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百年法(上・下) 山田宗樹

不老不死の技術が開発された世界を描く歴史改変SF。かなりの長編にもかかわらず、決まった主人公というものがいない。その分、登場人物の造形がクリアではないし、登場人物の中の誰かに気持ちを寄せて読み進めることが出来ないのだが、そうした点があまり気にならないほど話の展開が面白い。最後に2つほど大きな謎の解明と全てをひっくり返すような新事実が提示されて、話は一気に思いもよらない結末を迎える。どうして話をこの時代にしたのか良く判らない点など、欠点はいくつかあるのだろうが、スケールの大きさと展開の面白さで十分傑作といえる気がした。(「百年法(上・下)」 山田宗樹、角川書店)

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ダ-クルーム 近藤史恵

それぞれ嗜好がこらされていて、内容の充実した短編集。イヤミスもあればほのぼのとした話もあり、色々なパターンの話が楽しめる。収録された話の共通点のようなものを考えてみると、表面的には普通だが、内面は少し変わっているとか何かに強い拘りを持った人が絡んだミステリーということになるだろうか。読んでいるうちに、著者の得体の知れなさというか、著者がいくつもの顔を持った作家だということが再認識できる1冊だ。(「ダ-クルーム」 近藤史恵、角川文庫)

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ふるさとへ廻る六部は 藤沢周平

著者のエッセイ集を読むのは初めて。好きな小説家のエッセイを読む理由は、その作家を色々な観点からもっと知りたいから、作家の小説の背景のようなものを知りたいから、単純に読んでいて面白いからなど、様々だと思うが、私の場合は主に2つ目の理由によることが多い。私自身は、著者のことをとことん知りたいというほど、熱心な読者ではないと思う。それでも面白いから色々読んでいて、文庫本に限って言えばほとんど読んでしまったような気がするが、どれを読んでいてどれを読んでいないかなどを調べたことはない。一方、本書に収められたエッセイは、もう20年近く前のものばかりで、さすがに内容はかなり古い。私としても今回に限って言えば、著者の小説の読み方の参考になることがもしかしたらあるかもしれないという期待もあった。しかし、すでに著者の小説はかなり読んでしまっているので、もう一度読み直すのでない限り、そうした知識もあまり役に立たないことになる。それでも結構面白く読めたのは、やはり著者の色々なものを見る目が面白いからなのだろうと思った。(「ふるさとへ廻る六部は」 藤沢周平、新潮文庫)

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きみはいい子 中脇初枝

色々な視点から「児童虐待」を扱った短編集だが、扱われているテーマがテーマだけに、やるせない気分になる話ばかりだ。しかし、子どもを打ってしまう母親の視点で描かれた2つ目の作品を読むと、虐待する親の心理・論理というのはこういうことなのかという感じで、単純な善悪の概念とか人間の弱さとか、そうしたありきたりの見方ではおそらく理解できないものがはっきりと読者に伝わってくる。何かを啓蒙するということでもなく、淡々と冷静に内面を抉る本書、まさにこれが文学なのだろう。(「きみはいい子」 中脇初枝、ポプラ社)

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万能鑑定士Qの短編集Ⅱ 松岡圭裕

著者のシリーズを3つ並行して読んでいて、似たような話をしょっちゅう読んでいるような感じになっているが、不思議と飽きない。この短編集は、まさにそうした飽きてきてもおかしくない読者向けの内容といって良いだろう。一生懸命読んでいるこちらも、話の内容よりも次はどんな手で飽きさせないような仕掛けをしてくるのかというのが、興味の中心になってしまってきている。(「万能鑑定士Qの短編集Ⅱ」 松岡圭裕、角川文庫)

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動乱のインテリジェンス 佐藤優・手嶋龍一

中身の濃い対談集ということは間違いないのだけれど、語り手の2人の役割分担が最後まで良く判らず、読みながら、本書が対談形式になっている理由はいったい何なのだろうと考えてしまった。話し方も、内容も2人とも良く似ていて、しかも話がどんどん繋がっていく。対談の場合、話題によって、どちらかが話し手で、どちらかが聞き手に回るというのが普通だと思うのだが、両方とも、話す材料をいっぱい持っていて、それを交互に出してきているという印象を受ける。要するに本書では、対談している2人が偉すぎて、話題によって読者のレベルで聞いてくれる聞き手がいないのだ。本書が対談集という体裁をとっているのは、対談形式の良いところを考えてのことではなく、非常に忙しい2人なので、ずっとしゃべってもらって本にする方が時間的にも作業的にも手っ取り早いということなのではないか。2人の本を2冊読まずに2冊分の勉強ができるというのはりてんではあるのだろうが、初心者にはそのあたりが少し辛い気がした。(「動乱のインテリジェンス」 佐藤優・手嶋龍一、新潮新書)

