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オンライン講義 変形菌のワンダーランド

日本変形菌研究会の研究者川上新一氏による変形菌についての講義をオンラインで視聴。内容は、変形菌の生活環、生態などの分かりやすい解説で、しかも色々びっくりするような話もあって、とても面白いあっという間の1時間半だった。こうした研究に没頭する人ということで少し変わった人ではないかと勝手に想像していたが、氏が「粘菌探しの醍醐味は何が見つかるか予測不能なことが多いこと。いわば一期一会、宝探しのようなもの」と語るのを聞いていると、研究への熱意が子どもの時の純粋な好奇心に裏打ちされていることが分かってとても清々しい感じがした。

(変形菌とは)
単細胞だが様々に形を変える粘菌の一種。分類的にはアメーバー動物。世界に1000種、日本に600種ほど生息。
別名:森の魔術師、森の宝石、森の妖精
(生活環)
胞子→(発芽)→粘菌アメーバー→(分裂)(接合)→接合子→(核だけが分裂)→変形体→(餌なし、日光を契機に)→子実体(胞子形成)
(特徴)
胞子 10ミクロン、成層圏まで飛ぶ
粘菌アメーバー バクテリアや細菌を食べる、水が多いと鞭毛を持つ遊走子に変化して泳ぐ
接合子 違う性同士で接合、どんどん大きくなる、核だけが分裂
変形体 大きくなってカビ、アメーバー、キノコを食べるようになる。移動可
子実体 子嚢(中に胞子)
(生態)
○生息地( 腐朽木、腐葉土、樹皮)○胞子の運び手( かぜ、雨、昆虫) ○種類 (場所によって多彩、好雪性のものも) ○餌 (バクテリア、キノコが好き) ○役割 (落ち葉や朽木の分解を遅らせて土の保水効果を維持する役割=仮説)
(トリビア)
7つの性がある、海中にもいる、中南米ではフライで食べる、一億年前の琥珀から見つかっている。
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スポーツウォッシィング 西村章

題名の「スポーツウォッシィング」という言葉、初めて耳にする言葉だったが、「スポーツの爽やかで健康的なイメージを利用して社会に都合の悪いものを覆い隠し洗い流してしまう行為」という意味で、特に欧米でここ数年よく使われるようになった言葉とのこと。行為の主体は主にその時の政治体制で、古くはヒトラーが1936年のベルリンオリンピックを国威発揚、ユダヤ政策隠匿のために利用したなどがそれにあたる。その後も、東西冷戦下の1980年モスクワオリンピック、1984年ロサンゼルスオリンピック、近年のサッカーワールドカップなど、政治に翻弄されるスポーツ大会が相次ぎ、それを問題視する言葉として「スポーツウォッシィング」という言葉が一般的になりつつあるとのこと。本書では、何故日本ではまだこの言葉が一般的でないのか、日本のメディアは何故この言葉を全く使わないのか、2021年東京オリンピックの汚職問題などの不祥事とスポーツウォッシィングの関係、スポーツ選手のドーピングとこの言葉の関係、スポーツ選手に名誉とお金を引き換えに政治や人権に関する発言を封じる圧力の深層など、この言葉を巡る諸問題について色々なことを教えてくれる。この本を読むまでは、自分も「スポーツと政治は切り離したほうが良い」と単純に考えていたが、それが本当の論点でないことに気付かされた。様々な要素が絡み合ったこの問題、すぐに解決することは困難だが、オリンピックで国歌斉奏や国旗掲揚をやめてみるなど、本書に示された小さな改革が実施されれば少しずつ変化していくかもしれないと感じた。(「スポーツウォッシィング」 西村章、集英社新書)
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君を守ろうとする猫の話 夏川草介

