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アホ大学のバカ学生 石渡嶺司・山内太地

副題が「グローバル人材と就活迷子のあいだ」となっているが、本書の主張は、両者の隔たりが絶望的に大きいということに尽きる。著者の本は「就活のバカヤロー」に次いで2冊目。相変わらず、世の中の胡散臭いところを徹底的に暴き出すというスタンスで、大学とそれを取り巻く人々の怠慢・無知・社会常識の欠如などをこき下ろす。こうして文字になったものを読むと、そんなバカなと、笑ったりしているが、実際には本書でこき下ろされている人と似たような行動や意思決定をしている場面が自分にもあるのではないか、著者は大学をこき下ろしているが似たようなことは会社組織などにも多かれ少なかれあるなぁ、という気がしてきてしまう。2人の著者が前半後半を書き分けているが、自分の主張と過激な前半の著者の折り合いにも気を使いながら、本書全体のリアリティ向上の役割を担って書いている後半の著者の努力と取材手法の確かさに感服した。(「アホ大学のバカ学生」 石渡嶺司・山内太地、光文社新書)

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ジョージ・ブッシュが日本を救った 高山正之

シリーズの3冊目。最初は面白いということだけで読み進めることができて、それだけで満足してきたようなところもあるが、3冊目ともなると、著者のスタンスがだいぶ判ってきて、「この部分は議論が随分乱暴だな」とか「前に読んだ文章と良く似た内容だな」という感じで、少しアラも見えてきたような気がする。中国・アメリカ嫌いは、著者の看板のようなものなのでとやかく言ってもしょうがないが、ミャンマーの現政権に対する見方などは、かなり惹かれるものがあるし、依然として面白い視点を提供してくれる本であることには変わりがない。通説だと思っていることも1つ1つ検証しないと信用できないということを本書は教えてくれるが、その本書に書かれたこともなかなか検証できないのはもどかしい。それでも通説の対極にあるような意見を絶えず聞くことで、考え方に幅を持たせることの意味を再認識させてくれる点では貴重なシリーズだと思う。(「ジョージ・ブッシュが日本を救った」 高山正之、新潮文庫)

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暖簾 山崎豊子

著者の処女作。親子2代の大阪商人の暖簾に賭ける気骨と矜持の物語。小気味の良い文体で、最近よく見かける伏線とか場面の切り替えといった仕掛けのようなものもほとんどない時系列を忠実に追っていく展開には、これが本来の小説の姿、本当の小説のあり方ではなkだろうかと、懐かしいような感慨を覚える。時には少しユーモラスに覚えるほどの無骨さでひたすら商売に明け暮れる主人公の日々を追い、大波あり小波ありで、最期にえもいわれぬ達成感・爽快感が待っている。著者の大河小説・幾多の長編小説の凝縮版をみる思いだ。(「暖簾」 山崎豊子、新潮文庫)

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武器としての決断思考 瀧本哲史

新書のベストセラーになっている本書。かなり期待して読み始めたのだが、本書のどこに読まれている秘密があるのか、若者が本書を読んで何を感心しているのか、正直言って私にはよく判らなかった。20歳前後の若者を対象に書かれた本なので、年配者には判らないということなのかも知れない。この本が若者にとってのベストセラーだという事実が、私自身の感性が若者の感性と大きく乖離してしまっているということを示しているようで大きなショックを受けた。最後の方の「情報収集術」の章は面白かったが、私にとってはそこまでの本でしかなかった。(「武器としての決断思考」 瀧本哲史、星海社新書)

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動的平衡2 福岡伸一

大好きな著者の最新刊。著者の作品の集大成のような内容だった前作の続編ということで、大きな期待をもって読み始めた。科学的な観察眼とリリックな文体の融合という著者の特徴は健在で、さらに本作では、そうした2つの特徴に加えて、生物学に囚われない著者の多岐にわたる知識が、もう1つの大きな魅力であることが、今までの作品以上にはっきり判ったような気がする。「まえがきにかえて」に掲載されている図版を見ながら、まえがきの文章を読んでいると、著者に見えているものが何なのかが少し深く判ったような気がした。本書の「まえがき」は、それだけで本書を読んで良かったと思えるほどの名文だと思う。その他、鶏卵がヒトの必須アミノ酸9種類を全て含み、そのバランスもヒトに近いという話や、何故ヒトは旅先でおなかをこわすのかという話(腸内細菌が居住地によって個人によって異なるという話)も大変面白かった。(「動的平衡2」 福岡伸一、木楽舎)

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浪速少年探偵団 東野圭吾

著者の20年以上前の作品。今年が作家25周年ということだから、かなり初期の作品だ。デビュー当時から色々な作風の作品を発表してマルチぶりを発揮していたようだが、世の中の評価としては「学園ものミステリーの作家」と言われていた頃があったようで、本書はその当時の作品ということになる。関西の小学校の女性教師が主人公で、教え子に降りかかるかなり重たい事件を若い刑事とコンビで解決に奔走する。スーパーマンぶりは発揮しないが、関西版、小学生版の「ごくせん」のような趣もある。関西弁満載ということで、ミステリーとしては軽いノリだが、その分関西の下町風の味がよく出ているし、文章や描写は明確そのもの、構成も単純そうにみえて良く考え抜かれているのはさすがだと思う。(「浪速少年探偵団」 東野圭吾、講談社文庫)

