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アウンサンスーチーはミャンマーを救えるか 山口洋一、寺井融

このところミャンマー関連の本を本屋さんで見かけるとすぐに入手して読むようにしており、本書はそうした本の3冊目にあたる。テインセイン政権の自由化政策、ミャンマーに対する欧米の政策転換後のミャンマー・ブームを踏まえて刊行された本書は、世の中の「軍事政権=非民主主義=悪」というイメージ先行のミャンマー観をバランスのとれたものにしたいという意思がはっきり現れた内容となっている。それぞれの国の民主化の道程にはその国独自のやり方があるという考えや、ミャンマーが多民族国家であり、まだ完全に民族の宥和が実現していないことやイギリスの過酷な植民地政策の傷跡が多く残されていることが、ミャンマーの一本道の民主化を難しいものにしているという本書の立場は、ミャンマーの人と少し関わりを持っている者としては、本当に良く判る気がするし、ミャンマーの人たちの暖かさ、誠実さに触れていると、「ビルメロ」と呼ばれるビルマフリークの気持ちが何となくわかる気がする。(「アウンサンスーチーはミャンマーを救えるか」 山口洋一、寺井融 マガジンハウス)

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エジンバラの古い柩 アランナ・ナイト

イギリスの人気ミステリーシリーズの第2作目にあたる本書。第1作目を読んでいない私にはよく判らないが、本書は第1作目とかなり趣の違う作品とのこと。読んでみると、こんな大事件に巻き込まれてしまって主人公達はこれから大丈夫なのだろうかと心配になるような作品で、確かにこんな事件が2つも続くはずはないだろう。この本書だけを読むと、重厚な歴史ミステリーにしか思えないのだが、次のシリーズとしての展開が全く予想できない。しかし解説によると、同じ主人公達による本シリーズはすでに10巻以上でているそうで、そのあたりはあまり心配しなくてよいらしい。こうした世紀の大事件に関わった後、どのような形で普通の事件の解決にあたる普通のミステリーに戻るのか、そのあたりが大変気になる。(「エジンバラの古い柩」 アランナ・ナイト、創元推理文庫)

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われ笑う、ゆえにわれあり 土屋賢二

最近読み始めた著者のエッセイの3冊目。著者の最初の本ということで、どのような内容か、最近の本とどのように違うのか興味があったのだが、驚いたことに、自虐ネタと恐妻ネタという2大テーマはかわっていないということが判った。つまりは何十冊もある著者の本は、終始一貫してこのネタだということになる。それでも読んでいて面白いのは、それが判るようになるころには、既にそうした話を読むのがクセになってしまっているということで、それはそれですごいことだと感心してしまった。(「われ笑う、ゆえにわれあり」 土屋賢二、文春文庫)

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記憶の隠れ家 小池真理子

本書の帯には「真夏の最強ミステリーフェア」とある。最近書かれたミステリーと昔に書かれた良質なミステリーをまとめたフェアということだが、昔刊行された作品を再び世に問うというところが読者には有り難い。本書は、細やかな文章で淡々と書かれた作品が多いが、内容はかなり恐ろしい。心理サスペンスの要素が強いのと、日本の古い家意識のようなものが綯い交ぜになっていて、読者の心理を逆なでするような不気味さが随所に見られる。(「記憶の隠れ家」 小池真理子、講談社文庫)

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キリスト教入門 島田裕巳

最近、こうした類の宗教関係の解説本の新刊を多く見るようになった気がする。以前、著者の「仏教」関係の本を読んだことがあったので、キリスト教の関係者でない人が書いたキリスト教の本という点に興味を持って読んでみた。案の定、最初に本書執筆のきっかけとして「キリスト教の信者でない人が書いたキリスト教の本奇跡が少ない」というようなことが書いてあった。著者によれば「キリスト教」の信者によって書かれた本は、キリストの成した奇跡や復活について、押し並べてどこかで妥協している面があるという。私自身は、そうとばかりも言えない気がするが、少なくとも著者自身がそうした考えを持って書いた本というのは貴重なものだと思う。宗教をドラッカーのマネジメント理論になぞらえて語った章などは、まあ言われてみればそうだなという感じで面白かったし、イギリス国教会に関する部分やアメリカの宗教事情に関する部分は、色々知らなかった事実も判って大変勉強になった。(「キリスト教入門」 島田裕巳、扶桑社文庫)