著者の小説は何冊も読んでいるが、医療関係でないのは本書が初めて。本屋さんの新刊コーナーで見かけて面白そうなので読んでみることにした。内容は、喘息の持病がある本好きの中学生が、通い詰めている図書館から異界に紛れ込むというファンタジー小説だ。読書という習慣がどんどん少なくなっていく社会、コスパ重視で速読や要約本が好まれる社会、自分重視とか自由にという美辞麗句の元に人を蹴落としてでも得たいものを得ようとすることを是とする社会。こうした社会の変化に勇気を持って抗う主人公の活躍が描かれている。なお読んでいて過去に何かあったらしい人物が何人か登場し、しかもその辺りの事情が曖昧な表現に終始しているのでネットで確かめたら、本書はシリーズものの2作目で、本の帯にもちゃんとそう書いてあった。順番通りに読んだ方が良かったのか、順番にあまり関係ないストーリーなのかよく分からないが、衝動買いで面白い本に出会えることも多いので、まあいいかなと思った。(「君を守ろうとする猫の話」 夏川草介、小学館)
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聖乳歯の迷宮 本岡類

日本人研究者がエルサレムでイエスの聖遺物の可能性がある乳歯を発掘するところから始まる歴史ミステリー。同じ頃、その研究者の同級生が日本の青ヶ島で地元の伝説の調査中に謎の死を遂げる。この2つの事件の謎をもう一人の同級生であるジャーナリストの主人公が追う中でその主人公の周りで怪しげなカルト集団が不穏な動きを見せる。聖遺物の発見、青ヶ島の伝説、カルト集団の動き、この3つがどのように結びつくのか読んでいて全く予想もできなかったのだが、最後に見事に真相が究明される。ストーリー自体文句なく面白かったが、一番驚いたのは、青ヶ島という島が実在していて、その存在自体がものすごく謎に満ちていること。ネットで青ヶ島の画像を検索すると、ほぼ本書に書かれたような形状の正に絶海の孤島で、そこにちゃんと住民も何百人か住んでいるという。ものすごくハードルは高いが、何となく一度行ってみたいと思ってしまった。(「聖乳歯の迷宮」 本岡類、文春文庫)
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頭上運搬を追って 三砂ちづる

行きつけの本屋さんで見つけた一冊。頭の上に荷物を載せて歩く風習が日本や世界の各地にあることは写真などで見たことがあるが、それを研究テーマにした本ということ少し面白そうだったので読んでみた。内容は、そうした頭上運搬という風習の歴史や地理的分布についての研究成果やそこから得られる文化的、身体技術についての知見だが、これらが予想以上に面白かった。まずそうした風習そのものについては、世界中にあること、何故か女性限定であること(男性は肩に担ぐ)、運ぶものは水、薪、海産物など多様であること、頭上運搬のやり方について誰かから教わったとか練習したということでなく自然にできるようになった、それでいて失敗したことはないし失敗した話を聞いたことがないといった証言ばかりであること、小学生くらいでも30kg、大人になると60kgくらいは平気で運べることなど、かなり意外な事実が次から次へと示される。一方、元々は色々な地域に見られたそうした風習が最近まで残っていた地域については、離島や海岸に近いの地域が比較的多く、考えられる要件として、狭い地域で生活が完結している、坂が多い、電車がない、道路の舗装が遅れたといったことが考えられるとのこと。そうした頭上運搬に関する調査から本書では身体技法について色々な考察がなされているが、特に面白かったのは次の2つ。まず一つは、身体技法というものが、周りの人がやっているのを小さい頃から見ていると自然と自分もできてしまいという性質があることで、技術の獲得には「やればできる」という感覚が大きく作用するらしい。もう一つは、かつて当たり前だった身体技法も、使われなくなると急速に(おおよそ2世代くらいで)廃れてしまうということ。道路の舗装や交通機関の発達で頭上運搬が急速に姿を消し、実際に行なっていた人、あるいはそれを目撃していた人も高齢化していて、著者の調査自体、こうした調査が行えるギリギリのタイミングだったようだ。すごくニッチなテーマだが色々な意味で面白い一冊だった。(「頭上運搬を追って」 三砂ちづる、光文社新書)
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だからあれほど言ったのに 内田樹

