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フェルメール最後の真実 秦新二

先日上野の森美術館にフェルメール展を見にいってから、関連本として本書を読んだ。本書には、フェルメールの人物像、彼の絵画の履歴などがコンパクトにまとめられているが、その本領は、日本で開催される展覧会にフェルメールの絵を呼ぶための裏話だ。フェルメールの絵は、それぞれの作品が所蔵する美術館や国の至宝であり、お金を積めば呼んでこれるという簡単な話ではないらしい。呼ぶためには修復中でないといったタイミングも重要だし、美術館同士や関係者同士の面子も大切な要素になる。さらには、その絵の保存状態や、輸送上の問題、ひいては所蔵する美術館の経済状態なども呼べるかどうかの重要なファクターになるらしい。今回の日本でのフェルメール展では、彼の全作品35点のうち8点を鑑賞したが、本書を読んで、それらを同じ時期に日本に呼ぶことがどれほど大変だったかがよく分かった。ちなみに、今回の展覧会で見た8点のうち個人的には6点が初めて見る作品で、これまでに見た作品数は記憶にあるだけで22になった。全点制覇するつもりはないが、これからいくつ見られるのか楽しみだなと思っていたが、これまで日本にフェルメールを呼ぶのに絶大な影響力を持っていた著者が引退すると、その後継者がおらず、日本にフェルメールの作品を呼ぶことが困難になる恐れがあるらしい。ご本人が言っているので間違いないと考えると、今回の展覧会がより貴重なものに思えてきた。(「フェルメール最後の真実」 秦新二、文春文庫)

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世界でバカにされる日本人 谷本真由美

外国から見た日本や日本人の負の部分、全体的にそういうこともあるかなぁという感じのエピソードが多いが、それらを知っておくことにも意味はあるだろう。特に性差別や過剰サービスの問題については、過剰な期待ばかりが先行しがちな2020年の東京オリンピックを控えて知っておいて損はないと思う。最後の他国同士のからかいあいのエピソード集は、日本への悪口も色々ある中の1つということで、それまでのやや偏った見方に対する反感を中和させるために書かれたような気がして、そういうところに気を使わなければ行けないところが日本の問題の1つなのかもしれないと感じた。(「世界でバカにされる日本人」 谷本真由美、PLUS新書)

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シャーロックホームズたちの新冒険 田中啓文

歴史改変SFとミステリーが融合した独特な世界の短編集。史上の実在の人物、小説に登場する架空の人物が入り乱れるところもユニークだ。時代や分野も幅広く、ミステリーの質も高くて、色々な意味で楽しめる。同様の設定の短編集の2作目とのことなので、読む順番は逆になってしまったが、既刊の第1作目を読むのが楽しみだ。(「シャーロックホームズたちの新冒険」田中啓文、東京創元社)

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空耳の森 七河迦南

前2作がとても面白かった七海学園シリーズの3作目。途中までは前2作の続編ということに気づかず読んでいたが、途中でそうであることに気づいてびっくりした。それぞれの短編も、途中までは独立した物語として楽しめ、続編だと気づいてからは登場人物と物語の時系列のトリック、著者による叙述トリックなどの要素も加わって面白さが深まる構造になっているようだ。読み終わっても、著者の用意してくれた話全体の流れが完全に理解できたような気がしないので、何だかんだ著者に申し訳ない気持ちに。このシリーズの良さは、それぞれが面白いことに加えて、それぞれが違う味を出していること、全体に仕掛けられたトリックなど、何だかまだまだ色々あるのではないかと感じた。著者の他の作品、新たなシリーズにも期待が高まる。(「空耳の森」 七河迦南、東京創元社)

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書店ガール7 碧野圭

シリーズ第7作目の完結編。これまでの作品に登場した主役、準主役4人の今が描かれている。本シリーズには、出版業界のことや本屋さんの経営事情、書店員の仕事内容など、色々なことを教えてもらった。また、そこで実際に起きている変化や事件なども、知ることができた。本シリーズが終了してしまうと、楽しい読み物が1つ減ってしまって寂しいのと同時に、ネット書店とリアルな本屋さんとの棲み分けが今後どうなっていくのか、出版業界の人がそれをどう考えているのか、今後そうした諸々を知るために別の手段や媒体を探さなければいけないのが辛い気がする。(「書店ガール7」 碧野圭、PHP文芸文庫)

