことを書き記したエッセイ集のような内容。誰でも知っているような作品の色々な研究成果が紹介されていて、作品を巡ってどのような議論があったかという歴史の復習にもなる。但し、正直言うと、本書を読んでいて、梅原猛が「水底の歌」の中で、斎藤茂吉が柿本人麻呂の辞世の歌が詠まれた場所を同じ画家の直感だとして「ここと定めん」と述べたことを痛烈に批判していたのを思い出してしまった。本書にも「自分の直感」「夢に見た」「何かに導かれて」と言った記述が頻繁に登場してオカルト本のようになってしまっていたのが残念だった。(「絵画の迷宮」 北川健次、新人物文庫)
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凡人のための地域再生入門 木下斉

小説形式で読む地方再生に関する成功・失敗事例集。多くのケーススタディから何を読み取るかは読者次第だが、全編を通じて最も強調されているのは、公的な資金や情報に頼っていては再生どころではなく逆効果しかない、地方再生の志を実現していくまでには多くの予想外の壁があることを覚悟の上でそれらに個別に対応していくしかない、という2点だ。自分が30年前に知り合った地方活性化に取り組んでいた人(公務員)もそのことを当時から痛感していたようで、彼が「どこの地域でも通用する活性化策などあるわけがないのにそれを考えなければいけない自分の仕事が虚しい」と言っていたのを思い出した。地域活性化の解説本がおしなべてやるべきことのヒントという形で普遍的な対策があるかのような前提で書かれてしまっているのは、そうでなければ多くの人に読んでもらえないからだ。そうした呪縛のないことが本書の最大の特徴だと感じた。(「凡人のための地域再生入門」 木下斉、ダイヤモンド社)

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展覧会 水木しげる魂の漫画展

会場は、前日が大雨でその翌日の日曜日だったこともあり、若い人からお年寄りまで様々な世代の人で大にぎわい。特に若い親子連れが多いのが目についた。数か所にモニター画面が設置されていて2〜3分の解説画像が流れていた。とても良いアイデアだと思う。内容は水木しげるの子どもの頃の絵から人気漫画の原画まで多彩で期待通り。出口のショップのくじ引きも大人気で楽しい展覧会だった。自分は三等賞が当たった。
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夜の蝉 北村薫

著者の本を体系的に読んだことがないのでこれが何冊目かは分からないが、久し振りに著者の本を読んで、あぁこういう作風の作家だったなぁとすぐに思い出した。それくらい著者の作品は独特の雰囲気を持っている。ミステリーでありながら謎解きの部分はあまり目立たない。一見謎解きと関係のなさそうなエピソードが続くが、最後にそれらの記述が謎の重要な要素やヒントになって全体像が明らかになる。かと言ってお馴染みの伏線とその回収とう構造とは違うもっと緩やかな繋がりが全体を覆っているという感じだ。新しい作品を追いかけるのに少し飽きた時にまた無性に読みたくなるような気がする。(「夜の蝉」 北村薫、創元推理文庫)

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展覧会 アイチ・アート・クロニクル

愛知県美術館のリニューアルオープン記念企画展。前半は中部出身画家の作品や中部圏出身者の肖像画など地元ゆかりの展示、後半は中部圏の現代アートシーンの紹介。特に後半の展示が迫力満点。中部圏で現代アートがこんなに力強く展開しているとは知らなかった。

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映画 コンフィデンスマンJP ロマンス編

いくつものドンデン返しがあるのがお決まりのシリーズ作品で、どこからミスリードが始まっているのかを見つけるのがミソなのだが、今回も「えーそこから⁈」という感じで、完全に騙されてしまった。ベタな演技も観客を欺く仕掛けの一部分になっていて、どんどん面白くなっている気がする。

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カゲロボ 木皿泉

AIの技術がちょっとだけ進んだ近未来の人間が、自分のアイデンティティや周囲との関係をどう構築していくか、あるいはその過程でどのような心の葛藤をもつことになるのかを寓話的に語る短編集。これまで読んだ何冊かの「泣かせます」的な著者の本とは少し違う趣きを感じた。短編集なので曖昧な結末で終わってしまっているものが多いが、こうした内容でどこまで突き詰めて読ませてくれるか、次はそうした作品を期待したい。(「カゲロボ」 木皿泉、新潮社)

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近代美術史テキスト 中ザワヒデキ

ある展覧会の売店で見つけた一冊。本というよりも小冊子だが「あの伝説の作品」という感じのポップが付いていて、美術関係者には有名な本なのかもしれないと思い読んでみた。印象派から現代アートの最前線までが簡単に解説されているが、書かれたのが1989年とちょうど30年前なので、最前線と言いながら1990年以降がどういう状況にあるのかは別の本で補うしかないだろう。なお、言及されている作品が著者による白黒のイラストで掲載されているので知らない作品の名前が出てくるたびにネットで画像検索する必要があったが、その作業、煩わしいというよりもむしろ結構楽しかった気がする。(「近代美術史テキスト」 中ザワヒデキ、トムズボックス)

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展覧会 ドービニー展

休館日に行われたトーク・アートというイベントに初めて参加。学芸員などから一方的に説明を聞くのではなく、参加者一人一人が気に入った作品の前で自分の感想を話し合うというもの。エスコートしてくれたボランティアさんの、参加者から感想を引き出す適切な誘導、参加者の素朴な感想を補完する解説のお陰で、とても有意義な時間を過ごせた。

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