団塊世代から見た現代日本の諸相についての評論集。変わったタイトルだが、これについては「まえがき」で、インパクトがあり七五調で覚えやすい題名にしたとある。本人がそう言っているので深読みしてもしょうがないが、強いて言えば、日頃から著者が社会に対して発してきた警告の書ということだろう。内容は、著者が様々な媒体に寄稿した短文をテーマに沿って再編集したものとのことで、短い文章の寄せ集めながら、時々なるほどなぁと感じる記述に遭遇した。例えば、「資源が枯渇しないようこれからは地域分散ではなく都市集中が必要」という意見に対する著者の反論、警告は、そういう考え方も大切だと考えさせられた。また、イスラエルとハマスの紛争について、問われるべきはどちらが正しいかではなくあくまで正しさの程度で、正しさを主張する権利が限度を超えた行動で毀損されるかどうかが問題なのだという記述にもなるほどなぁと思った。ただ、随所にみられる異界とか超越的なもの、すなわち宗教的なものに対する敬意や理屈ではない作法の重要性、子ども時代にはあったそうした感覚など、武道や能に結びつく著者の記述は、自分にはいつの間にか失ったという感覚もないし、怪しげな宗教説話のようで、自分自身にはピンとこなかった。(「だからあれほど言ったのに」 内田樹、マガジンハウス新書)
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化学の授業をはじめます。 ボニー・ガルマス

全世界で600万部突破という話題の書。1960年代のアメリカで、様々な性差別、偏見、ハラスメント、誹謗中傷に見舞われながら毅然としてそれらに立ち向かい前を向いて進む気丈なヒロインの物語。主人公が関わる大学、研究所、TV局といった組織のトップたちは、今の基準では完全な犯罪者という同情の余地のない極悪人ばかり。一方、絶望的なほどアウェイな環境に身を置く主人公を理解してサポートしてくれる人々との邂逅。更に、主人公を支える彼女の娘と飼い犬。これらが織りなす物語は通快でかつ読者に勇気を与えてくれる。(「化学の授業をはじめます。」 ボニー・ガルマス、文藝春秋)
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オンライン落語 柳家喬太郎&小ゑん2人会

オンラインで新作落語2席を視聴。柳家小ゑん師匠の落語は初めてだが、新作落語の名人として有名とのこと。今回はおでんの具材を擬人化した演目だったが、大変面白かった。他にも色々な名作があるようなので、また機会があれば聴きたいと思った。喬太郎師匠の一席は、40年前に通った小学校が廃校になると聞いた卒業生たちが取り壊し前の校舎に忍び込みそこで幽霊に出くわすという噺。所作の面白さが彼の魅力の一つであるということを改めて感じた。

(演目)
①柳家小ゑん ぐつぐつ
②柳家喬太郎 やとわれ幽霊
(中入り)
③トーク
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2024年本屋大賞

今年の受賞作品が「成瀬は天下を取りにいく」に決定。同作品が大賞で「水車小屋のネネ」が第2位ということで事前予想がピタリと当たってしまったが、それだけこの2作品が抜きん出ていたということだと思う。大賞作品の、やると決めたら周りを気にせず前進する主人公、近くの人々を少しハラハラさせながらも逆に彼らに勇気を与える主人公、大都会にない近所付き合いが残っている地方中堅都市という環境に育てられている主人公、どれをとっても今までにない清々しさで読者を魅了した。今回の結果を受けてこうした前向きの小説が色々出てくると思うと、そうした作品を探すという読書の楽しみが一つ増えたようで嬉しい。
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オンライン落語 立川吉笑

大好きな立川吉笑の落語会をオンラインで視聴。長めの新作落語2席とトークで、最初の一席はコロナ禍に作られたという比較的新しい噺ですでに聴いたことのあるもの。2席目は初期の代表作とのことだがこちらは初めて聴く噺だった。両方とも関西弁をうまく使った内容で、大変面白かった。落語の後の落語評論家廣瀬氏とのトークも、立川流の実情、笑点新メンバー決定の話題、来年の真打ち披露の準備の話など、色々聞けてこちらもとても面白かった。古典と新作の両方に真摯に取り組み、さらには江戸落語と上方落語の両方の良さを融合していこうとする吉笑新師匠の思いが伝わる2時間半だった。

(演目)
①小人19
②くじ悲喜
中入り
③トーク
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東京都同情塔 九段理江

最新の芥川賞受賞作品。作中にAIが作成した文章が取り込まれているといった話が話題になっていたので読んでみた。登場するのは、犯罪者を「不可抗力で犯罪者になった同情すべき対象」として「ホモ・ミゼラビリス」と再定義し直すことを提案する社会学者、その思想に基づいて建造される新しい刑務所「東京都同情塔=シンパシータワートウキョウ」のデザインを担当する建築家、同塔で勤務するスタッフ、日本の社会問題を取材する外国人ジャーナリストの4人、それに文書を自動作成するAIを加えた5者。様々な多様化が進む中、多くの意見を集約するAI と批判を最小化するための模範解答が同一化し、言葉の共通理解が失われていく様が「東京都同情塔」という建築物に投影して語られる。読んでいて一番びっくりしたのは、メインストーリーとはやや外れるが、最後に建築家が空想の中で銅像にさせられるメタファーで、この作家の視点、この作品のの斬新さが理解できたような気がした。(「東京都同情塔」 九段理江、新潮社)
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国歌を作った男 宮内悠介

書評誌にSF作品のお薦め本として紹介されていた短編集。収められた短編は13編だが全体的にSF色はうすい。史実に沿った記述や実在の出来事と著者の空想が融合しているという意味ではSF的だが、どちらかというとコンピューター、ゲーム、システム開発などの進化に関する著者自身の実体験を基にした懐古的な話が主流で、SFがやや苦手な自分にも楽しく読むことができた。また巻末の著者の解説を読むと、収められた短編は、オムニバス企画として依頼された作品が多い。自分がじっくり温めて丹念に構築していく長編と違って、時間やテーマの制約が強いこうした短編の場合は、自分自身の体験などが色濃く出るのかもしれないなどと考えた。(「国歌を作った男」 宮内悠介、講談社)
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2024年本屋大賞 予想

2024年の本屋大賞、ノミネートされた10作品のうち1冊(レーエンデ国物語)は未読だが現段階で今年も恒例の受賞作予想をしてみたい。9作品を読んだ感想は、今年はとにかく心に残る作品が多かったという印象だ。直近で読んだ「黄色い家」は近年多数書かれている現代日本の生きにくさや理不尽な落とし穴を描く決定版のような作品だし、「水車小屋のネネ」は面白さにおいて圧倒的な傑作だったと思う。一方、他のノミネート作品でも、「星を編む」「リカバリーカバヒコ」など、昨年のノミネート作品の主流だった息苦しさや重苦しさの先にある光のようなものを描いた作品が目立っていて嬉しかった。更に、「スピノザの診察室」「存在のすべてを」の2作品も本当にすごいなぁと感じた。これらの作品はどれが大賞になってもおかしくないと思うが、そうした中で圧倒的に清々しいストーリーだったのが「成瀬は天下をとりにいく」。既に続編も既読だが、とにかく明るいいつまでも読み続けていきたい主人公の成長物語が最高だった。
(予想)
大賞 宮島未奈 「成瀬は天下を取りにいく」
次点 津村記久子 「水車小屋のネネ」
川上未映子 「黄色い家」
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オンライン落語 古今亭駒治独演会

鉄道ネタでお馴染みの古今亭駒治師匠の独演会をオンラインで視聴。都営バス100周年、都電112周年記念の「鉄道ネタ大集合」と銘打たれた会で、鉄分100%の新作落語3席を堪能。鉄道に詳しくない人は完全に置いてけぼりのような内容だったが、それでも大変面白かった。最初の1席は、私鉄やJRなどの鉄道各社との連携(相互乗り入れ)を推進する東京メトロに一矢報いようとする都営地下鉄の話で、多分新作だと思う。後の2席は駒治師匠のブログにも掲載されている作品で流石の完成度だった。
(演目)
①鉄道戦国絵巻(都営地下鉄の逆襲)(正式名称は不明)
②都電の恩返し 都電が撮り鉄の暴挙から救ってくれた救った少年に恩返しする話
中入り
③都電物語 都電の運転手と乗客女性の恋物語
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