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誰も書かなかった老人ホーム 小嶋勝利

認知症の親が老人ホームにお世話になっている身として時々考えてしまうのは、親は今の境遇をどう感じているのか、今の状況が最善なのだろうかという不安だ。幸い本人は穏やかだし本当に良くしてもらっているようなので、次に考えるのは、親がホームの職員の方に迷惑をかけていないだろうか、ホームの職員さんに感謝の気持ちを伝えるにはどうしたら良いかといったことだ。これらのことを考えるヒントになるかもしれないと思って本書を読んでみた。本書を読んで強く思ったのは、介護をする方もしてもらう方も、介護というものが非常に個別性が強いということ。また本書で気付かされたのは、介護付き老人ホームというものが自宅介護の延長にあるということ。この二つを含めて、色々参考になることの多い一冊だった。(「誰も書かなかった老人ホーム」 小嶋勝利、祥伝社新書)

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時鐘館の殺人 今邑彩

こちらもネットで入手した一冊。著者の短編集はこれで6冊くらい目だが、今のところすぐに手に入るのはこれが最後みたいだ。いつも通り、バラエティに富んだ作品が並んでいて、しかもどれも面白い。特に本書では、表題作と「黒白の反転」の2作が面白かった。すでに入手済みの長編を読みながら、他の短編集の復刻を待ちたい。(「時鐘館の殺人」 今邑彩、中公文庫)

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中野のお父さん 北村薫

自分の記憶では、著者の本は何冊も読んでいて、どれも大変面白かったはず。しかし、試しに2007 年から続けているこのブログを検索してみたら著者の本は一冊しかヒットしなかった。このブログを始める時に悪口だけになってしまう記事は書かないと決めた。基本的にどうしても悪口だけになってしまう本以外、読んだ本の大半を記事にしている。著者の本が悪口だけということは考えられないので、この10年で読んだ著者の本は多分本当に一冊だけということで、自分の記憶に間違いがなければ、それ以外はブログを始める前に読んだということだ。ということで、久しぶりに読んだ著者の本書、相変わらず非常に面白かった。何故だか分からないが、著者の本、面白いと知りながらエアポケットのように読まずに過ごしてきたらしい。ここ10年に出た著者の本をこれから何冊も読めると思うと、悔しいというよりも本当に嬉しい。(「中野のお父さん」 北村薫、文春文庫)

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通り魔 結城昌治

「昭和ミステリールネサンス」と銘打った復刻版シリーズの一冊。一番古い短編は50年くらい前の作品だ。この作家の作品を読んだ記憶はないが、当時の人気作家だったので、団塊の世代の人たちの再読を当て込んだ復刻なのかもしれない。内容は、ホラーのようなものから本格的なものまでバラエティに富んでいて楽しかった。夫婦間の事件が多いのは、亭主関白といった前時代的な存在が崩れてきた頃に書かれたものだからかもしれない。そうしたことも含めて時代をしっかり感じさせる一冊だった。(「通り魔」 結城昌治、光文社文庫)

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ビブリア古書堂の事件手帖8 三上延

人気シリーズの第8作目。これまでの作品に登場した人たちの後日談であると同時に、主人公達のその後が描かれた短編が4つ収められている。そのうちの1つである「雪の断章」は、久し振りに自分の読んだことのある作品が主題に取り上げられていて、しかも「ミステリーとしては不自然な部分もあるが主人公の成長物語として読むとこれまでに味わったことのないような感動的な作品」と、ほとんど自分の感想と同じことが書かれていてビックリした。シリーズとしてはほぼ完結という感じだが、人気シリーズだけに、果たして綺麗に終わることができるかどうか、少し心配だ。(「ビブリア古書堂の事件手帖8」 三上延、メディアワークス文庫)

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そもそも島に進化あり 川上和人

著者の本は本書で3冊目だが、今回も期待通りの面白さだった。色々な知識を与えてくれる内容の面白さはもちろんのこと、前作同様、イラストの楽しさ、頻繁に登場するサブカル知識のユーモアなどが満載の絶妙な一冊だ。本書では、島とは何か、島にどうやって生物が流れ着くのか、島という特殊な環境で生物たちがどのように進化していくのか、そしてその生物たちの運命は、と話が進む。そして最後の大団円では、島という舞台の鳥類を研究する学者として、人と自然の関わり、学問のあり方にまで話が及ぶ。楽しくて為になる珠玉の一冊だ。著者の本は図鑑のような本を除く読み物的な本に限ると、あと一冊しか未読がないようだ。もちろんそれを読むのは楽しみだが、その後、似たような本を探すのにはどうしたらいいかが悩ましい。(「そもそも島に進化あり」 川上和人、技術評論社)