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わくらば追慕抄 朱川湊人

久しぶりに読む、かなり前に読んだ「わくらば日記」の続編。今は亡き特殊な能力を持った女性の思い出をその妹が静かに語るという内容のシリーズだが、本書では昭和30年前半から後半にかけての思い出が語られる。ちょうどそれを語る妹が「段階の世代」位の年齢で、その時代の流行や時代の雰囲気が、著者独特のセピア色の文体で語られるのが読んでいて心地よい。このようにセピア色の文章で語られると、なんだかありえないようなスーパーナチュラルな話も、すんなり読めるから不思議だ。また本書では、非常に謎めいた人物が初めて登場、若くして亡くなったお姉さんの天敵のような存在らしく、もしかしたらお姉さんが若くして亡くなった原因になるのではないかと思わせるような、はらはらドキドキの展開もある。このシリーズは、時間的に考えると、1冊ごとに2,3年の間の出来事が語られており、すでに主人公があと10年もしないうちに亡くなると書かれているので、あと2,3冊で最終巻ということになるものと思われる。そのくらい続いてくれればリーズとしての満足感も得られるし、だらだらと続けてしまったということでもなく、1つの世界が語りつくされるという意味でなかなかちょうど良い感じだと思う。(「わくらば追慕抄」 朱川湊人、角川文庫)

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心星ひとつ 高田都

文庫書き下ろしシリーズの最新刊。昨年の「時代小説の文庫本ランキング」で見かけたのがきっかけで昨年から読み始め、ようやく最新刊に追いついた。まだ完結していないシリーズなのであとどのくらい続くのかが気になるが、内容的には前作あたりで折り返し点という気がしていた。しかし、本書を読むと、急転直下、もしかして最終巻ではという展開になるのだが、最後に驚きの結末となる。主人公の夢は、料理人としての恩人への恩返し、貧しかった頃の幼馴染の救出、好きな人と一緒になること、の3つなのだが、それらが微妙に絡み合って、本書の最終話になだれ込む。そこで、本書ではまだこのシリーズは終わらないということで安心すると同時に、この後いったいどうなってしまうのだろうと読者を大いに心配させて終わる。こうしたシリーズは、登場人物への愛着や、安心して読めるということで、だらだらと続いてしまう傾向があるだろうし、途中で人気が出てきたりするとなおさらだが、このシリーズについていえば、内容がマンネリ化しないうちに主人公の壮大な夢の行く末を知りたいという気持ちがますます強くなってしまった。今後は年間2冊ずつのペースで刊行ということなので、それに従うしかないのがもどかしい。(「心星ひとつ」 高田都、ハルキ文庫)

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万能鑑定士Qの事件簿Ⅸ 松岡圭祐

主人公にこれまでで最大のピンチが訪れる本書。ストーリーとしては第6話と並ぶハラハラドキドキの展開だが、良く考えると、頭脳明晰な主人公が、自分を陥れるトラップに、気付かないのは少し変ではないか。トリック自体は大変良くできていて、まさかという気持ちが主人公の目を曇らせたということだと思うが、良く考えるといくら目が曇っていたとしても、ある事実に気がつけば変だと思うだろうし、その事実に気がつかないというのも実際にはありえないのではないか。でも、そのトリックの瑕疵を差し引いても、良くできた話で、震災の話が早くも出てきて何だかありそうな話の設定でもあり、本シリーズの面白さを楽しめる1冊であることに変わりはない。(「万能鑑定士Qの事件簿Ⅸ」 松岡圭祐、角川文庫)

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お探しの本は 門井慶喜

本好き、読書好きが親近感を覚えて読むからだろうか、本と関係のある世界を舞台にしたミステリーが、最近特に増えているような気がする。本書も「また別のが出ている」と冷たい視線を向けながら、結局、読んでてしまった。内容はミステリーとしては平均点という程度だが、やはり主人公が図書館の人ということで、いろいろなことが判って参考になる。薀蓄部分もさらりとしていて押しつけがましくない感じだ。ただ、地の文章で、時々見慣れない慣用句や熟語が使われているのには違和感を覚えた。真面目で博識な主人公の視点ということで、わざとそうした難しい言葉が使われているのだろうが、何故かその単語だけ浮いてしまっているような不自然さを感じた。(「お探しの本は」 門井慶喜、光文社)

