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超老人の壁 養老孟司・南伸坊

ユニークな人柄で知られる人の対談集の第2弾。対談集といっても話題を持ちかけるのは大半が養老先生で、南さんはもっぱら聞き役だ。その南さんの合の手も養老先生の話を上手に引き出すという感じではなく多分に感覚的で、話が噛み合っているかどうかもわからないまま会話が進む。これがこの2人ならではのゆるい雰囲気を醸し出す。本書で一番面白かったのは「トゲナシトゲトゲの仲間にトゲのある種類が見つかった」といくだり。面白すぎて思わずにやついてしまった。(「超老人の壁」 養老孟司・南伸坊、毎日新聞社)

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祈りのカルテ 知念実希人

研修医である主人公が、様々な医局での研修中に遭遇する事件や患者にまつわる謎を、患者と真摯に向き合いながら解明していく医療ミステリー集。謎や事件が多様であること、主人公が色々な問題に直面しつつ謎を解き明かしていくことによって自身も成長していくこと、などがこの作品の大きな魅力だ。医療に携わる人々の現場での苦労や悩みに関するエピソードも満載で、現役のお医者さんという著者の経歴がその他の著者のシリーズ作品と比べてもさらに大きな利点として活かされていると感じる1冊だ。(「祈りのカルテ」 知念実希人、KADOKAWA)

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日本よ、カダフィ大佐に学べ 高山正之

本書は雑誌連載コラムシリーズの7冊目。本シリーズは、雑誌の連載がある分量溜まるとそれが単行本になり、さらに数年して文庫になるので、それを読むというパターンで、本書はちょうど東日本大震災の前後に書かれたものが掲載されていた。震災前後の記事を読むと、震災に関する記述はもちろんあるがそれほど多くはなく、内容もいつも通りの日本の弱腰外交への批判が大半だ。その点は全くブレがないのがすごいし、7年経ってもその批判が古く感じられないのもすごい。賛否は色々あるにせよブレないことの凄みを感じる一冊だった。(「日本よ、カダフィ大佐に学べ」 高山正之、新潮文庫)

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黒龍荘の惨劇 岡田秀文

作者の明治時代を舞台にしたシリーズの第2作目。明治という時代設定を上手に生かして、科学捜査に頼らない探偵が登場、本格推理小説にありがちなある種の不自然さを回避しているのが特徴だ。登場人物はあまり多くないにもかかわらず最初の100ページで3人が殺されてしまってびっくりしていると、その後も次から次へと思いがけない展開に。事件の全体像が全く見えないまま、最後に明かされる真相は、動機も含めて予想をはるかに上回る意外なものだったが、巻末の解説で、その結末が実際の事件を借景にしていると知って絶句した。(「黒龍荘の惨劇」 岡田秀文、光文社文庫)

 

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日本軍兵士 吉田裕

第2次世界大戦の戦中史を、兵士の立ち位置、兵士の目線、日本陸海軍の特性が兵士にどの様な影響を与えたか、という3つの中心に据えて描いている本書。最初の方で記述された戦場における兵士に対する歯科治療事情にまず衝撃を受けた。戦場での兵士の環境の劣悪さは、色々話に聞いてきたし、ある程度想像できると思っていたが、こうした問題があったことは予想も出来なかった。その他、兵士の履く靴の事情、背負った荷物の平均重量、戦線を離脱するための自傷行為、結核の蔓延とそれを利用した兵役逃れなど、想像を超える事実の羅列に圧倒される。著者は自分と同じ戦後生まれだが、そうした我々にも語り継ぐことが出来ることが色々あるのだとしみじみ分からせてくれた一冊だった。(「日本軍兵士」 吉田裕、中公新書)

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青くて痛くて脆い 住野よる

やがて訪れるであろう悲劇の予感から、読んでいて切なさ、息苦しさを感じ、読み終えてしばしどこかに救いはないだろうかと考えてしまった。理想を持ち、自分を尊重し、理想に向かって行動する、そうした正しいとされることをしながら、他人を傷つけてしまう主人公。そうした正しさにも全て「他者との関わり」がある以上、それを単に「独りよがり」という言葉で片付けずに避けたり折り合いをつける道はないのだろうか。特に、「理想に向かって行動する」ところで、現代のネット社会ならではの「他者との関わり」、主人公の行動がネットで拡散していく事情が、その難しさを大きくしてしまっている。それがこの小説の現代性だ。色々言われているのとは違った意味での現代社会の生きにくさがここに表現されている。(「青くて痛くて脆い」 住野よる、角川書店)