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人体 NHKスペシャル取材班

映像技術の進歩とそれによって触発された人体に関する生化学の進歩を分かりやすく教えてくれる解説書。読んでいて新しい知見に驚きの連続だった。本書は、エピジェネティックス、バイオイメージングという2つの言葉に要約されるだろう。エピジェネティックスとは、生物が環境によって遺伝子で決定されたものとは違うものに変化していくという細胞レベルでの柔軟性のことで、最近そうした発見が相次いでいるという。いわば「獲得形質は遺伝しない」というこれまでの常識のアンチテーゼだ。もう1つのバイオイメージングとは、映像技術の進歩によって生物を細胞レベル分・レベルで観察・記録できるようになったこと、すなわち細胞社会の可視化だ。これにより、直接新しい発見があったと同時に、研究者達に対して目標の可視化を通じたモチベーション向上をもたらしたという。この2つにより、生物というものを細胞レベルで見た場合、これまでの常識とは全く次元の違う柔軟性を持って絶えず自分自身を変化させていることが明らかになってきているらしい。TV番組の製作者らしい視点・矜持だが、それが科学の進歩に大きな貢献をもたらしているであろうことが読者に伝わり、感銘を覚える。本書には図版が一枚もないので、とにかくその番組を見たくなる一冊だ。(「人体」 NHKスペシャル取材班、角川文庫)

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明日はいずこの空の下 上橋菜穂子

好きな作家のエッセイを読む理由はいくつかある。まずとにかくその作家の文章が好きで、何でもいいからその作家の文章を読みたくて読む。経験的にはこれが一番多いかもしれない。次に、その作家が好きなのはその作家の感性が自分と似ているからであろうと推察し、その作家の文章ならば多分面白いだろう、ハズレる確率が小さいだろうと思って読む。本書の場合はほぼこれに該当する。3つ目は、そのエッセイの中にその作家の創作の秘密が垣間見られるかもしれないと思って読む。これは多分に結果論になってしまうが、本書でもいくつかそんな記述を読むことができた。本書は、とても軽いエッセイ集だが、そうしたら3つの理由全てを満たしてくれる一冊だった。(「明日はいずこの空の下」  上橋菜穂子、講談社文庫)

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絶対安全剃刀 高野文子

ニューウェーブといわれる作家の作品集。先日TVを見ていたら、ある漫画家が、自分に影響を与えた一冊ということで本書を紹介していた。漫画界では、つげ義春などと並ぶ伝説的な存在とのこと。読んでみて、やはりその表現方法の多彩さ、非凡さに目を奪われた。ある作品について、あとがきに「階段を描く構図だけでそれを降りる人物の足元の不確かさが伝わってくる」とあったが、まさにそんな感じだ。しかも作品によって画風やタッチがガラリと変わる。漫画という媒体の可能性を果てしなく感じさせる作品群が多くの作家に影響を与えたんだろうなぁと思った。(「絶対安全剃刀」高野文子、白泉社)

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日本史のミカタ 井上章一他

ベストセラー「京都ぎらい」の著者と、テレビで見たことがある歴史学者の対談集。京大と東大、歴史を専門としない学者と歴史を専門とする学者という対照的な学者の組み合わせが面白そうなので読んでみた。歴史を専門としない学者が直感と推論から仮説を提示し、それを史料の検証を長年積み重ねてきたもう一方の学者が反論したり補足したりする。そのやりとりが、予想通り面白かった。東大と京大の戦いは、邪馬台国論争などでそういうものが歴史学会にあることは何となく知っていたが、他にも色々あることがわかった。素人の自分には、直感を大切にした仮説の方に与したいことが多かったような気がする。歴史学者の方は、学界では比較的派閥のしがらみを超えて発言している人のようなのだが、それでも師弟関係などからは完全に自由になれない、そんなことを感じた。いずれにしても、企画の勝利という一冊だ。(「日本史のミカタ」 井上章一他、祥伝社新書)

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