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浜村渚の計算ノート 青柳碧人

ライトノベル風の表紙だからといってバカにできない作品が数多くあることは経験的に知っているが、本書もそうした侮れない作品だ。天才数学中学生と「日本における数学教育の改善を目論むテロリスト集団との戦いという突拍子もない設定の話だが、数学に関する知識を通じた両者のバトルは楽しいし、ひねりの利いた謎解きも、妙に説得力がある。四色問題の話で主人公が繰り出す奇手、ゼロに関する話で主人公が相手をぎゃふんと言わせる決めぜりふなど、良く出来ているなぁと感心してしまう。設定がかなり特殊なので、あまりシリーズとして長続きしないのではないかと思ってしまうが、このシリーズ既にあともう2冊刊行されているとのこと。すぐに続きが読みたいというほどではないが、どのような展開で続くのかいずれ確かめてみたいという気はする。(「浜村渚の計算ノート」 青柳碧人、講談社文庫)

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開かせていただき光栄です 皆川博子

多分19世紀だと思うが、解剖学の知識や物的証拠といったものが犯罪捜査の道具となっていった黎明期の頃のロンドンを舞台にしたミステリー。まだまだ犯罪捜査にあたる人や組織への信頼が確立していない時期でもあり、科学的捜査と賄賂や思惑に左右される前近代的な裁判が拮抗する複雑な時代が描かれている。町には強盗・追いはぎ・酔っ払いが横行していて、微妙に犯罪捜査に影響を与える。こうした状況で進む犯罪とその捜査がやや衒学的な文体で描かれているのが、たまらなく面白い。当時のロンドンという町の様子が克明に描かれているので、本当に日本人が書いたものなのだろうかと不思議にさえ感じてしまう。日本人がこうした設定で小説を書くには大変な下調べとか時代考証が必要だと思うのだが、どうしてこの著者は、こんな複雑な状況の作品をわざわざ書いたのだろうか、と不思議になる。さらに著者は御年81歳、本当に信じられないことだと思う。ミステリーということを忘れて読みふけってしまったので、最後に用意された大どんでん返しなど、途中で気づく余裕もなかった。気持ちよく「完敗」した。(「開かせていただき光栄です」 皆川博子、早川書房)

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燦(2) 光の刃 あさのあつこ

シリーズの第2作目だが、主人公達が江戸へ出てきてようやく話が動き出した感じだ。まだまだこの先どうなっていくのか展開が読めないが、とりあえずは「何か知っていそうな」主人公の主君の謎が今後の最大の関心事である。それにしても、このように遅い展開の話を数ヶ月の間隔で読むというのは、それまでの話を覚えていられないという点で、かなり困難なことのように思われる。一旦この本のことはきれいに忘れてしまって数年後に溜まったところで読むのが得策、もっと言えばそうなってから読めばよかったのではと思ったりしてしまう。次をあまり待たせるようであれば、これまでの読者にも忘れられ、誰にも読まれなくなってしまうのではないかと心配だ。(「燦(2) 光の刃」 あさのあつこ、文春文庫)

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天使の耳 東野圭吾

読み終わって巻末をみると、本書が書かれたのは20年以上前、著者が「容疑者X‥」でブレイクする遥か以前となっていた。本書は、よくある交通事故や交通マナー違反を題材にしたミステリーの短編が6つ収録されている。軽い読み物風のものもあるが、「危険な若葉」などは、びっくりするような傑作だと思うし、それぞれが別々の魅力を持ったかなり完成度の高い短編集になっている。これを刊行当時に読んでどのように感じたか、素直に傑作と思えたかどうかは判らないが、この当時、即ちブレイク前から、やはり良い作品を書いていたのだということが確認できるような気がした。今と最も違うのは、「危険な若葉」「通りゃんせ」等、題名のセンスが最近の作品の題名に比べてストレートだというだけことかもしれない。(「天使の耳」 東野圭吾、講談社文庫)

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本当は謎がない「古代史」 八幡和郎 

「魏志倭人伝の記述は役人の報告書なので鵜呑みにしてはいけない」とか「古代史の謎はイデオロギーと商業主義の産物」というコンセプトで「古代史」を見直したらどうなるかという本書。通産官僚だった著者らしい発想が面白いし、なるほどと思える箇所が数多くあって楽しめた。また、古代史について、そもそもどのような謎があって、どのあたりが定説になっているのかを知らない読者向けに、数ページ毎に「定説」と「著者の見解」が細かく対比されていて、親切な構成になっているのが有り難い。ただそれでも、いくつもある定説でない見解のなかで重要な指摘はどれなのか、歴史の流れのなかでそれらの定説でない部分がどのように繋がっているのか、素人にはなかなか判り難い部分があるのはやむを得ないことかもしれない。実は、私は、若い頃、著者を中心とする勉強会に所属していたことがあった。ちょうど著者が「法令審査」という若手官僚の花形の役職だった時だったと記憶しているが、話をしていて、ものの見方がオーソドックスだがどこか人と違う視点をもった人だなと感じたのを記憶している。本書の古代史に対する見方もちょうどそんな感じのような気がして、懐かしかった。(「本当は謎がない「古代史」」 八幡和郎、ソフトバンク新書)

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