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淋しい狩人 宮部みゆき

古本屋さんを営む主人公の老人とその孫が、本が絡んだ事件を解決していくという設定の短編集。本屋さんを巡るミステリーとか、老人と孫のコンビといった設定はそれぞれ最近良く見かけるが、本書は、内容がほのぼのした事件というよりもかなり陰湿で悪質なものが多いのが特徴だ。主人公達の活躍も、最後まで謎を追及するのではなく、犯人の内面を抉り出したところまで。つまり、本書の読者は、謎解きを楽しむというよりは、犯罪の背後にある人間の醜さのようなものを見つめることになる。そうした意味で本書は、最近多い職業小説とミステリーが合体したようなほのぼのとした作品群とは明らかに異質なもののように思われる。(「淋しい狩人」 宮部みゆき、新潮文庫)

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南下せよと彼女は言う 有吉玉青

「旅先の7つの物語」という副題の通り、色々な形ので海外に旅に出た人々と旅先で出会った景色や人々との交流を描いた短編集。最初の2編くらいまでを読んで、観光都市めぐりばかりというか、名所旧跡の描写が多いので、何だかTVの旅番組を見せられているようで奇異な感じがした。結局、本書は、最後までそうした観光名所に関する薀蓄が中心で、話の筋はありきたりなメロドラマなのだが、そうした話ばかりをいくつも読んでいると、観光名所めぐりの合間に垣間見られる登場人物の人生にも少しだけ目が行くようになり、こうした小説もありかなと思うようになった。(「南下せよと彼女は言う」 有吉玉青、小学館)

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太閤暗殺 岡田秀文

かなり昔の文庫大賞受賞作。戦国時代の豊臣秀吉による秀次一族抹殺事件を題材にした時代ミステリーの傑作ということで読んでみた。スピード溢れる語り口で何重にも張り巡らされた策謀が次第に明らかになっていく様は読んでいてスリル満点だ。秀頼が本当に秀吉の子供であったかどうかを巡って歴史的に色々な疑義が提示されている最近の状況を考えると少し古い感じがしてしまうのはやはりこの作品がかなり前に書かれたものだということが影響しているようで、時代小説といえども流行り廃りがあるのはやむを得ないのだろう。(「太閤暗殺」 岡田秀文、双葉文庫)

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ビジネス寓話50選 博報堂ブランドデザイン

本書は、題名の通り、ビジネスのヒントになるような寓話が50編掲載されていて、それぞれに2、3ページ程度の「博報堂ブランドデザイン」というビジネス・コンサルティング部門のチームによるビジネスコンサルタントの目で見た寓話の意義、読む際のヒントといったものが添えられている。読者は、寓話そのものの面白さにひたることもできるし、それをコンサルタントを専門とする人がどのような読み方をするのかを推理して楽しむといった読み方もできる。実際、50編の中には、人に話したくなるような話、後のコメントが邪魔だと思うくらい面白い話がある一方、おそらく意図的だと思うが、良く知られた話もいくつか収録されていて、その場合はどういう読み方をするのかが興味の中心となる。そのあたりの混ざり具合が良く計算されているようでそれも面白い。企画の勝利といったような1冊だ。(「ビジネス寓話50選」 博報堂ブランドデザイン、アスキー新書)

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罪悪 フェルディナント・シーラッハ

先日読んだ同じ著者の「犯罪」と同じく、弁護士である著者が実際に携わった事件や犯罪者について短い文章で綴った短編集。事件については未解決であったり後日談だったり色々、登場人物もどうしようもない犯罪者であったり犯罪者と言えるかどうか判らないような人だったりで、実に千差万別、バラエティに富んだ内容だが、こうした事件や犯罪の軌跡をたたみかけるように読んでいると、本当に犯罪とは何だろう、犯罪者とは何だろうという、不思議な気分になってくる。読んでいて、クールなようで実に人間味のある著者の眼を通した「社会」というものが立ちのぼってくる様は見事というしかない。それにしても最後に収録されている「秘密」については、なんと言えばいいのだろう。本気で著者がその後どうなったのか心配だが、その題名も含めてニヤッと笑って読み過ごすべきなのかもしれないし、そもそもこれを書いたのは誰なんだということにもなるし‥。少なくともこの1篇で本書は、読者の脳裏に深く刻み込まれる驚愕の作品となったことは確かだ。(「罪悪」 フェルディナント・シーラッハ、東京創元社)

