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特捜部Q~檻の中の女 ユッシ・ エーズラ・オールスン

人に勧められて読むことにしたシリーズものだが、期待通りの面白さだった。2002年と2007年の出来事が交互に語られる形式になっていて、読み進めていくうちに、だんだん2つの物語が進行していくとそれがどこかで交わる時が来るのだと判る。そして、その2つのストーリーが交わるところで事件の謎が明らかになるのだろうと考えると、どんな結末になるのがそれが知りたくて仕方がなくなる。語り口はどちらかというと静かだが、そのスリルはこれまでにあまり味わったことのないものだ。第4作まで日本語訳が刊行されているが、主人公に関する事件にまつわる謎も残されたままだし、非常に魅力的かつ謎の多い主人公のアシスタントの活躍も期待され、次作への期待が非常に大きい1冊だ。(「特捜部Q~檻の中の女」 ユッシ・ エーズラ・オールスン、ハヤカワミステリ文庫)

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おれは非情勤 東野圭吾

小学校を舞台にしたミステリー連作集。著者がブレイクする前の玉石混交だった時代の作品だが、読んでみると、やはり話の展開が上手だなぁという印象が強いし、謎の部分も少年少女向けの作品にも関わらず大変面白い。巻末の解説を読んで驚いたのが。本作が「小学校5年生」「小学校6年生」という月刊誌に連載された作品だったということだ。第1作目では、突然の殺人事件だし、小学校のクラスにはびこる野球賭博の話だったりで、連載当時、保護者から苦情があったということだが十分頷ける話だ。解説には書いていないが、読者である小学生の評判はどうだったのだろうか、そのあたりが知りたい気がする。(「おれは非情勤」 東野圭吾、集英社文庫)

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生命と記憶のパラドクス 福岡伸一

大好きな著者のエッセイ集。これまでに読んだ著者の本に比べると、かなり「ライト」な内容だが、著者の薦める映画や小説やCD等の話が読めて、ファンにはたまらない本だ。ものの色には色素色と構造色の2種類があるという話や、「ふっくらブラジャー」という元素の周期律表の覚え方の話などは、著者ならではの面白さという気がする。また、こうしたエッセイを読むと、著者の来歴のようなものが浮かび上がってくるが、世代が自分と近い著者の思い出話などを読むと、自分と同じところや違うところが色々見えてきて、それが楽しく感じられる。(「生命と記憶のパラドクス」 福岡伸一、文藝春秋社)

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ラノベのなかの現代日本 波戸岡景太

このブログでも何度か書いてきたが、私の好きな作家の中には、何人かライトノベル出身の人がいるし、読んだ本の中にはライトノベルに含まれる作品も多い。このジャンルが、かなり特殊な進化を遂げていて、さらに普通の小説との境界が少しずつ曖昧になってきているという実感もあり、「そもそもライトノベルとはj何なのか」をもう少しつきつめてみたいと常々思っていた。そうした気持ちでいたところで、ちょうど良さそうな本書を見つけたので読んでみた。本書は、著者自身が、ライトノベルをあまり読まない大人向けに書いた本であると言っているが、それにしては、ライトノベルを読んだことのない読者にとってはあまり親切な書き方にはなっていない。ライトノベルを少しは読んだことのある自分でさえ、本書で引用・言及されている作品の本の僅かしか読んだことがないし、題名すら聞いたことがないものばかりで、それがほとんど解説もなく言及されている。著者自身は、研究対象として、それらの本を体系的に読んでいるのだろうが、そうでない読者にとっては、「涼宮ハルヒの登場がライトノベルに与えた影響」と言われても、全くピンとこないに違いない。しかし、そうしたその「親切でないこと」が、本書の欠点かと言うと、それはそうでもない気がする。親切になろうとすれば、ライトノベルの歴史とか、エポックメイキング的な作品などの解説で大半を埋めてしまえばいいのだが、読者がそれで判ったつもりになっても、ある意味読者にとっては何の役にも立たないだろう。本書を読んで、判る部分と判らない部分がはっきりして、それを理解するためにライトノベルそのものをいくつか読んでみる。そうした手順が本当の理解に必要なことであるとすれば、本書はそうした行動の「きっかけ」にはうってつけの本だ。優れた啓蒙的な研究書というのはそういうものかもしれないと感じた。(「ラノベのなかの現代日本」 波戸岡景太、講談社新書)

