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真夜中のパン屋さん2 大沼紀子

真夜中だけ営業しているパン屋さんを舞台に様々な過去を背負った登場人部を描いたシリーズの第2弾。前作は短編集だったが、本作は長編の体裁になっている。前作で登場した人々が店の従業員になったり常連客になったりしているが、そこに1人の謎の女性が現れる。その女性の過去が次第に明らかになっていき、それに前作から登場している主要な人物の過去が絡まりながら話が進み、最後は何となくハッピーエンドという形で終わる。謎の女性に関するミステリーの要素もあるが、全体としては話の展開そのものを楽しむ小説だ。(「真夜中のパン屋さん2」 大沼紀子、ポプラ文庫)

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万能鑑定士Qの事件簿ⅩⅠ 松岡圭祐

本シリーズを読み始めたのが昨年の夏。本書が刊行されたのが昨年8月ということなので、こつこつ読み進めてきて、ようやく読み始めた時点に追いついたことになる。それから既に2巻刊行されているので、完全に追いつくまであと少しというところだ。ストーリーの方も、何冊か過去の事件を扱ったりしていてスピードダウンさせていたが、本書に至って大きく動き始めた感がある。既に本書以降に2冊が刊行されていて、あと1冊でシリーズは一応の区切りを迎え、最新作で新しいシリーズに衣替えされる。新シリーズがどのように本シリーズと違うのかは次の次の作品のお楽しみとして、まずは次のシリーズ最終話にどのような仕掛けがなされているのかを期待したい。本書の内容としては、鑑定士という本来のシリーズ本来の性格からやや離れ、敵役のトリック崩しというミステリー要素の強い作品になっている。(「万能鑑定士Qの事件簿ⅩⅠ」 松岡圭祐、角川文庫)

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先生はえらい 内田樹

ちくまプリマー新書の「特別授業」シリーズの1冊。同シリーズは、各分野のオーソリティーや有名人に、それぞれ1つのテーマについて「講義形式」で語ってもらうという面白い趣向のシリーズだ。本書では、思想家・文筆家の内田樹が、軽妙な語り口で、「人生の師に巡り合うための秘訣」を伝授してくれる。著者の本であるから、当然一筋縄ではいかないのだが、最後に用意されたその「秘訣」には大いに納得させられる。著者が書きたかったのは、おそらく「張良が師である太公望の沓を2度拾う」というエピソードの著者自身の解釈であり、「師は弟子が答えを見つけ出す正にその時に答えを与える」という思想家ラカンの言葉だったと思われる。羊頭狗肉の新書が多い中、本書は、著者が「新書で語れることの限界」を熟知しており、あまり多くのことが書かれていないことが逆に本書を満足度の高い1冊にしているように思われる。(「先生はえらい」 内田樹、ちくまプリマー新書)

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ローマ人に学ぶ 本村凌二

ローマに関する本はこれまでにいろいろ読んできたが、本書は、そうした類書とはかなり違ったアプローチで読者を引きつけてくれる。ここに書かれているのは、何故ローマ人が勇猛であったか、宗教観がどのようなものであったか、カエサルの登場がローマ人の心にどのような影響を与えたか、といったローマ人の心象風景である。それは、これまでの「ローマ人は芸術は苦手だったが建築に秀でていた」といった単純なローマ人に対する見方を大きく覆すものがある。本書を読んで、ローマに対する見方が立体的になるような気がしてくる良書だ。(「ローマ人に学ぶ」 本村凌二、集英社新書)

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陽だまりの偽り 長岡弘樹

昨年ブレイクした「傍聞き」の前作にあたる第一短編集。作者の第2短編集「傍聞き」を読んだ後、すぐに本書を探して数件本屋さんをあたったが入手できず、ネットで買うしかないかと諦めかけていたが、最近ようやく横浜の行きつけの本屋さんで見つけることができた。「傍聞き」を読んだ読者ならば当然本書を読みたいと思うはずで、そうした要望にいち早く応えること、小さな本屋さんには酷かもしれないが、本屋さんの価値というのは、やはりこうした本をいかに早く店頭に並べられるかだなとつくづく思った。本書の内容だが、路線は「傍聞き」とほぼ同じで、これが本当に処女短編集なのかと思うほど、質の高いミステリーが収録されている。誰かの不可思議な行動がミステリーの中心にあり、その背後にある善意や悪意が判明した時の驚きがたくみに文章によって描かれている。第3短編集ももうすぐ上梓されるとのことなので、そちらも期待したい。(「陽だまりの偽り」 長岡弘樹、双葉文庫)