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2018年本屋大賞 結果発表

2018年の本屋大賞が発表された。事前に予想を始めて10年近くになるが、今年は印象深かった本3冊をあげてそれらが1、2、3位と、例年になくピタリと当たってしまった。嬉しい気もするが、上位3冊が抜きん出ていたというわけでもないので、偶然に近いかもしれない。今年の話題は、全く注目されていなかった作品が翻訳小説部門で1位になったことらしい。新聞でも、本屋大賞そのものよりも、そのことが大きくあつかわれていた。元々苦戦を強いられている翻訳小説、これをきっかけに活況を取り戻してくれると嬉しいが、そうなるかどうかは、今回の受賞作品次第だろう。何かの賞を受賞した翻訳作品やSF小説を読んでガッカリというパターンがこれらのジャンルの苦境の大きな原因だと思うからだ。

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化学探偵Mr.キュリー7 喜多喜久

シリーズの第7作目。本書では、主人公の若い頃の話を織り込んだりして、読者を飽きさせない工夫がいくつか見られるが、その一方でミステリーの要素がこれまでになく薄まってしまっているようでそれが残念だ。もしかすると想定する読者層を少し下げたのではないかとさえ思えるが、これまでの読者は成長もするし目も肥える。その点では、飽きさせないための作風変更の方向が逆のような気がして残念だ。(「化学探偵Mr.キュリー7」 喜多喜久、中公文庫)

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「イスラム国」はよみがえる ロレッタ・ナポリオーニ

イスラムに関する啓蒙書を続けて2冊読んだが、イスラム教に対する見方が180度違うことに驚かされた。先日読んだ本は、イスラム教の教義を読み解くことで現在のイスラム国家の混乱と「イスラム国」の脅威を描き出していたのに対して、本書は、彼らの戦略や戦術をつぶさに描くことで、世界がそれにどう対応するべきかを考察する。個人的には先に読んだ本の方がイスラム教の本質が近代的な民主主義と相容れないものであるということを教えてくれていて、考えさせられた部分が多かった気がする。全く違うアプローチの2冊ではあるが、両者に共通しているのは、このままでは絶対に混乱が収束しないという見解だ。この2つの見方を結びつけた上で、対応策を考えることができるかどうかに、世界の命運がかかっているように思われる。(「イスラム国」はよみがえる」  ロレッタ・ナポリオーニ、文春文庫)

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魔力の胎動 東野圭吾

空想科学ミステリーと銘打った前作「ラプラスの悪魔」の前日談という本書。前日談というよりは、それを補完する様々なエピソードが語られている連作集だ。最初の2作品は、スキーのジャンプ、野球のナックルボーラーが登場する軽めの小編だが、その後からの作品が前作と連動していて、どんどん迫力ある内容になっていく。この作品は前作と合わせて文句なく著者の作品の中でも忘れがたい傑作だと思う。このシリーズ、次があるとするとどんな展開を見せるのか予想もつかないが、是非次を読みたい。(「魔力の胎動」  東野圭吾、角川書店)

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迷蝶の島 泡坂妻夫

本書も最近の泡坂ブームを背景に版元を変えて復刻された昔の名作とのこと。ある事件が、2人の当事者と操作に当たった関係者の視点から描かれている。事件そのものは比較的単純で、凝った叙述トリックなどもないのだが、何故か事件の真相はおろか、誰が加害者で誰が被害者なのかまでもが最後まで謎だ。最後のドンデン返しもさほど奇抜ではないが、単純な仕掛けに最後まで翻弄された。解説にある通り、全ての謎がたった4つの棒で解けてしまうのを知り、上手なマジシャンにしてやられたような爽快さを感じた。(「迷蝶の島」 泡坂妻夫、河出)