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棚から哲学 土屋賢二

先日初めて著書の本を読んで大変面白かったのでもう1冊読むことにしたのが本書。本屋さんに行くと、文春文庫の既刊本だけで10冊以上並んでいて、どれにしようかと思ったが、とにかく適当に選んで読んでみた。相変わらず面白いし、本が売れない、妻が怖いという自虐ネタ満載なのは前の本と同じだが、「妻の怖さ」については、最近書かれた方の前作の方が凄みが増しているように見受けられた。このテンションのエッセイならばいくら読んでも面白い気がするし、なかなか飽きないような気もする。しばらく少しずつ読んで楽しめそうな気がしてきた。(「棚から哲学」 土屋賢二、文春文庫)

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カラット探偵事務所の事件簿2 乾くるみ

「日常の謎」専門の探偵事務所という設定の短編集の2作目。解明してみたら「駄洒落」だったとか、もともと「謎」なんかなかったという感じの脱力系の話が多いが、それも慣れてくると、「過度の期待は禁物」という心構えができてくるので、結構楽しく読める。しかもそれぞれの話に洒落たオチのようなものも用意されている。シリーズの性格のようなものが判ってくると、楽しさが増す作品と言えそうだ。(「カラット探偵事務所の事件簿2」 乾くるみ、PHP文藝文庫)

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アウンサンスーチー 根元敬

アウンサンスーチー女史の人物像、ミャンマーという国の歴史を知るのに役立った1冊。内容は2部構成で、第1部は、アウンサンスーチー女史とミャンマーについての概略、後半の第2部はがらりと変わって「日本に住むミャンマー人」の話。役に立つという意味では第1部だろうが、軽い読み物という感じの第2部もなかなか貴重な証言集という趣で面白い。ただ気になるのは「ミャンマー」という国名を使わず「ビルマ」という呼称にこだわっている点。国名の変更が軍事政権下で行われたということで、その変更を認めないという姿勢なのだろうが、何だか度量がせまい気がするし、ミャンマーという国名を何気なく使っている一般人を見下しているようで嫌な感じがする。そもそも、ミャンマーという国の最大の問題が「多民族国家」であることには理解を示しながら、一部族の呼称である「ビルマ」という名前を使い続けるというのは変だと思うし、いくら軍事政権下での呼称変更とは言え、国名を変えなければいけなかった「多民族国家」としてのミャンマーの人達の苦労をないがしろにして良いものかと思う。内容がしっかりしていて大変面白かっただけに、第1部において、そうした何だか一般人もミャンマーの人たちも見下したような表現が散見されたのは残念だった。(「アウンサンスーチー」 根元敬、角川ONEテーマ21)

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金正恩が消える日 重村智計

昔良くTVで見かけた北朝鮮問題専門家である著者の本。切れ味のいい文章ではないが、それは、著者のせいというよりは、とらえどころのない記述の対象のせいなのかとも思う。題名に込められた著者の主張、新指導者「金正恩」がどういう人物なのかということに関する著者の仮説にはただただびっくりだ。もしそれが本当だったとして、それがばれた時にどうなるのかを考えると、本当に北朝鮮がそんなリスクをおかすだろうかとすら思う。私にはもちろんことの真実は判らないが、ただ、北朝鮮に関する報道に関しては、本当に全てを疑ってかからなければいけないということは良く判る。「金正恩が消える日」 重村智計、朝日新書)

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さよならドビッシー前奏曲 中山七里

副題は「要介護探偵の事件簿」。「安楽椅子探偵」と似ているようだが、本書の車椅子の探偵は、事件の現場に積極的にどんどん出かけていくし、事件そのものに巻き込まれてしまうので、「車椅子に座った探偵」という設定さほど重要ではないような感じがする。本書の最大の特徴は、その主人公が、著者の別の作品で、全く探偵のような才能のある人物として描かれていない人物であるということだ。しかも、そういう設定が本書の何処に生かされているのかも良く判らないので、著者が何故こうした人物を後の作品で探偵に仕立て上げたのかが不思議なのだ。そのあたり、良く判らないのだが、本書だけをミステリー短編集として別個に見た場合、本書は大変面白い作品ばかりの非常に質の高い短編集だと思う。提示される謎も面白いし、物議をかもしそうな驚くような結末の意外性も十分に堪能できる。本書は、1作ごとに違う面をみせてくれる著者が、さらにまた違う面を見せてくれているようで楽しい。本当に才能のある作家なんだなあとつくづく感心させられる1冊だ。(「さよならドビッシー前奏曲」 中山七里、宝島社文庫)

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