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珈琲店タレーランの事件簿2 岡崎琢磨

人気シリーズの第2弾。章ごとに1つの謎解きがありながら、全体として大きなストーリーがしんていくスタイルの連作でだが、何と言っても周章の方で大きな2つの読者を惑わす2つのトリックがあり、びっくりしてしまった。主人公の謎解きがやや神がかり的なので、読者が自分で推理するのを怠ってしまうと、大事なところで大きなトリックを見落としてしまうという仕掛けで、両方とも完全に騙されてしまった。ミステリー部分だけでなくストーリー部分にも別の仕掛けがあって楽しめるというのがこのシリーズの人気の秘密なのだろうと感じた。(「珈琲店タレーランの事件簿2」 岡崎琢磨、宝島社文庫)

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切り裂きジャックの告白 中山七里

本書は題名で随分損しているように思う。大昔の有名な未解決連続殺人事件の新解釈のような題名で、確かに内容とマッチはしているのだが、もう少ししゃれた題名をつければ良かったのにと思う。著者の「さよならドビッシー」や「おやすみラフマニノフ」等は洒落たうまい題名で得している部分がある一方、逆に「連続殺人鬼カエル男」や本書は題名で損をしている代表格のような作品だと思う。実際本書は、ノンストップ型のスピード感のある展開と、2重3重のどんでん返しの合わせ技で、大変スリリングかつ現代的な問題提起もばっちりという、題名から想起されるものとはかなり違う読み応えのある作品で、単純な模倣犯、サイコキラーものだと思い込んで敬遠しなくて良かったというのが正直な感想だ。(「切り裂きジャックの告白」 中山七里、角川書店)

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目白台サイドキック 太田忠司

どんな話なのか全く判らずに読んだのだが、色々な点で不思議な作品だった。冒頭から、何かの話の続きのように、曰くだらけの人物が何人も登場し、これは何かの続編なのかと戸惑う。それでも、別にシリーズものを途中から読んでしまったような情報不足感はない。何なんだろうと不思議に思いつつも、話はどんどん進み、最後に明かされる驚愕の事実を知って、やはりこれは何かの続編などではありえないことを思い知らされる。この話、シリーズ化されたらどうなるのだろうか。最後に明かされる事実の驚きは2度は使えないし、もしシリーズ化されないのならば、本編の事件とは全く関係のないこの事実がいったい何のためにあるのかが判らない。続編があるのかどうかは未確認だが、考えれば考えるほど不思議な作品だ。(「目白台サイドキック」 太田忠司、角川文庫)

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絹の家 アンソニー・ホロビッツ

本の帯に「コナンドイル財団公認のシャーロックホームズ最新作」とある。「これは読まなくては」と誰もが思ってしまう、うまいキャッチコピーだ。内外でかなり話題になっている作品でもあるらしい。ホームズの新作と言えば、TVドラマでいくつか見たことがあるが、本書の雰囲気はそれによく似ているが、ホームズのお兄さんが政府要人として登場したり、宿命のライバルともいえるモリアーティ教授がホームズにエールを送ったりするあたりは、流石に現代の小説らしく、より人間が描かれているなと感心する。最初の方で、謎だらけだったストーリーも全て上手に謎解きがなされていて、満足度の高い1冊だと感じた。(「絹の家」 アンソニー・ホロビッツ、角川書店)

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お父さんは二度死ぬ 小林昌

NHKで放映されているドラマのノベライズ本。何だか良くありがちな話のような展開で、もしかすると「イヤミス」系の本ではなかろうかと疑りながら読んでいたのだが、終盤になってたった1つの事実が判明すると、それまで見えていた景色が一変、本の帯に書かれていた「泣けるミステリー」に変貌してしまうという不思議な作品。内容は最後までありふれた話だったが、がらりと景色を変えてしまう仕掛けには脱帽だ。(「お父さんは二度死ぬ」 小林昌、泰文堂)

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珈琲店タレーランの事件簿 岡崎琢磨

ライトノベル風の表紙で、女性が主人公の職業ミステリーということで、何だか読まなくても話の内容は見当がついてしまう。そんな感じの本書。書評などでは、「人物の造形は魅力的だが」「ミステリー部分が弱い」とされていて、こうした種類の本だと、それはかなり致命的な欠点のはずなのだが、読んでみると、結構面白かった。確かにあっと驚くようなトリックなどはないし、話の途中で結末が見えてしまう部分はあるが、それはあくまでミステリー読者にとってということであり、あまりミステリーでは見かけなくなった硬い文章によって描かれる登場人物達が織り成すスト-リーは何か引き込まれるものを持っていると感じる。既に続編も出ているようなので、これから話がどう展開するのかかなり楽しみな気がする。(「珈琲店タレーランの事件簿」 岡崎琢磨、宝島文庫)

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ほのかなひかり 森浩美

ありふれた人々の日常を切り取った誰にでも共感できるほのぼのとしたストーリーの短編集。少し前に流行った「泣かせる」話が中心で、人の心をつかむのが上手なメディア関係者によって書かれた例のパターンの小説かと少しがっかりしたが、読み進めていくうちに、それぞれの話の主人公のバリエーションの多さに少し驚かされ、これはこれで良いのではないかという感じにさせられた。1つ1つはありがちな話ばかりだが、その中で色々なパターンを提示されるので、全体として満足感のある1冊になっていると思う。(「ほのかなひかり」 森浩美、角川文庫)

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聖なる怠け者の冒険 森美登見彦

著者の久し振りの新作ということで楽しく読んだ。相変わらずの森見ワールドなのだが、えらそうなことを言わせてもらうと、読んでいて、著者は何かに行き詰っているのではないかという感じを強く持った。読んでいると、京都の宵山を経験したことがなくても何故か懐かしいと思わせる世界、遠い昔のバカなことばかりしていた学生時代の思い出などが頭をよぎるのだが、著者自身がそうした世界と距離が出来てしまったようで、当事者感が希薄になってしまているからかも知れない。それともそうした小説を書いているうちに、その世界を客観視することに慣れてしまったせいかもしれない。その意味では、前作の「ペンギンハイウェイ」の方がそうした縛りのない世界を描いていて楽しめたような気がする。本書に織り込んであったチラシをみると、今年の秋・冬に著者の新刊が予定されているという。その辺で、こうした状況をどう打開してくれるのか、著者の熱烈なファンとしては、楽しみなところだ。(「聖なる怠け者の冒険」 森美登見彦、朝日新聞出版)

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田村はまだか 朝倉かすみ

かなり昔の名作という感じだが、未読だったので読んでみた。何年振りかの同窓会で、久し振りに「田村」に会うことを楽しみに待つ5人の男女とその店のマスター。なかなか現れない田村を待つ時間のちょっとした緊張感のなかで、それぞれがそれぞれの空白の時間を埋めるように話したり考えたりというシチュエーションが絶妙で、本当に小説らしい小説だ。こうした小説の場合、その「田村」が何かの象徴のように曖昧なまま終わってしまってがっかりすることが多いが、この小説は、ちゃんと実像の田村が立ち上がって、登場人物全員(と読者)を納得させる。過去と現在を結ぶ様々なエピソードの1つ1つが胸を打つ傑作だと感じた。(「田村はまだか」 朝倉かすみ、光文社文庫)

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名刀虎徹 小笠原信夫

冒頭から専門用語ばかりが出てきて、初心者を相手にしない書きぶりには少し閉口したが、読み進めていくうちに、段々慣れてきて意味も判るようになってきた。読み終えると、名前だけは良く聞く「虎徹」とはどういう人物だったのか、その特徴は何か、といったことがおぼろげながら判ったような気がした。本書はあくまで「研究書」として書かれたようだが、謎に包まれた人物だが50歳くらいの時に刀を作り始めたらしいこと、、刀の美しさではなく切れ味に拘った刀鍛冶だっこと、近藤勇・勝海舟・桂小五郎といった幕末の有名人がこぞって「虎徹」を愛用したことなど、様々な知識が身につく薀蓄本でもあり、啓蒙書でもあると感じた。(「名刀虎徹」 小笠原信夫、文春新書)

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日本人は、なぜ富士山が好きか 竹谷靭負

日本人の信仰の対象といわれる富士山について様々な角度から解説してくれる1冊。子どもに富士山の絵を描かせると、頂上をぎざぎざに描く子どもが多いと言う。その背後にある日本人の富士山に対する考え方のDNAのようなものが面白い。また、全国各地にある「ところ富士」の話、「富士山の見える場所=日本」という考え方の紹介など、興味深い話が満載だ。私自身、富士山の世界遺産登録のニュースが本書を読むきっかけになったのだが、自然遺産ではなく文化遺産として登録された背景がよくわかるタイムリーな1冊だと感じた。(「日本人は、なぜ富士山が好きか」 竹谷靭負、祥伝社新書)

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