goo

サロメの断頭台 夕木春央

著者の本は4冊目。本書はそのうちの画家と泥棒がコンビで活躍する短編集と同じ設定の長編作品。画家である主人公の未発表作品の盗作がアメリカで発見される。「誰が」「何のために」盗作を作ったのかという謎を追ううちに、組織的な贋作組織の存在、ある天才画家の謎の自死といった事実が明らかになったり、更に次から次へと殺人事件が勃発して、事態は混迷を極めていく。あまりに謎が多すぎて、読んでいてどんな謎があったのかすら記憶が覚束なくなってしまう。また、登場人物も初っ端に突然容疑者らしき名前が10人まとめて登場して面食らってしまった。盗作事件、贋作事件、殺人事件がひとつに繋がる最後の結末、見事さ、殺人事件の犯人の動機のおぞましさは半端ない衝撃だった。(「サロメの断頭台」 夕木春央、講談社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

女の国会 新川帆立

政治の世界を舞台にした殺人事件を描いたミステリー。党派の壁を超えて法案作りに協力し合ってきた仲間の議員が突然死亡してしまうという事態に直面した国会議員が主人公。事件の謎を追うのは、主人公に加えて、彼女の政策秘書、新聞記者、市議会議員たちだが、その全てが女性で、登場する男性は押し並べて犯罪者やモラルのない俗物ばかり。最近読む小説は本当にこういう設定のものが多い。全体のストーリーはかなり破天荒だが、色々考えさせられる内容だし、結末の意外性と痛快さもすごくて、とても面白かった。(「女の国会」 新川帆立、幻冬社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

パフォーマンス ダメじゃん小出

欠かさず参加しているダメじゃん小出のスタンダップコメディ。4つのパフォーマンスともとても面白かったが、特に最初の「朝までキャラテレビ」は、工事の遅れなどで開催が危ぶまれる大阪万博について、愛地球博のモリゾウ、東京五輪のミライトワ、大阪万博のミャクミャクの3キャラクターが意見を述べあうという内容で、モリゾウ爺の老人っぽい語り口、ミャクミャクの不良っぽい関西弁がとても秀逸。お客さんの入りは8割から9割といったところで大半が高齢者。演目も高齢者の笑いのツボを押さえた内容に終始していて流石だなぁと思った。葬儀屋さんの体験レポートも次回続編が聞けるかどうかわからないが楽しみにしたい。

①朝までキャラテレビ
②世相俳句
③としこの歌
中入り
④体験レポート(葬儀屋さんアルバイト編)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

大相撲と鉄道 木村銀治郎

先日読んだ交通新聞社新書の本が面白かったので、本屋さんに行って同新書のコーナーを探して見つけた一冊。著者は鉄道ファンでもある幕内格の行司さんで、大相撲の行司の仕事に関する基礎知識、全国各地の本場所や地方巡業を行うための力士・関係者の移動における鉄道との関わりなどを細かく教えてくれる内容。行司さんの仕事は、取り組みの行司だけでなく、相撲文字による番付作成、場内アナウンス、星取表の作成、力士たちの移動、宿泊手配一式、後援会との連絡、礼状、案内状の作成、イベントの司会や受付など、雑務全般の多岐に渡っているということを初めて知った。この中で重要なのが力士たちの移動と宿泊。十両以上の力士や親方などは各自で移動するが、幕下以下の力士は団体行動が原則で、年間200日弱(本場所90日+地方巡業100日)のスケジュールや移動手段と宿泊先の手配が著者の重要な仕事とのこと。本書の大半はその業務の解説だが、体重が重すぎて実質的に航空機が使えないこと、相撲界独特の上下関係の厳しさ、荷物の多さなどから、ものすごく苦労する業務だということが伝わってくるし、この世界の前時代的な悪習の闇が大きすぎて怖いほどだ。一方、上京のために同じ列車に乗車した若者が2人共横綱(若乃花、隆の里)になったという出世列車「寝台特急ゆうづる」、力士の名前がついた特急「かいおう」、全国の駅にある力士像、大井川鐵道の運転士になった元力士、「大行司」という名前の駅、力士の姿にラッピングされた列車など、相撲と鉄道という2つのジャンルに関したエピソードが多数紹介されていてその辺りはほのぼのとしていて面白かった。(「大相撲と鉄道」 木村銀治郎、交通新聞社新書)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

