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堕落のグルメ 友里征耶

本書は、飲食業界の裏話のような内容だと思って読み始めたのだが、すぐにそういう単純な本ではないことが判ってくる。まず、著者は、その業界の人ではなく、お客さんの立場で、現在の飲食業界を告発している人だということが判る。即ち、飲食業の関係者でその実情に精通している立場からというのではなく、業界の外側にいて、本気で業界と戦っている人なのだ。読み始めると、最初の方は、著者と著者に批判された飲食店とのとんでもないバトル、飲食店に恐喝された話とか訴訟に発展してしまった話などが数多く紹介されている。普通の読者にはついていけない壮絶な話ばかりで、面白いことは面白いが、何の役に立つのかも判らない。話はやがて、業界告発の核心部分に至る。ここにきてはじめて気がつくのだが、最初の数々の著者と飲食店のバトルの話は、著者による告発の信憑性を高めることに一役も二役もかっているのだ。最後の方は、関西の飲食業界、特に京都の和食の店に対する痛烈な批判に至り、さらには、それを放置したり増長させている関西人のグルメと呼ばれる人全てへの批判への話が進む。激烈すぎてびっくりだが、面白さは天下一品。話に具体性がないのがやや残念だが、そんなことどうでも良いと思ってしまうほど熱い内容だ。(「堕落のグルメ」 友里征耶、角川SSC新書)

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パーフェクトフレンド 野崎まど

著者の本の4冊目。この作品がこれまでの中では一番「ライトノベル」の要素が濃い作品だ。文章で書かれた独特のユーモアを読んでいると、この雰囲気を文章に出来るのはやはり著者のすごい才能なのだと感じる。案の定、この作品の主人公2人は、「2」にも登場していて、いずれも非常に重要な役割を演じている。そして最後の最後に満を持して登場する「ある人物」、これは名前からして当然なのだが、やはり既に「2」を読んでいる読者には感慨深いものがある。良く考えるとこの感慨は「2」→「本書」という刊行順とは逆の順番に読んだ人だけの感慨で、普通の順番で読んだ人には、単に「2」は本書の続編ということなのかもしれない。そのあたり、本を読む順番というある意味での偶然の面白さを感じてしまった。(「パーフェクトフレンド」 野崎まど、メデイアワークス文庫)

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なぎなた 倉知淳

2冊同時に刊行された著者の短編集の1冊。もう1冊の方は2,3か月前に読んでいて、後からそれが2冊対の本の1冊だということを知り、ようやくもう1冊の本書を読むことができた。もう1冊の短編集に比べると、ややユーモア・ミステリー的な度合いは下がる感じだが、その代わり、主人公のバラエティはこちらの方が上のような感じだ。著者の短編は色々な幅の広さを持っていて、それぞれの1冊の中のバラエティさも尋常ではないが、2冊を読み終えるとそれをさらに超えるバラエティがあることに驚かされる。(「なぎなた」 倉知淳、創元推理文庫)

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宇宙論と神 池内了

本書は、各宗教的宇宙観から現在の最先端の宇宙観までを外観してくれる啓蒙書だ。宇宙の構造の科学的な探求にあたって、宗教がどのように探求の熱意の源泉になったり妨げになったりしたのかが判るし、新しい宇宙観を考える人が、「神様はどこにいるのか」「神様がそのような宇宙にした意図は何か」を意識せざるを得なかったというところが大変面白い。特に面白かったのは「人間原理の宇宙論」のくだりだ。宇宙の原則ともいうべき、「重力の強さ」「次元の数」「光の速度」といったものが、どうしてその数字になっているのか、そこに神の意志はあるのかという問いかけに対する1つの考え方を今の宇宙論は提示してくれるという。要するにそれらの値がその数字でない宇宙の可能性は無限にあるのだが、その数字(の組み合わせ)でないと観察者たる人間が「発生」しないのだという考え方だ。そういう意味ではこれらの数字は偶然ではなく必然と言うことになる。いわば究極の無神論をみたような気がする。最高に面白い1冊だった。(「宇宙論と神」 池内了、集英社新書)

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どちらとも言えません 奥田英朗

作家の方には大変無礼な言い方かもしれないが、私としては、この作家、小説よりもエッセイの方が好きになってきてしまった。小説を全部読んだわけではないのでそう感じてしまうのかもしれないが、ひねりのきいた思考を文章にして楽しく読ませてくれるエッセイは結構どこにでもあるような気がするが、何故か他とは違う魅力を感じてしまう。そうは言っても、本書のように面白いエッセイを読めば読むほど、正直な気持ちとして、面白い小説をもっともっと書いて楽しませてほしいとも思う。本書を読んでいると、スポーツというものについて「ああでもないこうでもない」と色々話ができる、我々がそうした話をしたり聞いたりできる環境にある、それを楽しく再確認できる、それだけでスポーツというものの存在意義があるように感じてしまう。(「どちらとも言えません」 奥田英朗、文春文庫)

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2 野崎まど

著者の本はこれで3冊目。例によって、SF的な薀蓄がちりばめられていて、それが作品の大きな要素になっているのが楽しいし、独自の世界観のようなものもあり、「ライトノベル恐るべし」と思わず唸ってしまう1冊だ。ストーリーの「1」「2」あたりまでは、内容の破天荒さがあまり気にならないほど、物語の中に入り込める作品のように感じたが、最後の「3」でうまく話をまとめようとしすぎたせいか、やや話がおかしな方向にいってしまい、ややついていけないような気がした。2冊目に読んだ作品同様、最初に読んだ「Know」のような衝撃はないが、この大胆不敵な題名といい、「創作とは何か」を追い続ける見事なストーリー展開といい、ますますこの著者の底知れなさを見たような気がした。なお、本書には、2冊目に読んだ作品の舞台になった学校が登場していて、そのほかにも著者の別の作品の登場人物が出ていたりしているようで、本書は、著者のこれまでの作品の集大成のような位置づけの作品ということのようだ。(「2」 野崎まど、メディアワークス文庫)

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胞子文学名作選 田中美穂

このブログを書き始めて7年、初めて読んでいない本を取り上げることにする。しかも、本書は多分しばらくの間、眺めるだけで読まないことになるだろう。本の名前は「胞子文学名作選」。出張先の名古屋の本屋さんに立ち寄ったら、偶然、「奇跡の装丁」と話題になった本書の現物を見つけた。もちろん現物を見るのは初めてだし、手にとって見ることができるとは思っていなかったのでびっくりした。「奇跡の装丁」本の「奇跡の重版」という趣旨の張り紙はしてあったが、普通に本棚に置かれていた。イメージよりもやや小ぶりで、見た感じも意外に普通っぽい。「装丁」が命というだけあって、1冊1冊しっかりビニールのカバーが施されて陳列されていたが、1冊だけ見本用で中身をみることができた。しばらく手にとって眺めた後、カバーのついた1冊をレジに持っていき、無事入手した。カバーを外さなければ読めないのだが、カバーを外す気には当分なれそうにない。もう1冊買って、読書用と保存用にするという手もあるがそこまでするのもためらわれる。しばらくはこのままにしておこう、その間読めなくても仕方ない、と思うことにした。こうなると、本書の姉妹本「きのこ文学名作選」も手にとってみたい。(「胞子文学名作選」 田中美穂、港の人刊)

 

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死なない生徒殺人事件 野崎まど

著者の作品は2冊目。著者の本は5,6冊文庫本で出ているのだが、なかなか入手できず、ネットで頼もうかと思っていたら、たまたま全作品が揃っている本屋さんを見つけてまとめて入手した。そのなかから取敢えずミステリーっぽい題名のものからと思い、読んだのが本書である。かなり奇妙な設定だが、物語が厳格に時間通りに進んでいくのと、判りやすい文章で、すんなり読み終えることができた。SF風の薀蓄、びっくりするような結末が楽しい1冊。最初に読んだ「KNOW」のような衝撃はなかったが、最後に明かされる事件の動機といい、犯人の意外な告白といい、やはりこの作者は只者ではないと思わせる魅力にあふれた1冊だった。(「死なない生徒殺人事件」 野崎まど、メディアワークス文庫)

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ジャック・リッチーのあの手この手 ジャック・リッチー

著者の本は「クライムマシン」に次いで2冊目。前作の「クライムマシン」「エミリーがいない」の印象が強烈で、期待が大きすぎたせいかもしれない。本書を読み始めたところでは、「あれっ?たいしたことないかも」と思ってしまったが、数編読んでいるうちに「やっぱりこれはいいぞ」と感じるようになってきた。南北戦争の話などあまりぴんとこない題材の作品も混じっているが、どれも一筋縄ではいかないまさに「あの手この手」で読者を楽しませるひねりのきいたお話ばかりで、楽しい時間を堪能した。日本独自の短編集とのこと、海外での評判は良く判らないが、全世界的に再評価されてもおかしくないと感じる作家だ。(「ジャック・リッチーのあの手この手」 ジャック・リッチー、ハヤカワミステリー)

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ふるさと銀河線 高田都

みをつくしシリーズの著者による現代を舞台とした短編集。舞台は北海道、東京、関西と様々だが、一貫しているのは、ちょっとした食事の風景や料理に関するエピソードが織り込まれていることで、そこには明らかにみをつくしシリーズに繋がるものがある。ありがちな設定のものもあるが、全体としてはシリーズで慣れ親しんだ雰囲気を感じさせてくれて、それだけで少し嬉しくなる。(「ふるさと銀河線」 高田都、双葉文庫)

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イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか 宮田律

日本人とイスラム国家との結びつきを示すエピソードがふんだんに盛り込まれていて、新しい発見が楽しい1冊。イスラム人の乗った船が日本の沖で難破した際に沿岸の住民が献身的に救助した話などは既に聞いたことがあったが、終戦後にパキスタンがいち早く日本との国交を樹立してくれた話等は初耳の内容で大変ためになった。全体としては、章だての内容から少し外れたような話があったりして、あまり整理されていないようにも感じるが、それがまた「そういえばこういう話もあるよ」という感じで一杯ものを知っている人から話を聞いているような和やかさがあって良い。(「イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか」 宮田律、新潮新書)

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浜村渚の計算ノート5 青柳碧人

相変わらず本屋さんで購入するのが恥ずかしいような表紙だが、恥ずかしさの度合いがますます強くなってきた。本書の表紙の基調の色がピンクっぽいということもあるが、シリーズの5冊目ということが一目瞭然の題名なので、「もう5冊も読んでいるということはかなりのファンなのだろう」と思われてしまうからだ。別に大好きで新しいのが出るのを待ち望んでいるというようなコアなファンではないのだが、色々手を変え品を変えて楽しませてくれるし、今度はどんな数学問題が関わってくるのかが少し楽しみで、つい恥ずかしさを堪えて買ってしまうのだ。なお、今回の作品集は、「聞いたことがないが判り易く面白い数学問題が取り上げられている」という特徴がここ2,3作よりも強くなっているようで、楽しめたし、良い方向に変わってきているなという感じがした。(「浜村渚の計算ノート5」 青柳碧人、講談社文庫)

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豆の上で眠る 湊かなえ

かなり現実離れした結末だが、そこまで読ませるリーダビリティの凄さに、ある程度のご都合主義もあまり気にならなかった。著者の作品の良さは、一言で言うとそんなところにあるのではないかと感じた作品だ。本書の内容は、2つの現実に起こった事件が絡み合って構成されているが、その事件の関係者に対して想いを馳せていくと、何ともいえない厳しい現実がそこにはあるのだということを思い知らされる。そこにあるのは、ある犯罪があった場合、事件が解決して事件前の状態に戻っても、あるいは犯人が捕まっても、回復し得ない傷が残るという現実だろう。(「豆の上で眠る」 湊かなえ、新潮社)

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本屋大賞 結果発表

今年の本屋大賞が発表され、大賞が「村上海賊の娘」、第2位が「『昨夜のカレー、明日のパン」となった。私が「放送作家の作品」という理由で真っ先に対象から外した2作品が1位2位ということで、今年も結果は惨敗だった。昨年もそうだったが、自分の感性と世の中の感性の乖離は如何ともしがたいようだ。最近、作家の海堂尊が「本屋大賞が小説の売り上げに悪影響を与えている」と批判している文章を読んだ。彼の主張は賛同できる部分がほとんどだが、私にとっての「本屋大賞」というのは「新しい小説・新しい作品に出会うきっかけづくり」という、彼の主張とは全く接点のない大きな意義を持っている。文学界に悪影響があるというのは困るが、単純に本の広告宣伝と割り切って考えれば、「本屋大賞のノミネート作品を発表前に全部読む」という規則を自分に課して予想して結果を待つことは結構楽しい年中行事になっている。

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鉄はこんな旅をしている 野田隆

本書は、東京から関西まで新幹線やロングシートの電車を使わずに乗り継いでいく旅、半島をぐるりと一周する旅など、目的地に着いた後ではなくその旅程そのものを楽しむというコンセプトの色々な旅について教えてくれる。どれも比較的簡単に出来そうで、しかも面白そうだ。愛知県の2つの半島をぐるりと回る話などは、今度の週末にでもすぐにできそうな感じで、旅ごころをそそられる。(「鉄はこんな旅をしている」 野田隆、平凡社新書)

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