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64 横山秀夫

大好きな作家の久し振りの新作ということで、読んでしまうのがもったいなくて、後回しにしていた本書。書評誌の年間ベストテン企画などでも「別格扱」となっている作品だ。読後の感想は、やはり別格だということ。読んでいる時の面白さ、話の終盤である事実が明かされた時の衝撃、本当に言葉では言い尽くせないすごい作品だ。主人公の緻密で繊細な心のうちを追いかけながら、すごい事件が進行していく、その醍醐味に圧倒される。ある書評に「これぞ小説」とあったがまさにそれが実感だ。(「64」 横山秀夫、文藝春秋)

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The Indifference Engine 伊藤計劃

「屍者の帝国」を読んでしまった後、残された伊藤作品は、本書だけになってしまった。本書は、短かった著者の作家活動を知る手掛りとなるような初期の短編や漫画作品など雑多な内容だが、やはり読んでいると特別な感慨を感じる。特に表題作のルワンダの内戦を思わせる内容の少年兵を描いた短編は、独立した作品としても第一級のすごい作品だと思う。(「The Indifference Engine」 伊藤計劃、ハヤカワ文庫)

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世界から猫が消えたなら 川村元気

結構話題になっている本書。何かの寓話なのだろうが、こういう話は「読み手」を意識しすぎていて、読んでいて何かいやな感じになる事が多い。私にとって、その作家の小説とを読むとそうした感覚になる小説家が1人いるが、本書はそれと同じような感じがした。ただ、何となく、意味ありげな言葉が語られているのだが、寓話や比喩の世界でそのようなことを語られても、何とも白けた気分になるのだ。作者の履歴をみると、TV関係の仕事をしている人で、本書が初めての小説ということらしい。前述の小説家も映像畑の出身のはずで、偶然の一致とは思えないし、こうした経歴の人に対しては、なんとなく先入観を持ってしまいそうだ。(「世界から猫が消えたなら」 川村元気、マガジンハウス)

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屍者の帝国 伊藤計劃×円城塔

夭折のSF作家伊藤計劃が残した遺稿を別の作家が完成させたということで話題になった本書。別の作家というのは芥川賞受賞の「円城塔」。受賞後にそういう話になったのかと思っていたら、順序が逆で、実はずっと前からその作品にとりかかっていることを芥川賞受賞の席で発表したということだったようだ。この話を聞いて、俄然、私の中で、本書への注目度も高まった。本書を読むと、流石に熱狂的なファンの多い伊藤の遺稿を完成させるということで、一筋縄ではいかない凝った内容になっていて、やややりすぎではないかという感じだが、逆に、そこまで徹底的にやってくれたので文句のつけようがない、という言い方もできる。実際に、伊藤がどの様なストーリーを考えていたのかは知りようもないし、それをとやかく言える人はいないだろうが、本書はストーリーの面でも、これならばというところまで突き抜けているような気がする。変に「彼ならばどうしただろう」ということに囚われず楽しめるのは、著者の芥川賞受賞のおかげという部分もあるかもしれない。(「屍者の帝国」 伊藤計劃×円城塔、河出書房新社)

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愚行録 貫井徳郎

これぞ「イヤミス」の典型という作品。最初にある新聞記事が提示され、その後、ある一家惨殺事件の関係者の証言と、それとどう関係するのか最後まで謎のある女性の語りが交互に示され、最後に両方が繋がる。その繋がりを解く鍵が最初に示された新聞記事ということだが、関係者の証言も女性の語りの部分も、何とも自分勝手な証言ばかりで、まさに「愚行録」そのものだ。著者の経歴をみると、被害者の1人の出身校、勤める会社の業種など、本書のストーリーとダブる部分が多いのは、この作品は著者にとって何か特別な作品なのだろうかと思わせる。(「愚行録」 貫井徳郎、創元推理文庫)

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