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だから居場所が欲しかった 水谷竹秀

ノンフィクションの本を色々物色していて偶々見つけた一冊。タイ、バンコクのコールセンターで働く人々の現在と過去を丹念にヒヤリングしたノンフィクションで、彼らが日本にいられなくなった事情、バンコクで働くことになった経緯、その中でも特に何故コールセンターなのかといったことが克明に描かれている。日本で居場所を見つけられないいわばアウトサイダーの人々履歴を辿ることで、日本社会の閉塞や不寛容といった問題点が克明に映し出される。世界の国々の幸福度調査で日本の順位が先進国中で下位に位置するといったニュースを良く見かけるが、本書を読むとそうした評価が妙に納得できてしまう。日本も先進国としてのプライドとかこれまでの成功体験を一旦反故にして、この状況からの打破に立ち向かう必要があることは間違いない気がする。(「だから居場所が欲しかった」 水谷竹秀、集英社)

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オリジン(上・下) ダン・ブラウン

待望のラングドン教授シリーズ第5弾。教授の教え子である天才科学者が宗教と科学の対立に終止符を打つ大発見をしたというのだが、それを公表する場でその内容を明らかにする前に暗殺されてしまう。暗殺への関与を疑われた教授が、多くの追っ手から逃げながら、その大発見の内容を解き明かそうと奮闘。その過程で出くわす幾多の観光名所と暗号。本書は、こうしたダヴィンチコードからの決まりごとを忠実に守りながら、全く別のしかも飛び切り面白い話になっている。教授が辿り着く答えも期待を裏切らない衝撃的なものだし、教授を助けるのがAIなどの高度なテクノロジーだというのもの本編のテーマに深く関わっていてお見事。今回はスペインが舞台だが、いつの日か日本を舞台に教授が活躍してくれる日が来ますように、とますます願う。(「オリジン(上・下)」 ダン・ブラウン、角川書店)

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イスラム教の論理 飯山陽

読んでいて、とにかく驚きの連続だった。昔読んだイスラム教に関する啓蒙書は、イスラム教について、「厳しい戒律というイメージがあるが、実際は臨機応変な解釈が可能な穏健な宗教である」ということが強調されていて、てっきりそうだと思い込んでいたのだが、本書に書かれたイスラム教は全くそれとは違うものだった。本書で書かれたイスラム教は、多神教や間違った社会を排するという目的に関しては全く妥協しないものだという。イスラム教国家における過激派による凄惨な事件は、イスラム教同士の内紛だという解釈は全く違うと教えてくれる。間違った社会を正すことが正義であるということであれば、イスラム教国家で事件が多いのは、単にそこにイスラム教徒が多いからということになる。しかも自爆というジハードという行為には、天国の切符が約束されているという。また奴隷制度についても、それを是とするのが本来の教義だという。今までに読んできたイスラム教に関する本と本書はなぜこんなにも違うのか?本書に最初に書かれているように、それは、これまで書かれてきたイスラム教に関する啓蒙書が、社会学者や歴史学者によるものか、宗教学者によるイスラム教礼賛のどちらかが大半だからだとのこと。そう言われてみれば、そこに大きな落とし穴があったことは明白だ。多様な相手を知ることの重要性を改めて感じざるを得ない一冊だった。(「イスラム教の論理」 飯山陽、新潮新書)

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その犬の歩むところ ボストン・テラン

最近あまり海外の小説を読んでいないなぁと思い、確かめてみると、昨年読んだ海外の小説は10冊にも満たなかった。手元には積読の海外作品が10冊以上溜まっているのだが、最近どうしても海外の小説は後回しにしてしまう傾向がある。なかなか良い作品に出会えないのが理由のようだ。本書の内容は、GIVと名付けられた犬とそれに関わった人々の波乱に満ちたストーリー。9.11・カトリーナ台風・湾岸戦争といったアメリカ史に残る大事件に翻弄される人々と、そうした人々と深く関わりながら誇り高く生きていく主人公の犬。心温まるアメリカ讃歌という要素が強い作品だが、そのなかに運命に傷ついたり悲しんだりしながらも誠実に生きる人々が描かれていて心を打つ。(「その犬の歩むところ」 ボストン・テラン、文春文庫)

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