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龍神の雨 道尾秀介

似たような境遇の2組の兄弟を中心に話が展開するミステリー。いろいろな偶然が重なって複雑な展開を見せるのだが、時々ご都合主義のようなところがあって少し気になった。登場人物が物語の中で勝手に動き出すという表現ができるくらい、流れが自然なのが著者の作風と思っていたので、変だなと思っていたら、終盤に来て全てがひっくり返るような仕掛けでびっくりさせられた。変だ変だと思っているうちに真相に思いを巡らすことが疎かになってしまっていたようで、それも著者の計算のうちとすれば、著者の策士振りには驚かされる。話自体やや重めで清清しさがないので、読後感は爽快とはいえないが、重々しさの中にも希望がみえるのは、読み手としては有り難い。しばらくしたらまた作者の本が読みたくなるのはその辺の理由によるものと思われる。(「龍神の雨」、道尾秀介、新潮文庫)

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誰かが足りない 宮下奈都

誰かと行きたいと思っていたレストラン。いろいろな行き違いで実現しなかったある人とのレストランでの食事。ある1日のレストランの空席の裏にある様々な物語を、丁寧に読ませてくれる。そこに感じられるのは、懐かしさであったり、後悔であったり、希望であったり様々だが、「足りない」のは自分ではないし、一緒に来るべき人でもない。足りなさの中に希望を見出すというメッセージが読み手の心の奥まで届く作品だ。まだ良く考えてはいないが、今年の本屋大賞を受賞してもおかしくない心温まる、人に薦めたい1冊だ。(「誰かが足りない」 宮下奈都、双葉社)

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浜村渚の計算ノート2 青柳碧人

「数学テロ組織」がおこす凶悪な事件を、中学2年生の数学の天才少女が警察に協力しながら解決したり、未然に防いだりしていくという非常に奇抜な設定の本シリーズ。前作もそうだったが、数学の知識を駆使したバトルが意外に面白い。数学そのものだけでなく、数学者のエピソードなども上手く盛り込まれているし、ストーリー展開も全体に大変良く練られている。「数学テロ組織」が主人公に数学の知識でやりこまれると、彼らの数学に対する独特の美学のようなもので、すぐ観念してしまうのはご愛嬌。こうした設定でいくつもの話を構築できる作者をみていると、ライトノベルの分野というのはつくづく才能のある作家の宝庫なのだという感を強くする。(「浜村渚の計算ノート2」 青柳碧人、講談社文庫)

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延長戦に入りました 奥田英朗

著者のスポーツものエッセイ集を読むのは本書で2冊目だが、前に読んだ本よりも本書の方が数段面白く感じた。スポーツの本来の見方から少し外れた見方をした著者の視点が面白いし、なによりも文章が面白い。私自身、著者同じようなことを考えたりしてはいるのだが、それを文章にして表現するだけでこんなに面白い話にしてしまうその文章の力に感心してしまう。「あいまいな日本と優勢勝ち」とか「野茂の大リーグ挑戦と日本のナショナル・パスタイム」などは、よく言われていることのようだが、何だか新鮮な意見を読んでいるような気がした。(「延長戦に入りました」 奥田英朗、幻冬舎文庫)

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モップの魔女は呪文を知ってる 近藤史恵

「サクリファイス」で有名になった著者の作品だが、本書がシリーズ3作目とのこと。前の2作が別の出版社から出ているのを知らずに読んでしまった。主人公は「ビルの掃除人」という職業の女性だが、物語は1話1話別の人間によって語られる。「ビルの掃除人」というのは「宅配の人」とか「郵便配達人」などと共に、古典的なミステリーでは「存在しても周りが気がつきにくい存在」の代名詞となっている。それを逆手に取って、ビルの掃除人は犯人からも探偵からも気がつかれにくい存在であり、探偵であることにうってつけの存在でもあるという発想のシリーズだ。その発想も面白いし、ミステリーとしての内容も充実していて大変楽しめる作品だ。前の2作も何かのきっかけがあれば読んでみたいと思える佳作だと思う。(「モップの魔女は呪文を知ってる」 近藤史恵、実業之日本社文庫)

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ユリゴコロ 沼田まほかる

実際の著者の作品にはミステリーの要素はそれほど多くない。それでも、何故か私にとって著者は「イヤミスの第一人者」という位置づけの作家だ。著者の作品を読んだ後、「著者の作品はしばらく読まないようにしよう」といつも思う。著者の作品を読むと、何となく心にダメージを受けたようになり、辛い気分になってしまうからだ。そうこうしていて、かなり評判の本書だが、刊行後1年以上も読まずにいた。今回は、本屋大賞にノミネートされたので、それを機会に、少し無理をして読むことにした。前半部分は、「まほかる調」炸裂で、特に手記の部分はこれまでの作品のなかでも最大級の「イヤミス」だったが、後半になってかなりまともな人情話のようになってしまう。全体としては、著者の作品の中でも、穏やかな話というところだろう。ただ、それでいて物足りないという感じではなく、読後感も著者の作品には本当に珍しいくらい爽やかだ。ここ1年くらい著者の作品は大きな反響を呼んで話題になっているが、このあたりの感じの作品であれば、続けて読んでも苦痛にならないだろうし、さらに多くの人に親しまれる作家になるだろうなという気がした。(「ユリゴコロ」 沼田まほかる、双葉社)

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歪笑小説 東野圭吾

作家デビュー・文学賞受賞・編集者との付き合い・小説家の収入等、小説家を取り巻く様々な事象を面白く伝える短編集。当代随一の人気作家によって書かれているというのがミソで、1つ1つの短編が、笑いあり、ペーソスありで、これから作家を目指す人への応援にも警告にもなっている。特に面白かったのが、出版社の人間が「文芸雑誌」の存在意義を巡って小学生にやり込められるエピソード。言われてみればそうだという、出版業界の仕組みが判ってためになった。著者の守備範囲の広さと器用さがよく判る作品でもあった。(「歪笑小説」 東野圭吾、集英社文庫)

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くちびるに歌を 中田永一

「きっと、この小説は日本の宝になる」という帯に書かれた宣伝文句が有名になった本書。帯には、その他に、いくつもの本屋さんによる推薦文がぎっしり書かれており、今年の本屋大賞のノミネート作品にもなっている作品だ。読み始めてみると、頻繁に語り手が変わっているようだし、時間も行ったり来たりしているし、語りとは違う「文章」が時々挿入されていたりで、何か複雑な構成の小説の様相だったが、50ページくらい読み進めると、語り手は2人だけだということや挿入された「文章」が登場人物たちの書いた作文であることが判明し、意外にスッキリした流れの話であることが判ってきた。(「くちびるに歌を」 中田永一、小学館)

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謎とき平清盛 本郷和人

例年、その年の大河ドラマの関連本を2,3、冊読むようにしているが、今年はこれが最初の1冊である。数多くある関連本のうちのどれを選んだらよいのかいつも迷うし、読んでみて「はずれた」と思うこともしばしばだ。本書は、「はずれ」とまでは言わないが、かなり異色の本を選んでしまったというのが正直な感想。まずはドラマ「平清盛」を見るための基礎知識、様々な解釈のある歴史を公平に整理してくれる入門書のようなものをと思ったのだが、本書のスタンスはかなり変わっていて、そうしたことにはあまり役立たないし、著者の関心ももう少し高邁なところにあるようだ。著者は大河ドラマの「時代考証」をしている当事者とのことで、話は自然とその話が前面にでている。そのため、時代背景については詳細に書かれているが、平清盛個人について良く分かるようには書かれていない。ドラマ作成の裏話などは、それなりに面白いし貴重な話なのだろうが、TVドラマを見るための入門書という意味では難しすぎる気がした。(「謎とき平清盛」 本郷和人、文春新書)

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万能鑑定士Qの事件簿Ⅹ 松岡圭祐

前作について、長期シリーズものなので、主人公の特殊能力の進化の速度の調整が難しいと書いたが、本作では一気に過去に遡り、最初の作品の前の事件が語られるという工夫がなされていた。主人公がその特殊能力を身につけるきっかけになった事件ということになるのだが、それが説得力があるかどうかは別にして、十分に主人公のキャラクターが定着したところで、そうした回を持ってくるというのも実に上手く計算されているなぁと感心した。全体の流れの中での本書の位置づけはサイド・ストーリー的な感じだが、最後にこれまでに別の事件で登場してきた人物達の過去についても少しずつ語られており、何か大きな転換の前触れを思わせる作品になっている。(「万能鑑定士Qの事件簿Ⅹ」 松岡圭祐、角川文庫)

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