シャーロック・ホームズの凱旋 森見登美彦

著者の本を読むのは約5年振り。久しぶりの新刊ということらしい。何故かシャーロック・ホームズやワトソン氏が京都の町に住んでいて、そのホームズが深刻なスランプに陥っていて、京都の町で起こる怪奇現象の解決に四苦八苦するというかなりはちゃめちゃな設定で、著者らしいといえば著者らしいファンタジー小説だ。ストーリーの中に実際のコナン・ドイルのホームズ作品が色々出てくるがそれも原作と微妙に違っていたりするし、あの宿命のライバルのモリアーティ教授などはホームズと同じくスランプ状態になっていてホームズと傷を舐め合う仲良しというびっくりする登場の仕方だ。ホームズの原作は多分全部読んでいると思うが遠い昔のことなので詳しいあらすじや登場人物などはほとんど覚えていない。それをしっかり覚えているか再読すれば色々原作との違いなどをさらに楽しめるのかもしれないが、そうでなくても十分面白かった。(「シャーロック・ホームズの凱旋」 森見登美彦、中央公論新社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

南方署強行犯係 狼の寓話 近藤史恵

著者の本は10冊目くらいだが、刑事が主人公という警察ミステリー小説はこれが初めて。新米刑事と教育係の辣腕女性刑事が、失踪した殺人事件の容疑者を追うというストーリーで、犯罪の背後にある動機が謎の中心なのだが、最後に行き着く事件の真実によって現代日本の抱える大きな問題が浮かび上がる。ここで何度も書いているが、とにかく最近の小説に出てくる男子、悪者比率が高すぎて、こういう世の中なのかなぁと悲しくなってくる。本書の主人公たちの活躍、すでに続編もあるようなので読むのが楽しみだ。(「南方署強行犯係 狼の寓話」 近藤史恵、徳間文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

令和元年の人生ゲーム 麻布競馬場

著者の本は2冊目。前作同様、今の日本の若者たちを取り巻く、自由に生きろと言われながら無言の同調圧力や競争圧力に晒される日常、自分のスタイルにしがみつきそれを若者に押し付けるばかりの大人たち、根強い学歴コンプレックスなど、複雑な環境の中で答えを見つけ出せない状況、さらには金科玉条のように礼賛される「意識高い系」の本音と虚しさがこれでもかと描かれる。読んでいて、著者自身もそうした混沌とコンプレックスの渦中にいるような気がするし、作中でアンチテーゼのような役割の登場人物でさえそこから脱せずに苦しんでいるようで、何とも切ない気になってくる。昭和世代にとって「価値観が揺らいでいて大変だなぁ」と思う平成さえものどかに思えてくる令和の闇の深さが伝わってくる。(「令和元年の人生ゲーム」 麻布競馬場、文藝春秋)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

鉄道落語 柳家小ゑん他

先日聴いた柳家小ゑん師匠の落語がとても面白かったので、師匠の名前で検索したら本書が見つかり、ネットで注文した一冊。小ゑん師匠の他、私の大好きな古今亭駒治、それと上方落語の桂しん吉、桂梅團治、4名による鉄道を題材にした新作落語各2編(合計6編)と対談2編が収録されていて、どれもとても面白かった。同じ鉄道落語といっても、前駅鉄・街鉄(駒治)、機械マニア(小ゑん)、乗り鉄(しん吉)、撮り鉄(梅團治)とバラエティ豊か。中には数十ページの本文に70以上の鉄道関連の註釈が付いていたり、巻末に各地の路線図が掲載されていたりする。鉄道マニアではないが、鉄道マニアの話を聴くのが好きな自分にとってとても収穫の多い内容だった。(「鉄道落語」 柳家小ゑん他、交通新聞社新書)

(収録演目)
一両目 古今亭駒治 鉄道戦国絵巻、都電物語
二両目 柳家小ゑん てつのおとこ、恨みの碓氷峠
三両目 桂しん吉 若旦那とわいらとエクスプレス、鉄道スナック
四両目 桂梅團治 切符、鉄道親子
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

家族解散まで千キロメートル 浅倉秋成

著者の本は3冊目。末っ子の結婚というタイミングで長年住んだ自宅を解体することになった家族が、不用品の整理をしていると、物置きから遠く青森で盗難にあったとされる古い仏像が見つかる。誰が何のためにどうやってそこに持ち込んだのか不明のまま家族総出でその仏像を返却しに青森へと向かう。終盤になって色々な証拠から論理的に導かれる推理によってその全容がとりあえず明らかになり一件落着になるのだが、さらにその先に全てをひっくり返すような事実、それ以外にも謎の多い父親に隠された事実なども明らかになり、びっくりの連続だ。ミステリーと言うには結末が異様すぎて、推理を楽しむという感じではないが、家族だからという思い込み、現代日本の一般的な常識という盲点をついた不思議な新しさを感じる一冊だった。(「家族解散まで千キロメートル」 浅倉秋成、角川書店)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

カレー移民の謎 室橋裕和

街でよく見かけるインドネパール料理店(インネパ)の歴史や現状を深掘りした一冊。現在全国に5000軒ほどあるらしく、それに伴って在留ネパール人の数もここ10年で5倍増の15万人になっているとのこと。1980年代に何軒かインドのムガール料理を提供する店が大成功を収めたことを契機にそこで働いていた料理人が独立し、そこからどんどん増えていったそうだ。インドに出稼ぎで高級ムガール(ムグライ)料理店のコックとして働いていたネパール人が日本の有名店に転職、10年くらい修行して資金を貯めて独立、メニューは修行した店のものをそのまま踏襲というのが今日本にあるインネパの典型例。日本における外国人の会社設立規制の緩和も一役買っているとのこと。多額の開業資金が必要で、しかも料理人としての在留許可の延長ができるかどうか不安定な状態での開業となるため、失敗や冒険が許されず、結果的にすでにある店と同じ、大きめの甘いナン、バターチキンカレー、タンドリーチキンなど、どこも同じメニューになってしまう。こうした状況下、開業を手伝うあこぎなブローカー、全く未経験者を来日させコック歴を捏造する犯罪、雇われる料理人の給料搾取、同伴して来日した家族の過酷な環境や教育問題、過当競争による安売りとイメージ悪化の悪循環などなど多くの問題点が現出。そのため、ネパールでも日本ブームからイギリスなどの欧州出稼ぎに流れが変わりつつあり、今後は少しずつ淘汰が進むのではないかとのこと。ニッチなテーマを丁寧に調査した熱意が伝わる内容で、明確なメッセージもあるすごく面白い一冊だった。(「カレー移民の謎」 室橋裕和、集英社新書ノンフィクション)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

8月の御所グラウンド 万城目学

今年の直木賞受賞作。京都を舞台にしたアマチュアスポーツに関わる短編と中編が1つずつ収められている。短編の方は全国高校女子駅伝に参加することになった方向音痴の女子高校生、中編の方は友達づきあいで地元の草野球リーグ戦に参加することになった大学生が主人公で、それぞれ与えられた使命に奮闘する中で遭遇する奇妙な体験が描かれている。随所に京都の観光名所が出てきて、さらに不思議なエピソードも京都らしさが濃厚、京都に特に思い入れがあるわけではないが、何となく面白みを感じる著者らしいファンタジー小説だった。(「8月の御所グラウンド」 万城目学、文藝春秋)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )